第152話 学校の真実と相殺
話に出てきただけなのに織原の存在感がヤバい。
一応、倉内の情報では織原はまだ生死不明のままなんですけどね。
「あの学校は国家主導で日本各地から特殊な才能を持った子供を集めていた。もちろん、全員が全員そうだったわけじゃなくて、普通の生徒も大勢いたけどな」
日本各地から人類の枠を超えた者、超えかけている者、少しだけ外れた者などを積極的にスカウトしたり、
「何か、漫画みたいな設定の学校ね。学園異能バトル物?」
「どちらかと言うと、動物実験場の方が近いかな。一応補足しておくと、人体実験をするような組織ではなく、『特殊な才能を持った人間の影響・反応の調査』っていうのが最近の主な研究テーマだったみたいだな」
残念ながら、ミオの期待するようなバトルはほとんどなかった。少しはあった。
主要な目的が観察なので、それほど生徒側への干渉はなかった。少しはあった。
「どちらにせよ、ご主人様は元の世界にいた頃から普通じゃなかったのね……」
ミオが納得したように呟くが、俺はそれについては言及せずに話を続ける。
「もちろん、学校側もそれを悟らせるようなヘマはしていないから、さくらが知らないのは当然と言えば当然なんだけどな」
「じゃあ、仁君はそれをどうやって知ったんですか……?」
「ああ、簡単だ。俺の親友が学校のネットワークをハッキングしたんだよ」
親友である東が、学内の情報をハッキングして見つけた資料を見せてくれたのだ。俺のしたことなんて、解除用パスワードを当てた程度の小さな事だ。
やっぱ、持つべきものは優秀な親友だよな。
ちなみに、その資料には学校内で行っていた研究の詳細が記されていた。色々と不愉快なことも書いてあったな。
「「……………………」」
俺の犯罪告白を受け、さくらとミオが少し引いてしまった。
いや、犯人は俺じゃないからね。全て東がやりました。
持つべきものである親友を速攻で売る。
「話を戻すぞ。周囲に与える影響を見るためのアプローチとして、『特殊な才能を持った生徒』をBクラスに集めて、残りを『少し特殊な生徒』と『普通の生徒』で囲むことにしたようだ」
1クラス40人として、『特殊な才能を持った生徒』を多く見積もって5人だとする。
残りの35人の内10人に『少し特殊な生徒』、25人に『普通の生徒』と割り振る。
その中で、『特殊な才能を持った生徒』の影響を研究する。これがB組の目的である。
なお、俺がいたのもBクラスの『特殊な才能を持った生徒』枠である。余計なお世話である。
「何でBなの?そういう場合、順番から言うとA組になるのが普通じゃないの?」
ミオが聞いてくるが、俺は首を横に振った。
「A組にはA組で他の目的があるクラスだからだな。勿論、C組にも目的があるぞ」
「それが……さっき言っていた話……ですよね……?」
元Cクラスだったさくらが恐る恐る聞いてくる。
俺は頷いて答える。
「C組の目的はマイナス方向の影響・反応の調査だな。『特殊な才能を持った生徒』の周囲に『素行の悪い生徒』を固めて反応を見る、という悪趣味なクラスだ」
B組に似ているがC組の方が悪趣味だ。
『特殊な才能を持った生徒』数人と『素行の悪い生徒』10人、『普通の生徒』25人でクラスを作って、どのような反応をするのかを観察するのが目的だ。
先程、倉内が言っていた悪性因子と言うのは、この『素行の悪い生徒』の蔑称である。
「もしかして、私は…………」
「ああ、多分C組の『特殊な才能を持った生徒』だろうな。さくらの過去の話を聞く限り、不自然なまでに人に嫌われ過ぎていると思う」
「それはミオちゃんも前から感じていたわねー。元の世界でのさくら様の扱い、ちょっと酷すぎるわよね……」
さくらとの付き合いも長くなってきたが、さくらは悪質な人間ではない。
少なくとも、さくらが受けた仕打ちは明らかに過剰すぎると思う。
多少ネガティブな面はあるが、それは生来のモノではなく、環境によるものだろう。
当然、さくらに咎められなければならない責はないはずだ。
「俺も詳細はうろ覚えだけど、前に資料を見た時、『不自然なまでに他人に嫌われる』という特徴を持った生徒の記述があったと思う。興味を惹かれたから頭に残っていたけど、今考えればさくらにドンピシャだよな」
東に借りた資料をパラパラ捲っただけだが、そんな記述があったのは覚えている。
具体的な名前までは記憶していなかったが、さくら以外にありえないだろう。
「今思えば、私があの学校に入れたのも不思議だったんですよね……。あの学校以外は、面接どころか願書を出しに行った段階で断られましたから……。あの学校だけは、推薦入学で入学できたんです。どう考えても、不自然以外の何物でもありません……」
「それ、嫌われているという単語で済ませていいのかな?」
「流石にそこまでとは思わなかったな……」
高校入学のシステムを知っているミオと俺がドン引きする。
願書を出しに行ったら断られるって、『嫌われている』の一言で済ませていい範疇を大きく逸脱していると思います。
「逆に言えば、あの学校は特殊な生徒を集めている訳だから、さくらの入学を断る訳が無いんだよな。入学した後、幸せになれるかどうかは別として……」
「幸せでは……無かったですね……」
まあ、そうだろうな。
「ちなみに、私もC組の『特殊な才能を持った生徒』ですよー。身体能力が身長や体重から考えると異常らしいですねー。資料に乗っていました?」
そこで倉内が割り込んで来た。どうやら、倉内は現代日本版のセラだったらしい。
よく見れば、レベルの割にステータスが高めだ。生来の物なのだろう。
「……いや、悪いが記憶にないな」
「それは残念ですねー」
記憶を漁ってみるも、そのような情報を見た記憶はない。
あの時の資料は確か、同学年の生徒に限られていた気がする。倉内、これでも一応先輩なのである。
「倉内さんも、虐められていたんですよね……?」
「ええ、そうですよー。仮面を付けていなければ、碌に他人と話も出来ない内向的で小柄で怪力な女子が、虐められない理由があるなら教えて欲しいですねー」
さくらの問いに何でもない事のように答える倉内。
仮面を外した時の反応、あれはこの世界とは関係のない、元々の反応だったと言う事か。
「まあ、『他人に嫌われる才能』を持つ貴女よりはマシだったかもしれませんけどねー」
「そう……ですよね……。私の才能、いえ、呪いは、虐められるためにあるような物ですよね……。でも、高校時代の虐めが、一番酷かったです……」
倉内の容赦ない追い打ちに、さくらの表情がどんよりと暗くなる。
「一応、その理由についても推論が立つんだけど、……聞く気はあるか?」
「お願いします……」
あまり気は進まないけど、聞かない訳にもいかないのだろう。
浮かない表情のまま、さくらが頷く。
「親友がハッキングしたレポートによると、C組、『素行の悪い生徒』のいるクラスでは、『普通の生徒』が悪意に染まりやすくなる傾向があるらしい。簡単に言うと、『普通の生徒』の素行が悪くなってくると言う事だ」
「それ、最終的に『普通の生徒』がいなくなりませんの?」
「いなくなるな。そして、いなくなったんだろうな。クラスのほぼ全員が『素行の悪い生徒』なら、虐めが酷くなるのは当然のことだ」
セラの疑問に対し、間髪入れずに答える。
さくらのように人に嫌われやすい人間が、40人近くの『素行の悪い生徒』に囲まれて、虐められない訳が無い。そして、悪意とはエスカレートして行く物である。
「だから、さくらの虐めは教師、いや、観察者連中にも見て見ぬ振りをされた。観察者が恣意的に観察対象に手を加えるのは禁止されているからな」
以前、教師がさくらの虐めを無視していたと言う話を聞いたが、C組を担当する教師は全員学校の目的を知っていた。そして、観察者としての役割も持っている。
正確な研究データを取るために、あえて放置していた可能性が高いだろう。
「酷い、です……」
「生徒の事を何だと思っているのかしらね!」
さくらが泣きそうな顔で呟き、それを聞いていたミオが憤慨する。
「実験動物、だろうな……。流石の俺達もそのレポートを見て不愉快だったから、ちょっと学校を潰すことにしたんだよ」
「え?国家主導で行われている、重要な研究施設なのよね?」
「その程度の理由で俺が、俺達が止まるとでも?」
「うん、全く思わないわね」
ミオに言われるまでもなく、当然俺達3人は止まらなかった。
ちょっとした切っ掛けがあり、学校内の虐めについて(主に東が)調査をして、その結果芋づる式に分かったのが学校の裏の顔と言う訳だ。
実験動物扱いも不愉快だし、虐めを助長するような環境を作っていた事も不愉快だ。
明確な敵と判定した以上、俺達が手を出さない理由はない。
よって潰した。
最終的には、各々の行いに相応しい罰を与えた。
「木ノ下さん、私達が転移した日、やけに自習が多かったとは思いませんかー?」
あ、倉内の奴、それも言っちゃうんだ……。
「そう言えば……あの日はほとんど授業がありませんでしたね……」
「あれ、学校の上層部が壊滅状態で、授業どころじゃなかったからなんですよー」
はい。その通りです。
俺達が学校を完全に潰したのは、異世界転移の前日だったりします。
だからこそ、この世界に転移した教師が少ないのである。
C組の担任に至っては1人も転移していない。そもそも学校に居なかった。
「進堂様達の要求もあり、本当は明日にでもクラス替えが行われるところでした。当然、C組で虐められていた者を保護しつつ、次なる虐めが起きないようにするための物です」
「仁君、そんな事をしていたんですか……?」
「まあ、目について、不快で、変える力があったからな」
善行であるとは思っていない。
自分の目の届く範囲で、不快な事が行われているのが我慢ならなかっただけだ。不快な状況を変えるのに大した手間がかからないのなら、少しくらい手を貸してもいいだろう。
木野や七宝院と言った信者勇者にも施した『ちょっとした手助け』である。
「そう言う意味では、私達は明日にでも救われていたんですよー。幸か不幸か、その前に異世界転移に巻き込まれてしまいましたけどねー」
「何か複雑な気分です……。私、異世界転移しても、していなくても、仁君に救われていたんですね……。もしかしたら、私も七宝院さん達と同じ立場になっていたのかも……」
さくらが複雑そうに、それでいて少し嬉しそうに呟く。
そう言えば、『ちょっとした手助け』で信者が増えていたんだっけ……。
「もし、そうなっていたら、私も織原様ではなく、進堂様を信仰していたでしょうねー」
「……納得しました。本当に貴女は私に似ています」
元の世界の話と言う事で、口を挟まなかったマリアが言う。
C組で虐められていたという意味ではさくらに似ていて、体質と言う意味ではセラに似ていて、性質と言う意味ではマリアに似ている。
ミオとドーラは……特にないけど、ウチのメンバーによく似ている気がする。
織原はそこまで考えてメッセンジャーにしたのだろうか?
可能性はあるな。ただ、そこまで倉内に伝えていた訳ではなさそうだ。
「ねえ、ご主人様。さっきの話を聞いていて疑問に思ったんだけど、何で私達はさくら様と普通に接することが出来るのかしら?私、出会って以来、さくら様のことを嫌った事なんて1度も無いわよ?」
「ええ、さくら様にはご恩もありますし、嫌うなんてとんでもないですわ」
「はい、仁様の次に尊いお方です」
《さくら好きー!》
ミオの発言を皮切りに、全員がさくらに親愛の籠った目を向ける。
「皆……、ありがとうございます……。でも、そう言われてみれば不思議ですね……。この世界に来てからは……最初のエルディア王城以外では酷い目には遭っていません……」
さくらは少し考えこみ、思いついたように口にした。
「もしかして、仁君と一緒に旅をしていたから……?」
「「「《なるほど!》」」」
全員が納得したように頷く。
それで納得されるのも如何なものかとは思うのだが……。
「その可能性はありますねー。進堂様の才能は非常に強いプラスの才能です。一緒にいる事で、マイナス寄りの木ノ下さんの才能を相殺した可能性は低くないと思いますよー」
「倉内は倉内で、俺達の事情にやけに詳しいな?」
はっきり言って、身内すら知らないような内容にずけずけと割り込める知識がある。
「もちろん、元の世界に関する話は、織原様にガッツリお聞きしていますからねー」
「織原の奴、今度会ったらぶん殴る」
「お、お手柔らかにー……」
手加減抜きでぶん殴る。
「もし、さっきの推測が正しいのなら、私はこの世界に来て本当に良かったと思います……。元の世界でも、仁君が助けてくれて、前よりはマシになったかもしれません……。でも、この世界に来てからのように、親しい友人までは出来なかったと思います」
全体的に見て、さくらはこの世界に来たことを肯定的に受け止めている。
だが、俺の意見は少しだけ違う。
「そんな事も無かったと思うけどな」
「どういうことですか……?」
さくらが不思議そうに聞いてくる。
「まず、前提条件として、さっきの推測が正しいとする。さくらが虐められていたのは、俺と一緒にいれば消えてしまうような、『ただの体質』が原因と言う事だ。さくら自身に悪い点は一切ない。さくらは虐められるのに相応しい人間なんかじゃない」
「そうだと良いな、とは思います……。私が悪かったとは、思いたくありません……」
さくらが虐められていたのは、自分自身ではどうしようもない不可抗力だった。
その上で、と続く話がある。
「元の世界の学校で、クラス替えが行われていた場合、さくらはまず間違いなく俺と同じクラスになっていた。そして、そんな変わった才能を持つ生徒が同じクラスにいて、俺が興味を持たないと思うか?」
「あー、ご主人様なら、絶対に興味を持つわね」
自分と反対の才能、なんて言われて、興味を持たない訳が無い。
事実、詳細は覚えていなかったが、少し資料を見ただけでも頭に残っていたのだから。
「多分、元の世界でもさくらを引き連れて回ったと思うぞ。さくら、俺に強引に来られて、拒否できると思うか?」
「絶対に無理です……」
面白いと思ったものを俺が簡単に手放す訳が無い。
本気で嫌がれば話は別だが、さくらは恐らく拒否しないだろう。そもそも、当時のさくらに、他人からの好意的な感情を拒絶するなんて無理だっただろう。
「俺と一緒にいればさくらの体質は相殺される。遅いか早いかの差はあれど、さくらは普通の友人が出来たはずだ」
「そう……でしょうか……?」
「多分な。どちらの世界でも、俺とさくらの間には縁が出来ていたはずだ」
そして、俺と縁が出来れば、さくらの体質は相殺されていたはずだ。
「さっきの前提条件からもう1度言うぞ。さくら自身に悪い点は一切なく、虐められるのに相応しい人間なんかじゃない。呪いのような体質が相殺されれば、どちらの世界でもさくらには友人が出来る。この世界だから、なんて考える必要はない。悪い点のないさくらは、誰に憚ることなく堂々としていて良いんだ」
この世界だから救われた、友人が出来たなどと考える必要はない。
さくらが真っ当な人間であり、救われるべき人間だから救われた。それでいいと思う。
「そう……ですね……。この世界だから、なんて関係ありませんよね……。どちらの世界でも私が救われるのなら、感謝すべきはこの世界ではなく、仁君に、ですよね……!」
あれ?そこに着地しちゃうの?
「いや、さくら自身が救われるべき人間だって言いたかったんだけど……」
恐る恐る補足するが、さくらは首を横に振った。
「例え私が救われるべき人間だったとしても、救ってくれたのは仁君ですよね……?仁君への感謝で問題ないと思います……。仁君には王城から追い出された時からずっと感謝していますけど、今の話を聞いてあの時に決めた事は間違ってなかったと確信しました」
「エルディア王城から追い出されたときに決めた事?」
初耳である。
「はい……。私は王城から追い出されて、仁君に手を差し伸べられた時から、拒絶されない限り仁君の側に居続けると決めたんです……」
そう言えば『竜人種の秘境』で、俺とずっと一緒に旅をしたいと言っていたな。
あれ、エルディアを追い出された時点で決めていた事だったのか。
「そうですねー。だから木ノ下さんの異能も進堂様ありきの効果になったんだと思いますよー。織原様曰く、異能って言うのはその時点で最も強い望みを叶える能力が開眼するらしいですからねー」
まーた、倉内が余計な発言をぶっこんで来やがったよ。
少し鬱陶しいので、しばらく黙らせておこうかな。
……俺は倉内の仮面を一瞬で奪う。
「ああ!仮面、か、がめんー!!!」
「セラ、バスルームにでも放り込んでおいてくれ」
「わ、分かりましたわ……」
セラは再び恐慌状態に陥った倉内を抱えてバスルームに向かって行く。
……ふう、これで静かになったな。
「よ、容赦ないわねー……」
ミオが戦慄しているが無視をする。
「私の異能が開眼した時……。多分、仁君の足手纏いになりたくないと、仁君の役に立ちたいと考えていた時だと思います……。それでいて、仁君と離れたくないとも考えていました……。<
「そうだな。万能に近い能力でありながら、俺がいることを前提としている異能だな」
「仁君の異能はいつも都合よく開眼すると思っていましたけど、私の異能も同じだったんですね……」
自分の考えた魔法を作り出す。そんな強力な能力を持った者を足手纏いと思う奴はいないだろう。しかし、本人のMPだけでは十全に効果を発揮できず、俺の存在が前提となる。つまり、当時のさくらの望みが集約した異能となっている。
「まあ、例え<
さくらの異能が開眼したのは、俺と旅を始めてから少しして、ドーラを見つけた頃だ。
既に仲間として判定した後で、大した理由もなしに見捨てるような真似はしない。
そもそも、『異能が役立つから』と言った理由でさくらの味方をした訳でもない。
「でも、異能があまりにも役に立たなかったり、私があまりにも弱かったら、屋敷を買った時点で旅のメインパーティからは外されていたかもしれません……」
「あー、そっちに関しては絶対にないとは言い切れないな」
見捨てる事は無くても、旅に同行するのが無理だと判断したら、同行の拒否はしたかもしれない。側にいたい、と願うさくらにとって、それは好ましい事ではなかっただろう。
「仁君、私は仁君の役に立ってみせますから、これからもお側に置いてください……」
「まるでプロポーズだな」
「プロポーズのつもりはないですけど、それと同じくらいの覚悟はありますよ……?」
そこまで言われたら、俺も真剣に応えないと駄目だよな。
「……分かった。それなら、さくらが嫌と言わない限り、俺の傍で、俺の旅に同行してくれて構わない。これでいいか?」
「はい、ありがとうございます……」
さくらが深々と頭を下げる。
正直、学校の秘密をさくらに話すのは不安もあったが、結果としてさくらにとって良い方に転んでくれたみたいだ。
顔を上げたさくらの表情に暗いものは全く見られなかった。
1点不満があるとすれば、織原からのメッセンジャーが切っ掛けになった事だけだな。
さくらとの話が一段落したので、件の
セラが気を利かせてくれたようで、倉内は手と足を頑丈なワイヤー(ミスリル製)で縛られ、動けないようになっていた。
ついでに
「もがー!もがー!」
顔面汁塗れ(涙、鼻水)になって呻いている倉内。
「それでご主人様、この子はどうするの?」
「敵対勢力の人間です。安全の為、殺すことをお勧めします」
ミオの問いに答える前にマリアが主張をしてきた。
「織原は一応敵対勢力と言えなくもないが、コイツはただのメッセンジャーだ。悪意も敵意も向けてきていないし、俺の邪魔になった訳でもない。殺す理由には足りないな」
鬱陶しいと言えば鬱陶しいが、殺す程ではない(ただし仮面は奪う)。
恐らく、織原からその辺りは徹底させられているのだろう。
言い換えれば、織原はまだ次のアクションを決めていないと言う事だ。
織原が次も俺に敵対することを決めていたら、倉内の行動も変わっていたのだろう。
……倉内に対して結構酷い事をしたのは、『ここまでされたら敵対するか否か』の確認と言う側面もある。ホントだよ!
しかし、倉内の表示は緑(中立・無関心)のままだ。赤(敵対)にはなっていない。
ますます殺すわけにはいかなくなった。
「ただ、殺す理由にはならないが、何もしない理由も無い」
-ドス!-
「もご!?ぐう……」
倉内に良い感じの一撃(腹パン)を加えて昏倒させる。
「セラ、ワイヤーを外してくれ。マリア、ひん剥け」
「「はい」」
こうして、上半身裸になった倉内は<奴隷術>により俺の奴隷となるのであった。
念のため、称号である『仁の奴隷』は<
ついでにアルタに頼んで倉内を隈なく調べてもらい、織原の罠のような物がない事を確認した。織原の性格上、可能性は低いが念のため……。
「ご主人様、何の為に奴隷にするの?奴隷にしておけば敵対行動がとれなくなるから?」
「それもあるが、1番の目的は囮捜査だよ。倉内を奴隷化して解放することで、織原の動向を調べるんだ」
今度こそミオの問いに答える。
奴隷にしておけば<
上手く行けば織原の潜伏先も分かるだろう。
「織原って人にはそんな小賢しい作戦が通じるの?」
「こんな小賢しい作戦、通じるとは思っていないな。念のため、一応って所だ」
もし、織原が盛大にポカをしていたら何とかワンチャンあるかもしれない。
万が一織原の居場所がポカで割れた場合、めっちゃ煽ってやろうと思う。
考えてみて欲しい。
メッセンジャーが帰って来て、そのせいで潜伏中の居場所が割れた奴がいたとする。
そんな奴、敵として出てきても味方として出てきても滑稽なだけだろう?
そう、この作戦が上手く行けば、織原から
織原が出て来なくなる可能性が少しでもあるのならば、多少小賢しくても、やるだけの価値はある。
そんな説明を皆にしたところ……。
「やっぱりご主人様、その織原って人の事理解しすぎだと思う」
「余程仲良くないとそこまで行動を読めないと思いますわよ」
「変な話ですが、仁様にそこまで理解されていて羨ましいです」
奴隷3人娘からのコメントでした。
《ごしゅじんさまー。おなかすいたー》
ドーラからのコメントは全く織原関係ありませんでした。
面識も無ければ興味も無いだろうから当然か……。
「そろそろ飯にするか。倉内は……放って置いていいだろう」
何だかんだで結構話し込んでしまったので、夕食を取るのにはいい頃合いだろう。
「腹パンで気絶させた女子を1人放置するご主人様マジ鬼畜……ぴっ!」
ミオの発言(失言?)が態とだと確定したので、躊躇なく漏らさせることにした。
おいおい、これから出かけようって時に着替えが必要な事をするなよ。
「ミオさんって被虐趣味があるんですの?」
「違うって!?一応、ご主人様とのコミュニケーションのつもりなの!」
セラの問いにミオが股間を濡らしたまま首をブンブンと横に振って答える。
「コミュニケーションの一環で漏らしたり、泣いたりするんですか……?ミオちゃん、身体を張っていますね……」
ミオの見た目は子供だが、精神年齢は俺と大して変わらない。それにも関わらず、学習せず頻繁に失言を繰り返していたので、恐らく態とだろうとは思っていた。
だからこそ、俺も少々調子に乗ってミオを弄っていた訳だが……。
理由まではハッキリしなかったが、まさかコミュニケーション目的とは思わなかった。
……いや、ある意味一番気安いコミュニケーションではあったのか?
下らない話が出来ると言う意味では、ミオが一番距離感近いし……。
「ミオの覚悟は理解した。なら今後は躊躇や容赦を今まで以上に無くしていこうと思う」
「ご主人様。流石にそれは勘弁してください」
股間を濡らしたまま土下座をするミオ。
土下座もコミュニケーションの1つらしい。
ミオの懇願を聞き入れ、『
倉内は良いのが入ったので、1時間くらい起きないと思う。
……最近、腹パンの入り方でどのくらい気絶するのか予想できるようになった。
俺、この世界ではスキルを自力獲得できない体質だけど、こういう
それから1時間と少しして、夕食を取り終えた俺達は宿に戻った。
思ったよりも食事処(個室)が混んでいて、予定より時間がかかってしまった。
「まあ、起きたのなら残っている訳はないよな」
気絶していた倉内は部屋の中には残っていなかった。
ワイヤーは外していたし、近くに仮面も置いていたので、起きたら勝手にいなくなるだろうとは思っていた。
「さて、倉内は何処にいるのかな?」
A:倉内がこの街で借りている家にいます。それと倉内からメッセージがあります。
メッセージ?倉内ってアルタの事を知っているのか?
A:いいえ、その様子はありませんでしたが、監視されていることには気付いていました。正確にはメッセージではなく独り言で、『申し訳ありませんが、私は織原様の元に戻ることは最初から考えておりません。織原様の所在地は知りませんし、私の知っている織原様の拠点はすべて廃棄済みです。進堂様の前で1度でも意識を失った場合、奴隷化されている可能性が高いと織原様に言われました。奴隷化され、監視されている前提で私に情報源としての価値がない事をお伝えしておきます』と言っていました。
うぜぇ……。
倉内はともかく、織原の野郎がただただうぜぇ……。
完全に読まれているのがとにかくうぜぇ……。
つまり、倉内は完全に織原に切り捨てられたって事だな。
いや、倉内が納得済みで切り捨てられたというべきか……。
多分、これ以降織原が倉内と接触することはないだろう。
情報源としても役に立たない。味方として扱う訳にもいかない。敵として殺す気にもなれない。……面倒な奴が手元に残った訳だ。
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裏伝
*本編の裏話、こぼれ話。
・仁とさくらの通っていた高校
仁の話には出てきていないが、エルディア・カスタール間の戦争に参加した勇者の多くはC組の『素行の悪い生徒』である。
厳密に言えば、『素行の悪い生徒』になってしまった『普通の生徒』もいるのだが、仁の基準で考えると、それも同罪と言うことになる。
また、以前本編に出てきた日下部と佐野もC組候補だった。人数の都合上、日下部はA組、佐野はB組に所属しているが、扱い上は『素行の悪い生徒』となっている。
C組以外にも、多少は『素行の悪い生徒』を入れて反応を見るのが目的である。
本編の中で通っている生徒のキャラが濃すぎると言われていた件について、これで概ね説明できたと思われる。
どうでもいい話ですけど、織原と水原はA組です。
そして、未だに仁の家族構成は話にすら出て来ない。
妹がいる設定にしたいけど、どう考えても仁は一人っ子の性格なんだよなー。
そうだ。血の繋がらない妹にしよう。いっそ12人くらい急に妹が現れた事にするか。どこかで聞いたような……。