東京・目黒での虐待死の裁判員裁判では、女児が受けた悲惨な状況が浮かんだ。「ゆるしてください」と書いた文字が何とも痛々しい。虐待死が相次ぐ。危険な兆候を見落とさぬ体制を整えたい。
悲しくてやりきれなくなる。保護責任者遺棄致死罪に問われた母親の初公判で明らかにされた数々の出来事だ。五歳の女児は生前にノートに言葉を残していた。「パパにべんきょうをおしえてもらったのにおれいをいわなかった」「べらんだでたたされた」
朝四時の起床を強いられ、九九の練習などをさせられた。できないとベランダに出され、食事も一日に汁物一、二杯を与えられるだけだった。三日連続で嘔吐(おうと)し、「おなか痛い」と言って目をつむり、意識が戻らぬままだった。
検察の冒頭陳述では、母親は夫が女児に暴行し、衰弱していたのに病院に連れて行かず、放置したと指摘した。母親も「間違いない」と大筋で認めた。ただ、「夫の報復が怖くて通報できなかった」とも。夫は保護責任者遺棄致死罪と傷害罪で起訴され、来月に初公判が予定される。
ある問題点が浮かぶ。引っ越す前の香川県の児童相談所では虐待の疑いをつかんでいた。二回にわたり一時保護もした。東京の児相に引き継がれたが、職員は女児との面会を拒否されていた。緊急性や危険性がもっと十分に引き継がれていたらと悔やまれる。
鹿児島・出水市で四歳の女児が虐待死した事件でも同じ問題をはらむ。引っ越し前の薩摩川内市では雨の日に下着一枚でいる姿が目撃され、児相も情報を把握していた。育児放棄と判断した。
警察は四回に及び女児を保護し、児相に一時保護の必要性を伝えたが、活(い)かされなかった。事件直前に出水市の保健師と相談員が母子と面談したが、頭や顔にあざが確認できず、「異常がない」と判断したのだ。認識が甘く、調査不足と言わざるを得ない。
事態は深刻だ。子どもへの体罰禁止や児相の体制強化を盛り込んだ改正児童虐待防止法などが六月に成立した。だが、法が整っても兆候を見落としては意味がない。
マンパワーも必要であるし、もっと危機意識を高めたい。児相など関係機関の連携にも教訓が残る。引き継ぎを徹底しないと取り返しのつかない悲劇は続く。すぐに子どもを保護する敏感な対応が必要でもある。社会にも命を最優先する決意が求められていよう。
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