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異世界転移で女神様から祝福を! ~いえ、手持ちの異能があるので結構です~ 作者:コーダ

第10章 レガリア獣人国編

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第145話 港町と出航

第10章 レガリア獣人国編開始します。


 レガリア獣人国。

 その名の通り、国民の9割以上が獣人の国であり、人間中心の国とは折り合いが悪い事で有名だ。より正確に言えば、人間至上主義の国とは折り合いが悪い。当然である。

 余談だが、人間至上主義と呼ぶ場合、何故かエルフは人間扱いで『至上』の方に入る。


 地理的に言うと、エルガント神国から見て北に位置する国家で、小国を2つ程超える必要がある。


 人間を超える身体能力を持つ(事が多い)獣人主体の国と言うこともあり、武力に力を入れている脳筋国家としても有名だ。

 軍事国家ではないので、そこのところを勘違いしないように。

 もちろん、兵士は強いのだが、として考えるとちょっと微妙だったりする。要は力任せのゴリ押しなのである。


 今回、そんなレガリア獣人国から招待状が来たのである。

 サクヤからの連絡を受け、『ポータル』で私室に転移して話を聞く。


「それで、詳しい事を聞いてもいいか?」

「うん、レガリア獣人国からお兄ちゃんに……女王騎士ジーンへの招待状が届いたの。はい、これがその招待状」


 そう言ってサクヤは俺に手紙を手渡した。

 どれどれ……。


 手紙によると、レガリア獣人国としての招待ではなく、女王であるシャロンからの個人的な招待であるようだ。

 何でも、首脳会議の時にジーンを見て、その強さを感じ取り、いずれ話をしたいと思っていたようだ。しかし、首脳会議中は女王サクヤの護衛をしていたので機会がなかった。

 そこで、首脳会議が終わってから、改めて招待することにしたそうだ。


「国に戻ってから書いたにしては、手紙が届くのが早くないか?」

「ああ、それは手紙を運んできたのが鳥だからだよ」

「そう言えば、動物を操る祝福ギフトを持つ勇者がいるんだっけ……」


 エルガント神国から首脳会議の知らせを運んだのも、勇者の操る鳥だったはずだ。


「勇者とは別の人らしいけど、同じような能力みたい。その鳥に返事を持たせれば、勝手に帰っていくから、少しだけ餌を与えて欲しいって書いてあったよ」

「便利な能力だな。空が飛べると、相当な時間短縮になるだろう」

「ご主人様が言うと、嫌味になりますわよ?」

「それもそうだな……」


 情報や物を伝達する手段なら、念話に『ポータル』に<無限収納インベントリ>と色々あるからね。

 加えて言えば、同じ空を飛ぶのでも、普通の鳥よりも天空竜ブルーの方が速いだろう。


「本当は俺達も空を飛んで行く方が速いんだろうけど、今回は船旅をしてみたいな。この世界に来てからは初めてだし……」


 ここで、少し地理の話をしようと思う。


 旧エルディア王国の北にはサノキア王国、その先にエルガント神国、さらに先にレガリア獣人国がある。そして、西には魔族の領土が広がっている。

 エルディア王国は元々内陸国だったが、カスタール女王国に滅ぼされる前には内陸国ではなくなっていた。

 エルディア王国が勇者召喚の直前に滅ぼし、吸収した小国が海に面していたからである。


 つまり、エルディア王国を滅ぼし、属領とした現在のカスタール女王国も内陸国ではないのである(元々内陸国)。

 加えて言うと、レガリア獣人国も北側が海に面している。

 何が言いたいかと言うと、カスタール女王国とレガリア獣人国は、海を通れば国を跨がないで移動できるのだ。


 折角、国と国が海によって繋がったのだ。優雅な船旅と言うのも一興だろう。


「つまり、行くってことでいいの?」


 サクヤの問いに頷く。


「ああ、俺もあのシャロンって女王は嫌いじゃなかったからな。折角誘ってくれるなら、行ってみるのもいいだろうよ」


 シャロン女王と直接話をしたことはないが、七宝院との模擬戦の様子を見た限り、嫌いではない性格をしていたと感じている。


「結局、ミオちゃんの言った通りになりそう……」

「そうよね。無いはずのシャロン女王との接点が当たり前のように出てくるんだもの……。本当にシャロン女王が配下に加わるのも時間の問題みたいだわね」


 サクヤの呟きにミオが反応する。


 エルガント神国で出た話だな。

 あの時、ミオは冗談半分でいずれはシャロンも配下に加わるだろうと言っていた。

 俺はシャロンとの接点がないから可能性は低いと考えていたのだが……この有様である。


「……………………」


 故に俺は何も言い返せない。

 でも、何となくシャロンは奴隷とか部下って感じじゃないんだよな。何故だろう?


「仁君……。私、船酔いが酷い体質なんですけど……」


 俺が黙っていると、さくらが申し訳なさそうに言った。

 知ってはいるけど、さくらって元の世界で生き難い体質しているよな……。


「<環境適応>があれば何とかなるんじゃないか?無理そうなら後で合流すればいい」

「あ、そうでした……。元の世界とは条件が違うんですよね……」

「素のステータスもあるし、そもそも船酔いにならない可能性もあるからな」


 船酔いの原因について詳しいわけではないが、ステータスやスキルでどうにもならないものでもないだろう。馬車の揺れは平気みたいだし……。

 もっと言えば、さくらの『リフレッシュ』の魔法でも治るはずだ。ある意味、さくらの専門分野とも言える。もっと自信を持っていいのだよ?


「分かりました……。船酔いになってから考えます……」

「ああ、それでいいと思う」


 さくらを置いていくという選択肢はそもそも存在しない。

 事前に連絡を入れれば、同行者は好きなだけ連れて行っていいと手紙にも書いてある。


「流石にサクヤは同行しないよな?」

「うん、無理。ホントは行きたいけど、仮にも女王だし、そんな頻繁に国を空けられないよ」


 と言うことは、メインパーティの面々と……。


「ブルー達、竜人種ドラゴニュート組を連れて行けばいいんだな」

「どういうことですの?」


 セラの問いに手紙を見せながら答える。


「ああ、手紙に書いてあるんだよ。出来れば、竜騎士ジーンには騎竜と共にレガリア獣人国に来て欲しいってさ」

「罠か何かでしょうか?」


 マリアが警戒するように呟く。


「可能性が無いとは言わないが、何となく大丈夫な気がする。手紙によると、正体を見せる必要も無いらしいぞ。ずっと兜をしていてもいいそうだ」


 手紙には相当こちらに気を使った内容が書かれている。

 船旅の場合、港の受け入れ準備をするし、シャロン女王直筆でレガリア獣人国内を自由に移動する許可証もある。当然、騎竜による飛行の制限も付けないし、街への通行料も免除だ。

 王城についた後も顔を晒す必要はなく、VIP待遇で迎えてくれるそうだ。

 むしろ、ここまで気を使われると、逆に罠に見えてくるまである。


「至れり尽くせりね。どんだけご主人様を呼びたいのよ」

「本気が伝わってきますわね」

「まあ、最悪罠だったら食い破ればいいし、気にするほどの事じゃないだろう。もちろん、警戒だけはしておくけどな」

「はい。仁様には指一本手出しさせません」


 マリアの目はいつも通り真剣マジである。


「と言う訳で、レガリア獣人国までは船で海路、そこから先は竜人種ドラゴニュートで空路って事で、レガリア獣人国に返信してくれるか?」

「了解。じゃあ、その内容で手紙を書くね。あーあ、私も船旅してみたかったなー」


 サクヤが本気で残念そうに呟く。

 エルガント神国に長期外出したばかりだからね。女王が短期間に何度も外出されたら、内政の方がヤバいよね。ただでさえ、サクヤはこの国唯一の王族なのだから。



 レガリア獣人国から招待状が届いてから2日。

 俺達はメルティス領へと足を運んでいた。


 実は、この世界では陸路よりも海路の方が速く移動ができる。

 理由は単純で、船は魔法の道具マジックアイテムにより高性能化しやすいが、馬車の方は高性能化が困難だからである。

 過去、勇者が魔法の道具マジックアイテムをエンジンの代わりにした車を作ろうとしたのだが、舗装されている路面の方が少ない世界でまともに運用できる訳が無い。魔物も盗賊もいるので、リスクも非常に大きい。


 その点、海路の方はメリットの方がはるかに上回る。

 まず、海の方が陸よりも魔物が少ない。かつ、それほど強い魔物は生息していない。……少なくとも、人が船を出す範囲には。

 その為、造船技術の方は着実に向上しており、魔法の道具マジックアイテムで高性能化と言うのも昨日今日始まった事ではないのだ。

 海賊に遭遇する危険は0ではないが、大抵の船は護衛手段を持っているので、襲う側もただでは済まない。そもそも、海賊をまともに出来る程の造船技術があるのなら海運業でもやった方が実入りは良い。

 つまり、造船技術に優れる国と言うのは、それだけで一定の価値を持っているのである。


 今、俺達が来ているメルティス領、いや、メルティス王国もかつては造船技術に関して世に名を轟かせていたのである。


 ちなみに、メルティス王国は勇者召喚直前にエルディア王国に滅ぼされた小国の事だ。

 エルディアがメルティス王国を滅ぼした、占領したのも造船技術を奪うことが目的だったと言うのは、エルディアを滅ぼした後に分かったことである。

 勇者を船で移送する際、メルティス王国が交通の要となるのは分かっていたので、事前に自国の領土にしようと言う腹積もりだったようだ。

 その事に気付いたメルティス王国は、わずかな王族と技術者達を逃がすことに注力した。

 王族のほとんどを殺され、住民の多くが殺されるか奴隷にされても、決して造船技術だけはエルディアに渡らないようにしたのだ。


 そんなメルティス王国の港町だが、俺達がやって来た時にはほぼ完全に復興していた。

 そして……。


「ジーン様!これも持って行ってください!」

「ウチの魚あるだけ全部です!」

「今日は店じまいだ!ジーン様に全部渡して来い!」


 滅茶苦茶人が集まって来ていた。

 簡単に言うと、俺と仲間達が一歩も動けないくらいに人が集まっているのである。


 そして、集まった人達は有らん限りの貢ぎ物をしてくるのである。

 喧騒の中で聞こえるように、商店の経営者は店の商品全てを持ってくる勢いである。


「えーっと、こんな事をされても困るんですけど……。あ、良いお魚」

「魚だ!魚をご所望だ!もっと持ってこい!」

「あ、ヤバッ……」


 断ろうとしたミオがついつい料理人の視点で呟くと、一気に魚の貢ぎ物が増えて行った。


 何故、このような状況に陥ったのか。


 その理由は2つ。

 1つはメルティス王国がエルディア王国に強い恨みを持っていたから、エルディアをほぼ単独で滅ぼした女王騎士ジーンに感謝と強い憧れと敬意を抱いているからである。

 もう1つはメルティス王国を復興させたのがご存知アドバンス商会だからである。


 エルディア王国を滅ぼした際、アドバンス商会はエルディア王国内の復興よりもメルティス王国、もといメルティス領の復興を優先した。

 街の復興は元より、奴隷として売られた者も全員買戻しているのである。他国に売られた者も含め、生きている奴隷は全員である。

 解放こそしていないものの、元の家で家族と共に暮らすことを認め、働きによっては解放も可能となっている。


 アドバンス商会とジーンが懇意と言うことは知る人は知る。

 ジーンへの感謝とアドバンス商会への感謝が相まって、ジーンの人気は天井知らずと言ってもいいレベルになっている。具体的にはメルティス領中から人が集まって俺達の様子を見に来ているくらいである。

 ついでに言うと、技術者連中もあっさり帰国しており、カスタール女王国へ造船技術を提供している。エルディアに渡すのは嫌だけど、カスタールに渡すのはOKらしい。


 正直言ってここまで人気とは思っていなかった。

 港町に入ったのは良いものの、そこからほとんど進めない。

 仕方がないのでメイドを呼び、荷物と人の整理を頼むことになってしまった。ああ、当然だけどこの街にもアドバンス商店の支店はあるよ。

 そして、住民の皆さん、メイドの指示に滅茶苦茶従順ですね。


 本来は10分で済むところ、1時間近くかかってようやく港が見えてきた。


「やっとここまで来れましたね……」

《人ごみやだー》


 人に注目されることに慣れていないさくらとドーラがぐったりしている。

 俺?俺はそこそこ機会があるから、それ程でもないかな。元の世界でもそうだし、この世界でもパーティとかで信者の視線に晒されているから。


「さくら様、ドーラちゃん、飲み物をどうぞ」

「ミオちゃん、ありがとうございます……」

《ありがとー》

「仁様もどうぞ」


 さくら達にはミオが、俺にはマリアが飲み物を手渡す。

 俺は一応ジーン装備、つまり鎧を付けているので、鎧の隙間からストローでチューチュー吸う。数種類のフルーツ果汁を混ぜたトロピカルなジュースだった。

 トロピカルなジュースを鎧姿で飲む騎士、それが女王騎士ジーンだ。意味不明だ。


「俺達が乗る予定の船って……もしかして今見えている奴か?」


 今、俺達の前には馬鹿みたいにデカい船が一隻停留している。

 ざっと目算しても200mは優に超えている。


「はい、あれが仁様専用の船です」

「俺……専用……?」


 聞き捨てならないセリフがマリアから飛んできた。

 え?だって、アレ……客船じゃん?個人用の船じゃないよね?


 てっきり、メルティス領の船を借りるモノだと思っていたんだけど……。


「はい。メルティス領を開放した時、ルセアさんの指示で建造メイドが仁様専用の船の建造に取り掛かったそうです。仁様がいずれ船旅を望んだ時、すぐにでも対応できるように、とのことです」


 建造メイドって何!?


「ルセアの先見の明を褒めればいいのか、確証も無しにあのレベルの船を建造したことに驚けばいいのか悩むな……」


 実際に船旅を望んだのだから無駄にはなっていない。

 しかし、無駄になる可能性は0ではなかった。普通、躊躇するよね?最低でも俺に尋ねるよね?……メイド、怖!


「驚いていいと思いますわよ」

「ミオちゃんもメイド軍団の事を舐めていたわ。もう、何があっても絶対に驚かない」

《やっぱりメイドってすごーい!》

「メイドって何なのでしょうね……?」


 俺だけでなく、他の皆もメイドと言う単語の概念が揺らいでいる。


「そう言えば、あの船に名前ってあるのか?」

「仮の名前は有りますが、正式な名前は仁様に付けて頂こうと考えております」

「じゃあ、『タイタ……』」

「ストップ!」


 ミオのストップがかかる。最後まで言わせろよ。


「じゃあ、『メアリーセ……』」

「ストーーップ!!!」


 これもダメか……。えーと、他に悲劇的な船の名前は……。


「ご主人様、冗談は止めましょ?ね?お願いだから。特にホラーは止めて。本気で……」


 ミオの泣きが入ったので真面目に考えるとするか。

 俺、ネーミングセンスはイマイチなんだけどな……。


 船の名前に所有者の名前を入れるパターンって結構あるよな。でも、仁もジーンも入れたくはない。となると……。


「じゃあ、『クイーン・サクヤ号』で」

「それ、完全にサクヤちゃんの船じゃない。流石にどうかと思うわよ?」

「サクヤちゃん、ほぼ関係ないですよね……」

「でも、ただの女王騎士がこのサイズの船を所有しているというよりは、女王から借りていると言う方が自然だと思ったんだけど……」


 さっきも言ったが、明らかに客船である。

 こんなものを個人所有している一騎士とか不自然極まりない。


「一理あるわね……」


 一応確認しておこう。


《いいよー》

《まだ連絡していないんだが?》


 連絡する前にサクヤからOKが出た。


《アルタから聞いたの。名義を貸すくらいなら自由にしていいからね。ただ、私にも使わせてくれるとありがたいかな》

《俺が使わない時ならいいぞ》

《やったー!ありがとー!》


 カスタールは内陸国だから元々船なんて持っていない。

 しかし、海に面した国を領地化した以上は船の一隻でも持っていないと示しがつかない。

 この提案はサクヤとしても渡りに『船』だったという話だ。……うむ、良い感じに『船』が掛かってくれた。



 俺達は2名のメイドに案内されて『クイーン・サクヤ号』へと乗船した。

 船内をマップで見てみると、客室の他にホールやプール、ゲームルームなどもあった。これ、豪華客船と呼ばれる存在だ……。


「この船って客船なのか?」


 気になったのでメイドに尋ねてみる。


「用途は限定していませんが、客船としても使用できるようにはしています」

「少ないとはいえ、魔物や海賊の被害を受ける可能性がありますので、武器もそれなりに詰んでおります」


 同じくマップで確認し……なんだこれ?城でも落としに行くつもりなのか?

 この船には馬鹿みたいに大量の魔法の道具マジックアイテムが搭載されていた。

 ここまで武装するなんて、物騒な話だ。…………今日は下らないジョークが絶好調だな。


「こちらがご主人様達の宿泊される客室になります」

「今回の航海ではご主人様達以外には乗組員しか乗っておりませんので、どの部屋をお使いいただいても構いませんが、この区画が一番高級な造りになっております」


 見なくても分かる。

 扉の間隔が滅茶苦茶広い。つまり、中の部屋も滅茶苦茶広いと言うことだ。


「分かった。じゃあ、適当に部屋割りを……」

《ごしゅじんさまといっしょー!》

「私も仁様と同室を希望します」

「私……広すぎる部屋は落ち着かなくて……」

「じゃあ、さくら様、一緒の部屋にしません?私もこのサイズは落ち着かなくて……」

「私だけ仲間外れにしないで欲しいですわ!」


 折角の大部屋だが、俺、ドーラ、マリアで一室。さくら、ミオ、セラで一室で、合わせて2部屋しか使用しない事になりましたとさ……。

 豪華一等客室とか、いきなりセレブな扱いされても戸惑うだけだよね?

 ちょっと前まで、エルガント神国で仮設住宅生活だぜ?


 客室に入り一息入れたところで、『クイーン・サクヤ号』が出発した。

 魔法の道具マジックアイテムで状態制御をしているらしく、動き出したのにほとんど揺れを感じない。マジで豪華客船だわ。


「そろそろ、ブルー達も呼んでおくか」


 レガリア獣人国に到着してから呼び出すのではなく、一緒に船旅をするつもりだ。

 メルティス領に行くときはブルー達も一緒だったのだが、メルティス領の混雑を見て一旦帰ってもらったのだ。混雑慣れしていないのは確実だったからね。


 俺は『召喚サモン』の魔法を使い、ブルー、リーフ、ミカヅキを呼んだ。


「もう船に乗ったのね。室内だからよく分からないけど……」

「ほんの少しですけど、揺れていますねー」

「もう出発しているようですね。北西方向に動いているようです」


 船内が珍しいのか、キョロキョロと周囲を見渡す3人。


「3人は部屋をどうする?」

「私はもちろんご主人様と同じ部屋を希望するわ」

「わたしはさくらちゃんと同じ部屋がいいですー」

「私は……どうしましょう?」


 俺が部屋割りを尋ねるとブルーとリーフは即答。ミカヅキだけが悩んでいた。


「別にミカヅキ1人で1つ部屋を使ってもいいぞ。山ほど空いているし……」


 ルームメイクの手間はかかるかもしれないけど、ダメと言われることはないだろう。

 ミカヅキもメイドに色々と仕込まれているから、ルームメイクくらいなら出来るはずだ。


「えーと、リーフ様と同じ部屋にします」

「ミカヅキちゃん、いらっしゃーい」


 結局、2部屋しか使わないのか……。


 俺達が客室を出ると、さくら達も同じように出てくるところだった。


「リーフとミカヅキがそっちの部屋を希望したんだが、構わないか?」

「ええ、大丈夫ですわ。ご主人様もご存知でしょうが、思っていた以上に広いですから……」

「後3人くらいなら平気だと思うわよ」

「人数が多い方が落ち着きます……。全員で一部屋でも良かったかもしれません……」


 さくらは広すぎる部屋に落ち着かないご様子。


「そう言えば、さくらの船酔いはどうだ?」


 今更だが、ふと思い出したので聞いてみる。


「平気みたいです……。大きく揺れたらどうなるかわからないですけど、今のところは……」

「それなら良かった。気分悪くなったら無理せず、すぐに対処しろよ?」

「はい……。いざとなったら『ルーム』に逃げ込みます……」


 『ルーム』は外の揺れの影響を受けません(設定にもよる)。

 便利!ただし船旅の醍醐味も消滅!


「今からデッキに向かおうと思っていたんだけど、そちらはどうする?」

「私達もそのつもりよ。いきなりゲームルームって訳にもいかないでしょ?」

「俺はゲーム、強いぜ?」

「ご主人様に運の絡むゲームで挑む訳ないでしょ。絶対負けるし」


 暇な時にトランプとかボードゲームをすることはあるが、俺が参加すると大抵俺の1人勝ちになってしまうので、ミオはいい顔をしない。

 俺も自分の意思とは別に勝ってしまうので、あまり参加しなくなった。<手加減>スキルは全く役に立たない。


「これが海なのね。本当にデカい水たまりだわ」

「大きいですねー。でも、あまり風は気持ち良くないですよー……」


 デッキに移動すると、海を初めて見た竜人種ドラゴニュート達がはしゃぎ始めた。

 なお、深緑竜フォレストドラゴンであるリーフには潮風は不評だった。植物に過度な塩分はNGです。いや、リーフ植物じゃねーし。


 ちなみに、初めて海を見たドーラも同じようにはしゃいでいました(INメルティス領)。

 竜人種ドラゴニュートに海を見た経験がないのは当然である。

 マリアとセラは前にメルティス領に来たことがあったらしく、リアクションは貰えませんでした。


 そうだ。海に来たんだから、リアクション見たい子がいるじゃないか。

 マップで様子を確認し、問題がなさそうだったので『召喚サモン』する。


「きゃ!?え、なに……?」


 現れたのはご存知、人魚姫レーラである。海と言ったら人魚だろう。

 大海蛇シーサーペントのメープル?知らんな。アイツは湖が住処だ。


 俺がエルガント神国にいる間に人間の言葉を少し覚え、<変化へんげ>による人化や二足歩行もマスターしたレーラが、水着姿で現れた。無駄に色っぽい赤いビキニである。

 おい、3歳児……。


「よっ!」

「あ、ジン……」


 俺を見て少しだけビクッとするレーラ。

 まだ、慣れてくれない。


「レーラのこと、よんだの?」

「ああ、折角海に来たから、レーラにも見せてやろうと思ってな」

「うみ? ……うわー!」


 周囲を見渡し、目をキラキラさせるレーラ。


「なつかしいきがする!ジン!およいでもいい!?」

「良いけど、移動中だから置いていくことになるぞ?」


 それならそれで『召喚サモン』をすればいいんだけどな。


「このくらいなら、すぐにおいつけるよ?」

「ご主人様、この間見せてもらったんだけどね、レーラちゃん、水中だとマジで速いわよ」


 レーラの発言をミオが補足する。


「ミオとレーラって仲が良いのか?」

「……私の料理を一番気に入ったみたいね。その縁で色々とお話しするようになったわ」

「ミオのりょうりがすき!もっとたべたい!」


 ああ、それなら仕方がないね。


「屋敷の食堂の常連、カトレア王女とも仲良くなってるわよ」

「アイツ、いつも食堂にいるよな」


 エステア王国王女カトレア。ウチの料理に惚れこみ、ほぼ毎食食べに来ている。

 結構な量食べているが、体型は一切崩れない。


「おっと、話が逸れたな……。泳いで追いつけても、船に上がれないのは同じじゃないか?」

「あ……」


 その事は考えていなかったようで、しょんぼりと肩を落とす。


「追いつけるかどうかは関係なく、さっきみたいに呼び出せばいいだけだから、泳いできてもいいぞ」

「わかった!ありがと!いってくる!」


 嬉しそうな表情と共に駆け出すレーラ(二足歩行はあまり速くない)。


「じゃま!ぬぐ!」


 途中でビキニのパンツを脱ぎ捨てる。

 確かに人魚モードで泳ぐには邪魔だろうけど、見た目10代中頃の少女がボトムレスで船の上を走るのは良くないと思います。


 レーラは船の縁まで行くと、躊躇なく海に飛び込んだ(念のため追いかけている。)。

 豪華客船だけあって、結構な高さがあるんだけど……。


「きもちいー!」


 海に入ったレーラは水を得た魚のように泳ぎ始めた(会心のギャグ)。

 先程の話を証明するかのように『クイーン・サクヤ号』と並走している。確かに速いな。


 なんか、レーラの周りに魚が一杯集まってきているのは気のせいかな?


A:気のせいではありません。レーラが無意識に<人魚の姫君マーメイド・プリンセス>を使用しています。


 レーラのユニークスキルである<人魚の姫君マーメイド・プリンセス>は水中で格下相手に命令権を持つという強力なスキルだ。

 魔物ではない魚なんて基本的に格下以外いないので、大体がレーラの支配下に置かれる。

 無意識に魅了して魚群を引き連れることになっているようだ。

 これは海の幸ゲットのチャンス?


 そんな事を考えていたら、船の下の方からレーラの近くに網が投げられるのが見えた。

 どうやら、客室エリアの下には漁のためのエリアがあるようで、そこから網が投げ込まれたらしい。

 レーラの特性を知ったメイド達が動いたようだ。しっかりとレーラを利用するメイド達に脱帽である。もちろん、レーラが網にかからないようにはしていた。

 客船かと思ったら漁船でもあるようだ。ちなみに今日の夕食は海鮮料理らしい(ただし骨はない)。



 レーラが満足するまで泳いだようなので、『召喚サモン』によって回収する。

 既に日が暮れ始めていたので、俺達も客室へと戻る。


「お邪魔しているのじゃー」

「お帰りなさい」

「お帰りなの」

「何だ、エルとアヤも来ていたのか?」


 扉を開けると先に戻っていたブルーの他に、始祖神竜エル彩人アヤが出迎えてくれた。


「ブルーが居なくて、寂しいからアヤも来たの!」

「寂しくはないが、ブルーもアヤも行くのに、妾だけ行かないというのも嫌だったのじゃ」


 最近では何故かこの3人がセットになっていることが多い。

 簡単に言えば、俺の部屋で寝ている組だな。


「寝るときには帰るから邪魔はしないの」

「しばらくは顕現したままのようじゃから、自由にさせてもらうのじゃ」


 エルガント神国では念のため使い魔エル大精霊レインと同化した状態にしていたが、今回の旅では敵地と言う訳でもないのでそこまでの用心はしていない。

 エルは顕現した状態で自由にさせている。まあ、レインの方は暇さえあれば俺の精霊石の中に入っているんだけど……。今は……いるね。


「別にここで寝てもいいけど?」


 まだ、部屋は十分に空いている。

 しかし、アヤは首を横に振った。


「別にいいの。それに明日は朝から音楽隊の方で仕事があるの」

「ああ、そう言えばアヤも音楽隊に入ったんだっけ?」

「結構前から入っているの。色々といい刺激になっているの」


 1024人の灰人達にはそれぞれ個性があり、アヤは高い歌唱力を持っていた。

 灰人達の能力の検証が終わり、個性に合わせた何でも屋をやっている時にウチの音楽隊からも勧誘を受けたそうだ。

 以前、俺から音楽担当がいると聞いていたアヤも興味があったようで、頻繁に参加しているようだ。


「レーラはおるすばん」

《よしよし》


 レーラがドーラに慰められている。

 レーラの方が身長は高いので、ドーラは少し飛行している。


「まだ、スキルの制御が出来ていないし、人間の常識も少ないから仕方ないの」


 ウチの音楽隊のリーダーであるフィーユは音楽に貪欲である。

 高い歌唱スキルを持った人魚姫を放って置く訳も無く、レーラも当然のように勧誘している。

 レーラも泳ぐのと同じくらい歌うのが好きなので、それを了承。しかし、レーラはまだ人間の常識が無く、人前に出すのには不安がある。加えて、<魅了の歌声チャームボイス>が無意識に発動してしまうため、音楽隊として参加を許されていないのだ。

 精神操作のようなスキルで無理矢理感情を揺さぶるのは邪道、とはフィーユの談(筆談)。


「レーラはどうする?この後は帰るか?」

「かえる……。でも、あしたもくるかも」

「わかった。また、泳ぎたくなったら来ると良い」

「うん!」


 よし、海で泳がせてあげた事で、レーラの親密度が上がったみたいだ。

 ほんの少しだが、慣れてくれた気がする。



*************************************************************


設定


・スキルについて

 スキルには先天的なスキルと後天的なスキルがある。

 先天的なスキルは生まれつき持っているスキルだ。種族特有のスキルの他にも、<料理>など生活で役立つスキルや<剣術>など戦闘用のスキルが得られることもある。

 後天的なスキルは生まれた後、その人の行動によって得られるスキルだ。そのスキルに関連する行動をとった場合に得られることがある。


 スキルの多くにはレベルがあり、最大10レベルまで上げることが出来る。

 スキルのレベルを上げるには、そのスキルを反復使用、つまり訓練して熟練度を上げることでスキルポイントを得る必要がある。


 実は、後天的なスキルの獲得のためにスキルに関連する行動をとる事は、スキルの反復使用による訓練と同じような意味を持っている。

 スキルに関連する行動をとる事で、スキルを持っていないけどスキルの熟練度を上げる訓練をするのだ。

 しかし、全ての人が同じように訓練したからと言って、同じスキルを得られる訳ではない。


 スキルには種族、個人毎に適性がある。

 その適性が無ければ、如何に訓練をしてもスキルを得ることは出来ない。


 あえて、その適性の事を成長率と呼ぼう。

 成長率×熟練度がスキルポイントとなる。

 成長率0の者がいくら頑張っても、スキルには昇華されない。

 スキルレベルの上昇速度に個人差があるのは、この成長率が理由である。

 また、先天的に<剣術>などのスキルを持っている者は、生まれつき熟練度に補正があると言う事だ。大抵の場合、成長率も高い。


 ちなみに、進堂仁はこの成長率が全てのスキルで0なのである。

 対して、マリアを含む現地勇者は多くのスキルに、軒並み高い成長率を持つ。


 通常の転生者、転移者は異世界に生まれる・転移する時にスキルポイントは得られない。

 しかし、元の世界で元々持っていた才能、技術、知識は、消えるのではなく成長率・・・に加算されるという性質を持つ。

 つまり、転生者、転移者は地球の経験に関するスキルのレベルを上げやすいのだ。


 尚、仁の<生殺与奪ギブアンドテイク>は成長率を無視して、スキルを得ることができ、成長率を持っていない者に対して、低めではあるが成長率を与えることが出来る。


 「魔法は関連する行動がとれないので、先天的スキルに限られるのか?」という疑問に対する答えは、次回『魔法について』で紹介予定。

試しに設定を載せてみました。

仁は自分に関係する部分の話しかしないので、説明する機会が全くないんですよね。


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