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異世界転移で女神様から祝福を! ~いえ、手持ちの異能があるので結構です~ 作者:コーダ

第9章 エルガント神国編

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列伝第4話 A級冒険者クロードの英雄譚(上)

間に合ったので、ちょっとした短編を投稿いたします。

本編をお待ちの方には申し訳ないと思っております。


タイトルから分かる通り、おおよそ同じ分量で後2本続きます。

本編次回更新の10日までには全て投稿いたします。

 僕の名前はクロード。

 元々は何の取り得もないただの奴隷だったけど、今は何の因果かAランク冒険者をやっている。


 僕達は主人である仁様に、Sランク冒険者になる事を命じられている。

 Sランク冒険者になるには大きく2つの条件がある。


 1つ目は最低3ヶ国からSランクに相応しいという推薦を貰う事。

 2つ目はSランクに相応しい功績を残す事だ。


 僕達はカスタール女王国、ガシャス王国からの推薦を既に貰っている。

 そして、現在居住しているエステア王国からも先日、推薦を貰ったところだ。


 後は、Sランク冒険者に相応しい功績、大抵の場合は強大な魔物の討伐をすることで、Sランク冒険者の称号が手に入るところまで来ている。



 その日、僕達の所属するクラン『救う者セイバーズ』に対し、エステア王国の冒険者ギルドから緊急招集がかかった。


「先日、エステア王国の南東側の小国、リフェル公国が魔物によって占拠されました。クロードさん達にはその奪還をお願いしたいのです」

「国の奪還、ですか……?」


 僕達主要メンバー8人はエステア王国首都の冒険者ギルド、その応接室で受付嬢さんから話を聞いている。


「はい。リフェル公国から逃げてきた者の話によると、アンデッドの群れが攻めてきたそうです。公国の騎士団が対処しようとしたのですが、まるで歯が立たず、瞬く間に公都が占拠されてしまったようです」

「住民の人達はどうなったんですか?」

「幸い、アンデッドの移動速度自体は遅いため、ほとんどの住民は逃げ出せたそうです。ですが、連絡の遅れた村がいくつか壊滅しましたし、騎士団からも多くの犠牲を出しています」


 ……少なからず犠牲は出ているようだ。


 エステア王国の東側には、仁様が行こうとしない真紅帝国があり、そのせいで仁様のがほとんどないため、こういう事が起きてしまう可能性もある。

 仁様の行動範囲に入っているか否かで、悲劇が起きる可能性が大きく変わるのだ。

 文句を言うような事ではないのは分かっているが、仁様には出来るだけ早く世界中を回って欲しい。


「アンデッドの群れはリフェル公国の中心部から離れようとしない為、この国が被害を受ける可能性は今のところ低いです。しかし、魔物に占拠された国をいつまでも放って置くことも出来ません。クロードさん達には、是非その奪還に加わって欲しいのです」

「加わって欲しい、と言う事は、僕達だけで事に当たる訳ではないのですね?」

「はい、本来でしたら、このような大事、国が主導になって行う事です。しかし、簡単には行かない理由があるのです」


 受付嬢さんが真剣な表情で続ける。


「どうやら、アンデッドの行動範囲内で死んだ者は、そのままアンデッドになってしまい、生者を襲うようになるそうなのです。加えて言うと、アンデッドは倒してもしばらくすると復活するそうです。恐らく、何者かが大規模な<死霊術>を使っているのだと推測されます」

「半端な実力の者が向かうと、事態が悪化するだけですね」


 アンデッドを減らすことは出来ず、死んだ者はアンデッドとなり牙を剥いてくる。

 下手をすれば負のサイクルになってしまう。


「ええ、こちらもそのように考えています。<死霊術>の使い手を倒さなければ、周囲のアンデッドを倒しても無駄でしょう。その役目をクロードさん達にお願いしたいのです」

「僕達が<死霊術>の使い手を、ですか?」

「ええ、クロードさん達の実力は私達も知っていますから、<死霊術>の使い手に遅れを取ることもないでしょう。何より、クロードさん達には空中の移動手段があります。道中のアンデッドを無視できる、これは非常に大きいのです」


 僕達は主である仁様より、劣風竜ワイバーンを与えられている。

 空を移動できるというのは、それだけで大きすぎるアドバンテージなのだ。


「エステア王国、それに他の周辺諸国からも人を集め、周囲のアンデッドを引き付けます。中央からアンデッドが減ったところで、クロードさん達に大本を叩いていただきたいと考えています。陸路だけで中心部まで行くのは、諦めた方が賢明でしょうから」


 受付嬢さんの話によると、アンデッドの数は最低でも1万を越えるそうだ。

 アンデッド1匹1匹ははっきり言って弱いが、不死の軍勢がそれだけいるとなると、簡単には行かないだろう。


「カスタール女王国の竜騎士団に頼むと言う事も考えましたが、今は首脳会議で女王様が国を出ています。そんな中、遠方に主力を送ってくれとは言えません。周辺諸国だけで何とかするしかないのです」


 仁様から与えられた劣飛竜ワイバーンだが、公にはカスタール女王国から与えられていることになっている。

 正確に言うと、女王騎士であるジーン様からだ。まあ、ジーン様は仁様の仮の姿なのだが。


「後、この依頼はエステア王国、及びリフェル公国からの指名依頼となります」

「強制依頼ではないのですか?」


 街や国の危機の際、強制依頼として、その街の冒険者を強制的に招集することが出来る。

 しかも、強制依頼の依頼料は低めだから、冒険者が最も嫌う物の1つだ。


 対する指名依頼は強制力がなく、冒険者ランクに応じて依頼料も高額となるので、高ランク冒険者の特権のようなものだ。

 ……まあ、付随する面倒事も少なくないので、嫌う人もいる。仁様とか……。


「ええ、いくつかの条件が整わず、奪還作戦を強制依頼とすることは出来ませんでした。周囲のアンデッドを引き付ける役も基本的には国の騎士団と善意の協力者にお願いすることになります。もちろん、依頼料は出ますが……」


 国を占拠する程のアンデッドの群れだ。

 直接的な被害が無いのなら、手を出したくないと思うのも無理はない。

 特にこの国は冒険者が少なく、探索者は迷宮外での戦闘を嫌う傾向にあるので尚更だ。

 しかし、国レベルで考えれば放置できる問題ではない。


「もし、クロードさん達に断られてしまうと、カスタールの女王、サクヤ様の帰還を待ち、女王騎士ジーン様を含む竜騎士団を派遣して頂くしか手がなくなります。それまで、事が動かないと良いのですが……」


 僕達が断ると、サクヤ様と仁様の方に話が行くようだ。

 僕達だけで何とか出来ることで、2人に手間をかけさせる訳にはいかない。


 僕は周囲にいる仲間達を見渡す。

 それぞれ、頷いたり微笑んだりしてくれている。

 仁様を畏怖しているイリスだけは、仁様に手間をかけさせることを恐れ、睨むようにして何度も頷いていた。


「分かりました。僕達で良ければ、その奪還作戦に協力させていただきます」

「本当ですか!ありがとうございます!」


 こうして、僕達はリフェル公国奪還作戦の中核を担う事を決めた。


 打ち合わせの結果、作戦の開始は1週間後と言う事になった。

 急な話なので、周辺諸国は随分と慌ただしく準備を進めることになった。


 そんな中、役に立ったのが、エステア王国に贈られた劣風竜ワイバーンだった。

 以前、僕達に劣風竜ワイバーンが与えられた際、エステア王国のカトレア様も劣風竜ワイバーンを欲しがったそうだ。

 仁様から条件を付けられ、カトレア様は何とかそれを達成、51匹の劣風竜ワイバーンを与えられることになった。


 それならばエステア王国の劣風竜ワイバーンで<死霊術>の使い手を叩け、と言いたくなるだろうが、それは難しい。

 何故ならば、エステア王国では劣風竜ワイバーンはあくまでも貰い物。

 主戦力にするつもりは最初からなく、連絡用、輸送用として、強い騎士より、上手く乗れる騎士に乗せる事を重視した。


 簡単に言うと、エステア王国の竜騎士は弱いのだ。

 それでも、移動・連絡手段の有無は大きく、1週間という短い期間で周辺諸国の人達と足並みを揃え、奪還作戦の準備が整うなら上出来だろう。


 その間、僕達には劣風竜ワイバーンによる連絡役は依頼されなかった。

 少しでも準備をして、奪還作戦の成功率を上げて欲しいそうだ。



「私達も奪還作戦に参加するのです」

「「参加します」」

《周囲の魔物を引き付ける役割ですけどね》


 仁様の屋敷で食事をしていると、エステアで活動している『救う者セイバーズ』のメンバー、シンシアさん、カレンさん、ソウラさん、ケイトさんの4人が話しかけてきた。

 彼女達は僕達と同じく仁様の奴隷で、迷宮攻略を命じられた探索者でもある。


「それは助かるけど、良いのか?迷宮攻略に差し支えるんじゃないか?」

「仁様の命令に差し支えるのは絶対にダメ。私が絶対に許さない。そんなに死にたいのなら、仁様の命令と関係ないところで勝手に死になさい」


 4人に尋ねたのはノットだ。

 そして、仁様が関わるとイリスは壊れる。普段は冷静な子なんだけど……。


《イリスさん、私が仁様の命令に背くような事をするはずがないでしょう?当然、迷宮攻略は順調ですし、50層の攻略も遠くはありません。ただ、仁様があまりお戻りにならない時期に攻略する気はありません。50層攻略の報告は、仁様に直接行いたいのですから》

「分かります!仁様には直接褒めていただきたいですよね!」

《はい、頭でも撫でて頂ければ、それは至上の喜びです!》

「それも分かります!」


 ケイトさんは仁様を神として崇拝している1人だ。時々、その発言に背筋が寒くなることもある。

 一方、同意を示したロロは仁様に純粋な好意を抱いている。純粋……うん、純粋と言う事にしておこう。それが誰にとっても幸せな事だ。


 会話が噛み合っている2人だが、実はその内容は全く噛み合っていなかったりする。


「2人とも、話が進まないからそのくらいにしなさい。まあ、仁様の命令に背かないというのなら、私が口を出す事じゃないわね。……疑って悪かったわね」

《気にしないで下さい。私も逆の立場だったら同じように問いただしたでしょうから》


 ほら、背筋が寒くなった。


「今、47層なのです!50層を攻略したら、シンシア達にも劣風竜ワイバーンが贈られるのです。出来れば、奪還作戦はその後にして欲しかったのです!」


 迷宮は全50層……実は60層まであるけれど、普通の探索者が行けるのは50層まで。

 全てを攻略した者はいない……仁様以外。

 シンシアさん達が迷宮攻略をした暁には、カトレアさんと同じく劣風竜ワイバーンが贈られることになっている。


「流石にそれは無理だと思うよ……」


 アデルの言う通り、そんな理由で奪還作戦を延期には出来ないだろう。


「なんなら、私達の劣風竜ワイバーンに乗っていく?」

「シンシアちゃん達なら歓迎だよ~?」


 ココとシシリーの提案だが、ケイトさんは首を横に振った。


《お誘いは嬉しいのですが、功績を明確にするためにもそれは避けた方が良いでしょう》

「そうですね。今回の件は不謹慎な言い方ですが好機です。不確定要素は減らした方が良いでしょう」


 ケイトさんの言葉に、ユリアさんも頷いた。


「好機って何の事だ?」

「?」

「あ、そっか……」


 ノットとシシリーは理解していないようだが、ココはギリギリで気付いたようだ。


「今回の戦い、私達がSランクになるための功績として十分な物でしょう。功績を減らさないためにも、私達だけで事に当たるべきだと思います」

「ああ、なるほど。言われてみればそうだな。よっし!俄然やる気が出てきたぞ!」


 理解したノットがやる気を燃やす。

 そう。今回の戦いは色々な意味で、失敗できない作戦なんだよ。


「むしろ何で気付かないのよ。仁様の命令を考えれば、すぐにでも気付くべきでしょ!」

「えへへ~」


 イリス、シシリーにそれを期待するのは酷だと思うよ。


「アンデッドを間引くのは任せて欲しいのです!30層台で死ぬほどアンデッド狩りをしていたので慣れているのです!」

「大変だったよね、カレンちゃん」

「過酷だったよね、ソウラちゃん」

《30層台では、休む暇がない程でした。短い休息で体力を回復させる術を身に付けなければ、とても戦い抜けなかったでしょうね》


 話に聞く迷宮30層台では、アンデッドが無数に沸いて押し寄せて来るそうだ。

 それを乗り越えた4人は、まさしく今回の奪還作戦向きの人材である。


 ただし、シンシアさん以外は心にダメージを負っているようだが……。


《後衛は任せて、貴方達は心置きなく中心部で戦ってください》

「ありがとうございます。とても、心強いです」


 シンシアさん達の実力は良く知っている。

 そのシンシアさん達が周囲で魔物を引き付けてくれるというのなら、そちらの心配は不要だろう。



 嬉しい援軍はそれだけではなかった。


「ティラちゃん、参戦♪」

「今回の奪還作戦、アト諸国連合側からも人員を出すことになったのだ。アト諸国連合の実力者と言う事で、妾達にも依頼が来たのだ。冒険者ではないから断っても良かったのだが、身内が参加するとなればそう言う訳にもいかないからな」

「任せるっすよー!」

「よろしくお願いします」


 アト諸国連合で傭兵をしているティラミスさん、ショコラさん、メープルさんの3人が参戦してくれることになったのだ。

 冒険者ではなく傭兵をやっている理由は、彼女達が魔物であり、冒険者登録できないからである。尤も、傭兵と言っても身内であるアドバンス商会の専属なのだけど……。


 実のところ、シンシアさん達探索者組よりも接点は少ないが、その実力は十分に知っている。懇親会とかで強力な魔法を使っているのを何度も見ているから。


「妾達の目的の1つは連合周辺にいる邪悪な魔物の討伐だ。連合から逃げた魔物ではないようだが、無関係と言う確証もないからな」

「自分の知り合いにこんな事が出来そうな魔物はいないっすけど、世の中、何が起こるか分からないっすからね……」

「その代名詞がハニーだよね♪」


 ティラミスさんは仁様をハニーと呼ぶ。

 確かに、仁様の周囲では何が起こるか分からない。そして、そんな不思議な存在が仁様だけという保証もない。


「ショコラさんとメープルさんは空を飛べますよね?中心まで同行するつもりですか?」

「いや、ケイトから話は聞いているから、周辺でアンデッドの間引きだ。妾達の魔法なら、遠距離から数を減らせるから、重宝されるだろうとの話だ」

「ティラちゃんだけは投石だけどね♪」


 ユリアさんの問いにショコラさんとティラミスさんが答える。


 ティラミスさんは全く魔法が使えない、『恐竜』と言う魔物らしい。

 ただし、恐ろしく硬くて強い、純粋なるパワーファイターだ。


「活躍の場は譲るっすから、しっかりと決めてきて欲しいっす」

「頑張れ♪頑張れ♪」

「任せたぞ」

「はい、分かりました。任せてください」


 仁様配下が2グループも参加してくれるのだ。

 いよいよ、情けない姿は見せられない。

 どんどん、負けられない戦いになっていく。



 作戦開始までの1週間、僕達は他の依頼を受けることなく、リフェル公国奪還作戦の準備をすることに充てた。


 ポーション等、必要な物資はアドバンス商会の店舗で揃える。

 アドバンス商会は仁様の配下が経営しているので、はっきり言えば身内なのだが、その関係は公にしていない為、普通に購入する必要がある。

 こっそり値引きはして貰っているけど……。


 大量に買い込み、アイテムボックスに入れる。

 冒険の中で入手した特大容量の超高級アイテムボックスだ。

 これ1つで、王都の1等地に豪邸が建つとか建たないとか……。僕達の目的はお金稼ぎじゃないから、冒険に必要な物はいくらお金を積まれても売れないんだけどね。

 そして、その超高級アイテムボックス……実はご主人様の<無限収納インベントリ>の偽装用なんだ。本当に笑える。


 次に武器、防具を揃える。

 と言っても、今から新しい武器を用意するなんて無理なので、鍛冶師であるノットに整備メンテナンスをして貰うくらいだ。


「時間が……なさそうだから……、私も……手伝う……」

「ミミさんが手伝ってくれるなら100人力だな」


 ドワーフのミミさんはノットの師匠の1人だ。


 今回、準備時間が1週間と言う事もあり、ノットの負担を減らす為、武器の整備を手伝ってくれることになった。

 ミミさん自身、凄腕の剣士だが、戦いの舞台に立つのは止めたそうだ。

 戦っていたのも必要に迫られてとの話なので、その必要がなくなった今は仁様の為に武器を打つことだけに集中したいと言っていた。


 2人の整備した武器、防具を取り付けてみる。

 慣れた装備なので身体に馴染む。それでいて使い心地は新品のようだ。


「そう言えば、対アンデッド用の装備、この間作ったよな?どうせ使うなら、そっちの方が良かったかもしれないな」


 実は、ノットは以前、対アンデッド用の武器を人数分作成していたのだ。

 動機は懇親会でアンデッドの魔物を討伐する速さを競ったからだ。


 今回、多くのアンデッドを相手にするだろうから、対アンデッド武器があれば大分楽に戦えるだろう。

 しかし、僕は首を横に振って否定する。


「あの武器、僕達の冒険で手に入れた素材から作った訳じゃないだろ?Sランクに実力でなろうという時には使うべきじゃないよ」

「……それもそうだな。悪い、変な事を言ったな」

「それに、僕達の目標は<死霊術>の使い手だ。ソイツがアンデッドである保証なんてどこにもないだろ?」


 <死霊術>を使うアンデッドと言うのも良く聞くが、人間も<死霊術>は使えるのだ。


「ああ、黒幕が人間の可能性も十分にあるんだよな」

「下手に一点賭けしないで、使い慣れた武器でどんな相手にも対応できるようにした方が良いと思う」

「だな」


 最後は技の確認だ。

 10日間の内、ほとんどはこの時間に充てたといっても過言ではない。


 まず、仲間内での連携の確認。


 4人パーティ2つとしての連携を中心に確認していく。

 僕、ココ、シシリー、ユリアさんの組とアデル、ノット、ロロ、イリスの組に分かれ、対魔物、対人型の陣形を再確認する。


 次に8人パーティとしての連携だ。

 今度は4人組を意識せず、8人それぞれが役割を果たす様に動きを調整する。

 パーティリーダーは僕だが、8人パーティとしての連携時は後衛のユリアさんに全体指揮を任せている。


 更に2人組、3人組、パーティメンバーを変えての連携を順に調整。

 誰と組んでも連携できるようにしていく。

 その後、個々の課題を解決するための訓練を行う。

 これはそれぞれ課題が異なっているので、自主訓練として行うことになっている。


 僕の欠点は決定力の無さだ。


 ユリアさんの協力を得て『精霊化』などを使えば話は別だが、単体の攻撃力は低めだ。

 盾持ち片手剣使いにそれ程攻撃力は要求されないが、Sランクを名乗るには物足りない部分がある。せめて、切り札となる攻撃の1つや2つは持っておきたい。


「はあっ、はあっ……」

「またやってるのね。そんな無茶な訓練、止めたら?」


 訓練場で疲れ果てて大の字になって倒れていると、近くで訓練していたココが呆れたような顔をして声をかけてきた。


「そう言う、はあっ……訳にもいかないよ、はあっ……」

「はい、水よ」

「ありがとう、はあっ……」


 上半身だけ起こし、渡された水をゴクゴクと飲み干す。

 思っていた以上に負担が大きいようだ。


「僕は非才だから。人と同じことをしていたら強くは、普通の人以上にはなれないんだ」

「……気持ちは分かるけど、態々分の悪い賭けに出る必要もないでしょうに。ユニーク級スキルの発現、そんな簡単にできる訳がないじゃないのよ」


 そう、僕の目的はスキルの発現だ。

 それも、仁様がユニーク級と分類する、強力無比なスキルである。


「<縮地法>だけじゃ満足できないの?」

「出来ない。足りないんだ。<縮地法>だけじゃ、決定力が無い」


 僕は既に1つ、ユニーク級スキルの発現に成功している。

 しかし、今の僕にはそれすら十分とは言えない。


「それもSランクになるまでの我慢でしょ?」

「自力で、手に入れたい」

「我儘ねぇ……」


 ココが苦笑するが、これだけは譲れない。


「最後の、チャンスだから……」

「ま、クロードがそこまで言うなら、私は止めないわ。残り6日間、頑張りなさい」

「そうさせてもらうよ」


 ココも休憩だったのだろう。

 それだけ言うと、自分の訓練に戻っていた。


 さあ、もうひと踏ん張り、するとしようか。



 長いようで短い1週間が過ぎた。

 僕達はエステア王国とリフェル公国の国境付近まで来ている。


 現在、リフェル公国の周囲を囲むように周辺諸国の騎士団、冒険者が展開されている。

 流石に全面を囲むことは出来ないので、30程の集団に分かれて、アンデッドを引き寄せながら各個撃破していく戦略だ。

 アンデッドは時間経過により復活するため、あまり長時間の戦闘継続は困難とされ、タイムリミットは2時間、それを過ぎたら一旦兵力を引き、作戦失敗とする方針となった。

 その場合、僕達の生存は絶望的と判断するようだ。


「アンデッドの動きはどうですか?」


 僕は奪還作戦の作戦本部で、エステア王国のギルド関係者に尋ねる。


「依然、大きな動きはありません。ここまで堂々と国を占拠しておきながら、何もしないというのも不気味極まりないですね」


 アンデッド達はこの1週間以上、大きな動きを一切見せていない。

 目的が不明なまま国の占拠を続けるアンデッドに、周辺諸国の緊張は高まっていた。


 部隊の配置、リフェル公国の地理などをもう1度確認しておく。

 恐らく、リフェル公国の公都に黒幕がいるだろうとの事だ。


「もうじき、作戦が始まる時間ですね」


 あっという間に作戦開始時刻が近づいてきた。


「それじゃあ、僕達も準備を始めます」

「よろしくお願いします」


 それから少しして、リフェル公国奪還作戦が開始された。


 まずは周辺の部隊がリフェル公国に進軍し、アンデッドを引き付ける。

 しばらくの間アンデッドを引き寄せ、各個撃破を繰り返したところで、劣風竜ワイバーンに乗った僕達が中心部へ向かうことになる。


 僕達が最後の調整をしている間にも、いくつもの速報が入ってくる。


 曰く、各地に大型のアンデッドが現れ、冒険者や騎士を薙ぎ払っている。

 曰く、大型のアンデッドがフリフリの服を着た幼女の投げた石で粉砕された。

 曰く、大型のアンデッドがメイド服を着た少女に殴り潰された。

 曰く、メイド服を着ている連中は大体強い。

 曰く、一部の冒険者や傭兵、メイド服が倒したアンデッドは復活しないため、少しずつ戦線を押し上げている。

 曰く、目的は引き付けることだから、むしろ戦線を押し上げるな。


 半分以上、心当たりがあるんですけど……。

 身内ネタが多い気はするが、少なくとも戦況は悪くない。


 そして、戦況が膠着し始めたところで、いよいよ僕達の出撃だ。


「じゃあ、行こうか」

「おー!」×7



*************************************************************


登場人物紹介


名前:クロード

性別:男

種族:人間

装備:剣+盾

備考:冒険者組のリーダーにして列伝の主人公。その人となりは列伝を読むべし。


名前:アデル

性別:男

種族:人間

装備:槍

備考:口数が少なく、声が小さく、大人しい少年。ある意味、冒険者組で最も成長したと言っても過言ではなく、当初のオドオドとした様子は完全になくなり、落ち着きに昇華されている。声が小さいのは生まれつきなので仕方ない。


名前:ノット

性別:男

種族:ドワーフ

装備:槌

備考:鍛冶師志望のドワーフ少年。志望と言いつつ、既に一端の実力はある。冒険者との二足の草鞋は中々に大変だが、本人はやりがいを感じている。冒険者組の武器はドロップ品が多いが、一部はノットの打った武器である。


名前:ココ

性別:女

種族:獣人(犬)

装備:短剣×2

備考:元気系忠犬少女。将来の夢は仁の騎士……なのだが、重い鎧は大嫌い。素早さがウリなので、動きを邪魔しない装備が良い。食生活が改善されてから胸が大きくなってきたのが悩み。ボリュームのある金髪が朝起きると爆発しているのも悩み。今はポニテにすることで誤魔化している。犬獣人なのにポニテ……。からかうと怒る。


名前:シシリー

性別:女

種族:人間

装備:槍

備考:茶髪ウェーブののんびりおっとり少女。おっとりと言いつつ、戦闘中は割と機敏に動く。ココの事が大好きで、冒険者を始めた頃はいつも一緒にいた。最近は個別の活動も増えてきたので少し寂しい。仕方がないので、手作りのココちゃん人形を持ち歩いている。仁の前ではのんびりが消えるくらいには緊張する。未だに慣れない。


名前:ロロ

性別:女

種族:人間

装備:大剣

備考:赤毛の三つ編みを左右に垂らした少女。年齢の割に色っぽい。食生活改善前からココと同じくらい胸があった。仁が絡まない範囲では冷静な方。数少ない、純粋な意味で仁に惚れている少女の1人。仲の良い女性冒険者から夜の営みについて色々とレクチャーを受けており、いつか仁を振り向かせると決意している。しかし、本編でその描写はカット。


名前:イリス

性別:女

種族:ハーフエルフ

装備:剣+盾

備考:ハーフエルフの眼鏡っ娘。地面に届くほどの長い緑髪は冒険者を始めてからバッサリ切りました。口数が少なめだったのも過去の話で、仲間内では割とよく喋る。仲間には遠慮なく毒を吐く。冒険者組の中では性格が大きく変わった1人。仁に関する点でヒステリック気味になるのは変わらないが、実際に仁と話をして、少しだけマシになった。


名前:ユリア

性別:女

種族:ハイエルフ

装備:鞭+短剣

備考:冒険者組最年長(約400歳)の記憶喪失銀髪ロリババア(失礼)。『エルフの姫巫女』、『エルフ王族』等、色々と気になる称号とかあるけど、登場してからもう100話以上ほったらかし。<精霊術>を高レベルで所持しており、冒険者組の切り札である『精霊化』の要。目下の悩みは他のメンバーのように身体が成長しない事(種族特性)。


ちょっとした短編と言いつつ、本編1話分のボリュームがあります(本編計3本分)。

本編進めろよ、と言われるのは覚悟の上ですが、そろそろ書いておかないと……。

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