列伝第4話 A級冒険者クロードの英雄譚(下)
列伝は徐々にタイトルが豪華になっています。
列伝の初回投稿から決めていました。
王城周辺には偽アンデッドがいない為、僕とココはあっさりと王城へと近づけた。
「拍子抜けね。もう1匹くらい、
「いや、出て来られても困るから」
流石にもう1体偽
ある程度近づくと、王城の前に例の男女がいることに気付いた。
王城の中にいると思っていたのに、普通に城の前にいる……。
僕達は警戒しながら男達に近づく。
「やあ、よく来たね。
僕達の目的を知っているはずなのに、男は穏やかな声のままだ。
「先に貴方を倒さなければいけないようですから、後回しにさせてもらいます」
「そこまで追い詰めることが出来たのか。それは驚きだよ」
本当に驚いたような顔をする男が理解できない。
「……何故、そこまで余裕なのですか?僕達は今から貴方を倒すと宣言しています。それなのに、貴方は武器を構えることも無ければ、警戒する様子すら見せない。死んでも良いと思っているんですか?」
どうしても男の考えが理解できず、思わず尋ねてしまった。
これから殺す相手を理解するなんて、気が重くなるだけで利点なんてないのに……。
「警戒しない理由か。そんなのは簡単だよ。僕にはルイスがいる。それだけで、警戒する理由がどこにもない。その証拠を見せてあげよう。ルイス、頼むよ」
男がそう言った瞬間、女の身体がブレた。
-ドゴ!-
「くっ!」
辛うじて視認できた女の蹴りを盾で受け止めるが、思っていた以上の威力に吹き飛ばされてしまう。
「クロード!」
「凄いね。ルイスの攻撃に反応出来るのか」
なるほど。男は女の力を信じているからこそ、こうも余裕の態度を崩さないのか。
「その女性の死体が貴方の切り札ですか。確かに強力な護衛です」
「ルイスを死体と言うなああああああああ!!!」
男は僕の言葉に過剰に反応し、目を血走らせて叫んだ。余裕の態度とは……。
後、いきなりすぎてとてもビックリした。
「ル、ルイスは死んでなんかいない。ルイスは生きている。ほら、こんなに綺麗なんだ。死んでいる訳が無い。ルイスは僕を守ってくれる。ルイスは僕と共に生きてくれる。ルイスだけは僕を裏切らない。僕もルイスを裏切らない。僕が死ぬまでずっと。僕が死んでからもずっと。ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと……」
男が壊れた。
いや、元々壊れていたのだろう。まさか、死体扱いがトドメとは思わなかった。
「僕達の国に僕達以外の人間は要らない。僕達の平和を脅かすものは全て殺す。そうだ、最初から分かっていた事じゃないか。僕達の事を分かってくれる人間なんていない。僕達は2人だけで生きていくんだ。僕達に近づく者は全て殺す。僕達を理解してくれない人間なんて要らない。醜いものは見たくない。僕達は美しい景色だけ見て生きていたい。人は醜い、だから……消えてしまえ!」
再び、ルイスの身体がブレる。
しかし、一度認識してしまえば、反応できない速さではない。
「そこだ!」
僕は女の蹴りを盾で受け止め、そのまま力を受け流した。
女の身体能力は恐ろしいものがあるが、戦士としての勘はないようで、いとも簡単に体勢を崩すことが出来た。
「ココ!」
「分かってるわ!」
僕の仕事は盾役だ。
僕が作った隙は、仲間が活かしてくれる。
「しっ!」
本来の短剣二刀流に戻ったココは、近接対人戦闘では無類の強さを発揮する。
体勢が崩れた女にココの攻撃は避けられるはずがない。
-ガリガリガリガリ-
「何この女!滅茶苦茶硬いわよ!」
ココの斬撃は女の身体を真っ二つに切り裂く軌道だったが、実際には金属を切り付ける様な音がしただけだった。
本当に薄っすらと傷跡があるだけで、ダメージがあるようには見えない。
ココの攻撃であの様子じゃあ、僕が攻撃しても大きな差はないだろう。
「ルイスーーーーー!!!!!!!」
こちらの状況はあまり芳しくないというのに、男の反応は違った。
「ルイス!こっちに来て!」
男が叫ぶと、女は一瞬で男の元に戻る。
「ああ、ルイス、ルイス、ルイス、ルイス。こんなに傷がついてしまって……。ああ、あああ、あああああ、ああああ、ルイス、ルイス……」
そう言って、男は女の傷跡を何度も何度も触る。
僕達は反応に困り、その様子をただ眺めていた。
どうしよう。斬りつけるべきだろうか?
しばらくすると、男の表情から感情と言えるものが抜け落ちた。
「もう、いい……」
無表情となった男が呟いた。
「2人で余生を過ごそうと思っていたけど、もう、止めだ。ルイスだけが傷つくなんて思わなかった。これは、我慢できそうもない。傷つくなら、2人一緒だ。病める時も、健やかなる時も一緒って誓ったんだ。ああ、ルイス!1つになろう!」
男は懐から小瓶を取り出すと、蓋を開けてその中身を一気に飲み干した。
「ああ、愛しいルイス……」
そして、男が女を抱きしめると、男の身体から瘴気が、邪精霊が噴き出し、2人の身体を包み込んだ。
瘴気の中からは『ゴキッ!』とか『グチュッ!』とか『ズブズブ……』とか、とにかく人体から発してはいけない音が聞こえ続けている。
「うげ……何アレ、気持ち悪い……」
ココが嫌そうに言うのも無理はない。
瘴気が晴れた後、そこに居たのは見るもおぞましい存在だった。
簡単に言うと、女の身体のあちこちから男の身体が生えている。
「ルイス、ルイス、ルイス、ルイス、ルイス、ルイス、ルイス、ルイス、ルイス、ルイス、ルイス、ルイス、ルイス、ルイス、ルイス、ルイス、ルイス」
女の腰の辺りにある男の口からは、女の名前だけが繰り返し呟かれる。
女は無表情のままだ。
「クロード、良く分からないけど、アレを倒さなきゃダメなのよね?」
「まあ、そうだろうね……」
良く分からないのは僕も同じだ。
「じゃあ、一度攻撃を仕掛けるわ。戦闘再開したらよろしく」
「うん、分かったよ」
女……男……、どちらで呼べばいいのか分からないので、暫定的に女と呼ぼう。
女はその場で動かないので、ココが一撃入れてみるようだ。
「はっ!」
助走を付けて女に接近し、短剣による斬撃を……。
「ぐはっ!」
「ココ!?」
入れようとしたところで、女に蹴り飛ばされた。
女の動きは明らかに先程までよりも速くなっていた。
「ヤバ……。結構、良いの貰っちゃった……」
何とか起き上がり、構えてはいるが、ココへのダメージは重い。
<回復魔法>で少しずつ回復させているようだが、完治までにはしばらくかかりそうだ。
なら、その時間を稼ぐのは盾役である僕の役目だ。
女はココに追撃を仕掛けなかったが、ずっとココの方を見続けていた。
そして、ココが起き上がったのを確認すると同時に脚に力が加わるのが分かった。
僕はココと女の間に<縮地法>で移動する。
「ココに手出しはさせない」
僕がそう言った瞬間、女がブレる。
「くうっ!」
先程までより重い蹴りを盾で受け止める。
受け流そうとするのだが、蹴りが重すぎて完全には受け流せなかった。
手がビリビリと痺れる程の衝撃だ。
この蹴りを直で受けたココのダメージが心配だ。
蹴りを止められた女はその場で立ち止まり、周囲をキョロキョロと見渡している。
今の僕は手が痺れているので、追撃されるとかなり厳しいというのに。
一体何故……?
「クロード、大丈夫?」
ココが心配そうに聞いてくる。
大分回復してきたようだ。
「ああ、大丈夫だよ。でも、急に動かなくなったんだ」
「え?何で?」
そう言ってココが女の様子を見た瞬間。
「きゃあ!」
女がココに接近し、蹴りを放った。
先程は攻撃の瞬間だったからココも避けられなかったが、来ると予想できていればココも女の蹴りを避けることは可能だ。
女はココに対し、蹴りを連続で放つ。
「ちょ!何で!私だけ!狙うのよ!?」
ギリギリではあるがココは女の蹴りを避け続ける。
近くに僕もいるのに、女はココだけを狙い続ける。
ココが最初に攻撃を仕掛けるまで、女は動くことが無かった。
……女は自分を攻撃してきた者だけを狙うのか?
僕がココと女の間に立った時、女からはココが見えなかった。
その時、女はココを攻撃しなかった。
……目に移った場合のみ攻撃を仕掛けるのか?
《ココ!僕の後ろに隠れろ!》
声で判断されるとマズいので、念話でココに指示をする。
《分かったわ!》
ココは女の蹴りを避け、直ぐに僕の後ろに走り込んだ。
思った通り、女はそこで動きを止め、辺りを見渡している。
《ど、どういうこと?》
《多分、攻撃を仕掛けたら、その相手が見えている限り殺そうとするんだと思う》
《そっか、それで、クロードの陰に居れば攻撃してこないのね》
《顔を出しちゃだめだよ。あの攻撃は僕でも防ぎきれないから》
今のところ、僕が攻撃していない点だけが命綱だ。
《うん、分かってる。アレはきついわ》
《でも、このままじゃ負けないけど……勝てない……》
最悪、このまま逃げる事も考えないといけない。
偽
《……逆に言えば、クロードには1回だけ攻撃のチャンスがあるのよね?》
《その後、怒涛の勢いで攻撃されるけどね……》
その攻撃にも反応してくるだろうから、1回分の攻撃が通る保証もない。
せめて、ユリアさんが近くに居て、『精霊化』が十全の状態だったらと思わずにはいられない。
《あの技、やってみない?》
《……………………正気?》
ココが言っているのは、訓練中の技の事だろう。
結局、スキルに昇華できなかった大技だ。
確かに、あの技なら決まれば一撃だ。成功すれば相手が、失敗すれば僕の方が……。
《そもそも、攻撃を当てる前にカウンターで僕が蹴り飛ばされるよ》
《大丈夫よ。クロードが攻撃を仕掛けられるように、私が囮になって隙を作るから》
《それ、大丈夫じゃない奴だよね》
盾役の僕が他の人を囮にすることにも抵抗があるし、ココのリスクが高すぎる。
それに加え、スキルじゃない状態での技の成功率は1割に満たない。
命を懸けるにはあまりにも危険な確率だ。
《クロード、ゴメン。あんまり、考えている時間はないみたい……》
《……そのようだね》
女は周囲を見渡すのを止め、鼻を鳴らして周囲を調べ始めたのだ。
最初は目だけでココを探していたが、次は鼻を使ってココを探すつもりなのだろうか?
もし、女の嗅覚が優れていた場合、この距離では見つかるのは時間の問題だろう。
《やるしかなさそうだね》
《分かったわ。囮だけど、1分が限界だと思う》
《頼む。出来るだけ離れていてくれ。少しでも時間が欲しい》
ココが僕の背後で、女から見えない様にゆっくりと後ずさりをする。
これで、しばらく時間を稼げるだろう。
大技の発動には時間がかかる。
スキルとして昇華すれば話は別だが、それまでは結構な時間がかかる。実戦で使うには、タメが大きすぎるので困難な程だ。
僕は魔法を詠唱する。
得意の『ライトショット』だ。
女の顔が僕達のいる方向を向く。
ある程度の目星が付き、重点的に調べるつもりなのだろう。
LV3魔法の詠唱時間である15秒が経過し、後は魔法名を宣言するか、強く発動を意識すれば魔法が放たれる。
しかし、僕はあえてその状態を維持する。
《見つかった!》
とうとう、ココの存在が女にバレてしまった。
女はココを執拗に狙い、何度も蹴りを繰り出す。
《クロード!任せたわよ!》
ココはギリギリながらも女の蹴りを避け続ける。
僕は発動を待つばかりの魔法を、自身の剣に移す様にイメージする。
しかし、イメージの通りに魔力は動いてくれない。
<
成功すれば、物理攻撃と魔法攻撃を合わせた、高威力の一撃が放てるのに……。
何度も何度も、イメージを繰り返す。
限界である一分が近づいていく。
上手く行かない。
魔力が動かない。
ついに一分を越えてしまった。
ココは僕の事を急かさない。信じて、避け続けてくれている。
-ドゴッ!-
「がふっ!」
「ココ!?」
鈍い音がして、ココが吹き飛んだ。
女の蹴りが直撃してしまったようだ。
「良いから!クロードは続けなさい!」
ココは吹き飛んだ状態から上手く着地し、フラつきながらも僕を激励する。
女は再びココを攻撃する。
辛うじて避けているが、先程までよりも動きに精彩がない。
もう一度攻撃を受けるのも時間の問題だろう。
……ダメだ。僕の目の前で仲間が傷つくのは許せない。
2人で回避と攻撃を繰り返せば、女にも攻撃を当てられるかもしれない。
今はせめて女の注意を僕に向け、ココが回復する時間を稼がないと……。
あまり、余力はないけど、『精霊化』の出力を上げ、反応速度を上げよう。
僕の方を脅威と思わせれば儲け物だ。
「……え?」
『精霊化』の出力を上げた瞬間、手に集めていた魔力の流れが明確に分かるようになった。
手に集まっていた魔力を剣に移す。
「こんなに、簡単に……」
こうして僕は、長い間訓練していたユニーク級スキル、<魔法剣>を習得したのだった。
考えてみれば、精霊は魔力の塊だ。『精霊化』をしている最中の方が、魔力の移動が簡単になるのは道理かもしれない。
今まで、ユリアさんに負担をかけるのが嫌で、『精霊化』を使用した訓練の間は<魔法剣>の練習をしなかった。
まさか、たったこれだけで習得できるなんて……。
いや、今はそんな事を考えている場合じゃない。
早く、この戦いを終わらせないと。
《ココ!行くよ!》
《待ってたわよ!》
-ドゴッ!-
「ぐうぅっ!」
ココはあえて女の蹴りを腕で受け止めた。
そのまま、足を掴む。
女は思い切り脚を振り回し、ココを吹き飛ばしつつ拘束を解いた。
それはココの狙い通り、大きな隙となった。
僕は『精霊化』で強化した全力で踏み込みつつ<縮地法>を発動。
「ぅらあ!!!」
女に接近し、全力で振り下ろす。
女はギリギリで反応して僕を蹴ろうとするが、僕の攻撃の方が速い。
-ズバッ!-
「ぐわああああああああああああ!!!!!!」
<魔法剣>の威力は凄まじく、ココの斬撃を物ともしなかった女をあっさりと斬った。
女は縦に真っ二つになり、男の顔から悲鳴が迸る。
「ああ、あああ……。ルイ……ス……」
それが男の最後の言葉となった。
女の身体は黒い靄となって消えて行った。
『精霊化』と<魔法剣>を同時に発動したため、MPがすっからかんになり、僕はその場に倒れ伏した。
ああ、疲れた……。
「ココ、無事かい?」
「何とかね……。いてて、『ヒール』……」
何とか、2人とも生きていたようだ。
僕もMPポーションを飲んで回復に努める。
《クロード君、大丈夫?》
「はい、何とか……」
《良かった。それじゃあ、お姉さんは先にユリアちゃんの元に戻っているわね》
「ありがとうございました」
MPが切れたため、『精霊化』も強制解除された。
アカリさんにお礼を言うと、アカリさんはユリアさんの元へ戻って行った。
ココと『精霊化』していた風の精霊も同じように戻って行った。
「しばらくしたら、ユリアさん達も来るだろうし、ちょっと休もうか……」
「さんせーい……」
王城の前で2人仲良くぐったりと休んだ。
その後の話をしよう。
僕とココは仲間達に回収されて公都を後にすることにした。
リフェル公国にいた大量の偽アンデッド達は、黒幕の男を倒した瞬間に力を失い、灰となって消えたそうだ。
幸いなのは万を超える偽アンデッドの死体が国中に残らなかった事だろう。
ただ、念には念を入れて、数日間は国に戻らずに様子を見るそうだ。
僕達への依頼自体は男を倒した時点で達成と言う事になり、その後の後始末に参加する必要はないと言う事になった。
幸いな事に冒険者や騎士達に死亡者はおらず、最悪でも重傷で済んでいる。
当然、仁様の関係者達は全員がほぼ無傷だ。一番ダメージが大きかったのはココだろう。
そして、僕達は晴れてSランク冒険者となることになった。
エステアの冒険者ギルドでSランクへの昇格認定を受けたのは僕達が初めてだそうだ。
エステア、冒険者の質が低めだから……。
ちなみに、8人全員がSランクとして認められた。
普通、高ランクの冒険者同士はあまりパーティを組まない。その為、Sランクを数人まとめたからと言って強いパーティになるとは限らない。
しかし、僕達は個々人がSランク相応の実力を持ったパーティだ。
簡単に言えば、普通のSランク冒険者1人では対応できない事態にも対応できることになる。それは、同じSランク冒険者達に対しても大きなアドバンテージだ。
また、避難中のリフェル公国の公王様と会う機会もあった。
公王様自ら僕達に感謝の言葉を述べ、出来る事ならリフェル公国に活動の拠点を移して欲しいとも頼まれた。
何なら、公女の1人を僕に嫁がせても良いとまで言われた。
仁様の指示や許可も無く婚約など出来ないので断った。そもそも、婚約していない公女は現在2歳の子だけというのだから、無理を言わないで欲しい。
僕達がエステア王国に来たのは、Sランク冒険者になるために推薦を貰うためだった。
推薦を貰い、偉業を成し遂げ、Sランク冒険者となった僕達は、1週間後にカスタール女王国に、僕達のホームに戻ることにした。
エステア王国の冒険者ギルドが、滅茶苦茶残念そうにしていたのが印象的だった。
エステア、冒険者の質が低めだから……。
それから更に2日後、仁様達がエルガント神国から帰って来た。
「よく頑張ったな。おめでとう」
仁様はSランクになった僕達の事を褒めて下さった。
「ロロは幸せです……」
「私も幸せ……」
仁様を慕うココとロロは、仁様に頼み込んで頭を撫でてもらい、ご満悦だ。
仁様を畏れるイリスは心底安堵した表情を浮かべた。
その日の夜は恒例となった昇格記念のパーティだ。
屋敷のメイドさん達が腕によりをかけて作った料理を堪能する。
ミオさんの手料理は更に美味くなっている気がする。
高ランクの冒険者として、高級な料理を口にすることもあるが、未だに仁様の屋敷の料理を越える物には出会ったことがない。
「あー、でも、昇格のパーティがこれで最後ってなると、残念な気持ちもあるな」
「そうだね~。またパーティしたいよね~」
「ロロもです。もし、パーティを開きたいなら、仁様に頼むのが1番ではないでしょうか?」
「じゃあ、クロード、頼んでおいてね?」
「ココ、そこでどうして僕が出てくるのかな?」
「え?リーダーでしょ?何なら、アデルでもいいわよ」
「アデル、仁様の機嫌を損ねる様な頼み方をしたら、ぶん殴るわよ」
「ココちゃんもイリスちゃんも酷い……」
「分かりました。それでしたら、私が行きましょう」
「ほら、アデルが行かないなんて言うから、ユリアさんが行くって言いだしちゃったじゃない。馬鹿アデル!」
「イリスちゃん、酷い……」
結局、皆で仁様に頼み込んだら、定期的にパーティを開くことを了承してくれた。
メイドさん達も仁様に関われるチャンスが増えたと言う事で、僕達にグッジョブと伝えてきた。彼女達、自分からはほとんどお願いとかしないから……。
パーティの後、僕達は仁様に呼び出された。
仁様を過剰に畏れているイリス、少し畏れているシシリーが凄まじく緊張している。
2人程ではないけど、緊張しているのは僕達も同じだ。
「お前達を集めたのは、今後の方針を聞くためだ。叱責とかじゃないから安心しろ」
その言葉で全員が安心する。
「今後の方針、と言うのは何を指しているのでしょうか?」
リーダーとして僕が仁様に尋ねる。
「俺はお前達にSランク冒険者になれと言った。だけど、Sランク冒険者になった後については細かく指示しなかった。Sランク冒険者の影響力があれば、色々と楽になると考えたのがそもそもの発端だからな」
正直な話、今の仁様を見ていると、本当にSランク
「Sランクになった以上、これ以上必死に冒険者としての功績を出せとは言わない。だから、これからはお前達も自分だけの目的や趣味を見つけて欲しいと思っている。今のノットが良い例かな。鍛冶師は半分は趣味だろう?」
「は、はい!その通りです。パーティの強化にも繋がるので、趣味と実益を兼ねています」
流石のノットも仁様に軽口は叩けない。
「今後は実益なしの趣味も許可すると言う訳だ。……いや、元々禁止していないけど、ノット以外、もれなく冒険者一筋だったからな。改めて、正式に許可しておこうと思ったんだ」
確かに、仁様の命令を達成するために全力で、他の事にはほとんど目を向けなかった。
「可能ならば本格的に料理を習いたいと思っているのですが、それも構わないですか?」
「ああ、もちろん構わないぞ」
ロロの問いに仁様は頷く。
「慌てて考えろと言う訳でもない。ただ、1つの節目として、今後の自分の在り方を考えて欲しいというだけだ。もちろん、Sランク冒険者として指名依頼なんかも来るだろうから、上手く調整した上での話になるけどな」
そう言って、仁様は僕達に退出の許可を出した。
Sランク冒険者になったからと言って、僕の人生が終わる訳ではない。
仁様の言った通り、ただの節目に過ぎないのだ。
「今後の在り方、か……」
今までは仁様の指示に従い、Sランク冒険者を目指すだけで良かった。
しかし、これからは自分達の在り方を自分達で決める必要が出てくる。
急に言われても混乱するだけだが、幸いな事に僕には頼りになる仲間、家族がいる。
皆とも話し合って、僕達の今後について考えよう。
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まとめ
名前:クロード
性別:男
種族:人間
装備:剣+盾
属性:光
備考:将来の夢はクランの規模拡大。やはり、冒険者が自分に一番合っていると思い、しばらくは冒険者を精力的にやりつつ、他の道も模索していく予定。
名前:アデル
性別:男
種族:人間
装備:槍
属性:氷
備考:将来の夢は学者、もしくは教師。仁の元で色々と学び、物を覚えたり考えたりすることが嫌いではないと感じた。幸い、コネクションは大量にある。
名前:ノット
性別:男
種族:ドワーフ
装備:槌
属性:土
備考:将来の夢は鍛冶師。冒険者になった時から一貫した目標。ある意味、夢の実現に一番近い位置にいる。
名前:ココ
性別:女
種族:獣人(犬)
装備:短剣×2
属性:風
備考:将来の夢は仁の騎士、もしくは付き人。冒険者と騎士は考え方の基本が違うため、ルシアから騎士としての心構えを教わり始めた。
名前:シシリー
性別:女
種族:人間
装備:槍
属性:水
備考:将来の夢は考え中。元々、あまり考えるのが得意ではないので、流されるように生きてきた。仲間に窘められたので、流石に少しだけ頑張って考えることにした。
名前:ロロ
性別:女
種族:人間
装備:大剣
属性:火
備考:将来の夢はお嫁さん。花嫁修業と似ていると判断し、メイド修行を始めた。屋敷に居る時間が増え、仁とのエンカウント率が上がったのも○。
名前:イリス
性別:女
種族:ハーフエルフ
装備:剣+盾
属性:闇
備考:将来の夢は図書館司書。元々本の虫で、目が悪くなったのもそれが理由。実は奴隷になる前、幼少期はそれなりに裕福な家庭で育った。
名前:ユリア
性別:女
種族:ハイエルフ
装備:鞭+短剣
属性:なし
備考:将来の夢は未定。記憶喪失で長寿のハイエルフなので、他の人よりもじっくりと考える時間があるし、むしろしっかり考えないと後で後悔すると判断。
列伝はクロード達がSランク冒険者になるまでを描くのが目的ですので、これで一段落となります。
7/10から本編再開です。