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異世界転移で女神様から祝福を! ~いえ、手持ちの異能があるので結構です~ 作者:コーダ

第9章 エルガント神国編

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第144.5話 アドバンス商会

本編で話に出てくるアドバンス商会の評判を、少し変わった目線から紹介いたします。

 私の名前はジェニファー。凄腕の女スパイだ。19歳独身だ。

 現在、私はとある商会からアドバンス商会に関する調査を依頼されている。


 アドバンス商会、それはここ数カ月で急激に発展した商会の名である。


 商会の本店はカスタール女王国の王都クインダムの一等地。商会のトップはルセアと言う名の女性だ。アドバンス商会発足より少し前に、同名の女王騎士が1人行方不明になっているが、関与は不明。同一人物であるという確証も得られていない。


 カスタール王家の息が掛かった商人を各地に派遣し、他国の情報を得るのが目的かと思われたが、それにしたって女王騎士を使う理由が不明だ。適任とはとても言えないだろう。

 経営者の素性は調査の優先順位がそれほど高くないので後回しにしようと思う。


 いや、正直に言おう。

 現時点でアドバンス商会に関する調査は全くと言って良いほど捗っていない。

 情報の入手経路が全くと言って良いほど無いのである。

 従業員に話を聞くことも出来ない。商業組合に登録しておらず、街への申請も最低限。建物内部への侵入は不可能・・・と言った具合だ。


 そもそも、店舗、従業員からして素性が分からない。


 ある日、突然アドバンス商会の店舗が建築され、そこに十分な人数の店員が揃っているのである。聞いた話だが、地元の人間は全くいないそうだ。

 そして、従業員は全員口がとても堅く、余計な情報は一切漏らさない。


 私の同業者が従業員として潜り込もうとしたが、取り付く島もなく拒否されたそうだ。

 これは、同業者の素性がバレていた訳ではない。そもそも、アドバンス商会は従業員の募集を一切行っていないのだ。例え地元民であろうとも、従業員にはなれない。

 評判の良いアドバンス商会に対する、唯一と言っても良い不満点にあげられるほどだ。


 そう、アドバンス商会は非常に評判が良い。


 特に街の住民からは絶大な支持を得ている。

 先にも述べた、従業員になりたい者が大勢いる程度には。


 アドバンス商会の評判が良い理由はいくつもある。

 在庫切れがほとんどない事、品揃えが非常に良い事、品質が一定で安定している事などが良く上げられる。


 それでいて、他の商店に対する配慮も忘れていないそうだ。

 具体的に言うと、その街で既に売られている物に関しては、多少割高な値段設定にしているのだ。つまり、店に無い訳ではないが、他の店で買った方がお得な状態にしている。

 基本的にアドバンス商会はその土地では手に入りにくい物を主力商品としている。加えて言えば、その主力商品は『商品が手に入る土地の適正価格』で売られている。


 輸送費を考えれば足が出そうだが、アドバンス商会の基本理念のようで、全ての店舗で徹底されている。

 その土地で手に入りにくいものが、その土地の相場より安く手に入るというのも、アドバンス商会が支持される理由の1つである。

 なお、商品の入手経路は調べても分からなかった。調査が行き詰った1番の理由だ。


 余談だが、他の店舗で手に入る商品は割高にしているという話をしたが、それでもアドバンス商会で商品を購入する客は少なくなかったりする。

 アドバンス商会の商品は品質が高い水準で一定なので、多少高くても欲しがる人は多い。

 そして、品質で大きく負ける他の商店に対しては全く配慮しない。企業努力の不足に対しては厳しいようだ。


 今回の依頼は、そんな企業努力が足りず、アドバンス商会に多くの客を取られた、国でも有数の商会からの依頼である。

 アドバンス商会を脅すネタが欲しいとの事だ。

 正直に言うと情けない依頼だが、如何せん金払いが良いので受けることにしたが、開始一週間で手詰まりである。



 さて、今日も今日とてアドバンス商会の調査だ。


 行きつけの店舗の前にのぼりが立てられているのに気付いた。

 近づいて読んでみる。……は?『郵便事業始めました』だと?

 しかも、街中限定の事業ではなく、街を、国を跨いでアドバンス商会の店舗がある場所なら、どこでも送れるだと?在り得ない……。


 もっと詳しく確認した所、値段はかなり高い。だが、絶対に手が出せない程の額ではない。

 送る側、受け取る側の身分がしっかりしていなければ送れない。手紙以外の物品を送ることはしないなど、いくつもの制限があるが、条件を満たせば数日以内に到着するそうだ。


 これは、例の噂が真実味を帯びてきたな。


 アドバンス商会の品揃えが良すぎることから、巷ではある噂が飛び交っている。

 それは『アドバンス商会は転移系の魔法の道具マジックアイテムを持っている』と言うモノだ。

 転移系の魔法の道具マジックアイテムと言えば、エステア王国の迷宮専用アイテム、『相転移石』が有名だ。……と言うか、他にあるとは聞かない。

 アドバンス商会は未知の転移系魔法の道具マジックアイテムを所有しており、それで脅威の品揃えを実現しているのではないか、との考えから広まった噂だ。

 証拠を掴めた同業者はいないが、そうでもなければ説明のつかない品揃えなのである。


 本来、それ程の魔法の道具マジックアイテムがあると分かれば、国が黙っていないだろう。どう考えても、国宝級の魔法の道具マジックアイテムだからだ。

 しかし、アドバンス商会に対して、その魔法の道具マジックアイテムを譲れ、などと言う国は存在しない。


 これは、噂ではなく実際に起こった出来事なのだが、噂でしかなかった魔法の道具マジックアイテムについて、アト諸国連合のとある国が寄越せと迫ったそうだ。

 次の日、その国にあったアドバンス商会の店舗は全て跡形も無く消え去っていたそうだ。

 以後、その国にアドバンス商会の店舗が建ったとは聞いていない。

 その時点で既に確固たる地位を築いていたアドバンス商会が捨てた土地として、その国は周辺国家からの信用が著しく落ちたそうだ。


 アドバンス商会は権力者の干渉を極端に嫌っており、その国、その街の有力者などが権力にモノを言わせようとすると、躊躇なくその土地から撤退する。跡形も無く。


 権力者以外、例えば別の商会からの妨害が何か効果を上げたという話も聞かない。


 例えば、チンピラを雇って業務妨害をしようとした商会がある。チンピラはメイド服を着た商会員に投げ飛ばされて骨折。一部始終を映像記録用魔法の道具マジックアイテムに撮った上で憲兵に突き出された。

 そして、しばらくの後、商会の方は不正が明らかになって取り潰しとなった。何者からか情報提供があったそうだ。真実は明らかにされていないが、恐らく、と思われている。

 商会員は店舗併設の住居に住んでいるし、何故か無暗矢鱈に強いらしく、襲うことも出来ない。商品の流通ルートが不明なので、輸送中の襲撃はそもそも不可能だ。


 逆に、完全に無視されるパターンもあるそうだ。

 アドバンス商会の悪評を流し、客足を遠のかせることに成功した商会がある。

 他所の情報に疎い街だったから成功した策である。しかし、その店舗は一向に潰れなかったそうだ。

 時間をかけ、街の人と交流を持ち、気付いたらその商会はお客を奪われていたらしい。

 ついでに言うと、その商会の独占市場だった商品は、割高ではなく適正価格(その商会とほぼ同額)でアドバンス商会に売られ、品質の差で一気に逆転されたそうだ。


 しかも、独自のブラックリストを作成しているらしく、商会関係で何かしらのトラブルを起こした人物は、別の街でも店舗に入ることを拒否される。

 恐ろしいのは、このブラックリスト、普通に公開をしているのである。

 誠実な商いで有名な商会から、要注意人物として公開される。これには馬鹿に出来ない程の影響力がある。まさしく公開処刑である。私、今上手い事言った。

 ついでに言うと、一度ブラックリストに入った者に対しては容赦が無く、どんなに謝罪をしてもアドバンス商会が受け入れたという話は聞かない。


 ………………………………冷静になって考えると、私、今凄く危険な事をしていないか?



 よし。今日までの調査内容を報告したら、この仕事を降りよう。

 違約金を払う必要はあるが、何だか嫌な予感がする。この手の職業、自分の勘は無視しない方が良い。


「あら、そこにいるのはジェニファーじゃない?」


 急に声を掛けられて驚いたが、その声に聞き覚えがあるので安堵し、振り向いた。


「やっぱり、クララか。……どうしたんだ、その恰好?」


 彼女はクララ。私の同年代の同業者であり、何度も張り合った仲である。

 しかし、その服装がおかしい。何故なら、クララはアドバンス商会の商会員が来ているメイド服を着ていたからだ。

 ついでに言うと、手には食料品でパンパンになった買い物袋を抱えている。


「アドバンス商会に入る事が出来たのか?」


 クララは以前、アドバンス商会に従業員として潜り込もうとした同業者なのだ。

 最近、見かけなくなっていたが、商会員のメイド服を着ていると言う事は、潜入に成功したと言う事なのだろうか?

 しかし、彼女の活動範囲はこの辺りではなかったはずだ。


「そうね。入れたと言えば入れたのかしら。でも、今は前の仕事からは脚を洗っているから、あんまり関係が無いわね」

「私と同じで、天職だって言っていたのにか?その喋り方も……」


 以前は私と同じように、可愛げの欠片も無いような喋り方で無表情なスパイだったはずだ。スパイとして生き、スパイとして死ぬと言っていたではないか。

 断じて、明るい笑顔で買い物袋を持ち、女性らしい口調で知人に声をかけるような女ではなかった。


「そりゃあ、客商売なんだから、喋り方くらい直すわよ。それと、私が言えた義理じゃないけど、そんな職業を天職なんて言っちゃ駄目よ」


 私を叱るようにクララが言う。

 この女は私の知っているクララではない。


「裏の仕事をする人間に、人権はないのよ……」


 笑顔に見えるが、その目に深い闇が見えた。

 クララに何があった!?


「よ、用があるのでこれで失礼する!」

「そう、残念ね。それじゃあ、またね・・・


 私は怖くなってその場から逃げ出した。




 アドバンス商会の朝は早いです。

 夜型の私には早朝からの業務は辛かったのですが、流石に1週間も続ければ慣れました。


「ジェニファーさん、そちらの商品の陳列をお願いします」

「はい!分かりました、クララ先輩!」


 クララ先輩の指示に従い、スカートを翻しながらポーションの陳列棚に向かいます。

 最初は着慣れなかったメイド服、スカートも2週間も着続ければ慣れます。

 必死の練習の甲斐あり、笑顔の接客も出来るようになりましたし、不埒なお客様への対応も覚えました。女性らしい柔らかな物腰と口調に慣れるのが1番大変でした。


 1週間の調教・・期間と1週間の研修期間を終え、一番の下っ端とは言え、昨日からアドバンス商会の本当の商会員となれました。

 私の教育係になることで、私の処分を保留状態にしてくださったクララ先輩には感謝してもし切れません。


 もう、スパイのような仕事には戻れません。スパイのような『人権のない』職業なんて、恐ろしくて続けられません。地獄を見るのはもう結構です。


「クララ先輩、こっちは終わりました」

「ふう、これで開店の準備は終わったわね」


 後数分で開店時間です。

 突発的に新商品を準備することになったけど、無事に終わって良かったです。


 私達は扉の前で待ちます。

 アドバンス商会には、朝一で商品を見にくるお客様も少なくは無いですからね。


-ガランガラン-


 時間となり、商店の扉が開きました。


「いらっしゃいませ。アドバンス商会へようこそ」


 さあ、今日も1日、真っ当に働きましょう。

次は24日にまた短編を投稿します。

今度は外伝です。

その後、登場人物と設定を投稿して、執筆が間に合えば長い短編を投稿します。

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