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異世界転移で女神様から祝福を! ~いえ、手持ちの異能があるので結構です~ 作者:コーダ

第10章 レガリア獣人国編

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第148話 取引と亡霊海賊

少しだけ執筆ペースが戻り始めました。

「もしかして、前女王の関係者……の子供ですか?」


 俺が尋ねると女王は頷いた。


「ふむ、察しが良いな。その通りだ。前女王の側近は皆処刑したが、我が臣下達の懇願により子供の命だけは助けた。妾としても、居ても居なくても変わらぬ存在、其方に払う対価には丁度良かろう?」

「女王様……」


 どうやら、前女王の側近の子供達は国民としてカウントしていない様子。

 それを聞いて、ミュールが酷く悲しそうな表情をしている。

 子供の命を助けるように懇願した臣下の中にはミュールもいたのかもしれない。


「それで、其方は人魚の娘が欲しいか?食料の対価になるか?」

「はい。対価として成立します。人数はどの程度いるのですか?」


 組織のトップが売ると言い、親も居らず、良くない扱いを受けている子供なら、購入する事に何の問題も障害も無いよな。

 なお、人(魚)身売買自体が問題だと言うツッコミは受け付けない。


 次に確認すべきは人数だ。


「ミュール、答えよ」


 まあ、女王が態々孤児の人数なんて覚えている訳はないよね。

 女王に指示され、ミュールが渋々答える。


「……はい。親を失った子供の内、現時点で働きに出ていない者は少女25名です」

「少女だけなのか?」


 女王に疎まれているような子供なら、男女の区別なく購入ほごするつもりだったのだが、そもそも前提として少女しかいないように聞こえる。


「少年は……この国の男女比を考えると、お売りするわけには行きませんから……」


 実は、人魚の国は男女比が大よそ3:7で女性の方が多い。

 ここで少年を売ると、将来的に困ることに成り得るのだ。

 逆に言えば、余るような孤児の少女は売ってしまえばいいと言うことか。


「分かりました。全員購入いたします。問題は何日分の食料と引き換えるかと言う点なのですが、俺から1つ提案があります」

「申してみるが良い」


 面倒な事は短いターンで終わらせたいよね。


「食糧支援をするのは、食糧難が解決するまで、と言うのは如何でしょうか?」

「ふむ、此方としてはその方が助かるが、其方は下手をすれば延々と支援を続けることになるぞ?何が望みなのだ?」


 流石の女王も不審に思ったようだ。

 これだけでは、俺達が一方的に損するからね。


「簡単な話です。俺達が、その食糧難の原因を取り除くと言っているのです」

「何……?」


 女王が怪訝そうな顔を向けてくる。


「俺達はこの食糧難の原因がほぼ分かっています。俺達が食糧難を解決すれば、その瞬間に契約が終わります。例え、食料を1度も配らなかったとしても」

「食糧難の原因?それは一体なんだ?」

「それを教えると、この提案の意味が薄れるので、解決した後にならお教えしましょう」


 教えたからと言って解決できるとは限らないけどね。


「むう……。しかし、よく考えれば妾達には何の不利益も無い提案だな。其方達が解決すれば、食料を貰う必要は無くなる。其方達が解決できなければ、妾達が解決するまで食料の支援が続く。どちらにせよ、妾達が負うのは、不要な孤児だけだからな」

「…………」


 女王の言い方にミュールの表情が曇る。


 女王の言い方はともかく、この提案に人魚側の不利益はない。

 要は、俺達の手間がどこにかかるかと言うだけの話だ。


 亡霊海賊団は俺の心情的に潰す。食糧支援は長く続けたくない。孤児人魚は貰う。

 これらの要素を合わせて考えると、これが最大効率だと思う。


「俺にも利益は有りますよ。解決さえしてしまえば、1番短い時間で、食料も渡さずに人魚を得ることが出来ます。そして、解決の目途は立っているのです」

「良く分かった。其方達にそれほどの自信があると言うのなら、先の提案を飲もう。ミュール、其方はこの者達に同行し、食糧難の原因を見極めてくるのだ」

「はい!」


 こうして、俺達は食糧難の原因解決に向けて動き出すのであった。



 女王も俺達だけに食料難の解決を任せるつもりはないようで、人魚の調査隊編成を進めるそうだ。加えて、最低限の食料を確保するための遠征部隊も組織しているとの事。

 全てを俺達任せにするのはリスクマネジメント的に危険この上ないから当然だね。

 上記理由により、城内も慌ただしくなってきた。


 俺達は王城に居る意味も無いので、早速海賊狩りに行こうと思う。

 ミュールを引き連れて城を出ると、多少は活気の戻った街が目につく。

 しかし、食糧難が間近に迫っている状況は変わらないため、どこか悲壮感にあふれた表情をしている人魚が多い。


 俺達にんげんが珍しいのか、先程から視線を感じるものの、話しかけて来る者はいなかった。どこか怯えた様な視線も混じっているし、人間に対する前評判が原因だろう。

 あっという間に結界に到着し、番人に話を通して出入り口から出る。

 水中を泳いで亡霊海賊の元に行くつもりはないので、一旦海面まで浮上する。


「ご主人様、お待たせ」

「お待たせしましたー」

「お待たせして申し訳ありません」


 しばらく漂っていると、移動用竜人種ドラゴニュート3人娘が到着した。


「あれ?彼女達は戻ったのではなかったのですか?」

「いったん戻したけど、食糧難解決のために移動するから、また呼んだんだよ」

「呼んだ?え、どうやって……?」

「企業秘密だ」


 ミュールの疑問に答えたが、余計に疑問が増えたご様子。

 もちろん、追加の疑問の方には答えるつもりがない。


「ミオは……」

「帰ります!ミカヅキさん、お願い!」

「は、はい……」


 亡霊海賊との戦いに参加するつもりはないようで、ささっとミカヅキに乗る。


「本当にミオちゃんはお化けが苦手なんですね……」

「実際の幽霊だけじゃなく、魔物に分類される亡者アンデッドもダメって重症だよな」

「怖いものは怖いの!」


 明確な弱点なので、いつか克服させたい気持ちもあるが、それ以上にビビるミオが可愛いので、このままにしておきたい気持ちもある。悩ましい。

 そもそも、克服させるのは厳しいとも思っている。見た目通りの精神年齢ならいずれは治るかもしれないと思えるが、実際には24年分は生きているからな。それで治らないモノを今更直すのも大変だろう。


「そうみたいだな。だから、約束通りミオは先に帰ってくれて構わないぞ」

「そうさせてもらいます」


 実に即答である。


「マリア……は言うまでもないか。さくらはどうする?このまま俺についてくるか?先に戻りたかったら無理にとは言わないぞ?」

「仁君に最後までついて行きます……。お化けも平気ですから……」

「ああ、分かった」


 と言う訳で、俺とマリアはブルーに、さくらはリーフへ騎乗した。


「さて、問題はミュールをどうやって連れていくかと言うことだな」

「皆さんは空を飛ぶのですよね?私はそれを追いかければいいのではありませんか?」


 ミュールは俺が何に悩んでいるのか理解していないようだ。


「ふん、私も舐められたものね」

「ブルー、そう言ってやるな。お前の最高速度を知らないんだからしょうがないだろう?」

「ご主人様がそう言うならいいけど……」


 ブルーはデレ状態のツンデレさんなので、デレデレである。


 ミュールの泳ぎは速いが、天空竜ブルーの飛行速度とは比べることも出来ない。

 態々泳ぐ速度に合わせるのは時間の無駄だ。案内役として先導する場合は除く。

 せめて、<変化へんげ>のスキルを持っていれば、リーフの後ろに乗せられたのだが……。人魚形態ではバランスが悪いので避けたい。


「そうだな……」


 俺は水着のまま『不死者の翼ノスフェラトゥ』をマントにして着る。水着マントは変態度が高めだが、この際贅沢は言っていられない。

 俺はマントを操作してミュールを水揚げする。そのまま、お姫様抱っこのように持ち上げる。とは言え、俺は手綱を握っているので、抱えているのは『不死者の翼ノスフェラトゥ』の一部だ。


「な、何ですかコレ!?」


 ミュールが叫ぶが無視する。

 こうして、水着で天空竜に跨り、黒いマントで人魚を抱えるという絵面が完成した。


「完璧だ」

「何が!?」


 ミオの突っ込みが入るが気にしない。

 多分、これが一番速いのです。


「じゃあ、行ってくる」

「行ってらっしゃい。先に帰るね」

「お先に失礼します」


 ミオとミカヅキに別れを告げ、俺達は亡霊海賊団の討伐に向かう。


「ひ、ひえええええ」


 空を飛んだ経験のないミュールが情けない声を上げる。

 そして、当然のように漏らし、『不死者の翼ノスフェラトゥ』が濡れる。

 これ、一応エステア迷宮の希少なボスドロップなんですけど……。

 滴る黄金水がブルーに掛からないように注意しながら『清浄クリーン』を発動する。


 少しの間飛行し、亡霊海賊団のいるエリアに到着した。


 さて、どうやって亡霊海賊団を討伐しようか……。

 補足をすると、討伐の作戦を考えていると言うよりは、夕飯の献立を考えるのに近い。

 つまり、いくらでも料理できるということだ(渾身のギャグ)。


 なお、最も早い方法は<生殺与奪ギブアンドテイク>による<亡者アンデッド>スキルの強奪である。

 <亡者アンデッド>スキルを奪ってしまえば、何万の敵が居ようと一瞬で全滅させることが可能だ。戦いにすらならない。

 手っ取り早さが求められている時はコレを選ぶこともある。


 そう言えば、あの亡霊海賊団って意識はあるのか?もっと言えば、話は出来るのか?


A:出来ません。意識もありません。


 予想通りと言えば予想通りかな。

 マップを見る限り、全員腐りかけのボロボロで、欠片の知性も感じないのだ。


 可能ならば瘴気をまき散らしている動機を確認したかったけど、とてもじゃないが話が、言葉が通じるようには見えないのである。


 はぁ……。

 船旅に出て、海賊と2回も戦うチャンスがあったと言うのに、どちらも俺の望むような戦いにはならなそうだ。

 あの中に突っ込んで、船長に一騎打ちを申し出ても受け入れてはくれないだろうな。

 亡者アンデッドの群れが襲い掛かってくるだけだろう。


 海賊船はボロボロだし、お宝も無いから拿捕する理由も無い。

 レアスキルも一騎打ちも無いとなるとモチベーションも上がらない。


 面倒だから、<亡者アンデッド>スキルを奪ってしまおうか……。

 ああ、でも討伐の瞬間をミュールに見せておいた方がスムーズだよな。


《海賊達の元に辿り着いたら、俺達3人で魔法を使い、海賊達を殲滅するぞ》

《仁君が乗り込んで戦うのかと思っていました……》


 さくらが意外そうに言う。


《亡霊海賊に意識があったら、そうしていたな。意識が無いみたいだから、討伐は作業だ》

《分かりました……》

《承知いたしました》


 知性のある行動をしない亡者アンデッドと戦っても学ぶことは少ない。

 学ぶことのない相手との戦いに時間をかけるのは無駄だ。手間をかけるつもりもない。

 先にも述べた通り、目ぼしいものが何も無いので、誰が見ても分かり易い派手な魔法で船ごと殲滅する方がいいだろう。


 そして、海賊達が目で見える範囲まで近づく。


「あの禍々しい連中が食糧難の原因ですか?」

「ああ、アイツらは亡霊海賊団。瘴気をまき散らす亡者アンデッドの集団だ。その瘴気のせいで魚が逃げて、人魚の国は食糧難になったみたいだな」


 俺はミュールの問いに答える。


「こんな所に居たんですね……。あの連中のせいで私達の国が……」


 ムッと睨み付けるように亡霊海賊団を見つめるミュール。

 当然、恨み言の10や20はあるだろう。


 しかし、残念な事にまともに戦うと人魚達には勝ち目が無かったりする。

 まず、人魚達は基本的にレベルが低い。まともに戦う種族じゃないから、長命な割にレベルが異常に低い。

 加えて、亡者アンデッド達には意識が無いので、<魅了の歌声チャームボイス>が効かない。この時点でほぼ詰みである。


「恨み言はあるだろうが、アイツらは俺が倒す。文句は言わせない」

「それは……分かっています」


 人魚に余計な被害を出しても後味が悪いだけだからね。

 俺がサクッと蹴散らすのが一番だ。


「じゃあ、早速アイツらを殲滅しよう」

「ええと、どうするのですか?」

「簡単だ。ここから魔法を連発する」


 遠距離から高火力で殲滅、簡単だろ?


「距離がありますけど……」

「これ以上細かい質問は受け付けない。黙って見ていれば分かる」

「は、はい、分かりました」


 多分、ミュールの疑問全てに答えていたら日が暮れてしまう。

 ミュールには過程と結果だけを理解してもらい、理屈には目を瞑ってもらう。


 俺の乗ったブルーは中心に、さくらの乗ったリーフが右側、<結界術>で空中に立っているマリアが左側に移動する。

 ある程度の距離を取ったところで、一斉に魔法を<無詠唱>で発動する。


「『ファイアボール』」×3


 まあ、お約束と言えばお約束だよね?


-ゴウッ!!!-


 <拡大解釈マクロコスモス>で超強化された巨大『ファイアボール』3発は、物凄い勢いで飛んで行くと、10隻の海賊船を一瞬で粉微塵に消し飛ばした。

 あまりの火力に『ファイアボール』の当たった辺りの海が蒸発し、空いた空間に周囲の水が押し寄せていく。


 少し待ち、海が凪を取り戻す頃には、海賊船団がいた痕跡すらなくなっていた。

 海賊船の残骸も海に飲み込まれていった。


「あ、あががが……」


 ミュールの顔は恐怖で染まり、口からは意味のない呻き声のようなものが漏れていた。

 ついでに言うと、下の口からも漏れているようだった。『清浄クリーン』。

 それにしても、ミュールの貯水槽タンクはまだ空になっていなかったのか。思っていた以上に大容量だな。


 さて、亡霊海賊団を全滅させたので、その後の海の様子を確認しようか。


 亡霊海賊団がいなくなったことにより、海を汚染していた瘴気は消滅した。この手の瘴気は原因となる魔物がいなくなると消滅する。

 アト諸国連合でセラが戦った不死の王ノーライフキングの件のように、長期間瘴気に汚染され続けると、生態系が壊れて元の環境に戻るのに時間がかかる。

 しかし、海という流動的な場所で短期間の汚染ならば、海はすぐ元の環境に戻るだろう。

 そんな事を考えている間に、瘴気の影響範囲の外から魚が入り込んで来た。


「ミュール、海に入って魚が戻ってくることを確認してくれないか?そうしないと、いつまでたっても依頼を達成できないからな」

「わ、分かりました。そう言えば、私はその為についてきたんですよね」


 ミュールを海に降ろし、しばらく空中で待機する。

 ミュールはあちこち泳ぎ回り、魚が戻り始めていることを確認した。


「仁さん、大丈夫みたいです!これで、元の海に戻りそうです!」


 ミュールが下から大声で報告してくる。


「じゃあ、依頼達成と言う事で構わないか?」

「はい!もちろんです!」


 俺が尋ねると、ミュールは喜色満面で答えた。


「よし、これで無事にクエストクリアだな」


 俺は満足げに頷く。

 たった3発の『ファイアボール』で大量(漁)の人魚をテイムできるなら安いよな。


「遠距離から魔法を撃っただけですから、無事で当然ですよね……」

「まあ、それもそうだな……」


 今回の戦闘は、相手に遠距離攻撃手段が皆無だったため、危険度0だった。

 海賊船の大砲は錆びて使い物にならなかったし……。


「仁様がご無事でしたら、それに勝ることはありません。もちろん、さくら様もです」

「そうですね……。皆無事なのが一番です……」


 『安全≒面白くない』となり易いので、俺としては歓迎しかねるところだ。


「それにしても、ご主人さまはやっぱり凄いですねー」

「当たり前じゃない、私のご主人様なんだから!」

「ブルーちゃんは本当にご主人さまが好きですねー」

「ま、まあね」


 ブルーは照れながらも否定しない。


 少しポヤポヤしているリーフの目からも分かるくらい、ブルーは俺にデレデレのようだ。

 ポヤポヤリーフとデレデレブルー。語呂が良い。



 クエストクリアの報告、そして報酬を受け取るため、俺達は再び人魚の国へと向かった。

 前と同じように、竜人種ドラゴニュートの2人には先に船へ戻ってもらっている。


 結界の出入り口に向かうと、10人程の人魚が結界を出てくるところだった。

 恐らく、調査隊か遠征隊のどちらかだろう。


 俺達の存在に気付いた1人の人魚(男)が近づいてくる。


「ミュール、どうしたんだ?何か忘れものでもしたのか?」

「いいえ。食糧難の原因を解決したから戻って来ただけです」

「は?」


 ミュールの返答に呆けたような顔をする人魚(男)。

 ミュールは移動時間の大半を気絶で過ごしたから知らないが、人魚の国を出てから1時間も経っていないのだ。


「魚が戻り始めたのも確認しました。その内、元の海に戻ると思います」

「ほ、本当なのか?」

「はい。信じられないかと思いますが、本当の事です」

「冗談を言っている顔ではないな。……ミュール達は女王陛下の元へ向かってくれ。俺達は、調査隊は裏付けを取ってくる」


 人魚(男)は調査隊の群れに戻ると、今後の方針について話し合いを始めた。

 恐らく、原因の調査から魚が戻って来た事の確認に向かうことになるだろう。


 俺達は出入り口から結界に入り、番人魚に女王に謁見する為の先触れを頼んだ。

 謁見の準備もあるので、ゆっくりと泳いで王城へと向かう。


 そして、再びの謁見の間。


「ほう、もう原因を解決したというのか。それで、原因は何だったのだ?」

亡者アンデッドの放つ瘴気です。それが海に溶け込み、魚を遠ざけていました。海賊達は俺達が討伐しましたので、もう問題は無いはずです」


 俺は女王の問いに答える。

 1回目の謁見の時に言った通り、倒した後なので詳細な説明をしてもいいだろう。


「ミュール、言っている事は事実か?」

「はい……。仁さんの仰る通り、亡者アンデッド消滅・・を確認いたしました。いずれ、魚達も戻ってくるかと思います」

「これで其方達との取引も終わりと言う訳だな」


 女王は満足そうに頷いている。


 要らない人魚の娘25名で、国を揺るがす食糧難が解決できれば安いものだろう。

 俺達は安いと考えていて、女王も安いと考えている。これが真にWin-Winな関係だ。


「ええ、調査隊も確認を始めているようです。その裏付けが取れるまで待ちましょうか?」

「いや、その必要はない。ミュールが確認したというのなら、問題はなかろう。……おい、約束の娘達を連れてまいれ。ああ、城に入れるでないぞ。城の前に集めておけ」


 女王が側近らしき人魚に指示をする。


「悪いが、娘達を城に入れるつもりはない。帰りに、城の前にいる娘達を連れて行くが良い」

「……わかりました」


 人魚娘達の扱いの悪さに思うところはあるが、ここで責めても何の得にもならないよな。


「後、一点よろしいでしょうか?」

「ふむ、何だ?」

「先の取引で、この国を観光する権利を頂いたかと思います」

「そうであったな。この後、観光していくのか?」


 俺は首を横に振る。


「いえ、その観光は延期させていただきたいと考えています。まだ、国内が落ち着いていませんから、落ち着いてからまた来たいと思っています。構わないでしょうか?」


 正直、今の荒れた国を観光しても意味がない。

 魚が戻り、落ち着いてからまた来たい。


「確かに、今の状態では何の面白みもないであろうな。よかろう、門番には伝えておくから、次に来た時にでも観光をしていくが良い」

「ありがとうございます」


 目的を終えた俺達は、女王に礼をして玉座の間を後にした。

 城の前には、あまり元気のない25名の人魚娘達がいた。


「彼女達をよろしくお願いいたします。本当に、よろしくお願いします」

「ああ、任せておけ」


 やはり、ミュールは孤児となった人魚娘達に思うところがあるのだろう。

 念を入れるように何度も頼み込んでくる。


 俺は人魚娘達のテイムを始める。


「これを受け入れれば、腹いっぱいに食べ物を食べさせてやる」


 最初は困惑していた人魚娘達だが、この一言で決意を固めたようだ。

 次々と俺にテイムされていく。


 無理矢理でもテイムできるが、可能ならば自分の意思で従って欲しい。


 こうして、俺達は25名の人魚娘と共に人魚の国を後にするのだった。



 テイムした人魚娘25人を連れ、エステアの迷宮へ転移した。

 正確には、俺達は『ポータル』で戻り、他の連中は『召喚サモン』で引っ張って来た。

 迷宮の52層にある湖の前で『召喚サモン』を使い、人魚娘達をそのまま湖に落とす。


「お帰りなさいませ」×多

「ああ、ただいま。早速だが、この子達の教育を任せてもいいか?」

「はい、お任せください」


 出迎えてくれたメイド達に、連れてきた人魚達の教育を任せる。


 人魚娘達にはメイド教育を施してもらう予定だ。

 まずは<変化へんげ>を与えて、人間形態を覚えさせることからスタートだけどね。


 ようやく念願の人魚マーメイドのメイド部隊と言う駄洒落が完成しそうだ。

 ……下らないのは自分でも分かっている。


 人魚の国に関する後始末が終わったので、俺達は『クイーン・サクヤ号』へと戻った。


「わたしのこきょう……?」


 人魚の国について一通り説明したが、レーラは首を傾げた。

 どうやら、記憶にない故郷に実感が沸かないようだ。


「レーラと同じ種族が大勢いる場所、くらいの認識でいいぞ」

「だったらいってみたい……かも」


 自分以外の人魚を見た事のないレーラにとって(メープル人魚形態は除く)、人魚の国と言うのは未知の領域だろう。

 人魚形態のメープルにも仲間意識を持っていたし、どんな反応をするか気になるな。


《そのときはドーラも行くー!》

「ドーラおねえちゃん、いいの?」

《うん!》

「ドーラおねえちゃんがいっしょならこころづよいよ!」


 見た目は逆だが、ドーラはレーラの頼れるお姉ちゃんポジションです。ほほえま。


「でも、レーラちゃんを人魚の国に連れて行ったら、王位継承で揉めませんか……?」


 レーラの里帰りに関して、さくらが疑問を投げかけてきた。


「もちろん、そのまま連れて行ったら揉めるだろうから、変装なり何なりさせるつもりだよ」

「それなら良いんですけど……」

「最悪、バレたところで俺がいる以上問題にはならないからな」

「……そうですね……。仁君なら、例え揉めても力づくでどうにでも出来ますよね……」

「さくらの言い方だと、俺が乱暴者みたいに聞こえるな……。ただ、それだけの腕力も権力があるのも事実だな」


 大抵の揉め事は武力、権力、財力があればどうとでもなります(真理)。


「ついでだし、セラも機会があったら行ってみるか?」


 今回、セラは全く出番がなかったからな。

 セラは完全に陸戦用ユニットだから、海フィールドで出番が無いのは仕方ないよね。


「あまり気は進みませんが、1度くらいは見てみるのもいいかもしれませんわね」

「無理にとは言わない。気が向いたらな」

「ええ、そうさせていただきますわ」


 水に沈むのが嫌いなセラでも、1度くらいは見てみたいようだ。



 人魚の国の出来事イベントから数日。

 船室でのんびりドーラを愛でていると、メイドの1人が報告に来た。


「本日の夕方頃にはレガリア獣人国に到着いたします」

「ああ、分かった」

《はーい!》


 どうやら、本日中にはレガリア獣人国に到着できるようだ。


 人魚の国以降、特別変わったイベントは起らなかった。

 海賊が来ることも無ければ、天候が崩れることも無く、海の巨大魔物が襲い掛かってくることも無かった。……つまらん。


A:お望みでしたら、海の巨大魔物へとご案内いたします。


 それはそれで興味があるけど、船旅の途中に襲い掛かってくるのが醍醐味なんだよな。

 自分から行くのはちょっと違うんだ。


A:承知いたしました。


 ……一応、どんな魔物かだけは教えてくれるか?


A:はい。今回通る予定の無い海域にも偵察機タモさんを飛ばしておいたのですが、その最中に発見した島鯨しまくじらと言う魔物です。体長が5km程ある魔物で、常に海面に浮いているため背中が島のようになっています。噴気孔は周辺が山のようになっており、塩を吹くことから海山と呼ばれています。


 超、面白そう。超、行きたい。


 しかし、今から行ってもレガリア獣人国到着までに楽しみ尽くすのは難しいだろう。

 仕方ない。残念だが、島鯨に遊びに行くのはまた今度にしよう。


《ごしゅじんさま、くじら食べるのー?おいしいのー?》


 アルタから説明があったのか、ドーラがそんな事を尋ねてきた。


「いや、食べないぞ。島鯨の上で遊ぶんだ」

《ざんねーん……》

「俺と遊ぶのは嫌か?」

《だいすきー!》


 しかし、クジラ肉って美味いのかな?

 かつて、給食で出たと言う話をどこかで聞いたし、今もクジラ肉は売っているらしいが、あいにく俺は食べた事が無い。


A:メイドが確保に向かいました。


 早い!早すぎる!

 この流れ、今日の夕飯までにはクジラ肉が食卓に並ぶ流れだ。


「近いうちにクジラ肉が食べられるかもな」

《わーい!》

「わーい!」


 ドーラと一緒に喜んでいるのはレーラだ。


 俺がドーラと戯れているのを見て、徐々に俺への警戒心、と言うか苦手意識を無くしていったようで、今ではドーラと共に俺に愛でられるまでになった。

 見た目は美女だが、中身は幼女なので、問題のある様な愛で方はしていない。

 最初はドーラに誘われて渋々と言った感じで近づいてきたが、今では率先して撫でられに来ている。どうやら、鱗を撫でられるのが気持ちいいらしい。


「レーラは海で遊んでいるけど、鯨を見たことはあるのか?」

「くじらってなに?」

「理解していないのに喜んでいたのか……」


 まあ、小さい子にはよくあることだよね。

 話を理解していないけど、周りの人と同じリアクションをするって。


A:レーラが遊ぶのはこの船の周辺ですので、鯨と遭遇したことはないはずです。


 それもそうか。


「鯨って言うのは、海に住むでっかい魚だよ。多分、食べられる魚だ」


 ああ、鯨が哺乳類だと言うことは理解しているよ。

 ただ、その辺の説明を幼女にするのは面倒なんだ。


「じゃあ、レーラがつかまえてくる!」

「そっか。<人魚の姫君マーメイド・プリンセス>があったな」


 レーラのユニークスキルである<人魚の姫君マーメイド・プリンセス>は、海の生物に対して命令することが出来る。

 それを使えば、簡単に鯨を捕らえることが出来るだろう。


A:<人魚の姫君マーメイド・プリンセス>は格上には通じません。そして、レーラよりも鯨の方が格上です。


 意外な事実が発覚した。鯨、強い。

 一応、レーラも多少はレベルを上げているし、水中での戦闘訓練もしているんだけど……。


「レーラ、ドーラおねえちゃんのやくにたてないの……」

《よしよし》


 ドーラを喜ばせようと思って張り切っていたのに、無理だと言われたレーラが落ち込む。

 そしてそれを慰めるドーラ。


「きめた!レーラ、もっとつよくなる!」

《がんばれー!》

「でも、海には魔物が少ないから、レベル上げるなら陸で戦わないといけないな」


 強くなると決めたレーラには悪いが、レベル上げならば陸の方が圧倒的に効率がいい。

 主に遭遇エンカウント率の問題で。


「えー……」


 そして、レーラは陸での戦闘が大の苦手である。


《がんばれー!》

「う、うん……。頑張る」


 しかし、ドーラに応援されてはやらないわけには行かないようだ。

 まあ、二足歩行歴数週間の子供に立って戦えと言うのも中々に無茶振りなんだけどね。

 出来れば、自分の身を自分で守れるくらいにはなって欲しい。


人魚の女王、無事、地雷原を渡り切る。

仁の許容不可ラインを越えない高慢キャラと言うのも珍しいですね。ついでに言うと、敵対マーカーになっておきながら、配下にならず生きて出番を終えると言うのも珍しいです(再登場予定はある)。

再登場時も無事であると言う保証はしません。


2018/08/19改稿:

島鯨しまくじらの体長を10km→5kmに変更。

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