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異世界転移で女神様から祝福を! ~いえ、手持ちの異能があるので結構です~ 作者:コーダ

第10章 レガリア獣人国編

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第147話 人魚の国と食糧支援

ゲーム関係なく進捗ヤバいです。

第11章、冒険者ギルド編、お楽しみに。

 人魚の国は巨大なドーム状の結界に覆われている。


 この書き出しで想像がつく方もいるだろうが、人魚の国とは皆さんご存知、迷宮ダンジョンだったのである。

 迷宮ダンジョンの機能を使って結界を張るというのは、ドーラの故郷である『竜人種ドラゴニュートの秘境』と同じ手法である。

 ドーラとレーラの境遇が似ていると言った記憶があるが、こんな所まで似ているとは思わなかったよ。いや、まだここがレーラの故郷と決まった訳ではないのか。


 この結界は『竜人種ドラゴニュートの秘境』とは異なり、完全に出入りの出来ない結界と言う訳ではなく、数カ所の入り口がある。

 ミュールの案内でその入り口に向かっているが、ぶっちゃけマップで把握済みである。

 海を泳いでいる生き物が偶然でも入ってこないように、入り口は海底付近にあるようだ。


 先頭のミュールが結界を越え、その後に続いて俺達も結界を越える。


「ふう、結界の中に入ったみたいだな」

「仁君の言っていた通り、普通に呼吸が出来ます……」


 実はこの結界にはいくつか特殊な機能が与えられている。


 その1つがコレ。

 驚くべきことに、この結界の中では人間が普通に生活できるようになっているのだ。

 息も出来るし、喋ることも出来る。口を開けても水が入ってこないで、空気だけが入ってくる感覚は説明しても伝わらないだろう。


 単純に考えれば、人魚は元々<水棲>スキルによって水中で呼吸や会話ができるので、明らかに不要な機能ではある。

 まるで、人が来ることを前提としているような機能である。


 なお、人間が活動できると言っても、海の中であることに変わりはなく、移動するには歩くよりも泳いだ方が速い。


 閑話休題。


 俺達が結界内に入ると、少し離れた場所から槍を持った5名の男性人魚が近づいてきた。

 門番的な役割の人魚だろうが、飢餓でやつれているので、正直弱そうに見える。


「ミュール、無事に帰ってきたか。本当に良かった」

「後ろの人間達は……助かったと思っていいんだよな?」


 門番人魚達は全員安心したような表情をしている。

 やはり、状況は思わしくないのだろう。


「はい。ただいま戻りました。女王様への謁見をさせてください。それで……」


 ミュールが今までの経緯を簡単に報告する。


「分かった。先に行って準備をする」


 ミュールの報告を聞いた門番の1人が、やつれているとは思えない速度で泳ぎ出す。

 その先には一際立派で、女王がいる建物がある。まず間違いなく王城にあたる建物だろう。


「仁さん、女王様の準備もあるので、少しだけ時間をかけて王宮へと向かいましょう」

「ああ、いいぞ。俺も少し街を見てみたいからな」


 飢餓状態の人魚も多いので、あまり時間をかけるのも良くないとは思うが、人魚側がそれでいいというのなら俺が文句を言うことでもないだろう。


 さて、それではゆっくり進みながら人魚の国について説明をしていこう。


 人魚の国には『竜の門』のような結界拡張設備はないようで、『竜人種ドラゴニュートの秘境』程広くはない。

 それでも直径10kmはあるので、人間と同じくらいのサイズの人魚が5000人生活するくらいならば十分な広さと言えるだろう。


 人魚の国にある建物はもれなく石で出来た建物だ。

 パッと見ただけでは分からないだろうが、俺には分かる。この国の全ての建物は、ダンジョンコアの機能によって作られた建物だと言うことが……。

 まあ、普通に考えて人魚に建築のノウハウがある訳ないよな。


 人魚達の姿も見えるのだが、全員やつれていてまともに動いている者はほとんどいない。

 門番や王宮に居る者は多少マシなようだが、一般的な住民はほぼ壊滅状態だ。食料供給の優先度によるものだろう。


「普段はもっと活気があるんですけどね……。今はこのような状態ですので……」


 ミュールが悲しそうに言う。

 流石の俺も、苦しむ人魚を横目に観光モードになることは出来ない。


「食糧難を解決したら、改めて観光させてもらおう。皆も来るか?」


 食糧難を解決した後なら、誰にも文句を言われずに観光できるはずだ。


「仁様にどこまででもお供いたします」

「私も行きます……。珍しい国だから見て回りたいです……」

「帰りたい……」


 ミオはダメそうですね。

 反応が面白いからって、ちょっと弄りすぎたかな。反省……。


「亡霊海賊団と接触する前には船に帰してやるよ」

「さあ、行くわよ!早く人魚の国の危機を救いに行きましょ!」


 復活したミオの泳ぐ速度がアップした。現金な奴だ。



 街の中をしばらく泳ぎ進み、俺達はとうとう人魚の国の中枢である城へと到着した。

 王城も他の建物と同じく石作りだが、誰が見ても分かる程度には巨大なのである。

 人魚は『飾る』と言う欲求が弱いようで、装飾品や調度品はほとんどない。


「惜しいな。せめて和風の建物だったら竜宮城って呼べたのに……」


 そして、人魚の国で最も大きな建物を見た俺の感想がコレである。

 海の中の城って聞いたら、竜宮城をイメージするのは自然な事だろう。

 しかし、シンプルな石造りの建物を竜宮城と呼ぶのは気が進まない。


「この建物、何か名前があるか?」

「? いえ、王宮としか呼ばれていませんよ」


 一縷の望みに賭け、ミュールに聞いてみたが結果は芳しくなかった。

 残念である。


 俺達はそのまま王城へと入って行く。

 余談だが、この国の建物に扉は取り付いていない。

 人魚からしてみたら、開け閉めは面倒なのだろう(踏ん張りが利かないから)。


「城の中も同じか……。メイドを連れてきた方が良かったかな?」


 王城の中にも外と同じように飢餓状態の人魚が大勢存在している。

 元々の予定では、兵糧玉エナジーボールは配りに行くのではなく、自分で取りに来てもらうつもりだった。しかし、その元気すらなさそうな人魚を見て考えを改める。

 いっそ、メイドに手伝ってもらって人海戦術で兵糧玉を配るべきだろうか?


「死にそうなのから順に助けて、助けた人魚に手伝ってもらえば大丈夫じゃない?」


 元気になったミオがアドバイスをくれる。


「それで十分事足りそうだな。でも、まずは女王の元に行って対価を確約するのが先か」

「ただ働きは嫌だものね」

「仁様を利用しようとするものは絶対に許しません」


 飢え死にしそうな人魚には悪いが、対価の確約なしに兵糧玉を与えるつもりはない。

 残念ながら、特別扱い対象であるユニークスキル持ちもほとんどいないからな。


「女王様にもお伝えしましたから、大丈夫なはずです。もうすぐ、女王様のいる部屋ですので、くれぐれも失礼のなきようお願いいたします」

「…………」


 ミュールにお願いされたが、残念ながら失礼のないようにするという約束が出来ないので、無言を貫かせてもらおう。


 だって、人魚姫レーラ関連で敵認定する可能性もあるし……。

 姫なのに国の外に一人ぼっちで生きていたという状況がドーラと被る。ドーラと同じような目に遭っていたとしたら、とてもじゃないが失礼のない対応は出来ないだろう。


 この先にある一際大きな部屋、恐らく謁見の間に女王がいる。

 女王のステータス(いつもの)はコチラ。


名前:メスティアルカ

性別:女

年齢:570

種族:人魚マーメイド

称号:人魚の女王、謀反の王

スキル:<水棲LV10><潜水LV10><変化へんげLV10><魅了の歌声チャームボイスLV9><幸運LV5>


 スキルレベルは割と高いけど、ラインナップがショボい。


 女王らしいスキルが全くと言っていいほど見当たらない。

 理由は称号を見れば察することが出来る。恐らく、元々は王の候補ではなかったのだろう。

 断定はできないが、レーラとの関与がある気がする。


「仁さん、到着します」


 ミュールがそう言って間もなく、俺達は謁見の間(仮)へと到着した。


 人魚の女王は、人間の王と同じように玉座に座っていた。そんなところだけ人間に似せなくてもいいのに……。


 見た目は20代後半くらいの美人の半裸トップレスだ。

 金髪で、鱗は青色。顔の印象もレーラとは全く違う。……女王はレーラの親じゃないな。


 俺達は女王から少し距離を取った場所に着地する。

 女王の周囲には数多くの人魚がいるが、全員もれなくやつれている。やつれていないのは女王ただ1人である。


「よく来たな。人間の客人よ。妾はこの人魚の国の女王。メスティアルカである」

「始めまして。俺は仁と申します」


 久しぶりの敬語である。

 しかし、女王は俺達に怪訝な顔を向けてくる。


「……何故、其方達は妾の前で膝を突かぬ?」


 言うまでも無いが、俺達は立った状態で女王と相対している。

 女王は俺達が跪かなかった事を不愉快に思っているようだ。


「特に膝を突く理由が無いからです。俺達は請われてここまでやって来ました。敬意を持って接することはしても、膝をつくほどへりくだる理由は有りません」


 だから、敬語だけは使っているのだ。

 初めて会った国家のトップ相手には、国をまとめているという事実に敬意を表するために敬語を使う。もちろん、敬意が無くなれば敬語も止める。


 例外は『竜人種ドラゴニュートの秘境』だ。

 迷子の皇女ドーラを探さないような国の族長トップには最初から敬意を持てなかったのが理由である

 レーラと人魚の国の関係も怪しいが、まだ確定ではないので敬語を使っている。


「じ、仁さん!?」


 横でミュールが慌てた声を出しているが、知った事ではない。


 女王は威圧感たっぷりに俺達を睨み付けてくる。それなりに長く生きているだけあって、中々の重圧プレッシャーだ。空気が張り詰めるのを肌で感じる。

 ただ、申し訳ないけど、その程度で動じる程生温い人生を歩んではいないんだよね。

 しばらく無言の応酬が繰り広げられる。…………飽きた。


「用がないなら俺達は帰りますよ」


 面白そうな国ではあるが、自分を曲げる程の価値はない。

 人魚達は可哀想だが、国のトップが選んだ方針に従ってもらうしかない。


「……よかろう。立ったまま話すがよい」


 俺の本気を感じ取ったのか、女王の方が渋々折れた。

 あ、女王が赤色(敵)マーキングになった。

 たったこれだけで?ちっちゃいなぁ……。


「其方達はこの国の国民全てに配れるほどの食料を持っておるのか?」

「はい。こちらになります」


 俺は<無限収納インベントリ>……ではなく、アイテムボックスの鞄から兵糧玉エナジーボールを5個くらい取り出す。

 忘れそうになるがここは海の中なので、兵糧玉はぷかぷかと漂っている。


「小さいな」

「小さいですが、これ1つで大抵の者は満腹になるでしょう。これが5000個以上、この鞄の中にあります」

「女王様、仁さんの言っていることは事実です。私も食べさせていただきましたが、これ1つで満腹になりました。これがあれば、この国は飢餓状態から回復できます!」


 ここに来る前にミュールにも兵糧玉を食わせており、身を持って実感してもらっている。


「ふむ、それが事実ならばこの国の状況も改善するであろう。……それで、其方達は褒美が欲しいと申すのであったよな?」

「いえ、違います。褒美が欲しいのではなく、対等な取引として対価が欲しいのです」


 褒美と言うのは、言ってしまえば上から下に渡す物だ。それも、渡す物の最終決定権は、渡す側にあると言うオマケ付きだ。

 今回のような対等な取引で使うモノではない。


「いちいち、癪に障る言い方をするな」


 不機嫌さを隠しもせずに女王が言う。

 この女王、ナチュラルで上から目線だから、敬意ポイントがガンガン減っていくな。


「……まあよい。今は時間も無いから其方の言うように取引でよい。して、其方達の望む物は何だ?言ってみるが良い」

「珍しい魔法の道具マジックアイテムがあればそれを。この国でしか得られない価値のある物があればそれでも。後、この国を観光する権利も頂ければと思います」


 本当はレアスキルが欲しいのだが、この国にはレアスキル持ちがほとんどいないし、数少ないレアスキルも俺達が既に持っているモノだけなのだ。

 人魚の中で一番のレアスキル持ちは、ウチの人魚姫レーラなのである。


「よかろう。宝物庫から好きな物を持って行くが良い。観光も好きにするが良い」


 宝物庫の位置は既に確認済みだし、目ぼしいアイテムもリストアップ済みである。

 もし、対価を踏み倒そうとしたら、生まれてきたことを後悔させてやるつもりだ。


「わかりました。では、こちらになります」

「ミュール。鞄を受け取り、食料を配るがよい」

「は、はい。仁さん、失礼します」


 女王の指示で近づいてきたミュールに、アイテムボックスを手渡す。


「ミュール。まずは適当なものに食べさせるがよい」

「はい」


 ミュールは兵糧玉を取り出し、1番やつれている人魚に食べさせる。


「うおおおおおおおおお!!!漲 っ て く るうううううう!!!」


 元気が漲った人魚が雄叫びを上げる。

 ちなみに女性(トップレス)である。萎びていた胸にも張りが戻る。


「き、気持ち悪い程に効果があるのだな……」


 その様子を見て女王も引いている。俺も引いている。

 復活した女性トップレスはミュールから兵糧玉を受け取り、別の者に食べさせていく。兵糧玉は多めに入れてあるので、食べられない者は出て来ないだろう。


「うおおおおおおおおお!!!」

「はあああああああああ!!!」

「ぐおおおおおおおおお!!!」


 兵糧玉を食べた人魚達があちこちで漲っている。

 違う。俺の知っている人魚と違う。俺の知っている人魚は水中を優雅に泳ぐのだ。


「ミュールよ。お主達は王宮外の者達に食料を配れ」

「はい!女王様、お任せください」


 女王の指示を受け、ミュールを含めた数名の人魚が食料と共に謁見の間を出て行く。

 ミュールが出て行くと、女王は再び俺に話しかける。


「其方達は宝物庫に行き、対価とやらを選ぶが良い」

「はい、分かりました。対価を選ぶ条件は何が有りますか?個数とか、価値とか……」

「妾に宝物の価値は分からぬ。お主達が等価と思うだけ持って行くがよい。どうせ、妾達には必要なモノではないからな」


 あら、意外と太っ腹。


「分かりました。そうさせてもらいます」


 とは言え、何もかもを持って行くつもりはない。

 基本、与えた兵糧玉と等価、より少し多め(手数料込み)にするつもりだ。



 俺達は案内の人魚ミュールではないに連れられ、宝物庫へと向かった。


「この中にある物からお選びください。外にいますので、終わりましたらお呼びください」


 宝物庫の前で案内の人魚が言う。


「ああ、ありがとう」

「ごゆっくりどうぞ」


 さて、早速物色タイムに突入だ。

 まあ、必ず持って行く物は既に決めているのだが。


《仁様、女王が敵の表示になっていますが、よろしいのですか?斬りますか?》


 と思ったら、マリアが念話で尋ねてきた。

 人魚が近くにいるから、念話での確認と言うことだな。


《斬るな、斬るな。別に女王が敵になったところで、何の問題も無いだろ?内心で憎く思っていても、表に出さずに接する事くらい、女王なら出来て当然だからな。直接的な行動が無ければ、目くじらを立てるようなモノじゃないさ》

《仁様がそう仰るのでしたら、私は警戒を続けるだけにいたします》


 エルガント神国のように敵地とまでは言わないが、少なくとも国のトップから嫌われている以上、警戒は必要だ。

 しかし、敵意と害意は違う。敵意だけなら、こちらから攻撃すると言うのも違うだろう。


 ……最近、警戒無しの観光が少ないのが残念だな。レガリア獣人国はどうだろう?


《そうしてくれ。ただ、直接的な行動に出たら、その限りじゃないからな》

《はい、分かりました》


 念話が一段落したところで、宝物の捜索も一段落着いていた。

 マップがあるから、態々探す必要が無いのだ。


「ミオちゃんはこれね。まさか本当にシリーズものだったとは……」


 ミオが欲しいと言ったのは防具だった。


人魚の宝円盾

分類:盾

レア度:伝説級

備考:炎熱完全制御


 ……訂正、盾と付いているが、俺の目には鍋にしか見えなかった。

 本来の盾とは異なる位置に取っ手が付いているし……。


 多分、以前『竜人種ドラゴニュートの秘境』で手に入れた包丁と同じ分類だろう。

 包丁の剣と鍋の盾とか、明らかなネタ装備だよな。鍋は兜の方が相応しい気もするが。


「ミオ、今度秘境で手に入れた包丁を持って、その鍋を頭に被った姿を見せてくれないか?」

「え……、何でそんな変な格好を……?」

「ミオにはネタ装備が似合う気がするんだよ」

「酷い!ネタキャラ扱いは酷い!」


 え?ミオってネタキャラ枠だよね?


「また、仁君がミオちゃんを弄っています……」

「仁様、私で良ければ装備いたします」

「マリアか……。意外性があって偶にはいいかもしれないが……。頭装備で猫耳が隠れるのはいただけないな。ミオ、その鍋に猫耳用の穴をあけてもいいか?」

「穴が開いたら鍋としての存在意義がなくなるって!」


 ミオの必死の説得により、諦めることになりました。残念。

 ついでに言うと、マリアも残念そうだ。


 さて、ミオを弄るのはこれくらいにして、お次のお宝はコチラ。


ダンジョンコア

迷宮の力の源であるコア。ダンジョンマスター未登録状態。


 うん。

 まあ。

 コレを放置するのはダメだろう!?


 迷宮の心臓部だよ!?

 迷宮の結界のおかげで安全な国なのに、ダンジョンコアがこの扱いってどうよ!?


 ちなみに、ダンジョンコアは箱に入れられ、宝物庫の隅の方に無造作に置かれていた。

 その周辺には服や装飾品が雑な感じで置かれている。

 扱われ方が他の宝物とは完全に違う。


 流石にダンジョンコアは貰えないよな。

 この事は女王に伝えておいた方が良いのかな?


 その他、適当な物を見繕って兵糧玉と大体等価(命の価値)になるようにしました。



 再びの謁見の間。


 国中の飢餓人魚達が漲り、ミュール達が戻って来る頃に俺達も謁見の間に戻った。

 人魚達に死者はなく、ギリギリのところで間に合ったようだ。


「女王様、無事に全ての国民を救うことが出来ました」

「うむ、それは良かった。お主達もご苦労であった」

「はっ、勿体ないお言葉です」


 ミュールの報告を聞き、女王が満足そうに頷く。

 しかし、ミュールの表情は晴れない。


「しかし、依然として食料が、魚がいない状況は変わりません。如何すべきでしょうか?」

「うーむ……」


 ミュールの言葉に、考え込む女王。


 そう、今回の食糧支援はあくまでも一時しのぎでしかない。

 本質的な解決にはなっていないのである。

 条件が合えば、俺達が解決してもいいんだけどね。原因も対策も分かっている訳だし……。


「調査をするのは必須であろうな。人選は任せる。しかし、調査の間にも食料は不足するな」

「仁様に頂いた食料はあまり残っていません。何らかの手を打たなければなりません」

「ふむ……」


 再び考えを巡らせる女王。そして、俺達の方に顔を向ける。


「其方、仁とか言ったな。其方に継続的な食糧支援を頼むことは可能か?」

「食糧支援自体は可能ですが、対価となる物は有るのでしょうか?先程宝物庫で見たのですが、継続的な支援をするには不足しているかと思います」


 より正確に言うのなら、高価な物はまだ残っている。

 しかし、俺や仲間にとって興味のない物なら、いくら価値が高かろうがいらない。

 価値があっても欲しくないのだから、取引にはならない。


 金だけでは動かない男、進堂仁です。


「価値があり、俺が欲しいと思う物はもう残っていませんから」

「むう……。そう言えば、其方達は何を対価として選んだのだ?」


 思い出したかのように聞いてくる女王。本当に宝物に興味が無いご様子。


「ええと、コレとコレと…………」


 俺は貰う予定の物を1つ1つ並べていく。

 箱入りのダンジョンコアも一応並べておく。これは持って行く訳ではなく、この場で質問をするために持ってきた。


「最後のこれは女王様にお聞きしたい事がありまして……」

「……嫌な物を持ってきたな」


 女王は露骨に嫌そうな顔をする。


「これが何かご存じなのですか?」

「妾は知らぬ。だが、それは前女王が後生大事に持っていた物だ。不快だから宝物庫に放り込ませたのだ」


 ダンジョンコアであると知らないようだな。

 そして、前女王はダンジョンマスターだったのかもしれない。


「不快と言うのは何故かお聞きしても?」

「妾が即位するために退けた女の私物、不快に決まっておろう?」


 なるほど、それで宝物庫に適当に置かれていたのか。

 と言うことは、あの一帯にあったのは前女王の持ち物って事だな。


 前女王と現女王の関係か。前女王の話をする時の表情から察するに、現女王が前女王を一方的に妬んでいたのではないだろうか。

 前女王を退けたというのも、それが理由だろう。

 そして、恐らくその方法は奇襲に近いものだったのだろう。そうでなければ、迷宮ダンジョン内で迷宮支配者ダンジョンマスターが不覚を取るとは思えない。


「もう1つお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「申してみるがよい」

「この国の周囲の結界について、仕組みなどはご存知でしょうか?」


 ダンジョンコアを宝物庫に放置するような女王だ。知らない可能性は高い。

 しかし、今後の対応を決めるためにも聞いておきたい。


「知らぬ。昔からそうであったし、今後もこのままであろう。誰も調べようとはせぬ」

「仁様、大昔の女王様の言伝で、結界について調べることは禁じられています。分かっていることは王家の血筋が途絶えた時、結界が消滅するということだけです」


 女王の発言をミュールが補足してくれる。


 前女王が大事にしていたと言うことを考えると、女王だけはダンジョンコアの事や、結界の事を理解していたのだろう。王家、秘中の秘という事か。

 『竜人種ドラゴニュートの秘境』とは違い、伝えるべき相手にはダンジョンコアの事を伝えていたんだな。感心感心。

 ……まあ、反逆が起きて失伝していたら世話ないけど。


 それと、王家の血を継ぐ者がいなくなると結界が消滅すると言うのは、ダンジョンコアを調べた時に分かった設定の1つだ。

 ここのダンジョンコアは設定を変えられており、色々と制限がかけられている。


 まず、王家以外の者が迷宮支配者ダンジョンマスターになることは出来ない。

 正確に言うと、迷宮支配者ダンジョンマスターになった時に得られる情報が得られないので、ダンジョンコアの操作が一切できないのだ。

 加えて、例え王家の者が迷宮支配者ダンジョンマスターになったとしても、得られる情報が限定的な為、前述の設定を変えることが出来ない。


 ついでに言うと、迷宮支配者ダンジョンマスターの不老設定も無効化されているので、迷宮支配者ダンジョンマスターは普通に世代交代をするようになっている。

 酷く乱暴に言えば、女王とは世代交代をする結界維持装置となる。


 そんな事を考えていると、女王は俺の横にいたマリアとミオを見つめていた。


「こちらからも其方に聞きたいのだが、其方……人魚の娘が欲しくはないか?」

「女王様!?」


 女王の発言に声を上げたのはミュールだ。


「ミュールよ。少し黙っておれ」

「っ……」


 女王に睨まれ、ミュールは何も言えなくなる。


「人間は人魚を捕らえる。つまり、人魚にはそれだけの価値があると言うことに他ならぬ。ならば、食糧支援の対価に人魚を渡す事は有りなのではないか?」


 なるほど。理に適っているといえば、適っている……のか?

 国のトップが自国の民を売り払うというのは問題だとは思う。でも、他に手が無いのなら悪手と言い切ることも出来ない。


「親に恨まれるのは御免なのですが……」


 俺は基本的に孤児か奴隷しか買わない(例外:ユニークスキルの村)。

 親に捨てられた奴隷か、親を失った孤児。要するに血の繋がりを失った者達だ。

 色々な意味で、それが一番面倒がない。親と子を俺の手で切り離すのが嫌だという理由もある。最初から切れているモノは知らん。


「安心すると良い。丁度良い事に、今は親のいない娘も大勢いる」


 それ、丁度良かったとしても、良かった事ではないよね。


「やはり、彼女達を……」

「ミュール、黙っておれと言ったはずだぞ」


 再び黙るミュール。


 あ、ピンときた!全てが繋がった!

 前女王とレーラが親子だったと仮定すると全てが繋がる。


 レーラは現在3歳、つまり、女王が変わったのは3年前くらいだと思われる。

 そして、前女王の私物を排除した現女王は、女王の周りにいた人魚も排除しただろう。

 その『排除』が死刑だったらどうなる?当然、子供が孤児になる。

 3年前なら、大半の子供は子供のままだろう。


 エグいな。

 自分で孤児にした子供達を、孤児だからと言う理由で売り飛ばすのか。

 そして、それを買う俺……。ないわー。


A:マスター。むしろ買ってあげた方が幸せかと思います。


 どゆこと?


A:そのような経緯で孤児となった子供が、まともな生活を送れていると思われますか?今回の食糧難で、一番死に近かったのもその孤児達です。


 察した。


海底ドームに突っ込みどころが多いのは理解しています。

ドームがあるのは深海なのか?深海なら光は届くのか?深海じゃないなら海の構造はどうなっているのか?

色々考えたけど、諦めました。

仮設定として、この世界の海は深海と言う程深くなく、水の屈折率とかの関係である程度の深さなら光が届くとか、その辺でお茶を濁します。

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