列伝第4話 A級冒険者クロードの英雄譚(後)
おまけであり、真実であり、人によっては蛇足でもある。
列伝、真の最終話です。
リフェル公国奪還から1週間が経過した。
冒険者、騎士達が国内の確認を終え、リフェル公国の国民達が帰国を始める。
そんな中、リフェル公国の占拠の際、最初に偽アンデッドが溢れた森の中で、何者かが笑い声を漏らしていた。
『くっくっく、いやはや、中々に面白い見世物であった。我が力を与えただけの価値はある』
その存在は周囲に瘴気を撒き散らしながら、その黒い靄の身体を振るわせる。
『ああ、やはり人間で遊ぶのは本当に楽しい。さてさて、次はここから西で遊戯を始めるとしようか。いずれは、あの面倒な聖域とやらも喰らい尽してやりたいからな』
「残念ですが、貴方に次はありません」
『何者だ』
少し前までは、森の中には黒い靄以外、誰もいなかった。
しかし、ほんの一瞬で8人分の気配が近づいて来ていた。
「僕達は『セイバーズ』と名乗っています。当然、僕達の事はご存知ですよね?」
『ああ、我が
「はい。貴方が偽アンデッドや男を通じて、僕達の事を見ていると言う事も知っています」
その存在……偽アンデッドに自身の欠片を宿らせていた邪精霊の集合体は、全ての偽アンデッドと支配下にあった精霊術師の男を通じて、リフェル公国の戦いを鑑賞していた。
邪精霊は愛する女の死を嘆き、心を壊してしまった男を唆し、女の遺体に邪精霊を入れさせた。そう、邪精霊は壊れた男の暴走を特等席から見ていたのだ。
『ほう、そこまで知っているのか。ならば分かるであろう?貴様らでは、我をどうすることも出来ないと言う事は。当たり前の事だが、我は我が
邪精霊は『セイバーズ』に対して余裕の態度を崩さなかった。
リフェル公国の戦いを特等席から見ていたのだ。
邪精霊は、自ら力を与えた
勝てない事が分かっていながら、何故リスクを負ってまで自分の前に現れたのか?
邪精霊はそれが疑問だった。
『もしや、我が力が欲しいというのか?確かに貴様らは人間にしては力のある方だ。我の力を得られれば、人間と言う枠組みでは並ぶものはいなくなるだろう。ふむ、おもしろい。……良かろう、貴様らが我が支配を受け入れ、新たなる玩具となるというのなら、この力を貴様らに与えてやろう』
邪精霊は少し考え、『セイバーズ』の目的を自分の力だと勘違いした。
「いいえ。僕達の目的は邪精霊、貴方の討伐です」
しかし、邪精霊の勘違いはすぐさま否定される。
『……貴様らは自分達の力も測れぬほど愚かなのか?』
しかし、『セイバーズ』が身の程を知らない発言をしたため、途端に不機嫌になる。
『貴様らが我が
「はい。
邪精霊が軽く威圧するが、『セイバーズ』は1人として怯えた表情を見せない。
『……よかろう、我に楯突くというのなら、その身をもってその愚かさを理解させてやる』
瞬間、邪精霊の存在感が急激に増した。
そして、その黒い靄が凝縮し、悪魔の様な姿形をとった。
邪精霊が地に足を降ろすと、その周囲の草が枯れた。
邪精霊の強すぎる瘴気は、周囲の生態系にも影響を与える程だ。
『今の我は、貴様らが苦労して倒した女の100倍は強いと思え』
実際、邪精霊が女に与えた力は、全体の100分の1程度だ。
力の量が強さと比例関係にあるのかは不明だが、100倍に近いだけの差があることだけは間違いない。
しかし、それでも『セイバーズ』に動揺はない。
自分達に出来る事、出来ない事を良く理解している彼らは、今の邪精霊をそれ程の脅威とは見なしていないのだ。
「先程、貴方は
『言ったが、それがどうしたというのだ?』
邪精霊も『セイバーズ』の考えに興味があるのか、直ぐに攻撃するようなことはせず、話を聞いている。
「僕達はその数日で、Sランクの冒険者になりました」
『くははは、それが何だというのだ。人間風情の作った枠組みで昇格し、強くなった気にでもなっているのか?それだけで、我に相対する力を得たとでも言うのか?』
邪精霊が嘲笑をする。
自らの権力が増したことで、実力も増したと勘違いするなど、滑稽にしか見えない。
「ええ、僕達がSランクになったから、今まで貯めに貯めた
『?』
邪精霊には『セイバーズ』の言っている意味が分からない。
「知識や経験の伴わない者は要らないと言われ、僕達はずっと最低限の補助で戦ってきました。ただの孤児に、実力でSランク冒険者になれなんて、中々に無茶を言いますよね」
『……何を言っている?』
「分かり易く言えば、Sランクになるまで実力を封印していたんですよ。今の僕達は貴方の
邪精霊は先程の自身の言葉を皮肉る様な発言を聞き、挑発されている事に気付いた。
『人間風情が……舐めた事を言うようだな。良かろう。ならば、我が直々にその思い違いを正してやろう。そして、貴様らの死体は、我が欠片を与え、
邪精霊は更にその存在感を増し、『セイバーズ』に襲い掛かった。
『セイバーズ』の主人である仁は、配下が倒した魔物のステータスの内、一部を倒した
これにより、仁の配下は魔物を倒すたびに強くなっていく。
ここで気付いて欲しい事がある。
クロード達が、
知っての通り、『セイバーズ』は仁の配下の中では古参の部類に入る。
そして、仁の配下の中で、最も長く戦い続けているのも『セイバーズ』である。
当然、相当数の魔物を討伐している。
つまり、『セイバーズ』は本来、もっと強大な力を持っていてもおかしくは無い。
それを封じているのは、
仁は力任せの解決を好む一方、基礎・地力を重視する部分もある。
自らの配下をSランク冒険者にする時、スキルやステータス、異能によるゴリ押しをするような冒険者ではなく、Sランクに相応しい知識、経験を持った者にしたいと考えた。
それ故、『セイバーズ』には冒険者として最低限のスキルやステータスを与えた後は、ほとんど恩恵を与えずに冒険者をさせていた。
念話や<
当然、ステータスやスキルの還元もほとんど行われていない。
しかし、仁は不当な差別を殊の外嫌う。
他の配下にステータスを還元しておいて、『セイバーズ』にだけ還元しない訳が無い。
故に『セイバーズ』が得るはずだったステータスは、使われずにそのまま残っている。
そして、そのステータスが解放されるのは、『Sランクになった後』である。
超一流の冒険者として、実力を認められた後なら、圧倒的に高いステータスを使う事も何ら問題が無いと考えた。
『セイバーズ』にとって、Sランク冒険者になる前と後では、全く意味が変わるのだ。
『セイバーズ』の言う、100倍以上の強さと言うのが、全くの誇張ではない程に。
しかし、『セイバーズ』はSランクの冒険者になったからと言って、その強大な力を頻繁に使うつもりはなかった。
大きな力を持てば慢心しやすくなるし、何よりも自分達の努力だけで積み重ねてきた力の方に愛着があるからだ。
それ故、『セイバーズ』がその力を使うのは、独力ではどうしようもない相手、そのままのステータスでは決して届かない、邪精霊のような存在と戦う場合に限る事を決めていた。
『ぐぼあああああ!!!』
そして、邪精霊の断末魔が響く。
列伝書いてたら、本編が進んでいない。
本末転倒中。