アルベドさん大勝利ぃ!   作:神谷涼

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 そんなわけで、それぞれの論功行賞です。



25:ワールドイズマイン

 

 ナザリック地下大墳墓、第十階層、玉座の間。

 ナザリック主要NPCのほぼ全てが集結していた。

 ここに彼らのが集合するは、モモンガがギルドの成り立ちやリアルについて語った時以来である。

 というか、モモンガに至っては別の階層に来る自体が久しぶりだ。

 

 今回も、モモンガは玉座に座り。

 左右に侍るのは、アルベドとソリュシャン。

 シャルティアとルプスレギナは、玉座前の面々の中に控えている。

 一方で、モモンガの膝の上には、ペット扱いで撫でられるエクレア。

 “決断”の時以来、モモンガから彼は大いに寵愛を受け。かつてとは別の意味で、一般メイドたちから様々なマイナス感情を受けていた。

 

「――といった状況でございます。モモンガ様」

 

 各方面の現状報告を述べて、デミウルゴスが一礼した。

 

「ふむ……さしあたり、最も気になる点について問おう。シズ・デルタよ」

「はい」

 

 無感情だが即答で、シズが答える。

 プレアデスの面々は、シズのテンションがいつになく高く、自信に満ちるとわかる。

 

「その巨大なハムスターはどうした?」

「……かわいい」

 

 シズが撫でてしがみついて見せる。

 確かにのどかな光景だが――他の面々は地上の魔獣を勝手に連れ込んで、御方の怒りを買うのではと、戦々恐々である。

 周囲の威圧に怯えていた魔獣が、注目に気づき、なんとか胸を張る。

 

「そ、それがし、森の賢王と――ひっ!」

 

 もっとも、アウラがぴしりと鞭で床を叩くと、その覚悟もたちまち砕けた。

 

「す、すみません、モモンガ様っ! 森で見つけた、一応森ではレベル高めで知能も高い魔獣です! 30レベル程度ですが……」

 

 代わって、アウラが説明する。

 

「表情も多彩で、声も含め実に愛らしいな」

「えっ?」

 

 モモンガの言葉に、アウラが呆気にとられる。

 いや、他のナザリック勢もだ。

 彼の魔獣は、実力はともかく外見においては凶暴そうで、フェンリルより物騒な外見をしている。

 正直、どこが愛らしいのか、わからない。

 ただ、シズだけが、うんうんと深く頷く。

 

「アウラが支配下に置いたのだな。魔樹討伐の指揮といい、今回のお前の功績は高いぞ」

「あ、ありがとうございます!」

 

 思わぬことで褒められ、アウラが戸惑うのも仕方あるまい。

 だが、モモンガは執拗にこの魔獣について問う。

 

「ところで、その魔獣は第六階層で飼うつもりか?」

「え? いえ……人間とも交流できるので、地上に配置しようかと」

 

 ネームバリュー、森の土地勘、手ごろな戦闘力などから割り出された結果である。

 

「ほう……確かにそうだな。ふむ。では、少し今だけ借りていいか?」

「か、かまいません! なんでしたら、モモンガ様にペットとして献上いたします!」

「え、ええっ!? 殿!?」

 

 予期せぬ言葉に、アウラは戸惑いつつ下僕として言う。

 だが、それに対しモモンガは少し考えこんだ。

 

「……いや。地上部への配置はお前たちが考えて決めたことだろう。私の些細な我儘(わがまま)で、その決定を変えるわけにはいかん」

「ああ……ありがとうございます!」

「「なんと慈悲深い……」」

 

 望むままに振舞ってくれてかまわないというのに。

 己たちを考慮し、尊重してくれる言葉に、その場の全員が感涙する。

 アルベドのみ、自分についても少し考えて欲しいと内心、思わぬでもなかったが。

 

「森の賢王と言ったか? こちらへ来るがよい。アウラとシズもな」

「はい(でござる)!」

 

 逆らうことなく三者が前に出る。

 

「うむ、その名は少し大げさだな……地上では好きに名乗ってかまわんが、私からはダイフk……いや、ハムスケだな。ハムスケと呼ばせてもらっていいか?」

 

 賢王の頭を撫でて言う、モモンガ。

 

「ははーっ! 大殿から名を(たまわ)るとは、この上なき名誉! これよりそれがし、ハムスケと名乗って生きていく所存でござる!」

「よしよし。愛らしいな、ハムスケ。では、ここで仰向けになってくれるか」

「あの、モモンガ様、動物の毛が玉座に」

 

 モモンガが玉座を立ち、ハムスケを玉座の足元へもたれさせた。

 栄光ある玉座に魔獣が触れるとあって、NPCらがざわつく。

 抱えられ、おっぱい置き場にされるエクレアも、清掃係として軽く抗議するが、聞く者はいない。

 

「うむ……よいな。やはり腹側はより柔らかく暖かい。少し重いかもしれん。苦しくなれば言え」

 

 そう言ってモモンガは、ハムスケの腹に身を沈めた。

 人をダメにするソファーに寝転ぶスタイルだ。

 

「平気でござるよ! それがし、力は強い方でござる!」

「では、アウラとシズも来るがよい」

 

 元気よく答えたハムスケに頷き、二人に両脇を示す。

 

「い、いいんですか!」

「うれしい……」

 

 いそいそと二人がさらに、モモンガの両脇に身を寄せた。

 小さな二人の体を抱えるようにし、モモンガが二人を撫でる。

 嬉しそうに、二人が目を細めた。

 マーレがうらめしそうに見ているが、魔樹討伐での指揮を考えれば仕方ないと首を振る。

 

「ああ……やはり、この御姿こそ、モモンガ様にはふさわしい……!」

 

 巨大ハムスターベッドに身を沈め、二人の少女を両脇に置き、ペンギンを抱える姿は、実にのどかで母性に溢れて見える。

 色ボケした雌顔ばかり見せられていたデミウルゴスは、尊い光景に涙した。

 セバスやユリといった良識派、母上と慕うパンドラズ・アクターも同様である。

 

「ああ、心地よいな。地上に人間の居住区を築いているならば、彼らに指示を出し、報告を聞く機会もあるだろう。その際には、このハムスケを玉座として使おう」

「ひょおおう、くすぐったいでござるよ、大殿~」

 

 ふかふかした腹の毛皮に、モモンガが頬ずりする。

 変な声を出すハムスケが、NPCらとしてはうっとうしいが。

 主が地上に関心を向けてくれたのは、ありがたい。

 特にアルベドは、内心で安堵の溜息をついていた。

 地上で活動するNPCらも、己の活躍を褒めてもらえると、気合が入っている。

 

 

 

 しばし、ハムスケを堪能して、改めてモモンガがNPCらを見る。

 

「さて……では、少々話がずれたな。恐怖公よ、王国での活動は見事だ」

「ハハーッ! 王国については、ほぼ問題なく進んでおります!」

 

 満足げにモモンガが頷く。

 

「お前の推挙する王女に会ってみたいが……当人は、こちらに来そうなのか? それとも、王都に留まりたがっているのか?」

「はっ、ラナー王女はこちらへの亡命を望んでおります。知性においてデミウルゴス様にも比肩し、政治能力が高く、知識も豊富……現地では最上級の人材かと」

 

 チラ、とデミウルゴスとパンドラズ・アクターを見るモモンガ。

 二人も深々と頷いて見せた。

 彼女についての評価を保証する、ということだ。

 

「ほう、今まで人間にろくな評価しなかったお前たちが、それほど誉めそやすとは興味深い。いいだろう、丁重に迎えよ。こちらに着いたならば、私も会わせてもらう」

 

 恐怖公が深々と礼をした。

 

「承知いたしました。現地のアダマンタイト級冒険者“蒼の薔薇”――現地では相当の実力者を手土産にもできましょう。それらも連れて参りましょうか?」

「ふむ……? 当人らの意志によるな。来てからトラブルを起こされても困る。恐怖公、セバス、お前たちの目と耳における評価を教えてもらえるか?」

 

 報告と風聞を興味深く聞くモモンガだったが……。

 

「同性愛者として有名な女盗賊だと?」

 

 およそ、どうでもいいところに注目し、彼女らも王女と共に来させるよう指示を出した。

 

 そのままセバスに英雄として振舞い、王国戦士長との再会を勧めて。

 ユリとシズに、カルネ村をナザリック領として進めるよう指示する。

 パンドラズ・アクターには、帝国での情報収集と人材確保を認めた。

 フールーダとの面会は、地上部建設が整ってからとして、保留した。

 そして。

 

「なるほど、そこまで腐り、非道を働いていたか……ニューロニストよ、貴族や犯罪者は好きに使い潰せ。特に非道な連中、己の罪すら自覚せぬ輩は、念入りに苦しめろ」

「もちろんよん、モモンガ様」

 

 アルベドに色目を使ったというバルブロ王子の話に、モモンガが怒りをにじませる。

 御方の覇気に、ニューロニストはぞくぞくと身を震わせ、甘い溜息をついた。

 直接触れるハムスケは全身の毛を逆立たせ、かろうじて失禁を耐え。

 エクレアは気を失い。

 アウラとシズすら、不安げに怯える。

 

「そして、デミウルゴス。その被害者らを種族変化させ、成長させる試みは見事だ。彼女ら自身に報復の機会を与えてやった点も大いに評価するぞ。リアルで苦しむウルベルトさんも、お前を褒め讃えるに違いない」

「ありがたき幸せ!」

 

 デミウルゴスが満面の笑みで礼をした。

 御身に褒められるは最大の喜びだが、創造主の名を出されれば格別。

 今も“りある”で創造主を苦している連中の同類に……できる限りの苦痛を味わわせるこそ、不在の創造主に対する最大の賛歌なのだと。デミウルゴスは、再認識する。

 

「被害者は探せばまだまだ出て来るだろう。彼女らを女淫魔(サキュバス)に変え、彼女ら自身に堕落の種子を作成させて……数を増やしておくがいい。十分に成長した女淫魔(サキュバス)はナザリック地上部に配置せよ。配置の折には、私も直接会ってみたい」

「ははっ、承知いたしました!」

 

 誇りと共に礼をする。

 嗜虐者として育てられた彼女らは、モモンガの愛人としても十分な候補たりうるだろう。

 アルベドへの偏愛が、当人にもナザリックの風紀にもよからぬ影響を与えている以上、デミウルゴスとしても対処が必要なのだ。

 実際、今も玉座の横にいるアルベドの視線には、感謝の色がある。

 一人で受け止めるには、モモンガの情欲はいろいろと重いのだ。

 アルベドからすれば、もっと浮気性になってほしい。

 

「さて……アウラよ、魔樹討伐ご苦労だった。無事に森林内自体も掌握できたようだな」

「あ、ありがとうございますっ、ううっ」

 

 ぽんぽん、と脇にいるアウラの頭を撫でる。

 実際の苦労もあり、泣いてしまうアウラ。

 

「たいへんだったか。無理はするなと言ったろうに」

 

 やさしく撫でられ、さらに泣いてしまう。

 

「コキュートスとマーレにも、いい経験になっただろう」

「ハッ、己ノ至ラナサ、自覚イタシマシタ!」

「つ、次はもっとちゃんと戦えます!」

 

 モモンガは、二人にも深く頷いて見せる。

 

「はは、そう言えるならばお前たちは立派に戦ったぞ。己の改善点がわかっているなら、次は今回よりもうまくいく」

 

 優しく微笑みかけられ、二人は歓喜に打ち震えた。

 

「ルプスレギナよ。レベル差もある中、回復役を任せてすまなかった」

「い、いえ。でもやっぱり似たレベルで組むべきっすね……」

 

 ルプスレギナは、二人のような改善点すら見いだせてない。

 少し消沈した様子で、自嘲的に答える。

 

「これは高レベルの回復役を作っていない我らの責任だ。お前が気に病むことはない。ある程度は回復やバフのタイミングを考慮すべきだが……お前の言う通り、レベル差の問題が大きい。今回の采配については、お前が私を責めるべきなのだ」

「い、いえそんな……ふふっ、はい。わかりました」

 

 最後に艶っぽく片目を閉じて見せたモモンガに、ルプスレギナも冷たく嗜虐的な笑みを返す。

 そういう“詫び”をプレイとして求められているなら。

 褒美でも罰でも、ルプスレギナは望むところだ。

 

「最後にシャルティアよ」

「は、はい! わらわも、ルプスレギナと――」

 

 声をかけられると同時に、シャルティアが粘つく飢えた視線でモモンガを舐めまわす。その卑猥な視線は、アウラとシズに、主の肌を手で隠させるほどだ。

 このまま、また性的な方向に進むのだろうなと、一同が内心で諦観の溜息をつく中。

 

「お前は今回、皆の活動の中で唯一、私を失望させた」

 

 冷たい、突き放すような声で、モモンガが断言した。

 

 シャルティアが凍り付き、ぱくぱくと無様に口を開こうとするが。

 言葉が出ない。

 世界が止まってしまったようだ。

 

 他の全てのNPCが、殺意すらこもった目でシャルティアを見る。

 あの奉仕を受けたアルベドへの敵意すら上回る、真の殺意を込めて。

 





 さんざん雌顔を見せられてきたデミウルゴスたちは、非エロモードのモモンガさんを見るだけで感動します。アルベドさんとしても、できればこっちでいてほしい。

 蒼の薔薇、ティアのせいでナザリックと会見決定。

 エクレアを愛でる仲として、エロ以外でTSモモンガさんと仲よくなれる素養のあるシズちゃん。
 ハムスケを介して、御方と健全に距離を近づけます。

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