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異世界転移で女神様から祝福を! ~いえ、手持ちの異能があるので結構です~ 作者:コーダ

第10章 レガリア獣人国編

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第149話 獣人国到着と紅の皇女

訳あって、島鯨の体長を5kmに変更しました。10kmはちょっと都合が悪い。

 ついに俺達はレガリア獣人国に到着した。


 日も落ち始めているので、今日は船を泊めた港町で一泊して、明日から移動をする予定だ。

 そんな港町で俺達を出迎えたのは、10数名の執事服、メイド服を着た獣人達だった。


「ようこそ。お待ちしておりました。竜騎士ジーン様、その御一行様。女王、シャロン様より、ジーン様をご案内するように仰せつかっております」


 1番前にいる執事ひつじの案内に従い、俺達は港町で最も高級なホテルに通された。

 そして、当然のように最も高級な部屋に案内される。

 ……これ、VIP待遇だ!


「ふいー。ここまで来れば、兜を脱いでも平気だよな」

「ふう。ええ、大丈夫だと思いますわ」


 案内された部屋で、外から見えない事を確認した後、俺とセラは兜を外す。


「私達は変装だけで良いけど、兜を付ける2人は大変ね」

「本当に変装で良かったです……。あのマスクはもう嫌です……」

《ドーラはけっこう好きだったけどー……》


 今回、俺とセラ以外の面々は、ミオの言うように変装をしている。

 それも、魔法の道具マジックアイテムによる変装である。


 以前の変装用装備、『謎の貴公子仮面ハイディングマスク』が不評だったので、サクヤが新たに用意してくれたのである。さくらが本気で嫌がったのである。

 髪や目の色が変わるだけだが、十分に印象が変わるので、軽い変装としては十分だろう。


 なお、竜人種ドラゴニュート組は船に残している。

 この国の中では、彼女達の人間形態を見せるつもりは無い。


「流石に、兜をしたままだと食事も難しいからな」

兵糧玉エナジーボールなら食べられますわ。小腹が空いた時に放り込んでいますわ」

兵糧玉エナジーボールを気軽に食えるのは、セラとスカーレットくらいだろうよ」


 兵糧玉エナジーボールはセラやスカーレットのような<英雄の証>スキルの持ち主でなければ、1つ食べるだけで腹いっぱいになる。

 一般人には小腹が空いた程度で食べるのは不可能である。


「そんなに兵糧玉エナジーボールが好きなら、セラだけは夕食を兵糧玉エナジーボールで済ませるか?俺達は普通に飯を食うけど?」

「ちょ、ま、待ってくださいな!流石にそれは酷ですわ!」


 セラが涙目で叫ぶ。

 高級ホテルで1人だけ味気ない兵糧玉エナジーボールのみを食べる。

 泣けるね。


 夕食はルームサービスのように部屋に持ってきてもらう。

 顔を晒さずに食事をするのが目的と言うのは分かると思うが、シャロンからの命令が行き届いているようで、俺達が何か言う前にホテル側からそのような提案を受けた。


「港町だけあって、魚介類が多いな。骨が無さそうなのも高評価だ。うん、美味い」

「ああ、ご主人様は魚の骨が嫌いだものね。確かに高級なホテルなら、客に骨を取らせるようなことはしないわよね」


 ミオの言う通り、魚の骨を取るのが嫌いな俺には、高級ホテルの気遣いが心地良い。

 ちなみに、俺が口に放り込んだのは、赤身の刺身だ。刺身って中々珍しい文化らしいけど、勇者経由かな?それとも、獣人の国だから元々かな?


「ただ、船でも魚介類が多かったので、若干飽きがあるのは否めない」

《おさかなおいしいよー?》

「いや、もちろん美味いのは美味いよ」


 美味いからと言って、飽きがこないかと言えば別のお話である。


「仁様、<無限収納インベントリ>内の食料を出しますか?」

「いや、そこまでは言わないけど……」


 マリアが別の料理を出そうとするのを止める。

 マリアは隙を見せるとすぐに過剰反応するからね。


「明日からは内陸の方に向かう訳ですし、魚料理は減ると思いますわよ」

「そうだな。流石にここまで魚料理が出てくるのは港町だからだよな。船で来た以上、魚料理が続くのも仕方ないか……」


 俺が納得していると、ミオが待ったを掛けた。


「ご主人様、ちょっと待って。普通は客船で来た人が魚を食べ続けているとは思わないからね?普通の客船では、事前に積んだ食料を食べるのよ。その食料が魚だけに偏ってる可能性は低いの。客船の癖に漁船みたいなことをしているウチの船の方がおかしいんだからね」

「そうですよね……。普通の客船は、食料の現地調達とかしないですよね……」

「便利と言えば便利ですわよね。客船らしくはありませんが……」


 『クイーン・サクヤ号』は豪華客船でありながら、豪華漁船でもあります。

 ……豪華漁船って何?


「それと、多分だけど言えば普通に魚料理以外を出してくれたと思うわよ。マップで見たけど、普通に食材は揃っているし……。多分、この国の魚を食べてもらおうって言う気遣いだったんじゃないかな。既に船で捕って食べているとは思わなかったでしょうよ」

「マジか……。普通に気遣いだったのか……。こっちが普通じゃない事をしたのに、普通の気遣いに文句を言うのは駄目だよな。よし、有難くいただくとしようか」


 真面な対応をされていたのなら、文句を言うべきではない。

 余計な事を言わず、味わって食べるとしよう。


「そう言えば、メイド達はこれからどうするんだ?」


 余計な事を言わないとは言ったが、食事中に喋らないとは言っていない。


 今更ながら、メイド達、そして『クイーン・サクヤ号』の事が気になった。

 よく考えたら、俺達を送り届けた後の事は何も話していなかった気がする。


「『ポータル』を秘匿するため、『クイーン・サクヤ号』はこの港に停泊させたままになります。管理はレガリア獣人国が責任を持って行ってくれるそうなので、一部のメイドを船に残して、他の面々はこの国の散策・・をするようです」


 俺の問いに答えてくれたのは信者メイドと密にやり取りをしているマリアだ。


「メイド達の散策、ね……。普通に見て回るって訳じゃないわよね。メイド達がご主人様の利にならない事をする訳が無いし……」

「多分、メイドが増えるのでしょうね。後、『ポータル』の設置もありますわね」


 ミオとセラもマリアの言う散策・・の意味を正しく理解しているようだ。

 恐らく、メイドの目的は奴隷商巡りや『ポータル』の設置だろう。状況によってはアドバンス商会の支店を置くことも検討しているかもしれない。

 俺が気に入ったと言えば、高確率で支店が出来る。


「とりあえず、船とメイド達の心配は要らないようだな。そして、会談が終わったら、この港に戻ってくればいいんだな」

「はい。仁様が船旅をお望みでなければ、船に戻ってすぐに『ポータル』で帰還しても良いと思います」

「何も予定が無かったら、船で帰るのもいいかもしれないな」


 行きも帰りものんびり船旅と言うのも悪くはない。

 大抵の場合、行きは普通の移動方法、帰りは『ポータル』と言うのが定番だから……。


 え?そもそも行きものんびりしていなかったって?はっはっは。



 レガリア獣人国に到着した翌日。


 俺達はホテルを出て一旦『クイーン・サクヤ号』へと戻る。

 移動手段でもある竜人種ドラゴニュート娘達を迎えに来たのだ。


「昨日はホテルに連れて行かなくて悪かったな」

「平気よ。どうせ、人間の宿に入っても気疲れするだけでしょうし……」


 竜人種ドラゴニュート娘達が過ごしている一室で声をかけると、人間形態のブルーは嬉しそうに笑いながら答える。


「悪いな。今後は人間形態にする訳にもいかないから、不便をかけると思うがよろしく頼む」

「だから気にしてないって。そんな事より、ご主人様に乗ってもらえる事の方が大事よ」


 レガリア獣人国内では常にドラゴン形態でいてもらい、竜人種ドラゴニュートであることは公にしないつもりだ。

 騎竜、つまり人間扱いされない事になるが、ブルーは全く気にしていない。


「ブルーちゃんの言う通りですよー。わたし達のことは気にしないで下さーい」


 そして、リーフも同じ意見のようだ。


「はい。今回、私達は騎竜としてお供する訳ですからね。既に覚悟の上です。食事のグレードが下がるのは少し……大分残念ですが……」


 そう言えば、ミカヅキって食欲ほんのうに負けて俺にテイムされたんだよね。

 見た目は綺麗なお姉さんなのに、腹ペコキャラの1人なのである。

 騎竜ドラゴン扱いと言うことは、まともな料理は食べられない可能性が高く、少し葛藤があったようだ。


「じゃあ、早速出発しようか」


 俺がそう宣言すると、ブルー達は服をいそいそと脱ぎ始める。

 ドラゴン形態になると服が破けちゃうから仕方がないよね。


 そして、全裸にタオル一枚となった3人を連れて船内に向かう。

 漁をするための小舟用出入り口から出発をするのだ。流石に甲板の上で堂々と変身して飛び立つわけには行かないからね。

 小舟用出入り口付近で竜人種ドラゴニュート娘達をドラゴン形態にする。


 ハラリと落ちるタオル。

 変身前に一瞬だけ見えた!……見せろと言えばいつでも見せてくれるだろうけど、こういうのはシチュエーションが大事だからね。


 3人が変身した後は俺とマリアがブルーに乗り、さくらとドーラがリーフに乗り、セラとミオがミカヅキに乗った。

 セラは『フロート』で体重を軽減している。しなくても乗れない訳ではないが、本人たっての希望で使用している。

 俺とセラは騎士姿だが、他のメンバーはメイド服だ。スカートで騎乗と言う訳にもいかないので、スカートっぽく見えるタイプのズボンを穿いている。

 さくらとドーラの組み合わせでは騎士姿の者がいないのだが、騎竜に乗れるメイドと言うことで押し通すつもりだ。……大丈夫かな?


「行ってらっしゃいませ、ご主人様」×多


 当然のように大勢のメイドが見送りに来ている。


「ああ、行ってくる」

「じゃあ、行くわよ。ちゃんと掴まっててよね」


 ブルーはそう言うと羽ばたきを始め、あっという間に空へと飛び立った。


 後ろにはリーフとミカヅキもついて来ている。

 最高飛行速度に差があり過ぎるため、ブルーは随分と速度を落としており、2匹も余裕を持って付いてこられるようだ。


「この向きで良いのよね?」


 ブルーの問いに頷く。


「ああ、そのまま真っ直ぐだな。急ぐ必要はないから、今日はある程度進んだら適当な街で休もうと思う。観光だな」

「また?ご主人様は本当にそればかりね」

「俺の趣味だからな」

「その趣味のおかげで乗ってもらえる事もあるから、私にとっては悪い事じゃないけど」


 ブルーは本当に俺と空を飛ぶのが好きなようだ。

 俺も『不死者の翼ノスフェラトゥ』で空を飛ぶより、ブルーに乗って飛ぶ方が好きだ。


「一応、観光に向いた街を教えてもらっているから、そのどれかにしようとは思っている」

「決まったら教えてね?」

「ああ、分かった」

「仁様、私にもお教えください。事前に詳細を確認しておきます」

「それは良いが……」


 マリアがやらなくても、アルタがやってくれるとは思うけど……。


A:念を入れた多重チェックです。意外な視点もあるので、重宝しています。情報を拠点のメイドに渡し、そちらでも確認が入ります。


 念……入れすぎじゃない?



 飛び始めてから1時間程が経過した。


《俺がこういう風に移動すると、大抵の場合は何かしらのイベントが起きるよな》


 流石に飛行中は別竜人種ドラゴニュートまで声が届かないので、パーティ念話チャットでメンバー全員に声をかける。


《言われてみればそうよね。まあ、テンプレと言えばテンプレなんだけど……》

《てんぷらー?》

《ドーラちゃん。惜しいけど、違うわ。……もしかして、お腹空いているの?》

《すこしー……》


 まだ昼まで少し時間があるが、ドーラは小腹が空いているようだ。


《それで仁様、彼女を助けるのですか?》


 マリアのセリフで分かると思うが、今回のイベントは『女性のピンチ』である。

 ミオの言う通り、テンプレと言えばテンプレである。


《そうだな。縁が無い訳でもないし、助けて欲しいと言われたら助けようか。セラ、俺の代わりに声をかけてきてもらえるか?》

《もちろん良いのですけど、今回はご自分で声をかけないんですの?》


 自分で行かずにセラに任せると言うのに違和感を覚えたようだ。


《ああ、一応この集団のトップは『女王騎士のジーン』だからな。最初はどっしりと構えて、部下に任せる方が自然だろう?その方が大物感がある》

《いや、ほぼ単身で遠方の他国まで行くフットワークの軽さがあって、今更どっしりも大物感もないでしょうに……、ぴっ!酷い……》

《あの……何か濡れているのですけど……》


 ミオにバッサリ切られてしまったので、軽い報復をする。ミカヅキは巻き添えだ。


《あまり時間もありませんので、行ってまいりますわね》

《そうだな、頼む》


 セラを乗せたミカヅキはピンチの女性の元へと向かって飛んでいった。

 俺達はゆっくりと近づいて行こう。


 ちなみに、これが『ピンチの女性』のステータスだ。


名前:ストロベリー・クリムゾン

性別:女

年齢:17

種族:人間

称号:真紅帝国皇女


 真紅帝国の皇女、つまりルージュやスカーレットの親族って事だ。

 一応、縁のある相手だろ?


 そして、その皇女様の現状を軽く説明しておこう。


①崖にある吊り橋が落ちている。

②右手でロープに掴まっている。

③左手はお付きのメイドらしき女性を掴んでいる。

④崖の下では先に落ちたであろう馬が死んでおり、馬車が大破している。


 ね?ピンチでしょ?


 ステータスを見る限り、ストロベリー皇女1人ならロープを登ることも出来るだろう。

 しかし、メイドを掴んだままロープを上るのは無理だ。加えて、メイドにはあの状態から自力でロープまで辿り着くステータスはない。つまり、メイドの死亡は確定している。

 このままでは、ストロベリー皇女がメイドを見捨てて手を離すか、2人仲良く落ちて死ぬかの2択となってしまう。


《ご主人様、助けて欲しいそうですわ。謝礼も払うそうですわ》

《まあ、そうなるだろうな。セラ、助けてやれ》

《承知いたしましたわ》


 ミカヅキはメイドの下に回り込み、セラが落ちそうなメイドを受け取る。

 メイドがいなくなった途端、ストロベリー皇女はロープを軽々と登りきった。

 やっぱスカーレットの親族だけあって、光る物を持っているな。

 ルージュ?<取得経験値増加>スキルは光り輝いているだろ?



 セラがメイドを降ろしている間に俺達も地面に降り立った。


 メイドの方は体力の限界なのか、その場で崩れ落ちてぐったりしているが、ストロベリー皇女の方は体力的にはまだまだ余裕のようで、俺達の方に歩み寄ってくる。

 ストロベリー皇女は薄紅色の髪を縦ロールにしており、真っ赤なドレスを着ている。……久しぶりに縦ロールを見たな。


「このような格好で失礼します。この度は助けて頂いて本当にありがとうございました。わたくし達2人が無事なのは貴方達のおかげです」

「無事で何よりですわ。差し支えなければ、お名前をお聞きしてもよろしいですか?」


 縦ロールと言うことで、高飛車系キャラクターをイメージしていた俺は、丁寧なお礼にこそ違和感を覚えてしまう。人を見た目イメージで判断しちゃダメだよね。

 でも、縦ロールはイメージの強制力が強すぎると思うよ。


 ちなみに、『このような格好』と言っているのは、崖から落ちた際にドレスを引っ掛けたのか、所々破れていることを示しているものと思われる。


「自己紹介が遅れて申し訳ございません。わたくし、真紅帝国の第2皇女、ストロベリー・クリムゾンと申します」

「真紅帝国の皇女様でしたか。わたくしはカスタール女王国の騎士、サラと申します」


 サラはセラの偽名だ。仮の姿なので、全員が偽名で行動する予定である。


劣風竜ワイバーン以外のドラゴンに騎乗するカスタールの騎士……もしや貴方達はカスタール王国の女王騎士、ジーン様の御一行ではありませんか?」

「ご存知でしたか。ええ、そうですわ。彼がそのジーンですわ」


 そう言って、セラが俺を紹介する。

 どっしり構えるのはお終いである。


「お初にお目にかかります。俺はカスタール女王国の女王騎士、ジーンと申します」

「貴方の事は、お父様からお聞きしております。とてもお強いのですよね。あのお父様が、手放しで誰かを褒めるなんて、初めての事だったのでとても印象に残っています」

「お父様?」


 誰の事だ?


「ええ、父のスカーレット・クリムゾンです。エルガント神国でお会いになったのですよね?」


 ストロベリー皇女、スカーレットの娘だったの!?

 えーと、スカーレットが確か34歳、妹のルージュが22歳だから、てっきりもう1人の妹なのかと思っていたけど、娘だったのか。

 先代の皇帝が頑張った訳じゃなかったのか。


「はい、お会いしまし……」

「ちょっと待ちなさい!貴方、一国の姫に対して、兜も取らないとはどういう了見なのよ!」


 そこで口をはさんできたのは、さっきまでぐったりしていたメイドだった。

 年齢は15歳、つり目で少しきつい印象を受ける栗毛ショートボブの少女だ。


「ミルフィ、そのような事、わたくしは気にしていませんよ」

「ですがお姉様!そのような無礼を許しては、真紅帝国の名に傷が付きます!」


 ミルフィと言うのはメイド少女の名前だ。

 ストロベリーとミルフィーユ、口の中が甘くなりそうだ。

 え?ティラミス、メープル、ショコラ?はっはっは。


「彼らは命の恩人なのですよ。上から目線で兜を取れと言うのも筋違いでしょう?」

「それとこれとは話が別です!一国の姫を前にする態度ではないと言うことです!」

「ジーン様はエルガント神国の首脳会議で、各国のトップが集まる場でも素顔を見せてはいませんよ。見せたくない理由があるのに、無理を言ってはいけません」

「ですが」


-ゴン!-


「ゴプッ!」


 尚も反抗するミルフィに対し、ストロベリーの答えは拳骨だった。

 とてもいい音がした後、ミルフィは無言でその場に蹲り、頭を押さえている。


わたくしの従者が失礼いたしました」

「良いのですか?」

「ええ、彼女は聞き分けが悪いので、大人しくさせるのにはこれが一番なんです」


 聞き分けの悪いメイドとか、色々と致命的な気がするんだけど……。

 後、スカーレットの娘だけあって武闘派だね。殴るのに全く躊躇が無かったよ。


「ミルフィ、ごめんなさいは?」

「……も、申し訳ございませんでした」


 殴られた痛みで涙目のミルフィが謝ってくる。

 ステータス的には一般人のミルフィに、武闘派皇女の拳骨は効くようだ。


「俺は気にしていませんよ。素顔を隠すのが無礼なのは事実ですから」

「そう言っていただけると助かります」


 無礼だからと言って、止めるとは言うつもりが無いのだが……。


「ところで、ジーン様達は何故このような場所にいらっしゃったのですか?」


 これも別に隠す様な事でもないので答えよう。


「レガリア獣人国の女王、シャロン様に招待されたので、王都に向かっている所なのです」

「まあ、そうでしたか。噂に聞くシャロン女王も強い方がお好きなようですからね」

「ストロベリー様の方は何故この国に?差し支えなければお聞かせ願えますか?」

「ええ、構いませんよ。エルガント神国でお父様がシャロン様に危害を加えた件の謝罪です」


 そう言えば、そんな事もあったな。

 スカーレットがシャロンと七宝院の模擬戦に割って入った件だな。


「流石にお父様が向かう訳にもいきませんので、その代理としてわたくしが向かうことになりました」

「たったお二人でですか?」


 皇女が代理で謝罪に向かうと言うのはともかく、お付きがメイド1人と言うのは如何なものだろうか?

 戦力的な意味ではなく、身の回りの世話とか、交渉役と言う意味で、である。


「ええ、大抵の相手でしたら、わたくし1人で十分ですからね。本当は1人で行くつもりだったのですけど……」


 確かに、ストロベリー皇女のステータスなら、よほどの事が無い限りは問題にならない。

 むしろ、ストロベリー皇女で勝てない相手なら、護衛はほとんど意味を為さないだろう。


「流石にそのような事は許されませんから、私がメイドとして付くことになりました」


 ミルフィがすまし顔で言う。


「あら、外国に行きたいから絶対について行くと駄々をこねたのはミルフィではありませんでしたっけ?」

「お、お姉様!それは言ってはいけません!」


 ミルフィのすまし顔が崩れる。


 どうやら、ストロベリー皇女とミルフィはかなり近い関係にあるようだ。

 崖に落ちそうなのに手を離さなかったり、当たり前のように拳骨をしていた事からも容易に想像が出来ることではあるが……。


「ミルフィはメイドの格好なんてしているけど、実は私の妹なんですよ」


 ストロベリーが聞く前に理由を教えてくれた。


「お姉……ストロベリー様!違います!妹ではありません!私にクリムゾンの名を名乗ることは許されていません!」

「お父様は一緒でしょう?ならば私の妹ですよ」


 腹違いの妹と言うことか。母親の身分的なモノだろうな。

 それにしても、ストロベリー皇女は第2皇女と言っていたし、スカーレットには最低でも3人は子供がいるのか。

 まあ、王族だしそれくらいは普通かもしれないな。


「ちなみに、ミルフィと同じような立場の子を合わせれば、20人兄弟になりますよ」


 思っていたよりも圧倒的に多かったです。

 スカーレットさん、頑張り過ぎだろう!


「それなので、最悪私達2人が死ぬくらいなら、真紅帝国には何の痛痒も無いのです。代わりの効かないお父様の代理として、今回は私が謝罪に行くことになったと言う訳です」


 流石に何の痛痒も無いと言うことはないだろうけど……。

 しかし、ストロベリー皇女の話は理解できたが、それならそれで気になることがある。


「そう言えば、何故吊り橋を態々馬車で進もうとしたのですか?」


 吊り橋の残骸を見る限り、それ程丈夫そうな物には見えない。

 馬車で進もうとしなければ、壊れる様な事はなかっただろう。それに、数km離れた場所にもっと頑丈な橋があるので、そちらを使うと言う手もあったはずだ。

 態々そこまでのリスクを負って脆そうな吊り橋を進む理由とは如何に?


「え?何か問題があったのでしょうか?」

「吊り橋が壊れたのは運が悪かったからですよね?」


 全く……理解していない……だと……?


「いや、馬車であんな脆そうな吊り橋を渡るのは危険ですよ。壊れてもおかしくはない」

「まあ、そうだったんですか?橋なのですから、馬車くらい通れるものだと思っていました。ミルフィは理解していましたか?」

「いえ、思い至りませんでした。道理で前の街で遠回りすることを勧められたはずです」

「ああ、危険と言うのはそう言う意味だったのですね。てっきり、盗賊でも出るのかと……」


 おい、どこの誰だ!箱入り娘の2人旅なんて許可した奴!


「盗賊くらいなら何とかなると思っていたのですが、流石に吊り橋が崩れたらどうしようもありません。辛うじてミルフィの手を取ることは出来ましたが……」

「馬車は崖下に落ちてしまいました。荷物はアイテムボックスに入れているから問題ないとはいえ、ここから先の移動は困難かと……」


 間の悪い事に、この崖から他の街までは結構な距離がある。

 馬車で進めば大したことのない道でも、人の足で歩くとなるとこの山道は相当に厳しいだろう。数日では済まない可能性もある。


「ジーン様、助けて頂いた身で厚かましいお願いなのですが、私達を近隣の街まで連れて行っていただけないでしょうか?もちろん、助けて頂いた謝礼とは別にお礼をいたします」


 まあ、そう言う要求が来る可能性は想像できるよな。


「ストロベリー様、どうせなら王都まで連れて行って頂けば良いのではありませんか?」


 おう!ミルフィの方が厚かましかった!


「ミルフィ、それはあまりにも都合が良すぎます。私達がジーン様に掛けられる迷惑には限りがあるのですから。それとも、貴女は私に恥知らずになれと言うのですか?」

「……ストロベリー様、申し訳ありません」


 ミルフィはストロベリー皇女に謝ると、俺の方に向き直した。


「ジーン様、先程の無礼をお許しください。そして、私達を近隣の街まで連れて行っていただけないでしょうか?」


 真正面から謝罪をして、丁寧にお願いをされてしまったら無下に扱うことも出来ないな。

 『王都まで』なら迷わずに断るが、『近隣の街まで』なら無茶と言う程でもない。


「分かりました。お二人を近隣の街までお連れいたしましょう」

「「ありがとうございます」」


 騎士ジーンは女性に優しい紳士ジェントルメンなのです。

 エルディア戦争で女性を足蹴にした?敵や邪魔者は別ですよ。


 と言う訳で、ストロベリー皇女は俺と一緒にブルーに、ミルフィはセラと一緒にミカヅキに乗ることになった。


「これは凄い眺めですね。お父様の騎竜のクロアは、お父様しか乗せてくれませんし……」


 スカーレットの騎竜と言うと、首脳会議の時にいた黒い竜人種ドラゴニュートの事か。

 今はクロアって名前なのか。確か本名は『ヨイヤミ』とか言ったっけ?


A:はい。その通りです。


 ドーラと同じはぐれ竜人種ドラゴニュートだが、記憶喪失になっているらしい。

 経緯は知らないが、スカーレットの元で保護されているのだろう。

 『竜人種ドラゴニュートの秘境』で話を聞いたのだが、ヨイヤミの家族は秘境を襲ったドラゴンに殺されており誰もいない。

 スカーレットの元で幸せに暮らしているのなら、無理に引き連れていく必要もない。


「この子達も人型になるのでしょうか……」


 ボソリと呟くストロベリー皇女に、心の中だけで「そうだよ」と返す。



 10分ほど飛び、近隣の街に到着した。

 人の足では数日かかる距離でも、竜人種ドラゴニュートならばあっと言う間である。


 それなりの規模の街で、人口は数万人と言ったところか。

 街中に降りる訳にもいかないので、街の近くの街道へと降り立つ。


「ジーン様、本当にありがとうございました」

「ありがとうございます」


 ストロベリー皇女とミルフィが頭を下げる。


「いや、謝礼はしっかりと貰っているのですから、気にしないで下さい」


 約束通り、ストロベリー皇女からは謝礼を貰っている。

 レガリア獣人国への謝罪と言うことで、結構な財宝を持ってきているようだ。

 その中には魔法の道具マジックアイテムがあり、迷わずに頂戴することにした。


「ジーン様達はこれからどうするのですか?」

「……そうですね。折角だから、この街で昼食を取ろうと思います」


 折角やって来た街を素通りすると言うのも勿体ない。

 とりあえずこの街で食事をとり、その後の事はその時に考えればいい。


 まだ昼頃なので、先の街まで進もうと思えば進めるし、焦るような旅でもないので、この街で一泊するのも有りだ。その時の気分で行動すればいいだろう。

 なお、ストロベリー皇女達は街で馬車の手配をしなければならず、下手をすれば数日はこの街に居なければならないそうだ。


「では、お昼をご一緒……あ……。何でもありません」

「…………」


 ストロベリー皇女も発言の途中で気付いたようだ。

 俺は兜で顔を隠しているので、個室でしか食事が出来ないと言うことに。

 つまり、ご一緒に食事は無理なのである。


 アルタ、個室のある食事処を探してくれるか?


A:既に確認済みです。10件以上ありますので、お好みを仰っていただければ、該当する場所をピックアップいたします。


 ふう……、個室で食事を出来る場所は結構あるようだ。


 街に入るところまでは一緒だったが、そこからは目的が異なるのでストロベリー皇女と別れることになった。


 なお、ブルー達竜人種ドラゴニュート娘3人は街の入り口にある馬車馬を停める小屋に預かってもらうことにした。シャロンからの許可証を見せれば一発だった。

 女王の許可がある以上、不埒なことを考える輩は出ないと思いたい。尤も、不埒な輩が出たところで、その不埒な輩が死ぬだけで終わるのだが……。


「それでは、縁がありましたらまたお会いしましょう」

「ええ、それでは失礼いたします」


 ここまで思い切りイベントフラグを立てておいて、二度と会うことが無いなんてことがあるとは思えないけどね……。絶対また会うことになるって……。


 ストロベリー皇女達と別れた後、俺達も昼食をとるために街の中を歩き始めた。


「折角だから、獣人国らしいメニューの店が良いな。アルタが個室で食事できる場所を探してくれたみたいだからな」


 その土地の地元料理を味わうのが観光の醍醐味である。

 細かい土地の差はあるだろうが、まずは獣人国らしい料理が食べたい。港町では魚料理メインで、獣人国らしさが弱かった気がする。


 何でも、レガリア獣人国で採れる作物は、他の土地で採れるものに比べて美味いらしい。

 加えて、美味い飼料で育った家畜も美味くなるので、結果的に肉も野菜も美味い土地柄と言う事になる。


《わーい!》

「楽しみですわ」

「獣人国かー。どんな味付けなのかしらね?」


 アルタの指示通りに道を進み、少しだけ高級そうな料理店へと入る。

 個室は使用料を払う必要があるが、大した金額でもないので迷わずに個室をとる。


「なるほど、これが獣人国らしさか……」


 渡されたメニューを見て、納得すると同時にその極端さに驚く。


「うーん、栄養バランスって言葉を知らないみたいね。肉か野菜の2択って……」


 料理人であるミオが顔をしかめるのも無理はない。

 メニューは野菜料理(肉なし)か肉料理(野菜なし)の2択だったのである。


「肉食動物の獣人向けと草食動物の獣人向けって事だろうな」

「他の国では普通の料理を食べている獣人の方も多いですから、肉と野菜を混ぜても食べられない訳ではありませんわよ」


 あちこちで料理を食べているセラが言うのなら間違いはないだろう。


わたくしも獣人の方に聞いた話なのですけど、食べられない訳ではなくても、多少は元となる動物に趣向が引っ張られるそうですわ。そして、この国では獣人が多いから、お店側もその趣向に合わせたメニューになったのでしょうね」

「なるほど、国民の多くが獣人なら、そこまで大きく偏ったメニューでも問題は無い訳だ。……マリアはどうだ?食生活で獣人ならではのエピソードとかあるか?」


 屋敷なら他にも獣人の配下がいるが、パッと聞ける相手はマリアだけなので聞いてみる。


「特にはありません。人間の村でしたので、人間と同じものを食べていましたから」


 ちなみに、海外の猫は完全肉食、日本の猫は雑食に進化?したらしい。

 以前、猫を飼っていた……預かった事があり、その時に調べたのだ


 この世界の猫(獣人)が肉食か雑食かを調べれば、この世界が日本か海外か分かるかもしれない。この世界が日本って、変な文章だな。


「酸っぱいのは少し苦手ですが……」

「それは猫の獣人だから苦手なのか、普通に苦手なのか判断がしにくいな……」


 猫は柑橘類が苦手らしいが、猫の獣人はどうなのだろう?

 酸っぱいのが苦手な人は普通にいるからな。


《ごしゅじんさまー、おなかすいたー》

「おっと、悪かったな。早く注文をしようか」


 ドーラが空腹を訴えたので早速注文をすることにした。


 料理の作業工程が少ない料理が多いせいか、比較的早く料理が運ばれてきた。


《おいしそー!》

「これぞ肉と言った感じですわね」


 ドーラとセラは肉料理を頼んだ。とても分かり易くステーキが出てきた。

 レガリア獣人国は食料的には豊かなおかげか、デカいステーキでも値段は良心的だった。


「あの量のお肉は食べきれません……」

「右に同じです。ミオちゃん小食なので……」


 さくらとミオは野菜料理、肉なし野菜炒めを頼んだ。

 未調理の生野菜とかもあるので、野菜料理の方が食べやすいメニューは少なかった。


「美味そうだけど、主食が無いのが少し残念だな」

「店員に持ち込み可能か聞いてきます」


 料理を運んできた店員を追いかけるマリア。

 俺とマリアは肉料理と野菜料理を2人で分けることにした。肉も野菜も食べたいのなら、これしか手はないだろう。


「聞いてきました。個室の客ならば良いそうです」

「じゃあ、遠慮なくご飯!」


 そう言って<無限収納インベントリ>からお茶碗によそわれた状態のご飯を取り出す。

 うん、シュール。


 料理は美味いと言えば美味いのだが、肉料理はかなり味が濃かった。

 肉料理を一口だけ貰って食べたさくらとミオが、二口目を要求しなかったくらいである。


「香辛料多すぎ!折角の素材が台無し!」


 との事だ。

獣人国の食生活はワイルドなイメージ。


<英雄の証>には子供が生まれやすいと言う追加効果があります。

子をなすのも、英雄の仕事なのです。

第12章、真紅帝国編(仮)をお楽しみに!

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