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異世界転移で女神様から祝福を! ~いえ、手持ちの異能があるので結構です~ 作者:コーダ

第9章 エルガント神国編

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列伝第4話 A級冒険者クロードの英雄譚(中)

中編です。この流れで行くと、次回更新は4日かと思われます。

 作戦本部を発った僕達は、劣風竜ワイバーンに乗りリフェル公国上空を飛行している。

 リフェル公国は小さいので、劣風竜ワイバーンなら20分くらいで中心部まで行けるはずだ。


 劣風竜ワイバーンは仁様から1人1匹ずつ与えられた。

 別々の劣風竜ワイバーンに乗っていると会話が難しいので念話で話をする。


《やはり、何度見ても間違いなさそうです。アレは、アンデッドではありません。精霊です……》


 <精霊術>を習得しているユリアさんが、眼下のアンデッドの群れを見て言う。


《え?ゾンビとかスケルトンにしか見えないわよ?》

《でも~、ユリアさんが見間違えるわけないよ~?》


 ココの言う通り、リフェル公国を制圧したのはゾンビ、スケルトンの群れだ。

 今、僕達の下にいるのも同じだ。


 しかし、精霊のスペシャリストであるユリアさんが間違えると思えないという点では、僕もシシリーと同じ意見だ。


《あれは、死体や骨に邪精霊が憑りついているのです》

《邪精霊……。確か、瘴気を取り込み過ぎた精霊だよね……?》


 自信なさげに言うアデルだが、その認識で正しかったはずだ。

 邪精霊は普通の精霊と同じく魔力の塊だが、その構成要素のほとんどが淀んだ魔力、瘴気となっている。

 悪食とでも言うべき存在で、その在り方は精霊の理から外れており、<精霊術>による契約も出来ない。


《はい、流石に私もあれほどの数の邪精霊、見た事がありません》

《ちょっと待ってください!それはつまり、黒幕が使っているのは<死霊術>ではないと言う事ですよね!?》

《恐らく……。どちらかと言うと、<精霊術>に近い何かがあるのだと思います》


 ロロが慌てたように言うと、ユリアさんが静かに頷いた。

 相手が精霊となると、アンデッドを操る<死霊術>は無関係だ。

 ただ、先にも述べた通り、<精霊術>では邪精霊とは契約できないので、<精霊術>関係で何か別のカラクリがあるのだろう。


《考察は後回しにしよう。大型の歓迎みたいだ》


 僕達の進行方向には巨人ジャイアントのアンデッド……もとい、邪精霊の憑りついた死体が待ち構えていた。

 明らかに僕達の存在に気付いており、光を失った目で見てきている。


 巨人ジャイアントはこの近辺にはいない魔物で、5~7mの異形の巨人だ。人間と同じようなシルエットをしているが、言葉は通じないし知性も理性もない危険な魔物だ。


《いくらデカくても、ここまで攻撃が届かないなら怖くねえよ》


 数10m地点を飛んでいる僕達には、流石の巨人ジャイアントでも攻撃は出来ないはずだ、が……。


《ノット、あまり余裕を見せるのは止めてくれないかな?》


 何か、嫌な予感がするんだけど……。

 ミオさんが良く言う、フラグって奴かな?


 憑依巨人ジャイアントおもむろに近くのスケルトンを掴み上げた。


《あ……》


 僕達は一斉に憑依巨人ジャイアントの目的を察した。


《馬鹿!ノットの馬鹿!アンタが余計な事を言うから!》

《おいコラ、イリス!俺が悪い訳じゃねえだろ!俺が何も言わなくても、同じ事してきたって……来るぞ!回避!》


 思った通り、憑依巨人ジャイアントはスケルトンを振りかぶり、僕達に向けて投げてきた。

 劣風竜ワイバーンを操作し、飛んできたスケルトンを回避する。


《クロード、どうする?私達の目的を考えれば無視して進むのも有りよ?》

《急ぐなら無視しよ~?》

《完全に狙われているし、追って来られたら面倒だから、ここで倒しておきたいな》


 既に冒険者達の戦線を越え、後10分程で中心部に着く。

 流石に、ここまで進むと冒険者達の引き付けも効果が無さそうだ。


 残り時間は気になるが、危険の芽は潰しておくべきだろう。


《クロード、見て見なよ……。どうやら、そんなに甘くないみたいだよ……。》

《憑依巨人ジャイアントが20以上。ドラゴンゾンビ、いえ、憑依ドラゴンが10。ここまでの歓迎はロロも想像していませんでしたね》


 理由は不明だが、20体以上の憑依巨人ジャイアントとドラゴンに邪精霊が憑依した偽ドラゴンゾンビが10体こちらに向かってきている。

 厄介な事に、偽ドラゴンゾンビの内3体は風竜が元となっているため、飛行することも出来るようだ。その他、火竜と地竜、水竜が2~3匹ずつも脅威だ。

 尤も、それより上位のドラゴンがいないのは不幸中の幸いかな。


《数を揃えればいいってモノでもないけど、これは流石に面倒ね。どうする、リーダー?》


 イリスが挑発的に聞いてくるが、答えは既に決まっている。


《大型はここで潰しておこう。ユリアさん、指揮をお願いします》

《分かりました。分散戦闘、二人一組ツーマンセル準備!》

《はい!》×7


 敵の数、強さを考え、二人一組で大型を各個撃破する戦術を取った。



《思ったよりも時間がかかった……》


 消耗を押さえた戦い方を選んだため、思っていた以上に時間を消費してしまった。

 やはり、決定力の低さが課題だ。大型相手だと半端な攻撃は通じない事すらあるから。


《まだ、1時間以上残ってるだろ。気にすんなよ!》

《その通りです。それに本来、大型の存在は考慮されていませんでした。大型と戦った点を考えれば、まだ順調な内に入ると思います》


 ノットとユリアさんが慰めてくれる。


《そうだね。まだ時間はある。もうじき中心部だし、気合い入れて行こう!》

《そうそう、リーダーなんだから、シャキッとしなさいよ。仲間の前で情けない格好を見せるんじゃないわよ!》

《ははは……。相変わらず、イリスは厳しいね……》


 仲間だから、いや、家族同然だから気を抜いている部分があるんだけどね。


 さらに進み、とうとうリフェル公国の中心部に差し掛かった。


《黒幕、どこにいるんだろう?》

《向こう、ですね》


 僕の呟きにユリアさんが指で指し示しながら答える。

 その先にあるのはリフェル公国、首都の王城だ。


《ユリアさん、分かるのですか?》

《はい、邪精霊も精霊です。ここまで近づけば、気配が一番強い箇所くらい分かります》


 ロロに問われ、ユリアさんが頷く。


《それだけじゃないみたいね》

《他の邪精霊がいないよ~?》

《本当だ。その周辺だけ、何もいない》


 ユリアさんの示した方向へ進んでいると、不思議な事に偽アンデッドが減って来た。

 中心に進む程偽アンデッドの密度が高くなっていたのに、本当の中心地にはむしろ偽アンデッドが少ない。


《クロード、どう思う?》

《目的が全く分からない。罠かもしれないけど、態々中心部に偽アンデッドを配置しない理由が思いつかない。油断を誘うにしては、露骨すぎるし……。注意して進むしかないと思う。ココはどう?》

《私も進むべきだと思う。不安は残るけどね》


 進まない、と言う選択肢はないが、理由の分からない不自然さと言うのは少し怖い。


「!?」


 次の瞬間、凄まじい悪寒が僕達を襲う。


《な、何ですか、この禍々しい気配は!?》

《特大の邪精霊です。それも、黒幕とは別の……》


-ゴゴゴゴゴゴ……-


 地響きのような音が聞こえ、空中に巨大な魔法陣が展開された。

 魔法陣はまるで門のように開き、その奥から悪寒の正体が現れる。


《最上位のドラゴン……》


 そこにいたのは、上位竜種の中でもさらに上位に位置する、巨岩竜ギガントドラゴンと言う名のドラゴンだった。

 その名の如く、ドラゴンの中でも特に巨大な巨岩竜ギガントドラゴンは50m近い全長を誇る。


 通常、竜魔術ブレスを放てるドラゴンの事を上位竜種と呼ぶ。

 先程戦った火竜達も上位竜種ではあるが下位に位置しており、巨岩竜ギガントドラゴンとは強さの格が違う。

 邪精霊の憑りついた偽ドラゴンとは言え、その強さは馬鹿に出来ないだろう。


 僕達が劣飛竜ワイバーンで進むのを止め、警戒しながら巨岩竜ギガントドラゴンの様子を見ていると、その頭部に男女が1人ずつ乗っていることに気付く。


 巨岩竜ギガントドラゴンは地竜系統で空を飛べないので、のしのしと歩いて来た。

 そのまま僕達から離れた所で止まり、男の方が声をかけてくる。


「君達、一体僕の国になんの用だい?」


 <生活魔法LV2>の『拡声ボイス』を使用しているようで、遠く離れていてもしっかりと声が聞こえている。……僕も使っておこう。


 男は20代くらいに見え、貴族の様な華美な服を着ている。鍛えているようには見えず、痩せており身長は高かった。

 女も同じくらいの年齢に見え、真っ白なドレスに身を包んだ美人だった。しかし、目には生気が見えない。

 男が女の腰を抱き、仲睦まじい夫婦のように密着している。


「リフェル公国は貴方の国ではないでしょう?」

「リフェル公国? ……ああ、もしかして、ここに元々あった国の事かな?違うよ。ここはもうリフェル公国じゃない。ここは僕とルイス、2人だけの国になったんだ」


 もちろん、こんな乱暴な方法で奪って国として認められる訳はない。

 しかし、男の表情は冗談を言っているようには見えない。


 どう見ても黒幕だが、念のため確認しておこう。


「これは貴方の仕業何ですか?」

「僕の仕業?何のことを言っているんだい?」


 僕が尋ねると、男は全く理解が出来ないというように首を傾げた。


「アンデッド、いえ、邪精霊を使ってリフェル公国を占拠した事です」

「占拠とは人聞きが悪いね。少し邪魔だったから、退いてもらっただけだよ。この国は緑豊かで景色がいい。僕達が2人で仲良く暮らすのに丁度良かったんだ。ねえ、ルイス?」


 そう言って男は女を見つめる。

 どうしよう……。言葉は通じているけれど、話が通じている気が全くしない。

 どうにかして、無理矢理にでも話を進めないと……。成り行き任せじゃ話が進みそうにない。


「……最初の質問に答えます。僕達は冒険者として占拠されたリフェル公国を取り返すためにここに来ました」

「そうか、それはご苦労様。なら、帰って奪還は無理でしたと伝えてくれないかな?見ての通り、僕にはこの巨岩竜ギガントドラゴンがいる。ここまで来れた事は素直に称賛させてもらうけど、これの相手をするのは流石に無理だろう?」


 どうしよう……。戦闘を始めるための挑発だったのに、全く通じていない。

 それどころか、僕達をこのまま返すつもりのようだ。


「僕達はこの国だけがあれば良い。他の場所に兵を進めるつもりはない。ほんの数十年でいいんだ。穏やかに暮らす僕達の事を放って置いてくれないかな?」


 男が穏やかな表情のまま言う。

 男の目に野心は見えない。国を奪っておきながら、その目的は穏やかに暮らす事だけ。


「それは出来ません」

「何故だい?僕は脅かされない限り、誰かに害をなすつもりはないよ?」


 近づきさえしなければ偽アンデッドは襲って来ない。

 不気味ではあるが、放って置いても問題ないといえば問題ない。

 ………………そんな訳が無い。


「知っていますか?貴方がこの国を占拠する時、人死が出ているんです。貴方を脅かした訳でもない村人を、貴方は既に殺しているんです。しないと言ったことを既に行っている貴方の言葉なんて、信じられる訳ないでしょう?」


 目的が穏やかに暮らすことで、襲われない限り襲わないという事を徹底していたのなら、僕達も少しは考えたかもしれない。

 でも、この男は既に何もしていない一般人にも被害を与えている。

 平和に暮らしていた無実の人を襲い、殺しておいて、自分達は穏やかに暮らしたいなんて、許されるはずがない。僕が許さない。


「信じる、信じないは君達の自由だけど、それならどうするつもりだい?まさか、この巨岩竜ギガントドラゴンを倒すとでも言うのかい?」

「はい。僕達はそのドラゴンと、……貴方を倒します。この国は返してもらいます」

「ははは、面白い事を言うね。なら、試してみるが良い」


 男はそう言うと、巨岩竜ギガントドラゴンの頭から飛び降りた。

 直後、女の背中から黒い靄のようなものが飛び出て、羽の形を作った。

 そのまま、男と女は城へと飛んで戻って行った。


《あの女性、偽アンデッド達と同じように、邪精霊が憑りついています》


 ユリアさんが説明してくれるが、何となく分かっていた事である。


《それより、早いところ地面に降りようぜ!このままじゃ、劣飛竜ワイバーンに乗ったまま戦う羽目になる》

《そうだね……。流石にそれは不利すぎるよ……》


 僕達はすぐさま劣飛竜ワイバーンを地面に着陸させ、その背から降りる。

 相手が地竜なら、劣飛竜ワイバーンに乗ったまま戦うよりは降りた方が戦いやすい。劣飛竜ワイバーンは優秀だけど、そこまで戦闘力が高い訳じゃないから。

 ……それに、仁様から貰った劣飛竜ワイバーンを無意味に危険にさらすのは嫌だ。


 劣飛竜ワイバーンには攻撃の届かない程上空を飛んでもらい、僕達は巨岩竜ギガントドラゴンと向き合う。

 男と女が城に戻ると、巨岩竜ギガントドラゴンはその巨体を再び動かし始めた。


「出し惜しみ無しの全力です!『コールエレメント』オール!」


 ユリアさんが<精霊術>を発動して、契約している全ての精霊を呼び出す。

 それぞれ異なる色をした光が7つ現れ、ユリアさん以外の7人の元へと飛んで行く。


 ノットの元には土属性、アデルの元には氷属性、ココの元には風属性、シシリーの元には水属性、ロロの元には火属性、イリスの元には闇属性の精霊がそれぞれ向かう。

 そして、僕の元には光の塊、光属性の精霊であるアカリさんが飛んできた。


《クロード君、またお姉さんの力が必要なのかな?》

「はい、お願いします」


 僕達は属性の合った精霊を身に纏う事で、大幅に戦力を上げることが出来る。

 それが僕達の切り札の1つ。『精霊化』である。


《おっけー、お姉さんに任せなさい!どーん!》


 アカリさんはそう言うと僕に体当たりをしてきた。僕にぶつかる直前、アカリさんは光の粒となって僕に吸い込まれる。

 その瞬間、僕の身体の奥底から力が沸き上がってくる。

 そして、それをあえて抑え込む。


 今まで、『精霊化』をすると時間制限付きで大幅に能力が強化された。

 しかし、制限時間を越えた後、まともに戦えなくなるのは問題だ。それは、Sランク冒険者として継続的に成果を出すには少々短絡的すぎる。

 その結果、考え付いたのが『精霊化LV2』だ。


 『精霊化LV2』は『精霊化』した後、あえて精霊の力を抑え込み、能力を大幅に上げないようにする。そして、戦いの中、瞬間的にそれを開放、能力の上昇を行い、再び抑え込む。

 つまり、強化を短く、繰り返し行う事で、魔力と体力の消費を抑えることが出来たのだ。

 もちろん、口で言うほど簡単ではなく、色々な問題もあったのだが、1つ1つ検証して解決をすることで、実戦で十分に使用できるレベルまで昇華した。


 当然、『精霊化LV2』はユリアさんを除く7人全員が出来る。


「GOOOOOOO……」


 準備が終わるか終わらないかと言うところで、偽巨岩竜ギガントドラゴンが低く呻きながら片足を上げる。

 間違いなく踏みつけスタンピングだろう。


「対巨大魔物モンスター戦闘準備!」

「おう!」×7


 ユリアさん指示の元、僕達は大きく散開した。


 僕達だってこれまで何度も魔物と戦ってきている。

 超大型の魔物相手だって、無策なんてことはない。


 大型の魔物を相手取る場合、一か所に固まるメリットが無いため、まずは散開し、各々有利な距離を確保する。


-ドオオオオオン-


 偽巨岩竜ギガントドラゴンの踏みつけ(スタンピング)は凄まじい衝撃を起こしつつも無駄に終わる。


「シシリー、行くわよ!」

「は~い!」


 まず初めにココとシシリーが槍を持って偽巨岩竜ギガントドラゴンに接近する。


 シシリーは元々槍装備だが、ココの普段の装備は短剣二刀流である。

 しかし、大型魔物相手では短剣は効果が薄いため、槍を装備することにしている。

 小回りが利くのでココは短剣を好んでいるが、足の速いココにとって、速さを威力に変えられる槍との相性は悪くない。


「はあ!」

「え~い!」


 2人の突きが偽巨岩竜ギガントドラゴンの脚に刺さるが、血が噴き出すようなことはなかった。


「浅かった!」

「違うわ!アレは血が通ってないのよ!」


 ココが悔しそうに言うのをイリスが否定する。


「あれはあくまでも巨岩竜ギガントドラゴンの死体よ。きっと、腐敗防止のために血を抜いているのよ!」


 そうだ。アレは見た目は巨岩竜ギガントドラゴンだけど、実際には邪精霊の憑りついた死体でしかない。

 詳しくは知らないが、巨岩竜ギガントドラゴンといえど、放って置けば死体は腐敗するのだろう。

 死体を切り札にする以上、腐敗防止くらいしていてもおかしくはない。


《戦術変更!対巨大魔物モンスター、対操作系魔物モンスター併用戦闘!》


 散開しているので、ユリアさんは念話で指示をしてきた。


 普通の魔物は脚だろうが何だろうが攻撃を続けていればダメージを与えられる。

 しかし、憑依などによって操られた死体は肉体にダメージを与えるだけでは倒せない事も多い。倒すとなると、操作できない程に損壊させないといけない。

 巨岩竜ギガントドラゴン級の魔物をそこまで損壊させるのは、普通の武器では時間がかかり過ぎる。


「『アイスショット』……」


 離れていたアデルが<氷魔法LV3>の『アイスショット』を放つ。

 大きめの氷弾が巨岩竜ギガントドラゴンの巨体に当たる。


 アデルに続き、他のメンバーも次々に魔法の詠唱に入る。


 巨大な魔物を損壊させようと思ったら、普通に考えれば魔法による攻撃が最も有効だ。


「GOOOOOOO……」

《また踏みつけが来るぞ!避けろ!》


 再び踏みつけスタンピングを仕掛けてくる偽巨岩竜ギガントドラゴン

 僕達は魔法の詠唱をしながらそれを避ける。


 普通の冒険者パーティだったら、魔法使いを後衛として、前衛が時間を稼いでいる間に魔法を唱えるだろう。

 しかし、僕達は全員が魔法を使え、なおかつ前衛としても戦えるように訓練している。

 <精霊魔法>で全体強化を施しているユリアさんですら、前衛として戦えるだけの実力はある。

 つまり、前衛として囮になりながら、魔法による大ダメージが狙えるのだ。


「『ファイアショット』です!」

「『アクアショット」だよ~!』

「『ウィンドショット』よ!」

「『ストーンショット』だ!」

「『ダークショット』を喰らうと良いわ!」


 皆の魔法が偽巨岩竜ギガントドラゴンに突き刺さる。

 ほとんど同時に魔法の詠唱を開始したから、発動がほぼ同時になるのは自然な事だ。

 ちなみにショット系の魔法は、LV3魔法の中では詠唱時間と威力のバランスが良く、単体の敵を相手にするのに有効なので、パーティメンバー皆が愛用している。


「『ライトショット』!」


 当然、僕も同じだ。


「GOOOOOOO……」


 いくら巨大だとは言え、中位の魔法を連続で浴びればダメージになる。

 実際に憑依している邪精霊にダメージが無くても、その肉体はボロボロと崩れていく。


「GOOOOOOO……」


 偽巨岩竜ギガントドラゴンはぐるりと回転し、尻尾による範囲攻撃を仕掛けてきた。

 5m以上ある尻尾が横薙ぎに広範囲を攻撃するが、出が遅いため余裕を持って避けられる。


 ……実は、偽巨岩竜ギガントドラゴンは僕達に対する有効な攻撃を持たない。

 あまりにもサイズが違いすぎて、狙って攻撃をすることが困難なのだ。


 本来、ドラゴンの切り札は<竜術>つまりブレス攻撃だ。

 ブレス攻撃ならば、踏みつけスタンピングや尻尾攻撃よりも広範囲に高威力で攻撃出来た。

 しかし、死体となった巨岩竜ギガントドラゴンには<竜術>は使えない。


 大勢の相手をするのなら十分な戦力だろうが、少数精鋭を相手にするには攻撃が雑過ぎて、簡単に避けられてしまうことになる。


「『ライトショット』!」

「GOOOOOOO……」


 攻撃を避けつつ、何度も魔法を当てていく。


《順調ですから、少し向こうの攻撃力を落としてきます》


 ロロがそう言って偽巨岩竜ギガントドラゴンに向けて走り出す。

 偽巨岩竜ギガントドラゴンは尻尾攻撃を繰り出している最中だ。


 ロロは尻尾の先端、ある程度細くなっている部分が通過する場所で屈み、大剣を掲げるように構えた。


「ぐぅっ!」


-ズガガガガガ!!!-


 ロロの大剣は偽巨岩竜ギガントドラゴンの尻尾をガリガリと切り裂いていく。

 偽巨岩竜ギガントドラゴン自身の力で尻尾を斬り落としてしまおうという魂胆だ。


 正面から受け止めるのではなく、撫でるようにしているので多少はマシだろうが、ロロへの衝撃も凄まじく、苦悶の声を上げている。


「えいっ!」


 ロロの掛け声とともに偽巨岩竜ギガントドラゴンのしっぽが斬り落とされ、遠心力で何処かへ飛んで行く。

 これで、リーチが大分短くなった為、尻尾攻撃の脅威度が下がった。

 死体と言う事もあり、生きていた時よりは脆くなっているのかもしれない。


《思ったよりも簡単に斬れました。他の部位も斬り落とせるかもしれません》

《クロード君、ココさんは上方、ロロさん、シシリーさんは下方の部位を斬り落とせないか試してください。イリスさん、アデル君、ノット君は魔法攻撃。味方に当てないよう気を付けて下さい》

《了解》×7


 ロロの報告を聞き、ユリアさんが指示を飛ばす。

 僕とココ、一番身軽で素早い2人組が偽巨岩竜ギガントドラゴンを駆け上がる。


「デカいから登り易いわね」

「油断して落ちないようにね」

「そんなヘマする訳ないじゃない!空飛べるんだから!」


 僕達は『精霊化』をしている最中に限り、短期間ではあるが空を飛ぶことが出来る。

 本来、『精霊化』にそのような効果はないが、色々と裏技を駆使して実現した能力だ。

 尤も、この発想自体、仁様がいなければ産まれなかったものなので、僕達独自の力とも言い難いのだが……。


「はぁっ!」

「えいやっ!」

「GOOOOOOO……」


 短時間の飛行を駆使しつつ、偽巨岩竜ギガントドラゴンの巨体を登り切り、体格の割には小さい手、と言うか前脚を斬り落とした。

 眼下ではロロ、シシリーが足の指を斬り落としているところだ。


《順調だな!このままなら楽勝だぜ!》


 ノットは余裕を見せないと気が済まないのだろうか?


「GOOOOOOO……。GAAAAAAAAAAAA!!!」


 呻き声が変わるや否や、偽巨岩竜ギガントドラゴンがその場に伏せた。


《馬鹿ノットー!!!また余計な事を言ったわねー!!!》

《だから、俺のせいじゃねえだろー!》


 イリスがノットを罵倒する。

 確かにノットが何も言わなくても同じことをしただろうが……タイミングが……。


「GAAAAAAA……」


 偽巨岩竜ギガントドラゴンは伏せた状態から、手や足、尻尾を地面に突き立てた。

 それらは、僕達が斬り落とした部位だ。


「何をして……え!?」

「マジかよ……」


 地面が偽巨岩竜ギガントドラゴンの失われた部位に吸い込まれるように蠢き、あっという間に腕が、足の指が、尻尾の先端が再生したのだ。

 これは、結構ヤバい。


《この再生が何度も繰り返せるようでは、私達に勝ち目はありませんね。ですから……》


 ユリアさんが冷静に分析する。

 気付けば、魔法により損壊させた箇所も回復している。

 偽巨岩竜ギガントドラゴンを倒そうと思ったら、回復する間を与えないように削りきるか、一撃で再生不可能なレベルで破壊するか……。


《邪精霊を操っている男を先に倒しましょう》


 それくらいしか、手はないだろう。


《クロード君、ココさん、お願いしても良いですか?》

《はい、大丈夫です》

《任せて!》


 偽巨岩竜ギガントドラゴンを相手にする為、あまり大人数で男を倒しに行く訳には行かない。引き付ける役目は必要だ。

 相手が男1人とも限らないので、最低2人で行くのも重要だ。

 そうなると、足の速い僕とココが適任だろう。


《私との距離が空くので、『精霊化』の効果が落ちることに気を付けて下さい》

《はい!》×2


 僕達は偽巨岩竜ギガントドラゴンの横をすり抜け、男達のいる王城へと走り出す。


「GAAAAAAA……」


 僕達の行動に気付いた偽巨岩竜ギガントドラゴンが攻撃を仕掛けようとしてくる。


-ドガガガガ!!!-


 仲間達の放ったショット系魔法が偽巨岩竜ギガントドラゴンに突き刺さる。


「貴方の相手はこちらですよ」

「余所見なんてしてんじゃねえよ」

「クロード、任せたよ……」

「ココちゃん、いってらっしゃ~い」

「さっさと倒して早く帰って来なさいよね!」

「2人とも、お任せまします」


 仲間達に見送られ、僕とココは走り続けた。



*************************************************************


精霊化属性


名前:クロード

属性:光

備考:主人公だし、光でいいや。


名前:アデル

属性:氷

備考:大人しい、つまり温度が低い、つまり氷だな。


名前:ノット

属性:土

備考:ドワーフだから土だよな。武器も槌だし。


名前:ココ

属性:風

備考:元気。素早い。風だ。


名前:シシリー

属性:水

備考:おっとり、のんびり、それは水だ。


名前:ロロ

属性:火

備考:恋愛脳、赤い髪、情熱的、火以外にないだろう。


名前:イリス

属性:闇

備考:ヒステリックだから闇。仕方ないね。


名前:ユリア

属性:なし

備考:『精霊化』の発動に必要な為、本人は『精霊化』しない。よって属性も無し。



雷属性の精霊『!?』

今回はガチバトルなので、クロード君のヒロインは出てきません。

そもそも、舞台がエステアなので、出てくる余地がありません。もちろん、エステアはエステアでヒロインはいるでしょうけど。

メタい話をすれば、ヒロインポジを出そうとすると、話の収拾がつかなくなるという……。

+注意+
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