第158話 姫巫女と王都滞在
異能のネタバレの件ですが、流石に前書き後書きは回避できない地雷(炎上確定)になるので、活動報告に置きます(多分、今週中)。
自分はどんなネタバレでも大抵OKですが、そんな人は多分少数派だと思うので。
この話で10章は終わります。
突然だが、エルフについて説明をしようと思う。
このくだり、獣人に続いて2回目である。
まず、エルフは大きく3種類に分類される。
純粋なエルフ、他種族との混血であるハーフエルフ、上位種であるハイエルフの3つだ。
実は、他種族がこのエルフ3種を見分ける方法は存在しない(マップ除く)。
共通して長寿で耳が長く、魔法や弓が得意と言う、一般的なエルフの特徴を持っており、外見的、性能的な特徴ですぐに判断は出来ないのである。
しかし、エルフ同士なら一目見ただけで判別できるらしい。ただし、ハーフエルフには相手が『ハイエルフ』なのか『純粋なエルフ』なのかは判断できない。分かり易く言うと、下からは相手がどれだけ上なのか判断出来ず、上であることしか分からないのだ。
前に聞いたのだが、カスタール冒険者組のハーフエルフであるイリスは、ハイエルフであるユリアを純粋なエルフだと思っていたそうだ。
むしろ、ハイエルフと知られていたら、ユリアの扱いは変わっていただろう。エルフとハイエルフでは価値が桁違いだから。
エルフ3種はそれぞれ産まれ方がほぼ決まっている。
純粋なエルフが産まれるのは、両親がエルフの場合に限られる。
母親がエルフで父親がエルフ種以外の場合、母親がハーフエルフの場合、父親がエルフ種で母親がエルフ種以外の場合(父親特徴が出たケース)はハーフエルフが産まれる。
ハイエルフは純粋なエルフが産まれるケースで、極々稀に産まれるそうだ。大体、数百年から数千年に1人くらいだな。
当然、この3種には寿命や成長の仕方にも差異がある。
ハーフエルフの寿命は500年程度、純粋なエルフは1000年程、そして、ハイエルフに寿命はない。
加えて言うと、後者に行く程、見た目の成長は遅くなる。
流石に幼児期は人間と同じように成長するが、10歳くらいから急に成長しにくくなる。
ハーフエルフは50歳、エルフは100歳、ハイエルフは1000歳くらいが人間で言う成人の見た目くらいになる。
また、寿命-成人年齢くらいから老化が始まるが、記憶力は良いようで、死ぬまで物忘れが酷くなったりはしない。
ハイエルフは老化せず、見た目の年齢は20歳くらいで完全に止まる。そして、死ぬときは自殺と他殺が半々くらいの割合だそうだ。
混血ではハーフエルフが産まれる為、純粋なエルフを残すためには、同種族でコミュニティを作る必要がある。
俺の知っている限りでは真紅帝国の奥にある『エルフの里』だな。
純粋なエルフはあまり人間社会と関わりを持たないらしく、専らハーフエルフと遭遇する事の方が多い。
そう言う意味では、教会関係者にエルフが多く、教皇がハイエルフであるエルガント神国の女神教は異彩を放っているな。
何故こんな話をしたかと言うと、ユリシーズの話を聞く上でのおさらいである。
俺達は異能のレベルアップについて説明を終えた後、戻って来たシャロンと共にユリシーズの身の上話を聞くことにしたのだ。
「私のいたエルフの集落は代々『アースクエイク』を封印してきた一族なの。何でも、もっと大昔に女神から直接封印を依頼されたらしいわね」
やはり、女神と『アースクエイク』の間には何らかの関係があるのか。
「封印を為せるのはハイエルフの女性だけなので、一族に生まれたハイエルフ女性は『姫巫女』と呼ばれていたわ。封印は『姫巫女』が生きているだけで為されるので、当時は水晶に閉じ込められるようなことも無かったそうよ」
「ハイエルフに寿命はないのに、どうして役目を交代したの?当時は『アースクエイク』に近づいて瘴気を浴びる必要も無かったのよね?」
ミオが手を挙げて質問した。
やはり、ファンタジーな話題におけるミオの理解力は高いな。
「簡単に言えば、封印をしているだけで少なからず悪影響があるのと、封印を維持するために、定期的に災竜の肉体に接近する必要がある、と言うのが理由よ。次代の『姫巫女』が産まれると、必ず先代のハイエルフは役目の引継ぎを望んだそうよ。そして、無事に引継ぎがなされた後、先代『姫巫女』は必ず自殺したと聞いているわ」
こんなところでハイエルフの自殺率の高さが垣間見えてしまった。
ちなみに、『姫巫女』の引継ぎは<巫女の継承>によって行われる。『人柱』の称号、<封印術>等の『姫巫女』に必要なアレコレを譲り渡すスキルだ。
スキルを認識していないこの世界において、非常に珍しいスキルと言える。
「長い間その役目が引き継がれてきたのだけど、時代が変わり、『姫巫女』が突然死をするリスクを恐れた一族の者が、私の代で水晶に閉じ込める術を編み出したの。後は知っての通り、私を水晶に閉じ込め、6千年以上放置って訳ね」
「ユリシーズは納得して封印されたの?」
ファロンが少し怒気を滲ませて問いかける。
「ファロンちゃんは優しいわね。……『姫巫女』の役目を継ぐのは納得していたけど、水晶に封印されるなんて聞いていなかったわ。水晶の中にいる私に、一族の者が自慢気に語り掛けてきていたから覚えているのよ」
「その一族……潰す」
ファロン、ブチ切れ案件。
「残念だけど、私の一族が今何をしているのかは分からないわ。しばらくしたら、様子を見に来る者もいなくなったし、いつの間にかレガリア獣人国の王城が上に建っていたけど、私には何の情報も与えられなかったから」
「建国記を見たら、王家の発足にエルフが関与していることは発見できたけど、あまり詳しい事は書いていなかったね。無関係ではなさそうだ」
今度はシャロンが話す。
「レガリア獣人国内にエルフっているんですの?関係者かもしれませんわよ?」
「聞いたことが無い。元々獣人が多い土地柄に加え、エルフの体質と合わないから、非常に少ないと聞く」
「言われてみれば、この国に入ってから1人もエルフを見ていないですね……」
マップで調べてもエルフ種は全く見つけられないな。
本当に1人もいない可能性すらある。
もし、いずれ向かう予定の『エルフの里』がこの件に関わっていたら、対応を考えないといけないだろうな。
下手をすると友好関係を築ける相手ではない可能性すらある。
「ユリシーズ、その一族に恨みはあるか?その恨みを晴らしたいか?」
「……恨む気持ちはあるわ。でも、一族の危機意識が分からない訳でもないの。……あえて、恨みたい相手と言えば、水晶に封印する術を編み出したギレッドと言う男ね」
俺の問いかけに対し、ユリシーズは1人の男を恨みの対象として挙げた。
「あの男、水晶に封印されて動けない私の前で、術の素晴らしさ、自分の優秀さを偉そうに語っていたのよ。……延々とね。本っ当に鬱陶しいし恨めしかったわ」
「うわぁ……」
「嫌な人ですね……」
「信じられませんわ」
「そいつ、殺す」
上から、ミオ、さくら、セラ、ファロンの反応です。
ファロンの殺意が凄い。
「とは言え、寿命を考えるとソイツも死んでいるだろうから、恨みを晴らす機会は……」
「ギレッドもハイエルフだから、寿命で死んだ可能性は0なのよ。男だから、『姫巫女』にもなれないし……」
「……機会があったら、1発殴るか?」
「是非」
ユリシーズの眼が
俺の中でもギレッドは要注意人物としてカテゴライズした。
あまり長時間暗い話をするのも気が滅入るだけなので、その他の話題に移っていった。
「レオパルド派を潰す準備は順調だよ。ジン達が帰ったら止めを刺すつもりなんだけど、いつ頃帰る予定かな?」
シャロンに問われたので、滞在日数を少し考えてみる。
「そうだな。あまり長く居ても迷惑だろうから……」
「そんなことはないよ!ジンの滞在を妨げる者がいるなら、僕が全力で排除するよ!」
「本当に全力になりそうなのが怖いわ」
シャロンの性格を知っているユリシーズが苦笑する。
「それなら、3日間くらい滞在させてもらおうかな。その間はこの国を観光させてもらうよ」
「別の街への移動は
ブルーが小さな声で「やった!」と呟いた。
そんなに嬉しいか。
「もちろん、何か問題があった時は、僕の名前で良ければガンガン使って構わないから」
王の名が……軽い。
「それより、国内の観光をするのなら、案内は必要かい?何だったら、僕が……」
「シャロン、常識で考えて」
シャロンの暴挙をファロンが止めた。
「じょ、冗談だよ。でも、本当に案内役はいた方が良いと思うんだけど……」
「中途半端に人を付けられても、面倒なだけなんだよなー」
行動に制限がかかるだけだからな。
「なら、クロネコはどうだい?一度は一緒に行動しているし、彼女は余計な事は言わないよ」
「シャロン、クロネコも忙しくなるから難しい」
大分慣れてきたけど、シャロンが話している時にファロンが発言すると、見ている方は少し混乱するんだよな。
「あ、そうだったね。ジン、ごめん。今のは無しでお願い」
「そう言えば、『八臣獣』はどうするんだ?2人死亡、3人逮捕でボロボロだけど」
興味が薄いから忘れていたが、折角なので聞いておこう。
「うーん、内政に関わることだから、本来は外部の人に話す事じゃないけど、ジンに関しては今更だよね。結論から言えば、逮捕の3人はそのまま『八臣獣』を続けてもらうことにした。もちろん、罰が無い訳じゃないけどね」
「そのままで大丈夫なの?」
ユリシーズがシャロン達を心配するように尋ねた。
心配だよな。裏切りとか、裏切りとか、後は裏切りとかされないか。
「うん、3人とも、喜んで僕の奴隷になってくれるってさ」
「ああ、なるほど……」
それなら、余程の下手を打たなければ問題にならないだろう。
「死亡した、いや、処刑した2人の枠は何とかして埋めないとね。別に6人でも困りはしないんだけど、一応は伝統だから仕方ない。……ところで、マリアさん、『八臣獣』の座に興味はないかい?貴族扱いだから、給料は弾むよ?」
気持ちは分かるが、堂々とマリアの事を勧誘してきたぞ。
ミオが「この国ではマリアちゃん人気ねー」とか呑気に呟いている。
「申し訳ございません。私の居場所は仁様のお側だけなのです」
「まあ、そうだよね。ジンの下にいる者をお金で釣ろうなんて、土台無理な話だよね」
考えるそぶりも見せず断るマリアに、シャロンも苦笑しか出来ない。
「そもそも、そんな簡単に他国の人間を重用するのは問題」
何で転生者がボケになって、この世界の人格の方がツッコミになっているんだろうね。
この場合、シャロンの方がストッパーになるべきじゃない?
「無理だと思っているなら、最初から聞くなよ」
「念のためだよ。マリアさんは『八臣獣』になるだけの実力があると分かっている。ジンの関係者なら、良からぬ企みをする心配も少ない。レオパルド派にいた優秀な人材を粛正すれば、国力が落ちることも考えられるから、優秀な人材は喉から手が出る程欲しいんだよ」
意外とレガリア獣人国も切羽詰まっているご様子。
「それなら、粛清を止めて、『八臣獣』と同じように奴隷にすればいいんじゃないか?」
「それは無理だよ。人数が多すぎて管理しきれる自信が無いし……見せしめは必要だろ?」
「シャロンの怒りが全く冷めない」
ファロンが溜息をついた。
そうだな。シャロンの事は配下にしない方針だし、折角だから提案してみるか。
「『八臣獣』になれるかどうかはともかく、有能な人材だったら貸し出せなくはないぞ」
「え?マリアさん以外に誰か獣人が来ているの?それとも、他の人達の事?流石に獣人以外は『八臣獣』になれないよ?」
「いや、今から呼ぶんだよ」
ルセアに頼んで、有能な獣人メイドを派遣してもらおうと考えている。
俺は<
今まで俺が訪れた国には、少なくとも2人以上は配下が住んでおり、情報が集まるようにしているのだ。しかし、現時点でレガリア獣人国には俺の配下はいない。
ウチのメイド達は優秀なので、俺が呼んだらすぐにやって来て、勝手に生活基盤を作り始めるだろう。
でも、シャロンが人材不足で困っているというのなら、優秀なメイドを貸し出しても良い。
「呼ぶってどうやって……?ああ、ジンならそれくらいできるか。さっきもブルーさんの事を呼び出していたよね。もしかして、もっと離れた所からでも呼べるの?」
「ああ、ブルーと同じことをして、カスタールから獣人を呼ぼうと思う」
そう言えば、一度目の前で『
「それは助かるよ。ジンが勧める人材なら、獣人国の利益になってくれそうだね」
「受け入れる前提で話を進めないで。自衛のためにも、他国から人材を借りるのは良くない」
受け入れようとするシャロンを止めたのはファロンだ。
言わんとすることは分かる。簡単に言えば、スパイみたいなものだからね。
「でもファロン、相手はジンだよ?こちらの事情を把握する術を持ち、『アースクエイク』を正面から叩き潰せる存在だ。そんな相手に自衛とか、虚しい事だとは思わないかい?」
自衛をするのも虚しい存在、進堂仁です。
「それは……その通りだけど……」
「僕だって、誰彼構わず受け入れるつもりはないよ。ジンの紹介だから安心して受け入れるんだ。ジンには小細工なんて必要ないし、ジンが僕を害するとは欠片も思っていない」
「…………分かった。私も受け入れる。ジンを信じる」
「そこまで、大袈裟な話のつもりはなかったんだけどな」
と言う訳で、ルセアに頼み、希望するメイド獣人を2名、レガリア獣人国に派遣してもらうことになりました。
初日は『アースクエイク』やレオパルドとの戦いで潰れてしまったので、2日目からの3日間、俺達はレガリア獣人国の観光を楽しんだ。
まず、2日目は王都内の観光だった。
王都内の観光くらい案内役を付けてあげたいというシャロンの意向により、王都、特に下町に詳しい者が付けられた。
「こっちがお勧めの食堂
『八臣獣』のハムスター獣人娘、名前をパピットと言う。
ええ、レオパルド派でシャロンに攻撃を仕掛けて敗北し、表向きには罰せられていないけど、実際にはシャロンの奴隷になる事で命だけは助かったハムスター獣人の少女です。
俺らとほぼ同年代で、トランジスタグラマーな少女です。
何故、態々レオパルド派の者が案内役になったのかと言うと……。
「あれ、『八臣獣』のパピット様だよな?」
「何であんな下着みたいな格好してるんだ?」
「あっちの騎士は誰だ?明らかにパピット様が媚びを売っているけど……」
街の声を聞いて予想できるかもしれないが、パピットは現在下着のように布面積の少ない服を着て、全力の笑顔で媚びを売って俺達の案内をしている。
その目的を一言で言うと……。
「何でも言うこと聞く
『命乞い』である。
パピットはレオパルドの指示でシャロンへ攻撃を仕掛けた。
『八臣獣』の地位はそのままとは言え、現在のパピットはシャロンの奴隷だ。
普通に考えて、攻撃を仕掛けた相手の奴隷になって、その後の待遇が良い訳が無い。
シャロンの心証を少しでも良くして、身の安全を確保するため、シャロンに気に入られている俺に媚びを売ることにしたようだ。
幸いな事に、パピットは下町出身の叩き上げ『八臣獣』なので、下町には詳しく、案内役としても適任だった為、案内役の募集が出た時、迷わずに希望したのだった。
ちなみに、「何でも言う事を聞く」の中には夜のお相手も含まれているらしい。
貞操1つで身の安全が確保できるなら安いそうだ。
そこで俺はこう返した「謎の騎士が情事で正体バラすとかあり得ない」と。
まあ、下らないジョークである。
結果、次善策としてパピットは布面積を減らすことにしたようだ。
身長は小さいのに胸が大きいので、布面積の少ない服装は端的に言ってエロい。どうやら、目の保養に目的をシフトしたようだ。
しかし、残念ながら媚びは評価ポイントにならず、案内だけが評価ポイントになる。
とは言え、下町に詳しいだけあって、パピット紹介のお店は中々だった。
残念ながら個室が無いので、料理は全て持ち帰りになったが……。
「パピットは役に立ったから、シャロンにしっかりと報告しておくよ」
「やった
飛び跳ねて喜ぶパピット。
観光の役に立ってくれたので、俺からの評価は低くはない。
「あ!」
勢いで下着のような服から胸がポロリした。
ある種のお約束と言う事で、パピットの評価をもう1段階上げることにした。
念のために言っておくが、下心で評価したのではなく、巨乳のお約束と言う事で評価したのである。
……そう言えば、セラは巨乳だけどポロリしないな。
「な、なんですの?その目、怖いから止めていただけません?」
滞在3日目。
本日は早速王都を離れ、王都周辺の街を散策した。
王都ほどガッツリ一か所の観光ではなく、いくつかの街の有名どころをピックアップする形の観光だ。
なお、本日は
故に、好き放題できる。
「じゃあ、ちょっと俺は奴隷商に行ってくるよ」
「お供します」
新しい土地で最初にすることは、奴隷商に行って貴重なスキルを持っている奴隷を確保する事だ。俺にとっては、奴隷商も観光地の1つなのである。
最近では奴隷メイドが新しい土地の奴隷を確保しているが、レガリア獣人国にはアドバンス商会が無いので自力で確保する必要がある。
ちなみに、騎士の格好は目立つので、軽く変装して街を巡っている。
ブルー達も人間の姿で一緒に行動中だ。ユリシーズは王都でシャロンと一緒だ。
「それでは、
「ご主人様はミオちゃんセレクションだけを食べられるようにしておくから、期待していてね?その後、この街の名物である闘技場へ向かうのよね」
いつものように、セラとミオを中心とした食べ物グループも動き出す。
この街は比較的味が薄めで(当社比)食べやすい事で有名らしい。
「ああ、闘技場はファンタジー世界の定番観光地だからな」
脳筋だらけの国と言う事もあり、闘技場がある街も多い。
闘技場と言っても、奴隷同士の戦いではなく、腕自慢同士の戦いだ。
基本、殺しはご法度で、冒険者ギルドにある相手にダメージを与えない
まあ、地下闘技場では殺しを含めて何でも有りの違法試合もあるんだけどな。
観光目的なので、アングラな所には近寄らない予定だ。
「訓練武器の戦いなら、さくらも見れるだろ?」
「はい、大丈夫です……」
地下闘技場に行けない1番の理由は、さくらが血生臭いのが苦手だからである。
ドーラの教育にも悪い。……俺の側にいること自体が教育に悪いと言ってはいけない。
集合場所を決め、奴隷商に行くグループと食べ物巡りをするグループに分かれる。
「私はご主人様について行くわよ」
「私は食べ物でお願いいたします」
「わたしもそちらでー」
騎竜の
結構酷い状況の奴隷もいるので、さくら、ドーラは連れていかない。ドーラは元々食べ物組だが……。
奴隷商、食べ物巡り、その街の観光スポットをウロウロ、と言うルーチンをいくつかの街で繰り返して3日目を過ごした。
「ご主人様、本当に観戦だけで飛び入り参加も賭けもしないのね」
闘技場で試合を見ている中、ミオが不思議そうに聞いてくる。
闘技場では地下でなくても賭けが行われているし、飛び入り参加も可能なので、試合の舞台に立つことも出来たのだ。
「俺、基本的に賭博みたいな運の要素が強い賭け事はしない主義なんだよ。加えて、俺は基本的に『観光地』を荒らすのは嫌いだからな。賭けにしろ、試合にしろ、俺が参加したら確実に荒れる。それは本意じゃない」
観光地と言うのは、出来るだけありのままの姿で楽しむ主義だ。
賭けでも試合でも、俺が参加すると言う事は、場が荒れると言う事に他ならない。本来の姿から外れるのだ。
どうしても試合に出たい理由があるのならともかく、ふらっと立ち寄って、軽い気持ちで場を荒らす様な事はしたくない。
「ご主人様が関わると、大抵の事は大事になりますからね。知っています?女王騎士ジーンはこの国で『動乱の騎士』と呼ばれているんですわよ」
セラが女王騎士ジーンの世間的な評価を教えてくれた。
「マジで?」
「マジですわ」
初耳なんですけど……。
「ああ、私も聞いたわね。ご主人様、ジーンが現れた国は、当たり前のように国が揺らぐレベルの騒動が起きるから。エルディア王国、エルガント神国、レガリア獣人国の3つね」
「言われてみればそうですね……」
ミオの補足にさくらも納得してしまう。
俺も納得してしまう。
女王騎士ジーンの名で行動している時には、大抵国が揺らぐ大事がセットになっている。
あまり有名ではないが、カスタール女王国で
こりゃあ、『動乱の騎士』の2つ名が付くのも仕方がないね。
滞在4日目。
普通の観光は十分に楽しんだので、本日は魔物の領域をブラブラすることにした。
人里離れた山の上、『竜の森』に来ていないはぐれ
「GYAOOOOOOO!!!」
《えーい!》
-ポカッ!-
「GYA、GYAO……」
ドラゴン嫌いのドーラが良い感じの一撃を加えて倒す。
人里離れた森の中、森に棲むハーピィの群れ。
「この辺りのハーピィは山じゃなくて森に棲んでいるんだな」
「もぐもぐ、山にいた子とは、卵の味が若干違うわね。この卵の方が合う料理もありそうね」
ハーピィは美味しい卵を産むので、人間の虐殺とかをしていなければテイム対象です。
幸い、この森には人が近寄らない為、虐殺はしていないらしく、無事にテイムできました。
ミオ曰く、ここのハーピィの卵も美味いらしいので、少な目の20匹くらいとは言えテイム出来て良かったよ。
滞在5日目。
本日は観光をせず、昼までシャロンとのお茶会と言う名の雑談を楽しんだ。
昼食後、俺達は王都を出発して帰路に着く予定だ。
「本当にもういいのかい?僕ももっとジンと話をしたいし、もうしばらく滞在してくれても構わないんだよ?」
「シャロンの気持ちは有り難いが、遠慮しておくよ。一応、
シャロンが名残惜しそうに言うが、俺は首を横に振って辞退する。
「それに、新しい『八臣獣』の2人なら俺に連絡を取ることが出来るから、必要があったら、必要が無くても伝えたい事があったら言ってくれ」
「ありがとう。何か伝えたい事があったら2人に頼むよ。……それにしても、いくらジンの紹介とは言え、1日で『八臣獣』になれるとは思わなかったよ」
滞在3日目の昼頃、メイド長のルセアからレガリア獣人国に送るメイドの選抜が終わったという連絡を受け、2人の獣人を『
2人は模擬戦の相手として選ばれた『八臣獣』2人(レオパルド派のパピット以外の2人)と戦って瞬殺した。
その後、色々あってその日の内に『八臣獣』として名を連ねることになった。
余談だが、選抜されたメイド獣人2人は、ユニークスキル持ちだった。それも、俺の能力で後天的に得た物ではなく、先天的に持っていたユニークスキルだ。
「簡単な仕事を任せてみたんだけど、事務能力もそれなりに高そうだし、本当に助かるよ。これで、心置きなくレオパルド派を叩き潰せる」
「レオパルド派を潰すのは良いけど、後2~3日したら真紅帝国の皇女が来るぞ?」
「え? ……あ!そうだ、そろそろ来るんだった!」
マップを見れば、真紅帝国の皇女、ストロベリー・クリムゾンが王都近くまで来ている。
スカーレットがエルガント神国でシャロン……正確にはファロンを殴った謝罪だな。
流石にアポなし訪問ではないと思ったけど、シャロンの方が普通に忘れていたようだ。
「ジン、本当に申し訳ないんだけど、色々と予定を早めてもらっても構わないかな?」
「どうするつもりだ?」
「……今日、明日中にレオパルド派を一掃する」
シャロンの目が
ストロベリー皇女が来るまでにカタをつける気の様子。
「……頑張れよ」
「うん、頑張るよ」
こうして、最後は少しドタバタしながら支度を終え、俺達はレガリア獣人国を後にすることになった。
「ゴメンね。最後は追い出す様な形になっちゃって……」
私的な話し方をする為、直接の見送りはシャロンだけで、離れた場所にセイン達がいる。
「気にしなくていいさ。また来ていいんだろ?」
「もちろん!いつでも歓迎するよ。ファロンもそうだよね?」
「当然、いつでも歓迎。ただし、お風呂とトイレの時間は除く」
「それはただの変態だ」
ファロンの微妙な洒落にツッコミを入れる。
「ユリシーズも元気で」
ファロンが今度はユリシーズに声をかける。
「ええ、いろいろとありがとう。シャロンちゃん、ファロンちゃんも元気でね」
「お礼を言いたいのはこちらの方だよ。ユリシーズ、今までありがとう。出来れば、ユリシーズにもまたこの国を訪れて欲しいな。この国に嫌な思い出があるのは知っているけど、僕達の治める国を嫌われたままと言うのも悲しいからね」
「気持ちの整理が付いて、落ち着いたら頑張ってみるわね」
この土地は嫌いでも、シャロンとファロンの事は好きなのだろう。
あれだけの事があった割には、前向きな回答と言える。
「そうしてくれると嬉しいよ。ジン、ユリシーズの事をよろしくね」
「……と言われても、俺、割と放任主義なんだよな」
今まで、あまり配下に加えた後に世話を焼くような事をした記憶が無いです。
良く言えばメイド任せ、悪く言えば釣った魚に餌をあげない。……どっちも悪いイメージしかないよ。
「ああ、別にユリシーズの為に何かして欲しいってお願いではないんだ。ジンの心の中に、少しでもユリシーズを置いて欲しい。そして、いざという時に手を差し伸べてあげて欲しいというだけだから……」
「配下にする以上、それは当然の事だろ?」
殊更に何かをしてあげることも無いが、悪い扱いをしたり、忘れたりすることはない。
気に掛けておいて、いざという時に手を貸すくらいなら、むしろ望むところである。
「はは、当然の事か……。ジンの下にいる子達は幸せだね。羨ましいから、僕も子分になっちゃおうかな?」
「対等な立場」
「うっ……。ファロンに言われなくても分かっているよ」
シャロンの望みが、『俺と対等な立場』と言うのは変わっていないようだ。
ただ、少し揺れているような気がしないでもない。
「じゃあ、そろそろ俺達は出発するよ」
「本当に残念だけど、僕も色々と予定があるからね」
俺は竜形態のブルーに跨る。後ろにはマリアとユリシーズが乗る。
他のメンバーもそれぞれ騎竜に乗り始める。
「じゃあ、またね」
「ああ、またな」
人気のないところに降り、『ポータル』で帰った。
最近、筆が全く進まない時期があり、11章が書き終わっておらず、このままでは30日に間に合わない恐れがあります(精神的な都合により、章1つ分のストックが欲しい)。
後1~2話くらいの見込みなので、完成次第登場人物紹介を投稿します。30日までに登場人物紹介が出なければ、駄目だったと言う事で30日に登場人物紹介とちょっとした短編でお茶を濁します。
誠に申し訳ない。