第143話 空の玉座と破れた法衣
いつものリザルト回的な奴です。
>拡大解釈がLV8になりました。
>新たな能力が解放されました。
<
効果対象が80に拡張されました。
>多重存在がLV6になりました。
>新たな能力が解放されました。
<
ステータスの偽装が可能になりました。
『光刀・
それ程強くない相手だったせいか、残念ながら<
<
今回のゼノン&最終試練戦、本来ならば俺は裏方に徹しようと考えていた。
七宝院と木野の2人を前面に出し、そのサポートとしてさくらとドーラを最終試練と戦わせ、止めを刺させることで2人に<超越>のスキルを与えるつもりだった。
これならば勇者の2人は化け物退治の名声を得つつ、俺達は最終試練撃破のボーナスを得られるので一石二鳥となる。
ゼノンをスカーレットに押し付け、最終試練との戦いをマッチング出来たのは良かった。
問題はさくらとドーラが最終試練に止めを刺した時、ドーラが思い切り振った
運悪く、もしくは運良く2匹はスカーレット達の近くに落ちた。
ここで気になったのが、さくら達に倒され、ステータスを奪われた最終試練の血を吸ったゼノンがどうなるのか、と言うことだった。
相手が『
気になった俺はさくら達に様子見を指示した。
結果、ゼノンは最終試練2匹を吸収し、ステータス以外の何かを吸収して、最終形態(仮)へと変貌を遂げることになったのだ。
さて、裏方に徹すると決めていた俺だが、ゼノン(最終形態)を見たらウズウズしてきたのは仕方がない事だろう。
あんなこれ見よがしなボスキャラ、倒したくなるのは当然のことだ。
もちろん、横殴りは良くないので、スカーレットが倒すのなら我慢して、堪えて、耐えたかもしれないが、嬉しい事にスカーレットは一撃でKOされてしまった。
こうなってしまえば、もう俺が戦うしかなくなるよな。……スカーレットにはまだ手があったが、使いたいような手ではなさそうだったから、問題ないと判断した。
とにかく、俺は嬉々として白銀の騎士鎧姿のままゼノンの前に立ちふさがった。
さて、ゼノンを倒すと決めたのは良いが、問題となるのは武器の方だ。
普通に考えれば『聖剣・アルティメサイア』を使うべきだろう。しかし、ゼノンの『憑依者』と言う情報を見て、『光刀・サンシャイン』の「成仏」と言う効果を思い出したのだ。
簡単に言うと、
結論。滅茶苦茶良く効いた。
しかも、上手い具合に憑依していた方のゼノンだけを消し飛ばせたようで、
残った方のゼノンには思うところもないし、態々殺そうとも思っていない。
ただ、ステータスの類はほぼ全て
閑話休題。
さて、思い付きでゼノンを倒しちゃったけど、今からどうしようか?
俺の目的は最終試練の討伐とボスっぽい
よし、ここに留まっていても何のメリットもないし、騎士らしくサクヤの元に戻るとするか。
1つ残念なのは、ゼノンが最終試練2匹の血を吸収したせいで、俺が<
そのせいで、<雷神><風神>という最終試練特有の専用スキルが、使い道のないゴミスキルとなってしまった。
尤も、<
俺はサクヤの元に戻る前に、さくらとドーラの2人に念話をした。
《さくら、ドーラ、俺はサクヤの元に戻る。2人はどうする?》
《私達も直に戻ります》
《もどるー》
《七宝院さん達は事前に話していた通り、ここに残って指揮を執るそうです》
最終試練の元に向かう前に決めていた事なのだが、今回の功績は勇者、いや七宝院と木野の物にする。カスタールはあくまでも協力者と言う体になる。
2人には勇者を続けてもらうので、功績はいくらあっても不足しないからな。
今後はいずれ復活する教皇も交え、復興について話し合う事になるだろう。
特に魔物除けの為にも『結界石』の対応は急務だろうな。
《了解だ。それじゃあ、また後で》
《はい》
《ばいばーい》
俺は2人との念話を切った。
余談だが、エルガーレの街に迫っていた
イベントが増えるのは喜ばしい事だが、一度にまとめて来られるのは鬱陶しい。
今の状況ではエルガーレが余計に混乱するだけで、面白みもなさそうだったから、有難くスキルポイントとして頂くことにした。元々、件の
余談ついでの話だが、メイド達の戦闘訓練は基本的に仲間内か迷宮で用意された魔物相手に行われる。外部の魔物を相手にする時は、人里離れた魔物の領域で、マップで周囲に人がいない事を確認してから行う。
今回、メイド達にとっても貴重な実戦の機会と言う事で張り切っていた。
……流石にゼノン戦でメイドを前線に立たせる訳にもいかないよなー。
そう言えば、ゼノン(元の人格)の奴はどうするかな。
このままだと、大量殺戮の罪で処刑されるのだろうな。
残った方のゼノンに罪はないと言っても、誰も信じることはないだろう。
態々助けたいと思っている訳ではないが、多少は不憫に思う。
……ん?ゼノンのステータスがおかしくないか?
名前:ゼノン・グランツ
LV1
性別:女
年齢:9
種族:人間
スキル:<王の威光LV1>
称号:グランツ王国国王
ええと……。ゼノンが女ってどういうことだ?
A:ゼノン・グランツは元々女性として生まれたのだと思われます。<
つまり、憑依された時点で本来のゼノンは性別も含め、全てが憑依者に塗り替えられたと言うことか。……とことん憐れだな。
俺はゼノンの方に目を向ける。
ゼノンは現在、最終形態の時に肉体を構成していた血(今はゲル状)に埋もれており、かろうじて頭だけを出している。
見れば、顔の形も髪の色も憑依されていた時とは違う。
男の時は銀髪だったが、今は淡い桜色の髪をしている。顔に面影はあるが、同一人物とは思えない程度には違いがある。
俺はゼノンに手を伸ばし、血の塊の中から引き抜く。
最終形態になった時に服も溶け、消え去っているようだ。
つまり、全裸の少女が出てきた。
まじまじと見てみるが、本当に女になっている。……戻っていると言うべきか?
ほんの少しだが胸も膨らみがある。意外と早熟なんだね。
少しだけ、興味が沸いた(9歳の少女の胸にではありません)。
幸いと言っていいのかは分からないが、今の
ゼノンと程遠い容姿をしているとは言え、ゼノン最終形態の残骸の中で眠る、ゼノンの面影を持つ、ゼノンと同年代の少女が捕らえられたら、多分酷い目に遭うだろう。
念のため回収しておいた方が良いよな。
俺はゼノンを小脇に抱える。
さて、この場ですべきことも無くなったし、そろそろサクヤの元に戻ろ……。
「待て!」
そんな俺の歩みは、動けるまでに回復したスカーレットに止められた。
普通の人間なら死ぬレベルの攻撃を受けていたが、既にある程度は回復している。セラもそうだが、<英雄の証>持ちは本当に人間離れしているよな。
「その娘をどうするつもりだ?」
何を言われるかと思っていたが、予想していた内容とは違った。
「ソイツはもう暴れ回っていたゼノンじゃねぇ。暴れていた奴に操られていた被害者だ」
スカーレットの奴、ゼノンの素性について少なからず知っているようだな。
A:<天眼視>スキルの効果です。<
ああ、他の突っ込みどころが多すぎて、スカーレットのステータスの内、ユニークスキルっぽいのにスルーされた<天眼視>か……。
浅井の2つ名である『天眼の勇者』と似ているのは気になる点だよな。
「ああ、知っている。俺もコイツを罪に問うつもりはない。だが、この場に残したら確実に処罰される。態々死なないように加減したんだ。死なれても勿体ないから俺が連れて行く」
「知っている……だと……?まさか、あの武器はその為に……」
へぇ。大した情報はないはずなのに、そこまで考えが至るのか。
思っていた通り、スカーレットは面白い奴だな。
「俺がコイツを連れていくことに、何か文句でもあるのか?」
俺が尋ねるとスカーレットは首を横に振った。
「いや、ない。確かにお前の言う通りだ。そして、連れて行くというのなら、その権利があるのはお前だけだろうよ。お前がその少女をどう扱おうと知った事じゃねぇが、ゼノンと勘違いされて酷い目に遭うのは流石に憐れと思っただけだ。知っているのなら、それでいい」
スカーレットの言い方だと、少女の扱いに口を出すつもりはないが、ゼノンと勘違いをして扱うのだけは止めて欲しいとでも言いたげだ。
優しいのか、非情なのか、判断に迷う考え方だな……。
「話はそれだけか。俺はこの国の復興を手伝うつもりはないから、そろそろ野営地に戻るぞ」
「なら、この機会に1つだけ聞かせてくれ」
「答えられることならな」
答える訳には行かない内容が多すぎるので、質問を要求された時の回答はこれ一択だ。
「お前は……魔王を倒すつもりはあるのか?」
「ない。それは勇者の仕事だ」
スカーレットの表情は真剣だったので、俺も真面目に回答をした。
自分で魔王を倒す手段を模索したり、必要だと思ったら躊躇なく勇者の支援を選択したりと、スカーレットは本気で魔王を倒そうとしているのか?
「そうか……。やっぱり、勇者を支援するのが最短ルートか。まあ、あの2人が勇者全体を引っ張るなら、少しは期待できるかもしれねぇな」
スカーレットは
他の数100人の勇者がどうなるかは知らないが、後15人程は七宝院・木野と同じレベルまで強くなる可能性がある。
その時には
「カスタールには聞きたい事が山ほどあるが、この場でお前を引き止めてでも聞きたい事はそれだけだ。引き止めちまって悪かったな」
「俺も1つ聞きたいんだが、アンタはこれからどうするつもりだ?間違いなく化け物退治の立役者はアンタだ。上手く立ち回ればこの国の英雄にもなれるだろう?」
今度は俺の方から質問する。
俺の<
「あいにく、『英雄』なんて皮肉すぎる称号に興味はねぇ。こっちの目的のためにも多少は利用させてもらうが、基本は2人の勇者の功績にするつもりだ。精々、『勇者と共闘した』くらいの功績があれば良いだろ」
『英雄』という単語に皮肉気味な笑みを浮かべ、スカーレットが言った。
スカーレットも概ね俺と同じ立ち回りをするつもりのようだ。
祭り上げるのに最適な連中がいるのだから、そっちに任せたいと思うのは自然だよね。素直に面倒だし……。
「そうか。なら、こちらもそのように動くことにする」
口裏を合わせておけば、真実味が増すので損はない。
「そうしてくれると助かる。それじゃあ……またな」
「ああ」
こうして、俺は廃墟となったエルガーレから去り、サクヤ達の元に帰ることにした。
スカーレットとは、いずれまた会うことになるだろうな。
裸のまま持ち運ぶのもアレなので、適当な布に包んだ
人の気配が無くなったところで、
そして、『ポータル』の魔法を発動して、仮設住宅付近へと転移をする。
『ポータル』は関係者しか転移出来ないから、無関係な奴を転移するには<
今度、さくらに無関係な奴も転移出来る魔法を創ってもらおうかな?
「………………と言う訳で、憑依者が消えたので、残ったゼノンを連れてきました」
仮設住宅に戻った俺は、その場にいた面々に大まかな説明をした。
なお、さくら、ドーラは既に仮設住宅に戻っていた。
「そっかー……。ゼノン君、実はゼノンちゃんだったのかー……。そりゃあ、お兄ちゃんなら連れて来るよね。お兄ちゃんは王族女性が好物だものね。その上、常人から外れた人生を送っていた幼女となれば、お兄ちゃんの食指が動かない訳ないよね」
俺の説明を聞いたサクヤの第一声がコレである。
ちなみにゼノンは別室で介抱されています。
「人聞き悪い言い方は止めろ。別にまだ配下に加えると決めた訳じゃない。ゼノンがこれからどんな人生を選ぶのかが気になっただけだ」
「配下にする可能性はあるんでしょ?」
「……なくはない」
嘘はつけません。
「お兄ちゃんがそう言うって事は、多分配下になるんじゃないかな?」
「あー、多分なるわね。この流れは配下になる流れだわ」
サクヤの言葉にミオがうんうんと頷く。
実は俺もそう思います……。
「ところで、彼女は憑依されていた時の意識はあるのでしょうか……?」
さくらに問われるまで、その観点では考えていなかったな。アルタ、どうだ?
A:憑依者が起きている間の記憶、感触は全て共有しています。
「と言うことは、ゼノンが仕出かした事は全て覚えていると言うことか……」
「アルタのお話では、感触もあるようです。当然、人を殺す感触もあったのでしょうね」
「酷い……です……」
《ひどーい!》
「一体、何代の間そんな事を繰り返してきたのかしらね」
「子孫の事を何だと思っているのでしょうね。全く不愉快ですわ」
アルタの回答を聞いた全員が不快感を示す。
スカーレットではないが、この上で
「……もし、罪悪感で死にたいとか言ったら、止めるつもりもないぞ。死にたい奴を無理に生かしておくつもりはない」
それも1つの選択だ。
「そうですね……。その可能性もありますよね……。死にたくなるほど辛いという気持ちは分かります……。少しでも救いがあると良いんですけど……」
さくらが悲しそうに言う。
さくらは虐められていた時、死にたくなったこともあるのだろうか? ……もちろん、本人に聞くつもりはない。と言うか、聞ける訳が無い。見えている地雷を踏む趣味はない。
そう言えば、ゼノンはどのくらいで目が覚めるんだろうな?
単純な気絶とは違うのだろう?
A:1~2日は目覚めないかと思われます。精神・魂への負担が大きいからです。
「しばらくは目覚めないみたいだし、要経過観察って所かな。最悪、自殺される前に魔族とか憑依者とかの情報は得ておきたいからな」
「そっか。記憶を共有しているって事は、悪だくみも共有してるって事よね。衝動的な自殺は防いだ方が良さそうね。武器になりそうな物は置かない方が良いわね」
ミオがメイドに伝え、ゼノンのいる部屋から危険物が消えた。
……まあ、死んでから記憶を得る手段もあるけど、生きている内に聞くのがベストだよね。
これで、ゼノンに関しては回復待ちだな。
次に考えるべきことは……。
A:マスター。教皇、リンフォースが直に復活するようです。
今度はそっちか。色々と忙しないな。
「当たり前と言えば当たり前だけど、戦闘終了後のイベントが多いわね。リザルト画面はサクッと跳ばせると楽なんだけど……」
「そうだな。もう大した話は残っていないだろうし、跳ばしてもいいよな」
俺もゲーマーだから、ミオの言わんとすることは理解できる。
それほど重要ではないリザルト情報は、サクッと跳ばしてしまう事はよくある。
「普通に考えて国家の一大事だからね。戦いが終わった後の方が忙しくて当然だからね?ホントお兄ちゃんはとんでもない事を平然と言うよね」
「ご主人様、本当にこの国に興味がないのですわね」
サクヤとセラが苦笑をしている。
俺にとってエルガント神国は好きではない国だ。その上で目ぼしいイベントも一通り終わった国だ。どうして興味が持てるというのだろうか。
「仁様、興味がないようでしたら、メイド達に対応を任せますか?」
「いや、これに関しては俺の選択の結果でもあるから、様子は見ておこうと思う」
俺はマリアの問いに対し、首を横に振って否定する。
リンフォースの件に関しては、復活すると知りながら死体を運ぶことを選んだのだから、最後まで付き合おうと思う。
リンフォースが復活すると言うことで、俺はアイテムボックスからリンフォースを取り出し、ソファの上に寝かせる。
なお、漏らしたり出血したりと酷い有様なので、『
『
余談だが、アイテムボックスは内部の時間が止まったりしないので、リンフォースがアイテムボックス内で復活した場合、その瞬間にアイテムボックスから放り出される事になる。
復活した瞬間に意識を取り戻したとしても、まず間違いなく地面に落下する。
打ち所が悪いと、そのまま2度目の死を迎える事になる。……それはそれで見てみたい。
さて、取り出してから1分程でリンフォースは復活した。
復活する直前にリンフォースの身体が光輝き、徐々に身体中の傷が全て塞がっていき、最終的にはHPが全回復していた。
光が治まると、リンフォースは本当にただ寝ているだけのように見えた。
それからすぐにリンフォースは目を開く。
どこか呆けた様な虚ろな目をしている。
「ひ……」
さて、復活と言う奇跡を起こしたリンフォースは何を言うのだろうか?
本来ならば、信者の前で復活し、信仰心を高めることになるのだろう。しかし、現時点で周囲にいるのは、女神への信仰を欠片も持たない者達である。
残念だったね。
「ひいいいいいいいいいいいいい!!!ひあああああああああああああ!!!ひいっ!ひいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!あああああああああああああああああああ!!!!」
あ、これはアカン奴や。
リンフォースは恐慌状態に陥り、口から涎をまき散らし、痙攣しながら悲鳴を上げる。
折角、『
「ひっ、ひい!ひいいいいいい!!!ひっ、ひいっ!ひあああああ!!!」
「煩い!」
-ドス!-
「げひゅ!」
俺の<手加減>した腹パンが突き刺さり、リンフォースはそのまま昏倒した。
マリアが受け止め、再び『
「完全に壊れているわね……。美人が壊れると、中々に凄惨だわね」
ドン引きでミオが言うが、他のメンツも概ねドン引きしている。
俺が躊躇なく腹パンしたことに対してドン引いている訳じゃないよね?
「肉体的な損傷はなさそうだけど、精神は別って事だろうな。死ぬ間際に恐怖で壊れたのか?ゼノンが追い詰めるように殺していたし……」
「これ、治るの?この国の統治者がアレだと、私も困るんだけど……」
サクヤはエルガント神国に潰れられても困るという立場だから仕方ない。
仮にもエルガント神国は世界トップレベルの大国だ。首都が壊滅的な被害を受けた上に、国のトップまでもがこの有様では、大きな混乱は免れないだろう。
当然、周辺諸国への影響も甚大だ。
A:<
うん、そんな気はしていたよ。
さて、どうしたものか。
正直、敵対行動をとっていた女神関係者なんていらないんだよね。
「リンフォースを治すにはアルタの精神保護、つまり俺の配下にしなけりゃならん」
「つまり、いつもの事って訳ね。この国に来てから、サノキア王国のエカテリーナさん、グランツ王国のゼノンちゃん(暫定)を配下に加えるでしょ。これでリンフォースさんも奴隷にするなら、残るレガリア獣人国のシャロン女王も時間の問題ね」
ミオが面白がっている。
ついでに言うと、サノキア王国内の森の中では
カウントしていいのか微妙なところだけど、念のため……。
「俺、シャロン女王と接点ないんだけど?」
「それを言ったら、この人とだって接点なんてほとんどなかったじゃない。そんなモノ、どうにでもなると思うわよ?」
ミオは小さく、「ご主人様が望んだなら」と呟いた。
俺も猫は好きだし、七宝院との戦いで見せた気質も嫌いではないので、ちょっとモフり……じゃない、話をしたいとは思うが、イコール配下に加えたいという話ではない。
それに加え、敵対する予定もないし、配下に加える状況が想像できない。
「シャロン女王の件はともかく、リンフォースに関しては正直気が進まない」
王族女性を配下に加えることの多い俺だが、誰でも彼でも配下にする訳ではない。
元エルディア王女のクリスティアも直接配下にはしていない。基本、不快なレベルで敵対した者は配下にしたくないし、配下としては扱わないのだ(イズモ和国の姉妹はセーフ)。
「あれだけ仁君に敵対行動をとった国のトップですからね……」
《ごしゅじんさまのてきー!》
ドーラが可愛く威嚇している。可愛い。
「でも、治さないって言われるのも困るんだよね。国際情勢的に……」
サクヤが困ったように言うが、今回はそのお願いを聞いてあげられない。
「そこは各国が頑張るべき点であって、俺が責任を持つ必要のある事じゃないだろ?リンフォースは俺と直接関係のない理由で壊れた。配下に加えたい理由も無いし、治さなければいけない責任も無い。エルディアの時とは状況が違うんだ」
エルディアの時は俺の意思で滅ぼすことを決めた。故にアフターフォローにも手を貸したし、クリスティアを生かしておきたいと言うサクヤの願いも聞き入れた。
今回、エルガント神国、ならびにリンフォースの件に関して、俺は全く関わりが無いのだ。
リンフォースに関しては、強いて言えば死体を運ぶ約束をした件で関わりがあるが、その後のリンフォースの面倒を見る程の義理はない。
ついでに言うと、リンフォースのスキルにも全く食指が動かない。
ユニークスキルなら何でもいい訳ではない。
「うぐっ……。お兄ちゃんがここまで言うって事は、私に意見を翻させるのは無理っぽい。ミオちゃん!助けて!」
「いや、私に何を期待しているのよ……。流石にそれは無茶振りでしょ?」
「さくらちゃん!」
「サクヤちゃん、頑張ってください……」
何とか意見を翻させようと味方を探すサクヤだが、ミオもさくらも首を横に振った。
しばらく周囲を見渡し、やがて諦めたかのようにがっくりと肩を落とす。
「駄目か……」
全く駄目ですね。
多分、
*************************************************************
裏伝
*本編の裏話、こぼれ話。
・グランツ王家
グランツ王国では国王の継承は国王に全権が存在している。つまり、次代の王を決められるのは現王のみなのである。
そして、王となれるのは男児のみと決まっている。
グランツ王国において、国王と言うのは絶対者であり、あらゆる点で優先される。
王家専用の墓地があることはおかしい事ではないが、グランツ王家の墓地の中には王となった者しか入れない区画が存在している。
前の王が死んだ時、次代の王がその遺体を王墓へと入れる。
言うまでも無く、これらの制度には初代グランツ国王、つまりゼノン・グランツに憑依していた者の意図が絡んでいる。
憑依対象者を自ら決め、その者を王とすることで、確実に王位を得るのが主な目的だ。
初代王のスキルは、新しい身体に乗り移ったからと言って元の肉体が自由になる訳ではなく、残骸のような魂の欠片のような物が残る。その残骸が王位継承まで身体を動かすので、肉体を乗っ取られた者は死ぬまで解放されることはない。
王にしか入れない墓地の為、誰も知ることはないが、歴代王の遺骨が納められる棺の中には女性の遺骨が大よそ半数治められている。
これは、ゼノンと同じように、女性として生まれつつも初代王に肉体を乗っ取られたことで男として育った王族達の遺骨である。
リンフォースは要らないそうです。
王族女性なら何でも良い訳ではありません。
次回、この章の最終話です。まだ、10章が書き終わっていない……。
次回までにレベルアップした異能の短編が入ります。