オーバーロード シャルティアになったモモンガ様の建国記 作:ほとばしるメロン果汁
「
自らの体に強化魔法を掛け続ける。場所はドワーフの元王都フェオ・ベルカナの元王城、その内部にある宝物庫手前の巨大な扉。
案内させたクアゴアの話によると
既に作戦はモモンガ自身が推挙した正面突破に決定しており、そのための強化魔法を掛けている最中であった。二人のドワーフ(ともう一人)は少しばかり渋ったが、逃亡第一の慎重な考えを伝えると了解してくれた。無論モモンガが正面突破を強く提案したのは、今後の名声を考えての事である。この作戦以外にも美談として語れる戦い方はあったかもしれないが、生憎思いつかなかったのだからしょうがない。
(しかし、ゲームによってはセーブポイントがありそうな場所だよな。この先にドラゴンがいるわけだし)
思わず今の身長の――と言っても本来の身長もそれほどではないのだが、遥かに高い扉を見上げる。一体何のためにこんなデカい扉を作ったのか、ドワーフの身長は勿論ライディング・リザードでも不必要なほど巨大な扉だった。ドワーフを思わせる人物に鉱石採掘の様子や、それによって作られる武器や装飾品が描かれている。まさにファンタジー映画に出てきそうな巨大扉だった。
(やはりドワーフの技術は素晴らしいな、戦闘しかできない身としてはこういった種族と仲良くするのがいいだろう)
無論手塩にかけたナザリックと比べてはいけない、モモンガも含めギルドメンバー達も様々な苦労をしてあの煌びやかな美の地下大墳墓を作り上げたが、悲しいことにそれはデータであり今や失われた可能性が高い。百年以上も前の職人たちが手塩にかけて作った扉とは、色々と違うのだ。比較する類の物でもないだろう。
――自然と手を胸に当ててしまう。
まだこの身がある。それにスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンもある。完全に失われたわけではない。
「……強化魔法も掛け終えましたし、行きましょうか?」
「ハッ!いよいよですね」
「後ろで隠れておくつもりじゃし、いざとなったらワシのことは放っておいてくれて構わんからの」
道案内では全く役に立てなかったからのぉ、とドワーフの老兵がぼやいているがモモンガとしては死なれては困るのだ。今後の関係の為にも是非生き残ってもらい、王都奪還という美談を広めてもらわねばならない。勿論二人ともう一人にも冷気や恐怖耐性魔法などを掛けてある。
「では扉を開けますよ」
「はい!……っ」
言葉と共に手を巨大な扉へ伸ばす。指が触れると同時に動き始め、思った通り重さの抵抗をそれほど感じずに開くことができた。本来のモモンガというキャラクターでも問題ないだろうが、やはりシャルティアのステータスが影響しているようで思わず苦笑いしてしまう。今までは魔法を主体とした戦闘方法だったのだが、その内本格的に近接戦闘の訓練をしてもいいかもしれない。これから決戦だというのにそんな緊張感のない事を考えながら扉をくぐると中のドラゴン達と目が――。
「どうしました?」
開いた扉を片手で支えながら、なぜか固まっている後ろの三人へ声を掛けた。
「あ、い、いえ」
「す、すまん今通るわい」
「!…」
三人が扉をくぐり終わると無造作に手を離す。背後から城中に響き渡る轟音を無視し、さきほど片手で開門させたと同時に目が合ったドラゴン達に改めて目を向ける。
目につく中央の一頭、なぜか頭を垂れひれ伏し低い位置からこちらに目を向けている。頭には二本の白い角があり目は紅い。モモンガがイメージしていたドラゴンよりかなり細いが、白い羽がこのドラゴン達の中でも一回り大きい。他のドラゴン達も部位や全体の大きさはそれぞれ異なるが同じような姿だ。
後ろの方に一頭だけ、周りのドラゴンと比べて太っているのがいたが。どことなく大きいドラゴンが白っぽく、小さなドラゴン達は青白い印象を受ける。
ドラゴン達は二十頭ほどいるようだが、最初からその視線全てがモモンガに集中している。後からモモンガが招き入れたドワーフ達には目もくれずモモンガを注視していた。モモンガを実力者と見抜いたのか、その視線と目は合わず体に集中しているように思われた。
「ようこそいらっしゃいました。お客人」
他のドラゴン達と違い最初からモモンガと目を合わせていた、中央の白いドラゴンが声を掛けてきた。位置取りからして実力者、もしくはリーダーなのだろう。その声は落ち着いており、こちらを推し量ろうとする慎重さがみられた。
「はじめまして、私はシャルティア・ブラッドフォールン・アインズ・ウール・ゴウン。故あってドワーフ族に味方する事となり、あなた方からこの城を取り返しに来ました」
「なるほど……クアゴアの軍勢を殺し尽くしたのもあなたなのですね」
「人聞きが悪いですね。少しは逃がしてあげましたよ」
敵対しているせいか此方が名乗ったにもかかわらず、ドラゴンには名乗って貰えなかった。
(まぁこれから戦う事になりそうだし、名前なんて聞いてもしょうがないんだろうな)
「それで、話し合いでこの城を明け渡す気は――」
「おい!この小さいのにでかい羽なんてない!そんな舐められた態度をとる必要はない」
こちらの話しの途中に割って入る声に少し苛立つ。視線を横にずらした斜め前の方向から、大きさはそれほど変わらないが大きな鋭い爪を持ったドラゴンがこちらへ進み出てきた。
「でかい羽?」
「見ていろ!この場で私が殺す!こいつの衣装は私が貰う」
(あ、話を聞いてくれないタイプか)
元の世界の会社を思い出す。正直今と同じように話を聞いてもらえず、何を言っているのかわからない相手は少しはいた。運が悪いとそういった相手と話をしなければならないのが社会人の悲しい性なのだ。そして異なる世界でもそれは変わらないらしい、今がその時なのだろう。だが幸いなことにマシな相手だ、先に手を出すなら此方が手を出しても言い訳が立つのだから。
「止めなさいムンウィニア!あなたの早合点で全員を危険にするなんて」
「うるさいぞ!キーリストラン!お前の心配性には付き合いきれ――ん?なんだ貴様!?」
怒鳴り散らしながらさらに前に出てきたドラゴン、ムンウィニアにモモンガの方からも歩み寄っていく。相手に白い手を向け、通じるかわからないが「かかってこい」と手を動かした。
「なっ!舐めるなあああああああ」
反応は瞬時に巨大な爪という形で返された。この場にいるドラゴン達の中でもひときわ大きな爪が迫る。早い――だが、モモンガには遅く感じられた。むしろ油断してたとはいえ、先日戦った巨人の奇襲の方が早く感じられる。
迫りくる白い爪を無造作に手刀の形にした左手で迎え撃つ。衝突と同時にドラゴンの白い爪がバラバラに弾け飛び、鮮血が舞った。もちろんシャルティアの体には傷一つない、この体を傷つける相手をモモンガは許容できないだろう。
「んな!こんなッ」
「特に恨みはないんだけど…」
ドラゴンスレイヤーの称号のため最低一匹は倒しておきたい。相手が喧嘩を売ってきたのならば、当然それに躊躇はない。お返しとばかりこちらもヴァンパイア種族の代表的な生体武器、右手の爪を振るう。
結果は劇的だった。手刀で受け止めバラバラに砕けた相手の爪と同じように、爪よりも遥かに巨大なその細長い体全てがバラバラに飛び散った。肉片が周囲の黒い床に舞い、周囲の青白いドラゴンの皮膚を真っ赤に染め上げた。
事が終わるとほかのドラゴン達に視線を向け「他にもいる?」と声を掛けると同時に、周囲のドラゴン達は床に体をこすり合わせるようにひれ伏し、震え始めた。どうやら思った以上に実力差があったらしい。
この程度で名声が得られるのか、本当にドラゴンスレイヤーを名乗れるほどの戦果を挙げられたのか。もう少し殺しておいた方がいいんじゃないかと思いながら、中央で先ほど以上に地に伏せ此方を見ようともせず震えているドラゴンに話しかける。
「確か……キーリストランだったか?」
「は、、はい!キーリストラン=デンシュシュアと、申します!!む、ムンウィニアの無礼を」
「別に無礼ではない。逆の立場であれば私もアレと同じことをしたかもしれない」
ムンウィニアと呼ばれていた肉片は周囲に飛び散っていたため、とりあえず一番肉と血がある所を無造作に指さす。
「己の目で確認しなければわからない場合も多い。私もこの地に来たばかりであなた達、ドラゴンとの実力差はわからなかったのだけど……思った以上に弱い。今のアレがあなた達の中でも実力者だったの?」
言外に「弱すぎる」と告げておく。一応こいつらはどうするか決めてはいないが、ハッキリさせておくに越したことはないだろう。
「は、はい!ムンウィニアは…お、夫であるオラサーダルクに敗れ、、妃となりましたがその実力は私たちの中でも…」
「ん?待て、夫がいるのか?アレより強い?」
「ハ、はい!」
「それはどのドラゴンだ?」
モモンガは周囲のドラゴンを見渡す。どのドラゴンも全て地にひれ伏していた。大きさで大人と判断したドラゴンも変わらず此方を見ようともせず震えている。もしこの中に、その夫がいれば情けない限りだが――。
「い、いえ、私にとっても夫となり、部族の長であるオラサーダルク=ヘイリリアルは……先日あなた様の実力を見てしまい、それ以来部屋に引き籠って怯えておりまして……」
「……え?」
聞かされたのは思った以上に情けなさそうな、引き籠り夫の存在だった。
新年初回から遅れてしまいスミマセン。スタートを扉前に変更とかリアル仕事とか色々