第154話 獣の王と願い
会話パートですが、色々と話が動きます。
驚くのはシャロンの正体を感想欄で当てた人がいる事ですね。
元々感想返信は気が向いた時だけですが、展開予想に関しては一切返信しない方針です。
どうあがいても、ネタバレにしかならないですからね。でも、展開予想を書くのは別にOKです。少なくとも、コーダは。
セインに案内され、会談の為に用意された部屋でシャロンを待つこと10分。
レオパルド達の粛清を終えたシャロンも部屋に入って来た。
「ジーン様、お待たせいたしました」
「いえ、お気になさらず」
マップでシャロンの動向を確認していたので、十分に暇は潰れた。
シャロンの強さが良く分かる、面白い余興だったよ。
「セイン、悪いけど1人にしてもらえる?色々、他の人に聞かれたくない話をするんだ」
「安全上、出来れば護衛を連れて欲しい所ですが、シャロン様がそこまで信頼しているお客人である上に、護衛を置いても何の役にも立たない事を考えると……仕方ありませんな」
俺達がシャロンに害をなすつもりなら、護衛を何人置いたところで、何の意味も無い。
レオパルドは全く分かっていなかったが、セインはこちらの戦力をある程度理解しているようだな。年の功ってヤツ?
「それでは、失礼いたします」
そう言ってセインは部屋を後にした。
「ここだったら、防音もしっかりしているし、諜報の手も届かないから、自由に話が出来るよ。本当に、長かった……」
感慨深そうにシャロンが呟く。
確認してみたが、この部屋は壁が厚くて防音機能が高い。
窓もまともな通気口も無く、外部からの諜報活動が非常に難しい部屋になっている。
「それで、私達をここに呼んだ理由をお聞かせ願えますか?」
俺が尋ねると、シャロンは苦々しい表情をする。
「その敬語、止めてもらえるかな?ジンにそんな話し方されると、身体が痒くなるんだ」
「やっぱり、俺の関係者か……」
当たり前のように俺の事を仁と呼んだシャロン。
思っていた通り、前世で俺と関係があった相手なのだろう。
この空間ならば隠す理由もなさそうなので、俺は兜を取って素顔を見せる。
「久しぶりのジンだ……。でも、全く驚いてないね。何でバレたんだろう?」
シャロンが不思議そうに首を傾げる。
他のメンバーにも予想は伝えていたので、誰も驚いてはいない。
はい。これがシャロンのステータスの抜粋です。
名前:シャロン
性別:女
年齢:15
種族:獣人(白虎、転生者)
称号:レガリア王国女王、二重人格
俺の事を自国に招いた転生者で、マップ上のマーカーが
ちなみに、首脳会議ではマーカーの色は緑色でした。多分、称号の『二重人格』に理由があると考えています。
「いや、相手がジンなら何が起きても、何が出来ても不思議じゃないか」
「あ、ご主人様を良く知っている人の反応だ」
シャロンの反応を見て、ミオが納得したように言う。
……俺、そう言う扱いなんだね。
「それで、
「ははは、流石のジンでも、そこまでは分からないか。まあ、前世では一度も会話をしたことが無いし、仕方ないよね」
「話したことが無い?」
俺と関わりがあるのに、一度も話したことが無い相手。
……全く思いつかない。
「隠す様な事でもないし、早く知って欲しいから言うけど、僕の前世の名前はシロ。ジンの飼っていた白猫だよ」
あれは8年くらい前の事だっただろうか。
小学校中学年だった俺は、ある日段ボールに捨てられている白い子猫を拾った。
衰弱して死にそうになっていたので助け、しばらくの間は保護、つまり飼っていた訳だ。
当然、シロと名前を付けたのも俺である。知り合いからは安直と言われまくったが、仕方のない事だ。
その時には他にペットも居らず、2代目ペットとして可愛がっていた記憶がある。
ちなみに、勇者である五十嵐ことラッシーが初代ペット。ドーラは3代目ペットである。
……人ではない、もしくは人型にならない、本当の意味でのペットが
シロはとても賢い猫だった。
『猫としては』と言う但し書きはつくが、少なくとも俺の言葉を理解しているように振る舞う事が多々あったのは間違いがない。
1年はシロと共に過ごしたのだが、結論から言うと、俺はシロを手放すことになった。
信頼できる知り合いに預ける事にしたのだ。
理由は俺の周りが少々物騒になった中、シロが無事で済む保証が無くなったからである。
最初、別れる時には滅茶苦茶抵抗されたが、シロも俺の現状は理解していたようで、別れてから俺に近づいてくることはなかった。
もちろん、シロの事は覚えている。
手放した後もちょくちょく飼い主と写真のやり取りをしていたからな。
「え、マジでシロなのか?」
便利で優秀なステータス表示だが、流石に前世の情報までは示してくれない。
可能性はとてつもなく低いが、シロを騙っている他の知り合いの可能性も0ではない。
まあ、どのみち俺の関係者に限られる訳だが……。
「うん、そうだよ。証明するのは難しいけど……あ、そうだ!」
シャロンは俺の元に近寄ると、小さな声で耳打ちしてきた。
…………。
「なるほど、それを知っているのは俺とシロくらいだな」
これはシャロンがシロだと認めざるを得ないな。
「うんうん、信じてもらえたみたいで嬉しいよ」
「何を言ったかすっごい気になる!」
悪いなミオ、これはあまり人に言うような事じゃないんだ。
《きょーてきのよかん……》
そして、ドーラがシャロンをライバルとして認定していた。
五十嵐(初代ペット枠)の時は無反応だったが、シャロンはライバル枠に入るのか……。
「それで、シャロンがシロだというのは良いとして、いくつか聞きたい事がある」
「分かってるよ。何でも聞いてね」
それでは遠慮なく、1番気になっていたことを聞こう。
「何故シロは死んだんだ?転生したと言う事は、元の世界でシロは死んだんだよな?」
「1番最初に聞くのがソレ?」
「ああ、大切なペットが死んだと聞かされたら、理由が知りたくなって当然だろ?」
預けていた知人からシロが死んだという話は聞いていない。
まあ、他の転生者の転生タイミングを聞いた限り、俺達がこの世界に転移したのと同じ日のようだから、知らなかっただけ、もしくはまだ連絡できていないだけだろうが……。
「……どうしよう。『大切なペット』って言われただけでこんなに嬉しいとは思わなかった」
何故かシャロンは赤くなってモジモジしだした。
《むー……》
そして、何故かドーラがむくれている。ペット枠としての嫉妬かな?
俺は慣れた手つきでドーラを膝の上に乗せて、目一杯撫でる。
《えへへー》
当然、直ぐにドーラは機嫌を直してくれた。
「む……」
今度はシャロンがドーラの様子を見て、若干不機嫌そうになる。
「その子が……今のジンにとってのペットなの?」
「ああ、そうだ。名前はドーラ、こう見えて
「例の噂の……。やっぱり、ジン関係だったんだね」
「でも、僕は騎竜の方がペットだと思っていたよ。残念ながら予想が外れていたみたいだね」
「もしかして、騎竜で来て欲しいって言うのは……」
「うん、僕も今更ジンのペットに戻りたい訳じゃないけど、一応はペットとしての先輩だからね。後輩の事が気になったんだよ」
招待状に記載された『騎竜で来て欲しい』という要望にはそんな理由があったのか。
流石にそれは気付けない。
「話を戻そう。知っての通り、僕は元の世界で死んだ。トラックに撥ねられたのが理由だね」
「お、テンプレだ」
ミオが過敏に反応する。
「ボールを追いかけて道路に飛び出した子供を、体当たりで助けたのが原因だった」
「お、テンプレから微妙にずれた……」
『猫を助ける』、『子供を助ける』のパターンはあれど、『猫が子供を助ける』パターンは少ないのではないだろうか?
「気付いたら、この世界で獣人として転生していたんだ。少なくとも、即死だったから痛い思いはしなかったよ。後悔もしていない」
「そうか、死んでいる以上、良かったとは言えないが、また会えて嬉しいよ」
「僕も嬉しいよ。こうして、ジンと話をするのが長年の夢だったからね」
シャロンは本当に嬉しそうにそう言った。
「さて、折角だから僕の身の上話を聞いてもらえるかな?多分、ジン達が抱いているいくつかの疑問はそれだけで解けると思う」
「ああ、是非聞かせてくれ」
気になることも多いし、まずは一通り話してもらった方が良いだろう。
「前の世界でトラックに轢かれ、1度意識が途切れた後、僕はこの世界で獣人として第2の生を受けた。名前はシャロン。知っての通り、白虎の獣人である僕の名前だ」
そこでシャロンの雰囲気が変わる。
そして、マップ上の色が
「私の名前はファロン。シャロンの双子の妹」
再び、雰囲気とマップ上の色が戻る。
「
「
なるほど、それが称号の『二重人格』の正体と言う訳か。
人格と言うか、魂が2つあるみたいだが……。
「生まれて間もなくその事に気付いた
「ある意味では
なるほど、実際の名前ではないから、
「ファロンに人生を譲ることを決めた
「
ぐったりと疲れたようにファロンが言う。
「前世で言葉を喋れない猫だった時から、ジンとずっと話をしたいと思っていた」
そこでシャロンは首を横に振って「いや……」と否定した。
「ただ一言、伝えたかったんだ。『助けてくれてありがとう』。……やっと言えた」
やり遂げた顔をしているシャロン。
感謝の念を伝えられて悪い気はしないが……。
「……確かに猫だから喋れなかったけど、感謝の念は伝わっていたぞ。だって、滅茶苦茶懐いていたじゃないか。『普通、猫はあそこまで懐かない』ってよく言われていたからな?」
「そ、そうだったかな……?」
シャロンが恥ずかしそうにモジモジする。
動物には懐かれ難い性質だったけど、シロだけは例外と言わんばかりに懐いて来ていた。
知り合いによく言われたのが、『普通、猫はお手とお代わりとちんちんをしない』である。
……芸を一通り仕込んだのである。
「……ま、まあいいや。とにかく、その夢に関してだけはファロンにも協力してもらって叶えようと思った……んだけど……」
「前世と違う世界と知った時のシャロンの落ち込み方は酷かった。まさしく、世界の終わりのようだった。異世界だけに」
久しぶりだな。シャロン、いや、魂的にはファロンの微妙な洒落は。
「いや、ファロンの洒落はつまらないからいいよ」
「!?」
「それで、しばらくの間は落ち込んでいたんだけど、ある時、異世界からの勇者召喚について知ったんだ」
器用に一瞬だけ人格を入れ替えてショックを受けるファロンを
「その時、『あ、これはジンが来る』と思ったよ。だから、僕は強くなることを望んだ」
「話が急に飛んでいないか?」
何故、俺が異世界に転移すると思ったら強くなろうと思ったのか?
「飛んでいないよ。1番の夢はジンと話をすることだけど、可能ならば
その結果が『騎士ジーンとして自国への招待』と言う扱いに繋がったのか?
無暗矢鱈に待遇が良かったのは、『対等な立場』と言う点を何よりも重視したからか?
「それが、辛い修行の始まりだった……」
「幸いなことに僕達は魂が2つあった。つまり、片方ずつ魂を寝かせれば、身体はずっと起きていることが出来るんだ」
「本当に……辛い修行の始まりだった……」
正しい意味で寝る間を惜しんでのブラック修行。
それがシャロンとファロンの才能を開花させたのだろう。
若干、ファロンのトラウマになっているように見える。
「僕たち2人の努力が実り、レガリア獣人国の国王となってしばらくして、勇者召喚が行われることを知った。ジンの事だから、すぐに有名になると思っていた」
「あの時はシャロンが四六時中うるさかった」
「だから、あの時の事は謝っただろ?流石に僕もはしゃぎ過ぎたって反省したんだから」
「普段は冷静沈着なのに、ジンが関わる時だけ暴走するのは勘弁してほしい」
さっきのレオパルドへの制裁も暴走の一部なのかな?
「ホントごめん。……話を戻そうか。結局、ジンの名前は勇者召喚後しばらくたっても聞こえてこなかった。その後、カスタールとエルディアの戦争があって、初めて女王騎士ジーンの名前が聞こえてきた。その瞬間、『あ、ジンだ』って気付いたよ」
毎度、当たり前のように気付かれる俺の偽名。
「その後、迷わず首脳会議に参加する事に
「首脳会議では、ジーンが本当にジンかどうかを確認するのが1番の目的だったからね」
「公私混同だと思う」
どちらかと言えば、
ファロンの
「最初から100%純粋に
「否定はできない」
王様は『とりあえず』でなれるモノではありません。
「ジーンがジンだという確証を得た僕達は、後はじっくり腰を据えてお話しできる環境をセッティングすることにしたんだ。……最後の最後でレオパルドが邪魔してきたけどね」
「キレたシャロンを抑えるのが1番大変だった」
「一応、レオパルド達は生きているみたいだな」
『八臣獣』の4人は全員が生きてはいる。
当然、無事だなんて一言も言っていない。ボロボロである。
「仮にも王族の1人だから、殺すと色々と面倒なんだよね。でも、折角のジンとの再会にケチを付けられたのが、どうしても許せなくて……今から殺しに行こうかな?」
「シャロン、ストップ」
思い出し殺意を漲らせたシャロンをファロンが止める。
あくまでもシャロンの身体は1つなので、1人芝居を見ているような気分になる。
声音が若干違うので判別は付く。
「レオパルド達には重い罰則を与えた。レオパルドが王位を狙っていたのは知っているけど、これでもうレオパルドを担ぎ上げるのは不可能」
迂遠なレオパルド達の策略はシャロンにバレていたようだ。
「そうだね。尻尾を斬り落としたからね。……ああ、ジン達は知らないかもしれないけど、この国の獣人にとって、戦いに負けて尻尾を失うのは何よりの恥なんだ」
それは知らなかったな。
この国なら、部位欠損を治せる魔法や秘薬の価値が一気に上がるか?
A:エステア王国にある迷宮のボスから、部位欠損を治せる『神薬 ソーマ』がドロップする事が公になった後、迷宮に挑む獣人が急に増えました。影響があったものかと思われます。
あの歴史的発見(自作自演)は獣人にも影響していたのか。
「尻尾の切れた戦士は、情けない負け犬として扱われる。レオパルドはネコ科だけど」
「はいはい。……だから、レオパルドの威厳は地に落ちた。尻尾が無い限り、レオパルドが王になることはあり得ない。権力志向の強いレオパルドにはこれ以上ない罰だよね」
ファロンの洒落をスルーしてシャロンが言う。
「少なくとも、ジンがこの国に居る間は、レオパルド達は牢に閉じ込めておく。これ以上、ジンに不快な思いはさせないから安心して欲しい。……後、ジンがどうしても許せないというのなら、無理を通せばレオパルドを処刑することも出来るよ。どうする?」
「当然、明確に面倒事になるけど」
ファロンが補足したように、無理を通す以上は面倒事が起きるのは確定だろう。
もちろん、貴族関係の
正直、レオパルドは何かを成し遂げる前にシャロンに潰されたせいで、恨みも何もないんだよ。むしろ、既にレオパルドの顔もよく思い出せない。
「いや、レオパルドは無視で構わない。処刑して欲しい程、恨んではいないから」
「そう?ジンがそう言うなら、殺さないでおくね」
「正直、助かった」
何故かファロンがホッとした表情を見せる。
こうして、レオパルドは何とか処刑を免れましたとさ。めでたしめでたし?
「そう言えば、1つ気になったことがあるんだが聞いてもいいか?」
「うん、何でも聞いていいよ」
何でも……。
それじゃあ、スリーサイズを教えてもらおうか。
A:上から……。
ストップ!冗談だから!
そっか、マップ上の情報から、それくらいは簡単に分かるのか……。
うん?と言う事は、パンツの色とかも分かるのか?
A:白です。ドレスに合わせています。
止める間もなく答えられてしまった……。
「どうかしたの?」
アルタとのやり取りで一瞬固まってしまった俺に、白パンツのシャロンが尋ねてくる。
「いや、何でもない。俺が聞きたいのは、2人の強さの差についてだ。首脳会議で戦ったファロンより、レオパルドを相手に戦ったシャロンの方が遥かに強かったよな?」
気を取り直して、聞きたかったことを聞いてみる。
実は、シャロンとファロンの基本的なステータスは同じなのに、ファロンの人格の時だけ、腕力:255(-100)みたいに能力値にマイナス補正が掛かっているのだ。
初めて見た時は少し驚いたよ。呪いの武器を持っている訳でも、マイナス補正スキルを持っている訳でもなかったからな。
「やっぱり、ジンは何処の世界でも規格外なんだね。そんな事まで分かるんだ……」
「シャロンの言った通り、凄いを通り越して怖い」
2人(表現として正しいかは要相談)は俺の問いには答えず、思い思いの感想を述べた。
「ある意味、当たり前の事ではあるんだけどね、ファロンはこの身体の本来の持ち主じゃない。
1つの身体に2つの魂が入るのは、正常な状態とは言えないのだろう。
ファロンのマイナス補正は、その弊害と言う事だな。
「それでも、実力でこの国の王になれるくらいには強くなれた」
「ジンは知っている?この国の国王を決める武道会の事?」
「ああ、一応は知っている。王族総出で国王を決める戦いだろ?」
シャロンの問いに答える。
この国に来てから知った情報だけどな。
「そう、その武道会なんだけど、ファロンが最初から最後まで戦ったんだ。当時、ファロンよりも少しだけ強かったレオパルドを降してね」
つまり、幼シャロン>若レオパルド≧幼ファロン、と言う事か。
「今なら
つまり、シャロン>>ファロン>>>レオパルド、と言う事か。
「逆に言えば、その当時ファロンといい勝負をしたせいで、実力が離れていないと勘違いして、身勝手な行動を繰り返すことになったんだろうね」
つまり、レオパルド=実力を勘違いしたアホ、と言う事だな。
「レオパルドは武道会で
「ファロンはレオパルドに情が移ったみたいなんだよね。反乱起こしそうだから早めに潰そうって言ったのに、ファロンが渋るから……」
「いつか改心してくれればと思っていた」
どうやら、ファロンはレオパルドをそれ程嫌っていないようだ。
戦いの中で情が移ったのだろうか。
「でも、分かっているよね?今回はさすがに庇えないって事は」
「……分かっている。あそこまで明確に反乱されたら庇えない。改心も、望めない……」
簡単に言えば、レオパルドはやり過ぎたんだね。
「まあ、いいか。あんなどうでもいい奴の話は終わりにしようよ。それより、私達の身の上話はそろそろ終わりかな。何か質問があるのなら、受け付けるよ」
レオパルドに対して辛辣なシャロンが話を切り上げた。
2人の今までの経緯は大よそ理解できた。
ここまで、一切話に出て来なかった、1つの問題を除いて……。
「それじゃあ、1つ質問だ。俺をこの国に呼んだのは、シャロンが会いたがった事
そう言って、俺は地面を指差した。
いや、正しくは城の地下深く。そこに存在するモノを……。
「ああ、やっぱりそっちにも気付いていたかぁ……。でも、今までのジンを見ていると、それくらい気付いても不思議じゃないと思えるから恐ろしいよね」
「シャロンの元ご主人様、本当に人間?それとも、異世界の人はこれくらい普通なの?」
「そんな訳ないでしょ。ジンがおかしいんだよ」
シャロンの言い方だと、『俺が人間か?』の質問も否定しているように聞こえる。
「酷い言い草だな。……それで、回答は?」
「ゴメンゴメン」
シャロンの謝り方が軽い。
「答えは当然YESだよ。ジンに会って話したいのは
「そして、彼女を助けたいのは
シャロンとファロン、それぞれ1つずつ望みを持っていたようだ。
「アレを何とかできるような存在、僕にはジンくらいしか思いつかなかった」
「シャロンの話を聞いて、私もそれに賭けるしかないと思った」
「どうか、僕達に手を貸して欲しい」
「お願い。私達に支払える物なら、何でも払うから」
コロコロと口調を変えるシャロンとファロンの話を聞く。
「何でも?」
「何でもだね。もちろん、僕達の貞操でも構わないよ。ただ、僕達の身柄は勘弁してもらえると嬉しいな。せめて、国王の引継ぎが終わるまでは。それとも、ジンが国王になる?」
「国王の地位なんていらん。そもそも、そんな対価は無しと言わないのか……?」
国王の立場がとても軽く扱われているな。
「言わない。願いが叶うのなら、国王の地位も私達の身柄も重要ではない。無責任は出来ないから筋は通すけど、執着するようなものではない」
シャロンとファロンが王位を求めたのは、望みを叶える近道だと思ったからであり、地位自体には固執していないことが窺える。
「でもいいのか?シャロンの望みには『俺と対等』と言うのもあるんだろ?明らかに下からのお願いみたいなことになっているぞ?」
「ははは、正直言うと少しだけ残念ではあるかな。でも、ファロンの望みは僕としても無視できないモノなんだ。意地を張ってまで通す程、重要なモノじゃあない」
さて、どうしたものか……。
ああ、勘違いしないで欲しいのは、2人の願いを聞くのはもう決めていることだ。
アレは流石の俺も無視できないし、無関係と言う訳でもないからな。
問題は何を対価にしてもらおうかと言う話だ。
この国にある物で、アレの相手をするのに相応しいレベルの対価はないんだよな。
シャロンはああ言ったが、2人をどうこうするつもりはない。
シャロンが『俺と対等な立場』を望んでいるのに、無理に配下にしても後味が悪いだけだ。
当然、俺の主義にも反する。
……うん、後回しでいいか。
「2人の依頼は受けよう。ただ、対価がすぐには思いつかないから、後回しでもいいか?」
「ジン、本当にありがとう。対価に関してはもちろん後で構わないよ。何でも払うと言ったんだから、後で何を言われても受け入れるつもりだよ」
「私からも感謝の言葉を。ありがとう、これで上手く行けば彼女が救われる」
ファロンと城の地下に
可能ならば、色々と情報を得ていきたいところだ……。
名前:ユリシーズ
性別:女
年齢:6810
種族:ハイエルフ
称号:エルフの姫巫女、エルフ王族、人柱
スキル:
魔法系
<精霊術LV10><精霊魔法LV10><封印術LV->
技能系
<魔道具作成LV10><森の英知LV->
その他
<幽体離脱LV10><不老LV-><巫女の継承LV-><大地の記憶LV->
どう見ても、
あの、未だに素性の不明なハイエルフの同類。
どう見ても関与のあるステータス。
そして何より、マップ上で不思議な表示をされているコイツとも無関係ではあるまい。
地災竜・アースクエイク
種族:災竜
称号:反存在、封印されし災禍
何が不思議って言うと、読み取れるのがこれだけなんだ。
ステータス、いや、HPとかの各種パラメータが全く表示されないんだよ。
アルタですら、情報を取得できないんだよ。
つまり、『灰色の世界』みたいな未知の存在と言う訳だ。
そりゃあ、織原も嫌がるよな。ネタ潰しみたいなものだし。
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裏伝
*本編の裏話、こぼれ話。
・二重人格
レガリア獣人国の王城において、国王であるシャロンが二重人格であると言う事は隠されていない。そして、より正確に言うのならば、王城の中に二重人格だと認識している者はほとんどいない。
それは、口調が違うことは認識していても、大まかな行動方針が全く変わらないし、もう片方の人格に話したことでもしっかりと認識しているからだ。故に、『時々口調が変わるな』くらいにしか思われていなかったりする。
シャロンとファロンは正確には二重人格ではなく、2つの魂を持っているが、これを知っている者は誰もいない。
本話でも触れたが、2つの魂は交代交代で睡眠をとることで、肉体的には寝なくても問題は少なく、それ程大事にはならない。魂の休憩に比べれば、優先度は低い。
長かった。本当に災竜を出すまで長かった。災竜さんは1章時点で原案がありました。詳細は次回!
シャロンは二重人格で声が同じなので、アニメだったら声優さんが凄く頑張る必要があります。