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23代目デウス・エクス・マキナ ~イカレた未来世界で神様に就任しました~ 作者:パッセリ

第一部 神なる者、方舟に目覚めしこと【更新中】

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#51 天使よ天使よ天使さん

 結論から言うと、あの映像データは一族のほとんどの人の情報端末に送られていた。


 いくら隠れ里暮らしと言ったって、スマホみたいな個人用の端末を持ってる人はかなり多い。

 いつもは里の電子的遮蔽によって守られていたわけだが……移動中の無防備な隙に、映像を送り込むためのバックドアかなんかを作られていたらしい。


 申し訳程度に照明を増やした狭い鉄パイプ廊下のあちこちに、血栓のように人が詰まっている。

 俺達の姿を見ると、みんな揃って雪崩を打つように伏礼の姿勢となった。


「カジロ様!」

「神様!」

「族長様!」

「このようなものが!」


「もう知っている」


 族長さんが、先を争ってスマホ的な物体を見せようとする人々を制した。


 後に残ったのは、頭を下げる人々。

 ただ俺の姿を見たからってだけの礼じゃない。床に付いた手に力がこもる。


 ……分かるよ。

 何も言えないだろ、お前ら。でも分かるって。


 祭司の一族が、一族として生き延びることを最優先し同族すら切り捨てまくってきたのは、孤立無援だったからだ。

 いよいよ神様が来てくれたってのに、そこまでシビアに考えるのは辛いだろう。

 『神様パワーでなんとかできませんか?』って期待が痛いほど刺さる。


「……勇敢なる戦士達に祈りを捧げましょう」

「榊さん」


 アンヘルかと思うような感情の無い口調。

 黒革のヒール付きブーツを鳴らし、榊さんが一歩前に出た。


「彼ら五人は、私たち全員を逃がすため教会に捕らえられたのです。

 その勇気に敬意を。そして、たとえ教会に貶められようとその魂まで穢されることがないよう、私たちが誇らなければなりません」


 露骨に『もう死んだものと思え』という言い方に、反射的に何人かが顔を上げた。

 だが、彼らが何かを言う前に、族長さんが締める。


「左様」


 重い一言。

 顔を上げた数人は、喉まで出かかった何かの言葉を飲み込んで苦しげな表情になった。


「分かっておろうな、皆の衆?

 我らは最低でも9カ月の間、ここに隠れ住まねばならぬ。

 『眷属』は教会と戦う上で大きな力となるじゃろうが、それが10人揃うには時間が掛かる。

 我らはそれまで腕を磨き、『眷属』となるべき者を選定せねばならぬ」


 この管理者領域バックヤードには神のために用意されたトンデモ超兵器が山ほど眠っている。方舟を作った最盛期の地球テクノロジーによるガジェット、族長さん曰く地球遺産アーティファクトだ。

 じゃあなんでそれを持ち出して今すぐでも戦わないのかと言えば、眷属不足という問題がある。


 眷属は例外なく、常人離れした魔力コマンドリソースを持つ大魔術師グランド・サイだ。ひとり居ると居ないでガラッと状況が変わるのは、ここまでの榊さんを見ていて十分わかっている。

 眷属を任命できるのは1ヶ月にひとりまで。教会が手を出せない管理者領域バックヤードで9カ月雌伏し、眷属を揃えて教会と戦う……というのが俺達の作戦だった。

 少なくとも移動の前はそう決めていた。


「147年前の戦い……今よりもよほど力を持っていた我ら祭司の一族は、神と共に教会と戦い、それでも尚敗れたのだ。

 教会を侮るなよ。敵は邪悪であり、何よりも強大だ」


 族長さんの言葉に反論する人はいなかった。

 腹の内はともかくとして、少なくとも言葉では。


 * * *


「差し出がましい真似を致しました」

「いえ……」


 会議室に戻って来るなり、族長さんと榊さんは俺に頭を下げた。

 むしろ俺がごめんなさいだっつーの。俺は何も言えなかった。ふたりが憎まれ役買って出たんじゃないか。

 このまま俺が教会に乗り込んで捕虜を助け出し、クールに教会をぶっつぶすのがみんなの望みだ。だが俺はそんな楽観はもうできない。さっきムラマサ相手にあれだけ苦戦したからってのもあるけど……それだけじゃなくてな。


 教会を倒すって具体的にどうすりゃいいんだ?

 例えば俺がこっそり本部に忍び込んで、シャルロッテのじーちゃんを暗殺したりすれば勝ちなのか?

 いや違う。それじゃ別の奴が最高権力者に繰り上がるだけだ。

 じゃあ全員ぶっ殺せばいいのか? ……その全員ってどこまでだ? ……それを俺ひとりでできるのか? ……第一それをやりきったとして、その先、世界はどうなるんだ?


 ふと隣を見れば、そこには直立不動、影のように俺に付き従うアンヘル。


「アンヘル。俺は……教会に勝てるか?」

「カジロ様!?」


 榊さんが悲鳴のような声を上げた。


「質問の意図が必ずしも明確ではございませんが、『眷属』の数が増える事によって勝利の可能性が高まることは申し述べておきます」


 アンヘルの言い方はいつも通り、整然としていた。

 希望的観測は交えない、計算ではじき出した結果だけを端的に告げる。


 そうだ。それこそ俺が死んだらどうなる?

 ここに居る祭司の一族の人達だって、また路頭に迷って逃亡生活を送ることになりかねない。

 俺だってまだ勝ったつもりになっちゃいけないんだ。

 確実に勝つために、捕まった、人達は………………


 『必要な犠牲』?


「……冗談じゃない」


 その言葉を、俺は許さない。


「カジロ様?」

「見捨てられないよ」

「まさか、このまま教会と戦うと言うのですか!?」


 血相を変えた榊さんは俺の前に跪き、黒フリル眼帯すらむしり取ってこちらを見上げる。

 その顔は、橋の上で手すりに乗って遊んでいるアホ男子を必死で呼び戻そうとする母親によく似ていた(参考例:猛と母さん。なお奴は、案の定10m下の川に転落するも無傷で生還した)。


「恐れながら、それは犬死にに等しいのではないかと!

 『眷属』の数も揃わないままに戦ったとしても……」


 それはごもっともだ。耳が痛い。

 だけど俺だって感情任せに言ったわけじゃない。自殺願望があるわけじゃないからね。


「あれが、全員に送られた理由は何だと思う?」

「それは……一族の者達を焚き付けて、カジロ様を誘い出すためでは?」

「うん、半分はそれでいいと思う。でもそれで全部じゃない気がするんだ。

 これで俺と一族のみんなの間には、楔が打たれた。

 もしもここで5人を見捨てる選択をしたら、みんなは俺をどう思うだろう?」


 言うや、榊さんの目から感情が消えた。絶対なんか過激で悪いこと考えてるな。


「そういった不届き者が出るであろう事は、確かに残念ではあります。

 ですがおそらくそれは少数です。最終的に教会を倒すためである事は、ほとんどの者は理解していることでしょう」


 族長さんが断固たる口調で言った。

 もし文句を言う奴が居ればシバキ上げて黙らせるくらいするだろうし、もし決定を不服に思って行動に移す連中とか居たりしたら……考えたくはない。

 だが祭司の一族はそうやって生きてきた。この世界の支配者たる教会に追われ続ける中で命脈を繋ぐため、どこまでもシビアに。

 族長さんにとっては、これまでと同じようにするだけなのだ。


 だが俺は言いたい。状況は変わったんだと。


「俺達は9ヶ月もこの穴蔵にこもるんです。考え事をする時間はものすごくあると思いません?

 おまけにみんな、たぶん生まれて初めて、完全に安全な場所で過ごすことになる。生きるのに必死な時は考えないようなことを考えちゃうはず」


 ……たまに頭が良いこと言うと肩がこるぜ。

 人心把握・掌握術は三番目の親父から教わった。ゆーてその仕事ぶりを見られたのは、親父が秘書に裏切られてハメられるまでの半年ちょいだったけどさ。俺はその後の数週間で週刊誌記者ってやつが大嫌いになった。

 ともあれ、人心掌握なんてのは正直向いてないが、集団の心をどう読むかというのはまぁ多少分かってるつもりだ。


「……反乱が起きるとおっしゃいますか」

「いいえ、それはないでしょう。みんな不満をため込みはしても、勝つために我慢すると思います。

 それはかすり傷ですよ。致命的な掠り傷」


 少なくとも、俺への狂信や熱狂は消える。

 ただでさえ劣勢の中、勝つために必要な決死の勢いってやつが。


 進むも地獄、戻るも地獄。

 さすがだ、と敢えて言おう。あのジジイめ。

 集団の心理を操作し、爆弾を埋め込んだ。


「仮に……仮にですよ! そのために心変わりする者が出たとしましょう。ですが、忠誠心強く信心深い者から眷属を選び、その9人を揃えたとすれば、残りの兵全てを合わせたよりもお役に立てるのではないかと」

「んー……それももっともなんだけど」


 管理者領域バックヤードのトンデモ超兵器で武装させた兵士がどの程度の域に至るか、ってのがね。

 なにしろ俺も、使い勝手どころか何が置いてあるのか全部は把握してない。


「どうだ、アンヘル?

 そういうのってシミュレーションできないか?」

「変数が多すぎますので、確度は保証致しかねます。

 ですが軍略支援AI『ハンニバルver3.141592』によりますと……場合によっては拮抗致します」

「そんな……! そんなにも!?」


 青ざめた顔で榊さんが口元を覆った。


「あくまでも、眷属9名と他全ての戦闘員の戦力を比較した場合です。実際には9ヶ月後に戦端を開く場合、多少のマイナス要因はあっても眷属+戦闘員の編成で戦うことになるでしょう。

 さらに眷属の戦闘力を最小限に見積もり、現在の士気高揚や管理者領域バックヤードの兵器について最大限に評価した場合のシミュレーション結果です。

 現実的にはあまり意味が無いとも思われますが」

「まあなあ。でもつまり、『眷属が居れば他は無視して良い』ってわけじゃないのは確かだろ。待ったところで良いことばかりじゃない。

 ……質問を変えよう、アンヘル。俺は今戦ったら勝てるか?」

「カジロ様!」


 榊さんが悲鳴を上げる。その顔は、車に轢かれかけている我が子を見てしまった母親によく似ていた(参考例:猛と母さん。なお奴は、野生の勘によりTASめいた回避を見せ無傷で生還した)。


「ごめんよ。

 俺は馬鹿なことをしようとしてる。俺自身の哲学のために、合理的じゃないことをしようとしてる。

 だけど、もし今勝てるかも知れないなら、俺はもうじっとしていられない」


 別に俺だって、できないことをしようとするほどアホじゃあないさ。理想のために華々しく戦って死ぬなんて柄じゃない。

 だけど、そこに可能性があるなら試さずにいられない。

 別に正義を為そうとしてるんじゃない。より心が痛くない方向へ行こうとしてるだけだ。情けねぇなあ。


「アンヘル。前の戦いでどうやって負けたのか教えてくれ。それで俺が勝つ可能性、全部洗ってくれ」

「アンヘルさんどうか不確かな可能性は何が何でも徹底的に完膚なきまで祝福的に排除してください私泣きますよ!?」


 アンヘルに飛びついて必死でガクガクと揺する榊さん。人間だったら脳震盪になってんじゃないの? アンヘルボディの乳揺れがやばいけどエッチな気分ゼロ。


「……無理難題で済まない」

「私は世界運営支援システム。神による統治を補佐することが役目にございます。それゆえ、どうかお気遣い無く。それに……」


 ようやく解放されたアンヘルは衣服の乱れを無表情に整えながら言った。


「そこまで無理難題というわけでもなさそうですよ」

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