第151話 道化師とメッセージ
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「この調子なら、明日の午前中には王都に到着しそうだな」
俺は飛行中のブルーの上で地図を見ながら呟く。
「はい。余裕を持って到着できるかと思います」
俺の呟きに答えたのはマリアだ。
と言うか、飛行中なので俺と同じくブルーに乗っているマリアしか答えられない。
『八臣獣』のクロネコと別れてから3日が経過した。
俺達は予定通り、
異能であるマップでは4エリアまでしか情報が得られないので、港町で購入した地図と照らし合わせて、王都到達予測を立てた。
まだ日は高いが、時間的にも余裕があるし、次のエリアに到達したら今日泊まる街を選ぶとしようか。
しばらく進み、エリアの境界線に到着した。
境界線を越え、新たなるエリアが確認出来たところで、アルタからの連絡が入る。
A:緊急事態です。異常な武器を持った勇者を発見いたしました。
俺はアルタに示されるままマップ上でステータスを確認する。
こちらが勇者。
名前:
LV99
性別:女
年齢:18
種族:人間(異世界人)
スキル:<投擲術LV9><身体強化LV3><曲芸LV9>
祝福:<
称号:転移者、異界の勇者
こちらが武器。
魔喰器・イートナイフ
分類:片手剣
レア度:
備考:不壊、所有者固定
魔喰器・イートフォーク
分類:槍
レア度:
備考:不壊、所有者固定
うわぁ……。
これ絶対に織原の関係者だよ。行きたくねぇ……。
とは言え、見つけてしまった以上、行かないという選択肢も無い。
相手が織原の関係者となれば尚更である。
織原の関係者(暫定)である倉内は、俺達が今日宿泊するのに丁度良い街にいた。
本当に織原の奴はお膳立てが綺麗だよな。もちろん、褒めてはいない。
仕方がないので、俺達は倉内のいる街へと向かうことにした。正直に言えば、織原の思惑に乗るのは非常に不快だが……。
「出来れば、ジーン様には離れていて欲しいのですが……」
「流石にそう言う訳にもいかないだろう」
街に到着し、倉内の元へ歩き出したところでマリアが呟いた。
以前、織原に良いようにしてやられた件で、マリアの警戒度が高くなっているようだ。
しかし、織原関係となると、俺だけ安全な場所にいるつもりはない。
「はい。ですから、今度こそ仁様をお守りしてみせます」
「こんなことなら、リコちゃんを連れて来るべきだったかしら?」
覚悟を決めた顔をしているマリアを見てミオが言う。
リコの未来予知ならば、織原が相手でも効果はあるだろう。未来を変えられてしまうだけで、初撃が来るタイミング自体は予知できるからだ。
「正直に言えば今回はその手の警戒は不要だと思うが……」
「何か理由でもあるんですか……?」
「ああ、理由は大きく2つ」
俺はさくらの問いに答えながら指を1本立てる。
「1つ目は織原との戦いからそれほど時間が経っていないという点だ。織原が再登場するなら、もっと意味のあるタイミングだろう。簡単に言えば、今復活しても面白くない」
「また、ご主人様とその方の間でのみ通じる、意味の分からない理屈が出てきましたわね」
「言いたい事は分かるけど、それをリアルでやるとか意味わからない」
ミオとセラも理解を拒む。正確に言うと、ミオは拒んではいないか……。
アイツ、あれで登場シーンにはこだわりがあるタイプだからな。
大きなイベント中ではなく、移動中の襲撃程度で出てくる訳が無い。
「2つ目もある意味1つ目と似た理由なんだけど、織原とレガリア獣人国には大した関係がない事だ。織原の関係者が出て来るには、あまりにも唐突なんだよ」
「言っている意味が分かりません……」
《ドーラもわからなーい……》
「2人だけに通じる理屈パート2って訳ね」
本当に止めてくれる?俺と織原が仲良いみたいに言うの。
「エルディア戦争の時、織原は肩書き上エルディアに所属する勇者だった。つまり、その時点で起きていたイベントに関わりがあったんだ。出てくる動機・理由があったと言っても良い。しかし、レガリア獣人国は違う。ここで再度織原が登場しても、『え?何でお前が今出てくるの?』と言う印象しか受けないことになる」
「ああ、ご主人様と戦う動機が弱いって訳ね。ホント、漫画みたいな人ね……」
まさしく、ミオの言う通り、漫画か何かの登場人物のような男である。
『登場シーンにこだわる織原』は、この状況で出てくる訳が無いと言う事だ。
「そんな訳で、織原がこの場で出てくる可能性は非常に低い。態々織原の関係者であることを明示してきているのだから、何かメッセージでもあるんだろうよ」
あまりにも物騒なメッセンジャーだが、織原自身が物騒な奴だから仕方がない。
数日前に俺も物騒呼ばわりされた気がするが……。
「そろそろ着きそうだが……人だかりができているな」
倉内の周りには数10人の人だかりが出来ている。
どうやら街の中で曲芸を見せているようだ。
「よっ!ほいっ!」
今は大きなボールの上でジャグリングをしている。
投げているのはナイフ(例の武器ではない)、バナナ、小さなボールなど、大きさや形、固さまでバラバラな物を10個以上。見事な物である。
《すごーい!》
ドーラがキラキラした目で倉内を見ている。
こう言う娯楽はイズモ和国のアキンドくらいでしか見ていないから、ドーラは興味が惹かれるのだろう。
倉内はかなり小柄で、下手をすれば小学生にも間違えられてしまいそうな程である。
道化師と言えば顔の特徴を隠す様なメイクが有名だが、彼女はメイクではなく仮面を被っている。左右で白と黒の非対称な表情をした仮面だ。
何10人もの観客がその見事な曲芸から目を離せないでいる中、俺も隠れることなく堂々と見物をする。
「っ……!」
倉内が一瞬だけを俺を見て表情を強張らせるのを見逃さなかった。
-ドスン!-
「うぎゃ!」
次の瞬間、倉内はボールから落っこちた。
あ、これはわざとだな。
-コン!ポン!ゴス!グチャ!………………-
そして、倒れた倉内の頭にジャグリングで投げていた物が順番に当たっていく。
当然、ナイフは柄の方が頭に当たっている。
失敗の仕方も堂に入っており、観客からも笑いが起きる。
「あははは、失敗しちゃいましたー。今日はここまでですねー」
愛想笑いをした倉内は、観客に向けて挨拶をする。
空を飛ぶおひねり。
「どもどもー。ありがとうございまーす」
ぺこぺこと頭を下げながらおひねりを回収する倉内。
ここだけ見ると、ただの大道芸人にしか見えないよな。
彼女のアイテムボックスの中に、滅茶苦茶物騒な武器が入っているとは誰も思うまい。
《えい!》
あ、ドーラもおひねりを投げてる。
観客もいなくなり、大道芸の道具を片付けた倉内の元に近づく。
「あははー。お待たせしました、ジーン様。それとも、進堂様とお呼びしましょうか?」
邪気を感じさせない口調で倉内が聞いてくる。
……まあ、知らない訳はないよな。
おっと……。
《マリア、警戒するだけ無駄だから、剣の柄に手をかけるな》
《……分かりました》
柄からは手を離したものの、マリア、超警戒体制である。
「ジーンと呼んでくれ。一応、正体不明の女王騎士だからな」
「了解です。それでは改めまして、私の名前は倉内広恵です。ジーン様に織原様からメッセージを預かっています。それほど長くなりませんが、ここで聞いて行きますか?」
予想通り、織原からのメッセンジャーだったようだ。
「織原からのメッセージなんて、天下の往来で聞くようなものでもないだろう。どこか、別の場所で聞かせてもらおうか」
「それも了解です。織原様も嫌われてますねー。ではでは、私が借りている家に来ますか?」
現実離れした格好なのに、『借りている家』と言うワードで、急に現実感が出てきた。
「ジーン様!何か罠があるかもしれません。そのような場所に行くべきではないかと……」
マリアが警戒心MAXである。
「あららー、大分警戒されちゃってますかー。コレはあかりんのせいですねー。困ったもんですよ、全く」
あかりんと言うのは、エルディア戦争の時に俺を灰色の世界に転移させた勇者、
ただ、警戒しているのは野尻のせいではない。それを指示した織原のせいである。
さて、何か罠があるとも思えないが、マリアの精神に負担をかけるのも本意ではないな。
「そうだな……。俺達が宿をとるから、そちらに来てもらおうか」
この街に来る前から、良さそうな宿はピックアップ済みだ。
金を払えば、荒事の後始末もしてくれる、清濁併せ呑む高級宿らしい。
「またまた了解です。おすすめの宿、聞きます?」
「おすすめの宿に行ったら、警戒している意味がないだろう」
「ですよねー」
何と言うか、倉内は色々と軽いな。
「それでそれで、ジーン様はどのような理由でこの国を訪れたのですか?」
倉内と共に今日の宿に向かっている中、倉内が頻繁に質問をしてくる。
普通に考えれば敵情視察っぽいが、織原がそんな事を指示する可能性は0%以外にあり得ない。単純な疑問を口に出しているだけ、もしくは独断だろう。
聞かれて困るような質問はそもそもしてこないしな。
「この国の女王に招待されただけだ。首脳会議の時に目を付けていたらしい」
「流石ですねー。私も道化師の端くれですので、いつかは王の前で芸を披露したいですねー」
ちなみに、王の前で芸を披露する宮廷道化師の事をジェスターと言う。
「それなら、エルディアの元王族の前で披露すればよかったんじゃないか?」
「え?嫌ですねー。近日中に滅びるのが確定している国の王の前で芸を披露しても、何の自慢にもなりませんよー。時間の無駄です」
倉内、意外と口が悪いな。
「……それに、エルディアの王城で芸なんて披露したら、あの下らない学校の連中に見られる可能性があるじゃないですか。絶対に嫌ですよ」
仮面の奥の目に暗いものが宿る。
織原に付き従っている以上、何かしらの訳アリであることは確定している。
そもそも、
そんな話をしていると、目的の宿に到着した。
宿と言っているが、高級そうなホテルである。自慢ではないが、金はあるのだ。
「この宿だな」
「あららー。やっぱりここでしたかー。……ここ、私がおすすめしようとしていた宿ですよ」
気まずそうに倉内が言う。
……そうだよな。この街で生活していた倉内がおすすめするのだから、丁度いいと思った宿と同じになる可能性もあったよな。
「ジーン様、他の宿にしましょう」
警戒心をMAXからさらに上げたマリアが進言してくる。
「……いや、ここにする。ミオ、6人分の宿を取って来てくれ」
「おっけー」
ミオが小走りで高級ホテルの中に入っていく。
俺達もその後に続き、ホテルのフロントで待機する。
マリアの警戒心を上げてしまうのは申し訳ないが、自分で選んでおいて倉内のおすすめと被ったから止めるというのは気に喰わない。
「悪いな。マリア」
「いえ、ジーン様がお選びになった以上、私はそれを全力でサポートするだけです」
「ジーン様、愛されてますねー」
マリアの
「茶化さないで下さい。警戒対象である貴女にそんな事を言われても、不快なだけです」
「あらら。でも、気持ちは分かりますよー。私も似たようなものですからねー」
「似たような、もの?」
意味が分からないと言った表情でマリアが聞き返す。
「はい!私も織原様に対しては同じような感情を抱いていますからねー」
「一緒にしないで下さい!」
俺と織原を同じようなものとして扱った倉内に対し、マリアが怒声をあげる。
「304号室をとって来たよー。……取り込み中?」
そこで、部屋を取り終わったミオが戻って来た。
マリアも感情的になっているし、ここで話し続けるのは止めた方が良さそうだな。
「いや、先に部屋に向かおう。マリアもそれでいいな?」
「はい……」
俺と織原の同一視には納得していないようだが、場所を移すことに異論はなさそうだ。
正直に言えば、俺も織原に似ていると言われるのは嫌だが、似ている部分があるのも一つの事実だ。感情論を抜きにすれば、否定はし切れない。
メインパーティ+倉内の7人でホテルの304号室に向かう。
移動中、他の宿泊客とすれ違う事もあるのだが、全員顔を隠している。
……後ろ暗い連中、多すぎじゃありませんか?
少し歩き、304号室に入る。倉内が入ったところで鍵を閉める。
その気になれば扉を壊すことも出来るだろうけど、念のため。
「さて、それじゃあ織原からのメッセージを伝えてもらおうか」
「了解です。それでは、織原様からのメッセージを発表します!じゃじゃん!」
効果音はセルフで出すのか。
「『この国の王都に行くのはお勧めしません』です!」
うん。意味が分からない。
「もう少し詳しく教えてくれないか?」
「え?知りませんよ。私、メッセンジャーですから。メッセージについて説明する役割は与えられていませんから、詳しい話も聞いていません」
「…………」
俺の問いにあっけらかんとした表情で答える倉内。
どうしよう……。
「ご主人様、織原って人の思考回路から考えて、どんな意味があると思う?」
「そ、そうだな……」
ミオの言うように、織原の考えをトレースすれば、メッセージの意味が推測できるだろう。
あまり気は進まないが、織原になったつもりで考えてみる。うぇ……。
「まず、織原は自分の有利、不利に拘泥しない。しかも、お勧めしない、なんてそれほど優先度の高くなさそうな言い回しから考えると、王都に行こうが行くまいが、いずれ来るかもしれない織原との戦いの情勢が変わることはないと思われる」
「ご主人様の敵なのよね?情勢に関係ないメッセージを送るの?」
正しくは、『敵になることもある』である。
「ああ、織原はそう言う奴だ」
「全く理解できませんわ。一体どのような思惑があるのです?」
セラだけでなく、他のメンバーも理解できなさそうな顔をしている。ドーラはそもそも理解しようとしていない。
おっと、倉内だけは仮面越しにもわかるくらいニヤニヤしているな。
もう少し、織原の考えを深くトレースする。うげぇ……。
「そうだな。以前言ったように、織原は俺の物語のファンだ。しかも、作品に直接手を加えるタイプのファンだ。……恐らく、このまま王都に行くと、
うん、答え合わせは出来ないけれど、多分これで合っていると思う。
「本当に、織原様の事を理解しているのですねー」
倉内が心底羨ましそうに呟く。
代われるものなら、代わってあげても良いですよ?
「織原から詳細を聞いていないんだよな?合っている保証はないぞ」
あくまでも、『多分合っている』レベルの話である。
しかし、倉内は首を横に振った。
「織原様から、ジーン様、いえ、進堂様が織原様の思考をトレースしてメッセージの意味を考えた時にお伝えするように言われているメッセージがあります。『それで合っています』」
「うげぇ……」
完全に読まれていた。
この世界に来てから、最大級の精神的ダメージが俺を襲う。キツい……。
「1つ、お聞きしてもよろしいでしょうか」
「いいですよー。何です?」
そこで、マリアが倉内に対して質問をする。
「貴女はそんなメッセージを伝えるためにこの国に来たのですか?」
「はい。かれこれ1月近くはこの街で進堂様を待っていましたよー。それが何か?」
流石の織原も、俺がどのタイミングでこの国を訪れるかは予想できなかったはずだ。
1月の間、倉内はこの街で大道芸をしながら生計を立てていたらしい。
「その織原さんと言う方がどのような方かは良く存じ上げません。でも、その方の為に命を懸けてまでメッセンジャーになる必要があるのですか?敵対した事のある仁様の元に来ると言う事は、貴女には相応に命の危険だってあるはずです」
普通に考えれば、敵対者へのメッセンジャーなんて、死んで当然レベルの存在だ。
しかも、その内容が大したことではないとすれば、尚更嫌なはずである。普通なら断る。
「下らない事を聞くんですねー。さっきも言ったと思いますけど、私と貴女は似ているんですよ。もし、貴女が私の立場だったらどうします?大した用事ではないけれど、進堂様から命を懸けて欲しいと頼まれたら、断ります?ふざけるなと文句を言います?」
「…………喜んで、命を懸けます」
身内にも普通じゃない奴がいた件について。
マリアの顔に納得の表情が浮かぶ。若干、悔しそうではあるが……。
「もしかしたら、進堂様の方が素晴らしい方なのかもしれません。同じ状況だったら、進堂様の方が上手く事を運べるのかもしれません。でも、私が本当に苦しんでいた時、救いの手を差し伸べてくれたのは織原様なのです。進堂様ではありません。……だから、私は織原様の為なら命を懸けられます」
倉内は迷いなくそう言った。
織原の持っている、劣化コピーした俺の異能である<
「貴女と私が似ていると言った意味が分かりました……。確かに、似ています……」
マリアにも共感できる部分が多かったのだろう。
倉内の言葉に頷いている。
「まあ、私も無駄に死ぬつもりはありませんよー。織原様から、進堂様はメッセンジャーをあっさり殺す様な方ではないとお聞きしていましたからねー」
敵対する者には容赦をしないが、メッセンジャーはグレーゾーンだ。
明確な敵対行為をしていなければ、ほぼ100%見逃すと思う。なお、スパイは明確な敵対行動扱いなので話は別。
「9:1で生き残れると思っていますよー」
「90%生き残れると?」
マリアの問いに首を横に振る倉内。
「いえ、10%生き残れると思っています。普通は殺しますよー」
無駄死にする確率の方が圧倒的に高いじゃねえか。
「それに、私が進堂様に殺されたら、織原様が進堂様と戦う理由が出来るので、全くの無駄死にでもないそうですよー」
灰色の世界で俺に殺された野尻も、最後は満足そうな顔をしていたよな。
「そこまで覚悟が出来ているのなら、少しは意趣返ししても問題ないよな」
もちろん、倉内の事を殺すつもりはない。だからと言って、何もしないつもりもない。
普通のメッセンジャーならともかく、織原のメッセンジャーだからね。織原を想起させるというだけで、敵対行動みたいなものだよね。
「え?」
俺は目にも止まらぬ速さ(一般的なSランク冒険者が、かろうじて認識できる速さ)で倉内に接近し、その仮面を<
とりあえず、素顔を御開帳。
仮面キャラの素顔を容赦なく公開する男。進堂仁です。よろしく。
ふむ、身長が低く、たれ目がちな瞳で保護欲をそそる感じだな。
見た目は悪くないが、どうしても地味な印象が拭えない感じか……。
仮面キャラのテンプレである『顔の傷』がない事は事前に確認済みだ。
流石の俺も、顔に傷のある女子から仮面を奪うような外道な真似はしない……と思う。
……外道と鬼畜って、どっちが
さて、仮面を剥がされた仮面キャラはどんな反応をする?
倉内は自分の顔をペタペタと触り、そこに仮面がない事を確認する。
「か、かめ……」
「亀?」
意味の分からない単語が倉内の口から漏れ、見る見る涙目になっていく。
「か、仮面、かめ、かめん……、かめん、かめん仮面カメンかめんああああぁ……」
うわぁ……。
倉内はその場で崩れ落ち、手で顔を隠す様にして蹲っている。
「あああぁ……かめん、かめんかめんかめん、あぁ……あぁ…………」
しばらく呻き続け、少し落ち着いてきたと思ったら、俺の方を懇願するように見てきた。
「が、かめん、がえ、がえじで、ぐだざ、ざい……」
懇願するようにと言うか、普通に懇願だった。そして、ろれつが回っていない。
「分かった……」
思っていた以上の反応だったので、意趣返しには十分だと判断する。
……と言うか、やり過ぎた?
<
倉内はひったくるように仮面を受け取ると、すぐに顔に当てた。
「はぁ……はぁ……。織原様から、伺っていた通り……、本当に……容赦がないんですねー」
何とか平常心を取り戻した倉内が、疲労困憊と言った体で呟く。
「俺に容赦を期待していたのか?」
9割殺される覚悟でここに来たんだろ?
「ウチのご主人様はガチの鬼畜さんだからね。女子供に関係なく、本当に容赦がないわよ。ぴっ! ……容赦があったら、こんな話をしている最中に、殺気をぶつけて漏らさせたりしないし……」
軽めの殺気なので、床が濡れる程には漏らしていないだろう。
「ミオちゃんも、いつになったら学習するんですか……?」
「あれで、ミオさんも楽しんでいる節があるから、態とじゃありません?」
さくらが苦言を呈するが、セラが別方向の意見を出す。
俺がミオの方を見ると、ミオがそっと目を逸らした。やっぱり、態となのか……。
「やっぱり愛されていますねー。でも、私達の織原様への愛も負けていませんよー」
「私
倉内の言葉に無視できない内容があったので聞き返す。
「あかりんもそうですねー。私達はグルメ倶楽部と名乗っていますよー。あかりん、私、他2名の男子の計4人がグルメ倶楽部四天王です」
織原の仲間が愉快な組織になっていた。
「あ、男子2人の愛は敬愛ですからねー。勘違いしないで下さいよー」
いや、そんなフォローは要らないから。
「全員、C組で悪性因子達に虐められていた所を、織原様に救ってもらったんですよー」
「C組……。虐め……。悪性因子って、何です……?」
身に覚えがある単語が並び、無視できなかったさくらが反応する。
……余計な事を。
「あれれ?織原様の話では、木ノ下さん、2-Cでは貴女が私達と同じ立場でしたよね?進堂様からお聞きしていないんですかー?」
心底意外そうに倉内が聞き返す。
「おい、余計な事を話すな」
「でも、彼女には聞く権利があると思いますよー。他ならぬ当事者なのですからー」
そりゃ、権利の有無を問うのなら、さくらにも聞く権利があるだろう。
しかし、よく考えろ。さくらに話しても平気か?この世界に来た当初よりは精神も安定してきただろう。色々と吹っ切れて、それ程暗い話もしなくなった。
でも、話しても聞いても胸糞悪くなるだけだし、知らないならそれはそれでいいとも思う。
「仁君、一体何の話なんですか……?私に、関わりのある話なんですよね……?それも、元の世界の学校に関することで……」
「……ああ、元の世界の学校に関することで1つ、さくらに話していなかった事がある」
「聞かせて、貰えますか……?」
さくらの方は聞く気満々だ。
さくらが聞きたいというのなら、聞かせてやった方が良いのかもしれないな。
「進堂様、折角の機会ですし、ここで話しちゃいましょうよー」
他人事ではないくせに、他人事のように倉内が言う。
「それは、織原からの指示か?」
「いいえー。経験則から来るアドバイスですよー。聞いたところで、今更何が変わるでもないし、悪い方向には進まないと思いますよー」
俺も本当に織原がそんな指示をしたとは思っていないが、経験則か……。
よし!
「さくらにとっては辛い事実かもしれないし、今更何が変わる訳でもないが、それでも聞きたいか?」
「はい……。元の世界で、私に関わることなら、聞いておきたいです……」
そこまで言われたら、俺も話さない訳にはいかない。
「分かった。じゃあ、まずは端的に説明するぞ。俺達のいた学校は、特殊な才能を持った子供を集める施設だった。そして、C組では、学校側が意図的に虐めの起きやすい環境を作っていたんだ。さくらは、その環境の被害者って訳だ」
初期から考えていた仁の学校の話です。
仁の学校、頭おかしい奴多すぎない?という疑問に対する答えでもあります。
月臣学園とか箱庭学園とか希望ヶ峰学園とか。イメージはそんな感じです。詳細は次回。