さすがはアインズさま   作:みつむら

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カルネ村観光地化計画

 アインズが割と適当に作った死の支配者(オーバーロード)が、偶然にもアインズに瓜二つだった。

 

 アインズはこのそっくりさんの有効活用法を考えた。レベルの低さは一目でわかるので影武者には使えない。まあ、一般人なら見破れないかもしれないが……と考えたとき、アインズの脳裏にアイディアがひらめいた。これはいける! 魔導国のいい宣伝になる。

 

 

 

 

 

 カルネ村に旅の劇団がやってきた。エ・ランテルで大人気で、このたび初の巡業に出たということであった。いかにも魔導国らしいことに、劇団員は人間・亜人・アンデッドの混合編成だという。

 

 なかでも一番の人気演目は、魔導王陛下そっくりの死の支配者(オーバーロード)が主演の、若き日の陛下の冒険譚である。ほとんどの人間には骸骨の顔の区別はつかないとか、骸骨に若き日という概念があるのはどうなんだとか、そんなのは魔導国の民にとってはささいなことなので誰も気にしていない。

 

 この劇団の特色は、舞台上で本当にモンスターが討伐されるところである。完全にコントロールしている上に代わりはいくらでも用意できるので問題ないらしい。最前列の席にはときたま肉片が飛んでくるので度胸試しの若者が陣取るのが常である。

 

 それだけではなく、モンスターにさらわれたり攻撃したりする役として、観客が舞台に参加できるというサービスもある。強大なモンスターと間近で接し、攻撃までできるという貴重な機会に、人々は熱狂した。

 

 さて、村長たるエンリのもとに劇団員一同が挨拶に来た。こういうところで現地の有力者をおだてあげるのが旅芸人の処世術である。ましてやエンリはそこらの村長とは格が違い、多数のゴブリンやオーガを従える猛将なのであるから、いっそう丁寧にもてなさねばならない。

 

 そこでエンリには、アインズを助けて戦う美人修行僧(モンク)という役柄で舞台に上がってほしいと依頼した。それを聞いたエンリは不機嫌に断り、劇団員たちをあわてさせ、最終的には『モンスターに襲われてアインズに助けられる村娘』の役に落ち着いた。エンリの自己イメージは未だにそれであり、自分がそこからどんどん離れていくことにあせっていたのだ。ついでに修行僧(モンク)あつかいにも怒っていた。せめて剣士とかじゃないのかと。

 

 そんなこともあったが準備はおおむね順調に進み、いよいよ公演が始まった。この世界の、しかも辺境に住む村人がどれほど娯楽に飢えていることか。会場は熱気に満ち満ちていた。さあ、エンリの出番である。ゾンビにとらえられたエンリは、必死に振り払おうと体をひねり、

 

 ……その勢いでゾンビは投げ飛ばされた。地面にたたきつけられたゾンビは二度と動かなかった。

 

 劇団の座長は、女傑と名高いエンリがなにゆえに村娘の役などやりたがるのか怪しんでいた。しかしたった今、その疑問は晴れた。この調子で台本を無視してモンスターをなぎ倒し、自らの力を誇示し、劇団員のうろたえるさまを見て楽しもうということだ。腕力ひとつでなりあがった権力者によくいるタイプだ。しかしこちらも役者生活五十年、この程度のアクシデントなら何度となく乗り越えてきたのだ。見事に切り抜けて見せようではないか!

 

 予定を早めて舞台にアインズ役が登場。敵も次々と現れるなか、自然な流れでエンリと共闘。エンリに見せ場をたっぷり作りつつ、アインズ役も主役らしい派手な立ち回りを存分に繰り広げる。役者生活五十年の経験から生み出される座長の的確な指示に、団員たちも生き生きと合わせていく。観客の興奮は頂点に達し、失神する者さえいたという。

 

 やけになったエンリは苦笑いをうかべつつ骨の竜(スケリトル・ドラゴン)を殴りつけた。その様子は伝言ゲーム的に脚色されて聖王国に伝わり、巨大な絵画となってネイアの家に飾られた。

 

 

 

 

 

 はるばる聖王国から目つきが悪くて優しい人が聖地巡礼にやってきた。

 

 なにやら感激の面持ちで手を握ってくるネイアからエンリがいろいろ聞き出したところ、カルネ村が聖地と認識されているのはいいとして、エンリの噂がそれはもうひどいことになって国外にまで広まっていると分かった。

 

 エンリは開き直った。愛する夫がいて、妹がいて、大切な村の人たちがいる。自分は幸福だ。村の外で何を言われようと知ったことではない。妙な噂があるのなら、逆手にとって村の利益を増やせばいいだけのこと。

 

 エンリは自らが客寄せになってのカルネ村の観光地化を決意した。となれば、まずは魔導王陛下の豪華な像の新造は必須であろう。ルプスレギナに相談すると、ナザリックに報告するから待っているように言われた。

 

 その報告を受けた守護者たちの話し合いは紛糾した。まずアルベドが出した案は、降臨したアインズと側に控えるアルベドの像だった。しかし実際には降臨の瞬間にアルベドは間に合っていなかったので、あえなく一同に却下される。

 

 次にセバスが、エンリとネムをかばって立つアインズという、三人一組の像を提案する。対してデミウルゴスが、二人の騎士を打ち倒すアインズという、こちらも三人一組の像を提言。村民を守る正義のアインズを強調するセバスと、苛烈な支配者の面を重視するデミウルゴスの論戦は平行線をたどる。うんざりしたアウラが、いっそ両方まとめて五人一組の像はどうかと発言し、あきらめていなかったアルベドが、それなら自分も入れれば到着したばかりの自分との躍動感ある対比が描けていいはずだと言い出し、あきれたシャルティアが文句をつけ、コキュートスはいらだちマーレはおびえ、議論は泥沼化の様相を呈した。そして結局、埒が明かないのでアインズに決断をゆだねることになった。

 

 アインズはこちらの世界に来て以降、書類仕事の経験を重ねたので、だんだん手の抜き方が分かってきた。自ら判断を下すのは重要な問題のみに留め、それ以外は優秀なシモベに丸投げしてしまえばよい。カルネ村観光地化計画の報告書も、そんな調子でざっくりと目を通すだけにした。はっきり言って、成功しようが失敗しようがナザリックに影響がない事業だ。わざわざ自分が頭を悩ます必要もない。

 

 アルベドは守護者たちから出された案を全て、手のひらに乗るほどのミニチュアの見本にしてアインズに見せた。しかしアインズはざっくりとしか計画を把握していなかったため、これをフィギュアとして売店で売る計画なのだと勘違いした。だとすると少し小さいのではないかと思った。

 

「売店……アルベド、これで悪いとは言わないが、少し小さいな」

 

 アルベドは雷に打たれたような衝撃を受けた。そして退室後ただちに守護者たちを集めて、アインズの偉大な真意を伝えたのだった。

 

 

 

 

 

 ネイアは演説する。

 

「聖地カルネ村を目指すのに、地図は必要ありません。国外からも見える、雲にも届く魔導王陛下の巨像を目指せば迷いようがないからです。その眼は赤く光り、夜空に月より明るく輝き、闇の中でも人々を導きます。これは魔導王陛下こそが万民の道しるべであることを示しています! この像は中に入って、目の部分の窓から外を見ることができますが、そうやって見下ろした世界で、人は豆つぶよりも小さく見えます。つまり魔導王陛下の目に映る世界を比喩的に体感できるのです。だからこそこの巨像は、初めて陛下がこの地の人間をご覧になった場所、すなわち降臨の地カルネ村にこそふさわしいとは思いませんか? 巨像づくりに乗り気でなかった陛下が許可なさったのはこのためなのです!」

 

 

 

 

 

 久しぶりに村に行ったらできあがっていた巨大像を見て内心ドン引きしたアインズだったが、仕方ないのであきらめてシモベたちをねぎらっておいた。像の中に売店があったのでサイン色紙を寄贈し、覇王炎莉印の干し肉と賢王まんじゅうを買って帰りハムスケに与えた。ちなみに賢王はゆるキャラ化されている。

 

 

 

 


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