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戦略・経営

2019年8月23日(金)更新

恨まれながらも社員を全員解雇、事業承継した3代目の改革への想い

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プロ・リクルーターの河合聡一郎さんによる事業承継の成功のヒントを探る連載。今回お話をうかがうのは株式会社大都の代表取締役、山田岳人さんです。大阪・生野区で工具の問屋業を営む義父の会社を継いだ山田さん。傾きかけていた会社をDIYカルチャーを生み出す企業へと生まれ変わらせました。しかし、長年赤字が続いており、一度は社員を全員解雇せざるをえなかったとか。「彼らからは恨まれていると思います」と山田さんは話します。前半では、山田さんのユニークな経歴と事業を立て直すために必要な組織づくりに対する考え方についてお聞きしました。

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株式会社大都 

代表取締役 山田岳人さん

学生時代からリクルートで働き、人材採用の営業を担当。結婚を機に1937年創業の金物工具の総合商社である株式会社大都に入社。2011年、代表取締役に就任。EC事業を立ち上げ楽天のDIY部門で販売日本一を達成。DIY体験ができるリアル店舗「DIY FACTORY OSAKA」をオープンするなど、DIYブームの牽引役となり、2015年、グロービス・キャピタル・パートナーズからの第三者割当増資を実現。


妻の実家は廃業寸前の問屋業

河合聡一郎さん(以下、河合): リクルートでトップセールスの営業マンだった山田さんが大阪で工具の問屋業を営む大都を継がれることになった。まずはそこに至るまでの経緯を教えていただけますか?

山田岳人さん(以下、山田): もともと学生の頃から経営をやりたいと思っていたんです。2回生の頃からリクルートでアルバイトを始めて、スーツを着て自分の名刺を持って営業に回り、3回生の時には関西でトップの営業成績をあげました。仕事が楽し過ぎて大学に全然行かなかったら、単位が足りずに「卒業見込みの証明書は出せない」と言われて(笑)。仕方がないので人事に掛け合って選考なしで内定をもらい、なんとか卒業して無事にリクルートに入社しました。

その後、学生の頃から付き合っていた今の妻と結婚することになって、実家に「娘さんをください」と挨拶に行ったら、「その代わりに会社を継いでほしい」と言われたんです。妻は一人娘で跡継ぎがいなかったし、もともと経営をやりたい気持ちはあったので、結婚して1年後にリクルートを辞めて、大都に入社しました。

河合: いきなり異なる業界へ転職されたわけですね。業種はもちろん、経営者としてのチャレンジも含めて一気に環境が変わった感じですよね?

山田: そうなんです。大都に入社したのは28歳の時。初日、意気揚々とスーツを着ていったら「なんでスーツで来たんや?」と笑われて、すぐに作業着に着替えました。リクルートではスーツにネクタイ、アタッシュケースというスタイルでしたから、初めはものすごくギャップがありましたね。配達用のトラックが9台ほどあって、「運転しろ」と言われたものの、トラックなんて乗ったことない。ミッションも何年も運転していなかったから、もうエンストしてばっかり。そんな初日でした。当時、社員は15人くらいいましたが、僕の次に若い人でも45歳でした。伝票も手書きだし、ぜんぶアナログな環境でスタートしました。

リクルートでは広告しか扱っていなかったので、ものを売るという経験がなかった。その難しさを痛感 しましたね。問屋と言っても特別なものを扱っているわけではいので、うちで買わなくても他から仕入れられる。同じものだから差別化ができない。だから、こちらから何かを提案することもできないし、同じものを売るということは、結局価格で比べられてしまうんですよ。販売店は当然安いところから仕入れますよね。そこでなんとか付加価値を付けようとなると、納品を手伝いに行くとか、返品をとるとか、支払いを手形でもらうとか、配達に1日2回行くとかになってくる。そんなことしていたら余計に儲らない。

EC事業をスタート。立て直しを図る

河合: そんな中でもeコマース(EC)を始めて、新しい販路を通じて、立て直しを図ろうとされていたんですよね?

山田: はい。「このままだったら潰れる」と、2002年からECを取り入れました。メーカーから仕入れてホームセンターに卸すんじゃなくて、「ホームセンターにいるお客さんにインターネットで直接売ってしまえ」と。ホームセンターが儲るのはよくわかるんです。だって僕たちが500円で納品したものを1000円で売っているんですから。でも、僕たちは450円で仕入れて500円で納品している。50円しか利益がないのに、配送コストなどを入れたら赤字ですよ。ところがECなら450円で仕入れて1000円で売れる。それでインターネットで売り始めたら、ぼちぼち売れるようにはなってきたんです。

ただし、業界からはすごく反発を受けました。ホームセンターやメーカーからも「ネットで売るなら商品を供給しません」とか、「売ってもいいけど、ホームセンターより売価を上にしてくださいね」とか。そんなの売り手側の自由じゃないですか。僕たちはホームセンターよりちょっと安く売ってもすごく利益が出るわけですから。苦労はありましたが、これからはeコマースの時代に変わっていくという確信はあったので。中間流通が中抜きをしているというのは許されないだろうと思っていましたね。

河合: その直感が正しかったわけですね。

山田: この業界は昔から「見て覚えろ」「覚えるまで最低5年」という感じで、とにかく商品のことを覚えないといけないんです。お客さんに聞かれるのは商品のことばかりなので、ひたすら勉強しました。でも、知識を得ても技術があっても、お金に変わらないんです。その歯痒さもあったし、そこを変えたいなと思っていました。その点、 ECなら知識を活かせる。何がいくらで売れるか完全に頭に入っているし、ホームセンターでの売価も頭に入っている。だから、ECサイトを立ち上げられた んだと思います。

それでも会社は変わらなかった、赤字のため社員を全員解雇

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この記事についてコメント

  • 「1年で黒字化できなければ廃業する」と全社員に宣言しても、彼らの意識や行動は変わらず、結局、赤字になってしまった。それで、全員解雇して、やり直した。
    
    山田さんは、極めてリースナブルな意思決定をされたのだと思いました。
    
    日本の会社って、会社の業績がどうなろうと、雇用だけは守ることを美徳とするような「神話」があるじゃないですか。
    
    でも、それって、個人も組織も不幸にするのではないかと私は考えています。
    
    かつて日本企業からアメリカ企業に移籍したとき、よく言われるように、業績が期待に満たない状況を続ける社員は、一定期間の経過観察の後、クビになる姿を目の前で見て、体が震えたのをいまでも思い出します。
    
    でも、クビになった社員は、私の知るかぎり、みな新天地に移っていくことができていましたし(外資系の労働市場がある)、その後活躍していると聞くこともありました。会社も結構手厚い金銭的な補償をしていました。
    
    雇用をとことん守ることが「社員に優しい」ということではないのではないか?その思考の枠組みをはずすこともアリではないか?
    
    この記事を見て、改めてそんな風に思いました。
  • 経営再建に向けた再起へのチャンスと社員に訴えても響かなかった無念さ・・・
    
    全員解雇という苦汁の決断の裏には、そういった企業文化を作ってきてしまった経営側(先代ですが)の自己責任を強く感じながらも前を向いて進んでいかなければならないという悶々とした苦悩の日々が蘇ってくるようでした。
    
    流通の中抜きという危機的状況が起こっているのに他人事として、下請けイジメのような取引を続ける業者、会社は儲かってなくても自分たちがクビになることなんてあり得ないと幻想を抱く古参の社員に囲まれた四面楚歌の状況で、よくぞ活路を見出されたと大変僭越ながら感嘆いたしました。
    そして、経営者としての自己革新能力の高さが、これから後編で明らかになってくるであろう再起の成功要因になるのではないかな~と思っています。
    
    後編が待遠しいです!

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