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異世界転移で女神様から祝福を! ~いえ、手持ちの異能があるので結構です~ 作者:コーダ

第9章 エルガント神国編

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第140話 脱出と神都の破壊者

GWは筆がやたら進みました。

遅れが多少取り戻せたので、しばらくは10日更新のまま続けられそうです。

GWに出かける?はっはっは。

 リンフォースは<致死再生>と言うスキルによって、死亡しても復活することが出来る。

 ただし、復活までにはタイムラグがあるので、戦線離脱することに変わりはない。


 リンフォースが死亡し、周囲にいた各国の代表もほぼ全員息絶えている。

 意識を保っているのは、カスタール女王国、エステア王国、サノキア王国の身内組と、レガリア獣人国の面々くらいだ。

 他の国は護衛の質も低く、ゼノンの『血の槍』を防ぐことが出来なかった模様。

 レガリア獣人国は侍女を含め、全員が生き残っている。無傷と言う訳ではないようだが、少なくとも全員が五体満足である。やるね。


「むう……。殺し尽したと思ったのだが、生き残った者がいたか。運のよい奴らだ」


 リンフォースを刺し殺したゼノンは、俺達の方を見て不愉快そうに眉をひそめる。

 運じゃないよ!実力だよ!

 『血の槍』が自動操縦だったせいで、俺達の実力を把握しきれていないようだ。


「しかし、余は今気分が良い。貴様らの運に免じて、この場は見逃してやろう」


 一転、不敵な笑みを浮かべるゼノン。


「余は今からこの大聖堂を……女神教の権威の象徴を破壊し尽くす。貴様らは絶望しながら大聖堂と運命を共にするがいい!」


 そう言って、『血の槍』を伸ばし、周囲の壁や柱を無差別に破壊していく。

 俺達を狙ったのならともかく、周囲を狙われると防ぐのも楽ではない。リンフォースの血を吸ったことで100本程に増えた『血の槍』は次々と大聖堂を破壊していく。

 天井も破壊しているため、瓦礫がガンガン落ちてくるのは少々鬱陶しい。


 ゼノンはある程度周囲を破壊しつくすと、『血の槍』を足のように動かして、まるで蜘蛛のように歩き始めた。ハッキリ言って気持ち悪い。

 破壊を振りまきつつゼノンは会議室から、いや、会議室跡から出て行く。

 この調子で破壊されたら、大聖堂が全壊するのも時間の問題だろうな。

 既に会議室は長くは持たないだろうし……。


「シャロン女王が心配です。皆さん、無事ならばシャロン女王の元へ向かいますよ!」

「はい!」×多


 ゼノンが離れたのを見計らい、レガリア獣人国の羊秘書さんが言うと、護衛や侍女が頷く。

 そのまま、ゼノンの進行方向とは別のルートを通ってシャロンの元へと向かった。


 レガリア獣人国の反応を見て、茫然としていたルドルフ財務大臣が正気を取り戻した。


「サクヤ女王陛下、我々も避難を開始いたしましょう!このままでは大聖堂の崩落に巻き込まれます!」

「そうじゃな。会議がこのような結末に終わった以上、ここに留まる理由もないのじゃ」


 話をしているサクヤ達の元に、エステアのルーアン王子が近づいてきた。


「僕達もご一緒してよろしいでしょうか?お恥ずかしながら、自前の護衛だけではこの状況を切り抜けられそうにありません」

「構わぬのじゃ。サノキアはどうする?」

「よろしければ、私達もご一緒させていただければと思います」


 サクヤに問われたエカテリーナは、俺の方を気にしながら答える。

 どうやら、サクヤの回答よりも俺の回答を気にしているようだ。仕方がないので、俺はこっそりと頷く。


「決まりじゃな。では、早速退避すると……」

「ま、待ってくれ……」


 サクヤの発言を止めたのは、倒れていた神殿騎士の1人だった。

 『血の槍』に貫かれたようで、腹に穴が開いて干乾びているが何とか生きているようだ。

 何とか上半身を起こしたが、もう長くはないだろう(回復してやる予定はない)。


「なんじゃ。妾達はこれでも急いでおるのじゃが?」

「そ、それは分かっている……。だが、頼みがあるのだ……。ど、どうか、リンフォース様のご遺体を安全な場所に移してはくれないだろうか……?」


 よく見ればこの騎士、エルフのようだな。

 もしかして、リンフォースの秘密スキルについて知っているのか?

 だからこそ、復活するリンフォースを安全な場所に移して欲しいと頼み込んで来たのではないだろうか?復活した時に瓦礫の中だと、そのまま死んでしまうから……。


「お主は阿呆か?この状況で余計な荷物を増やせる訳ないじゃろう?」

「わ、分かっている……。タダで、とは言わない……。……『格納ストレージ』」


 神殿騎士は『格納ストレージ』の魔法を唱えると、その中から大きめのリュックのようなものを取り出した。


「対価として、このアイテムボックスを譲る……。このアイテムボックスは、特殊な方法で作られており、死体を入れることが出来る……。リンフォース様の死体を入れ、安全な場所に運んで欲しい……。運び終わったら、そのアイテムボックスは自由にしてくれ……」


 そう言って神殿騎士が差し出してきたアイテムボックスは、本当に死体を入れられるようにされていた。

 恐らく、リンフォースが死んだ場合、死体の安全を確保するために用意されたのだろう。

 それを考えると、この神殿騎士はリンフォースの専属に近いのだろうな。


《サクヤ、その申し出を受け入れろ》

《いいの?》

《ああ、それなりに面白い対価を差し出したんだ。それくらい叶えてやろうじゃないか》


 エルガント神国の進退には興味がないが、面白い魔法の道具マジックアイテムを対価に差し出すというのならば話は別だ。

 それに、この願いを叶えても、俺達には害がなさそうなのも良い。


「ふむ、そこまで言うのならば、その願いを聞き届けても良いのじゃ」

「た、頼む……」


 そこまで言ったところで、神殿騎士は息を引き取った。

 早速、神殿騎士の願い通り、リンフォースの遺体(仮)をアイテムボックスに詰める。


 少し時間をロスしてしまったが、俺達は会議室を後にして大聖堂からの脱出を開始した。

 被害の少ない通路を選び、非戦闘要員を落下してくる瓦礫から守りながら進んでいく。


 避難の道中、カスタール、エステア、サノキアの控室組とも合流した。

 もちろん、事前に念話でルートを確認しているので、最速パターンでの合流である。メイド達がそれとなく誘導していたのは言うまでもない。


「サクヤ女王、よくぞご無事で!」

「話は後じゃ。速くここから出るのじゃ!」

「はい!」


 感動の再会もサクッと終らせ、大所帯となった俺達は大聖堂からの脱出を目指す。

 しかし、もうすぐ出入口と言うところで、瓦礫が完全に道を塞いでいる場所に突き当たる。


「むう、もう少しじゃと言うのに!」


 サクヤが忌々し気に瓦礫を睨み付ける。


「ジーンよ、やってくれるか?」


 俺は頷き、拳を構える。


-ドン!-


 正拳突きの一撃により、目の前にあった瓦礫の山が吹き飛び……。


「げひゅ!?」


 射線上にいた司祭に狙い通り直撃し、共にどこかに飛んで行く。


 言わなくても分かると思うが、この司祭は俺達に何度も刺客を放ってきた奴だ。

 1人だけ我先に逃げようとしていたので、どさくさに紛れて亡き者にしておいた。

 あれだけ嫌がらせをされたんだ。機会チャンスがあったら殺すに決まっているだろ?


「よし、行くのじゃ!」

「今、何か……」

「よし、行くのじゃ!」

「あ、はい……」


 ルーアン王子の呟きは、事情を知っているサクヤが誤魔化ゴリおしてくれた。

 こうして、俺達は比較的安全に大聖堂の入口へと到着したのだった。



 大聖堂から無事に脱出できたのは良いのだが、それだけで一安心と行かないのが現実だ。

 何故ならば、大聖堂の外も決して安全とは言えないからである。


「な、なんだ……アレは……」

「ば、化け物です……」


 ルドルフ財務大臣やルーアン王子など、俺の配下ではない面々が唖然として呟く。

 その視線の先では2匹の化け物と1人の英雄の戦いが繰り広げられていた。


「GRYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!」

「BRYUUUUUUUUUUUUUUUUUU!!!!!!」


 2匹の化け物の姿は一言で言えば鬼だ。それも日本の昔話的な意味での悪鬼だ。

 身長は5m程。肌の色はそれぞれ緑色と黄色の不健康そうな配色。そして、それぞれ風と雷を纏って空を自在に飛び回っている。

 その名も『風神・トルネード』と『雷神・ライトニング』である。

 ええ、そうです。最終試練の2匹です!


 2匹の最終試練は、眼下にいる英雄に向けて暴風と雷を放つ。


「何言ってんだが分かんねえよ!!!おらぁ!!!」


 英雄が手にした大剣を一振りすると、それだけで暴風も雷も掻き消えた。


「今度はこっちの番だ!」


 そう言って英雄は助走を付けて跳躍する。

 戦いの余波で崩れかけている建物を足場にして三角跳びを決めた英雄は、雷神・ライトニングに向けて斬撃を放つ。

 何とか回避しようとした雷神だったが、完全には避けきれず、肩の辺りに掠る。


「GYAAAAAAAAAA!!!???」


 攻撃が掠っただけとは思えない程の絶叫を上げ、雷神は脇目もふらずに上空へ逃げる。

 スカーレットはそのまま別の建物を蹴り、今度は風神にも斬撃を喰らわせる。


「BYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!???」


 その斬撃は風神の左腕を斬り飛ばし、雷神以上の絶叫をあげて上空へと逃げて行った。


「ちっ、戦いにくいったらありゃしねぇ!」


 英雄は忌々しそうに上空を見て毒づく。

 2匹の最終試練相手に互角以上の戦いを繰り広げていた英雄。

 その名はスカーレット・クリムゾンである。


 2匹の最終試練とスカーレットの戦いの被害は大きく、エルガーレの街並みは見るも無残な状態へと陥っていた。

 暴風により建物が倒壊し、雷によりあちこちから火の手が上がっている。


 戦いが始まったことだし、もう1度化け物と英雄のステータスでも見ておくかな。


名前:風神・トルネード

LV200

スキル:<風神LV10><変化へんげLV10><完全耐性LV->

称号:魔王の従魔

備考:風を操る鬼神。人類に課せられた最終試練の1つ。


<風神>

風神専用スキル。風を操作することが出来る。


名前:雷神・ライトニング

LV200

スキル:<雷神LV10><変化へんげLV10><完全耐性LV->

称号:魔王の従魔

備考:雷を操る鬼神。人類に課せられた最終試練の1つ。


<雷神>

雷神専用スキル。雷を操作することが出来る。


 何度見てもショボいスキル構成だよな。レベルも最終試練の中では最低だ。

 折角の最終試練なのに、魔王の従魔ペットと言うのもどうかと思うし……。と言うか、最終試練ってテイムできたんだな。しようとも思わなかったが……。


 ちなみに、コイツ等がゼノンの言っていた、『結界石』を壊した配下だよ。

 正確に言えば、魔王の従魔である2匹の最終試練をゼノンが借り受けている状態と言うのが正しいかな。そう、魔王とゼノンは手を組んでいるのです!

 目的は勇者の殲滅、邪魔な神国の破壊、ついでにゼノンは自身の強化ってところだろう。

 ほら、最終試練って勇者の攻撃に対する抵抗力があるだろ?相性は良いんだよ。


 もう1つ加えて言えば、2人いたゼノンの側近は、<変化へんげ>スキルで人間に化けた風神と雷神だよ。

 だから会議が滅茶苦茶になるのは、最初から目に見えていたんだよね。

 会議室で暴れられた時のために護衛には気を使っていたんだけど、最後の最後で別動隊と言うことが明らかになったので無駄になった。


 マップで見ていたから知っているんだけど、最終試練の2匹はエルガーレの『結界石』を破壊した後、街を破壊し始めたのだ。

 そこに現れたのが英雄、スカーレット・クリムゾンである。

 スカーレットは2匹の攻撃を防ぎつつ、何度も2匹へと有効打を与えている。そして、その度に2匹は上空へと逃げているのだ。

 流石のスカーレットも生身で空中戦は出来ないからね。竜人種ドラゴニュートに乗って戦えばいいのに……。


 さて、そんなスカーレット・クリムゾンのステータスがこちら。


名前:スカーレット・クリムゾン

LV231

性別:男

年齢:34

種族:人間(転生者)

スキル:

武術系

<剣術LV10><格闘術LV9>

魔法系

<火魔法LV4><回復魔法LV2>

技能系

<作法LV2><魔物調教LV5><乗馬術LV5><手加減LV5>

身体系

<身体強化LV10><跳躍LV5><索敵LV7><覇気LV7><HP自動回復LV6><強靭LV3><不動LV4><気配察知LV7><毒耐性LV5><天眼視LV->

その他

<英雄の証LV10><敵性魔法無効LV-><超越LV10><魂の昇華オーバーソウルLV1>

称号:超越者、真紅帝国皇帝


 ツッコミどころが多すぎるので、特に重要な点を3つだけ挙げようか。


 1つ。種族が人間(転生者)である点。

 2つ。<英雄の証>と<敵性魔法無効>のセットを持っている点。

 3つ。『超越者』の称号を持っている点。


 1つ目は言うまでもなく転生者である点だ。

 これに関しては本人から話を聞かない限り詳細不明なので飛ばす。


 2つ目はセラと同じく<英雄の証>と<敵性魔法無効>のスキルを持っている点だ。

 さっきから英雄英雄言っていたのは、これが理由である。

 風神と雷神の攻撃を掻き消したり、七宝院の引力球が効かなかったり、<神域の加護>が無効化されたのは、このスキルが理由である。

 ……そう言えば、月夜が言っていたっけ、常夜の両親の金狐がスカーレットに殺された時、『あらゆる攻撃が弾かれたらしい』って。金狐の攻撃となると、基本は魔法攻撃だよな。そりゃあ、弾かれるよな……。


 3つ目は『超越者』である点だ。

 つまり、以前にもスカーレットは最終試練を倒していることになる。レベル的に格下の最終試練が相手なら、優位に戦いを進めることも不可能ではないだろう。

 加えて言えば、持っている武器も要因の1つだろうな。

 それがこちら。


王剣・神呪

分類:大剣

レア度:幻想級ファンタズマ

備考:最終試練特効。攻撃時持ち主にダメージ。他者にダメージを与えると一定値回復。自動修復。


 驚くべきことに、スカーレット・クリムゾンは最終試練特効装備を所有しているのだ。

 さっき雷神が掠っただけで大袈裟に叫んでいたのは特攻装備だからだよ。


 正直に言って、ここまで面白い奴はそうはいないだろう。

 エステアと戦争を考えていたり、常夜の両親を殺したと言うことで、会う前の印象はかなり悪かったけど、実際に見てみたらここまで面白いとは思わなかった。


 本当は最終試練の2匹は適当に暴れさせた後、さくらとドーラに『超越者』の称号を与えるために死んでいただこうと思っていた。

 しかし、獲物の横殴りをするつもりは無いし、スカーレットがこのまま倒してしまうのなら、それはそれで仕方がないだろう。

 スカーレットは『超越者』持ちだから、若干勿体ない気持ちはあるが……。


 そこで、俺達の存在に気が付いたスカーレットがこちらに向かって来た。


「ん?アンタらは確かカスタール、エステア、サノキアの代表だったよな?こんなところで何をしてやがる?会議はどうしたんだ?」

「それはこちらのセリフじゃ。何じゃあの化け物は」


 スカーレットの問いに問いで返すサクヤ。

 風神、雷神とスカーレットの戦いの痕跡は街中に広がっている。つまり、スカーレットが大聖堂の近くにいたのは偶然と言うことになるだろう。

 話が早くて助かるね。


「ああ、アレか。平たく言やぁ人類の敵だ。会議が始まってすぐに神呪が反応したからな、悪りぃとは思ったが、アレの相手を優先するために控室を抜け出すことにしたんだ」


 つまり、『王剣・神呪』には最終試練を感知する機能もあるんですね。素敵!索敵!


「それで、そっちは何で大聖堂から出てきたん……大聖堂ってこんなにボロかったか?」


 今更ながらに大聖堂の様子に気付いたスカーレットが怪訝な顔をする。

 ゼノンが絶賛破壊中なので、現在進行形で倒壊中なのである。


「会議が始まってしばらくの後、グランツ王国のゼノン殿が乱心したのじゃ。会議室にいた各国の代表を殺し、大聖堂を破壊しておる。会議室にいた者の中で生き残ったのは、妾達とレガリア獣人国の者達くらいじゃろう」

「マジかよ……。そっちも面倒な事になってやがったか。……だが、噂に聞くカスタールの女王騎士ジーンなら、乱心したゼノンとやらを取り押さえ、被害を無くすことも出来たんじゃねえのか?」


 その鋭い眼光で俺の事を睨み付けてくるスカーレット。

 まあ、出来たか出来なかったかで言えば出来たと思うよ。でも、出来るからと言ってしなければいけないという理由にはならない。


「お主は妾の騎士に、妾の護衛を放棄して他の者を守れというのか?良好な関係を築けてもいない他国の者を?」

「あー……、理解した。つまり、最初から守るつもりなんざ、欠片も無かったって事だな。逆に言やぁ、ここにいる連中は良好な関係を築いていたって事か。納得だ」


 スカーレットはそれだけで大よその関係を理解してくれたようだ。


「ところで、勇者達は今何をしておるのか知っておるか?」

「ん?ああ、勇者達か……。あの化け物、最初に勇者達の居住している建物を破壊しやがったんだよ。中にいた勇者達は大半が戦闘不能に陥りやがった。何とか、止めを刺される前に駆け付けたんだが、まあ、アレの相手は無理だろうな。……色んな意味で」


 サクヤ自身は知っているが、公開するわけには行かない情報をスカーレット経由で公開しているのである。


 先にも述べた通り、最終試練とゼノンの目的の1つは勇者の殲滅だ。

 『結界石』を破壊した直後に勇者を狙っても何の不思議もない。

 ちなみに、『結界石』が簡単に破壊されたのは、リンフォースが自身の護衛のために大聖堂の神殿騎士を増やし、『結界石』を守る神殿騎士が減ったというのも理由だったりする。


 同じ理由で街中の混乱を治める神殿騎士も不足している。泣きっ面に蜂である。

 よって、無事な市民は自力で街からの脱出をしなければならない。

 加えて言うのなら、街の外にはスタンピードの準備が整っているし、『結界石』が無くなったので、普通の魔物も近づいてくる。泣きっ面に前門の虎後門の狼である。


「勇者がアテにならぬとなると、本格的にこの街、この国は終わりかもしれぬな……。早いうちに脱出するのが吉じゃろう」

「……つまり、この混乱を治めようって気は無ぇんだな?」


 スカーレットが値踏みをするようにサクヤ、そして俺の事を見てくる。


「現時点では無いのじゃ。少なくとも、一旦街を離れ、安全を確保するのが最優先なのじゃ。それより、お主の方はどうなのじゃ?態々あの化け物達と戦っていると言うことは、この国、街を守りたいと考えておるのか?」

「……俺の目的はあの2匹を倒すことだ。国自体には興味がねぇ。相手が悪いのはあるが、思っていた以上に勇者が使えねぇのも問題だ。予定を修正しないとマズそうだな……」


 勇者支援国になると言っていたが、スカーレットの想定以上に勇者はダメダメらしい。


「では、あの2匹の相手はお主に任せても構わぬのか?」

「ああ、任せておけ……と言いてぇんだが、ちっとばかし厄介でな。見ろ」


 そう言ってスカーレットは上空の最終試練2匹を指差す。


「奴ら、少しでも不利になるとすぐに上空に逃げやがる。しかも、回復力が高いらしく、さっき斬り飛ばした腕ももうじき回復しちまう」


 見れば、風神の左腕が再生をしているようである。

 雷神は完全回復しているが、単独では向かって来ない様子。スカーレットが怖いんだね。


「負ける気はしねぇが、このままじゃあいつまでたっても倒せねぇ。千日手だ。可能ならば、一気に攻めるために手を貸して欲しい」

「空中戦がしたいのなら、黒竜の竜人種ドラゴニュートに乗れば良いのではないか?」

「あー……、アイツ、空中戦にトラウマがあるらしく、戦闘じゃあ役に立たね……って、竜人種ドラゴニュート?やっぱり、アンタ、アイツの事を何か知っているのか?」

「それは先程も会議の中で……、いや、お主はその時、会議室の様子を見ておらぬのじゃな。それより、やっぱりと言うのは何のことじゃ?」


 スカーレットの発言にはちょくちょく気になるワードが含まれているよね。


「会議に参加した目的の1つが、記憶喪失の竜っ娘に関して手掛かりを得るって事だからだよ。竜騎士部隊を編成したカスタールなら、何か知っていても不思議じゃなかったからな」

「ふむ、最初から妾達との接触が目的だったと言うことなのじゃな」


 スカーレットはサクヤの問いに頷く。


「ああ、出来れば詳しい話を聞きてぇんだが……」

「この状況では無理じゃろう。それと、先程も会議で言ったのじゃが、この国でのんびりと説明する気は無いのじゃ。聞きたければ、正式なルートを通してもらいたいのじゃ」

「仕方ねぇか。まあ、手掛かりがあるとわかっただけでも大成果だな」


 あら、スカーレットさん、意外と聞き分けが良いんですね。

 ますます、エステアを狙ったり、周辺諸国と小競り合いしている理由が分からないな。


「ちっ、そろそろ完全回復しそうだな。また、あの化け物どもが動き出すだろうよ。避難するなら早めにしておきな。で、避難が終わったら手伝ってくれると助かる」

「考えておくのじゃ」

「断言しちゃくれねえんだな……。後、可能ならば急いでくれ」

「考えておくのじゃ」


 そうして、スカーレットと別れた俺達は辛うじて無事だった馬車に乗り込んで神都エルガーレを脱出した。門は素通りです。

 ちなみに、馬車が無事だったのはタモさんズが守ってくれたおかげです。

 サノキアの馬車は保護の対象外だったので、ダメだったけどね。


「サクヤ女王陛下は、思っていた以上に胆力があるのですな……」

「どういうことじゃ?」


 サノキアの面々を馬車に乗せるため、各馬車の人口密度が少し高くなった馬車の中でルドルフ財務大臣が呟く。

 この馬車には、ルドルフ財務大臣とルーアン王子、エカテリーナが乗っている。曰く、俺がいるので1番安全だから、だそうだ。


「いえ、スカーレット殿を前にして、平然としておられましたからな」

「そうですね。彼の威圧感と言うか存在感は離れていても肌を刺すようでした。何度か話に加わろうとしたのですが、足が動きませんでした」

「お恥ずかしい話ですが、私も同じですな」


 ルドルフ財務大臣とルーアン王子は、スカーレットの放つ威圧感にてられていたようだ。

 戦場で戦士の覇気をモロに浴びたら、非戦闘要員には溜まったモノじゃないだろうね。

 俺?俺はそう言うのはセーブしているから大丈夫だよ。弱者にも優しいのです。


「あの程度、大したことはないのじゃ」

「流石ですな」

「いずれ国を統べるものとして、見習いたいですね」


 サクヤにとっては、あの程度の威圧感は大したことが無かったようだ。

 平然としたサクヤの様子を見て、ルドルフ財務大臣とルーアン王子が称賛をする。


《お兄ちゃんの威圧に比べれば、そよ風みたいなモノだよ!少なくとも、念話越しの威圧感でちびる程じゃないからね!》


 いや、そんな事を念話で全力主張されても困るんですけど……。



 俺達の乗った馬車は、魔物の暴走スタンピードの起きない方の門からエルガーレを出発し、30分程移動した。

 流石にここまで来ればそうそう危険な目に遭うことはないだろう。


 今はメイド達が超特急で仮設住宅を立て直しているところだ。

 最速タイムが更新されそうである。


 10分(最速タイム更新)で仮設住宅が立ち並び、非戦闘要員と重鎮はメイド騎士に守られながら待機することに決まった。重鎮=非戦闘要員ではないのは、エカテリーナが一応戦えるからである。

 戦闘要員、と言うか俺のメインパーティ+リコは別に用意した仮設住宅に集まっている。


「さて、サクヤ達の安全は確保したし、いくつか確認したら最終試練の討伐に向かおう」

「ご主人様、何を確認するの?」

「ミオは見ていなかったか?会議室でゼノンが暴れた時、勇者の1人が俺を庇おうとして死んだんだよ。しかも、例の木野あいちって勇者だ」


 俺が尋ねると、ミオは首を横に振った。


「ゴメン見てない。会議室のカメラ、ゼノンが暴れ始めた後すぐに壊されたみたいで、マップ頼りの情報しかないのよね」

「はい。本当はカメラが壊れた時点で仁様の元へ駆けつけたかったです。でも、護衛は沢山いましたから我慢しました」

「マリアちゃんの尻尾、落ち着きなく揺れていたよね」


 ゼノンが暴れた時、マリアは控室でソワソワしていたらしい。


「私としてはそのシーンが見えなくて良かったですけどね……」

《ドーラは見たかったー》


 グロ耐性の低いさくらはカメラが壊れてホッとした部分もあるようだ。

 そして、ドーラ。教育に悪いから見ちゃいけません! ……今更か?


「そうか、カメラまで気にしていなかったけど、壊れていたんだな。……とにかく、勇者が何で俺の事を庇おうとしたのかが気になるから、蘇生して話を聞き出そうと思うんだ」


 以前、さくらに創ってもらった『アンク』と言う魔法ならば死者も蘇生できる。

 死んでから時間が経つと記憶が欠損するが、木野の遺体は死後すぐに<無限収納インベントリ>に回収したから問題ないだろう。


「上手く配下に引き込めるようなら、最終試練討伐の手柄を木野に与えてもいいかもしれないな。表向きの英雄って言うのも必要だろう」

「ご主人様は色々と簡単に仰いますけど、結構とんでもない話をしていますわよね?」

「セラちゃん、ご主人様に関して言えば、そんなの今更今更」


 俺の計画を聞き、セラが苦笑いをしている。

 必要な計画だと思うんだけどな。俺、エルガント神国の英雄になるつもりないし……。


「ああ、そうだ。1つ思い出したことがあった」

「どうかしましたか……?」

《なにー?》


 俺はさくらとドーラの方を向いて話を続ける。


「2人には悪いけど、状況によっては最終試練の止めはスカーレットに譲ることになるかもしれない。<超越>スキルはまたの機会になる可能性がある」


 この状況で上手く2人に止めを譲るのは難しそうだ。


「えっと……。別に、それ程欲しい物でもありませんから……」

《気にしなくていーよー!》


 うん、2人ともまったく気にして無かったね。

 <超越>スキルを全員に行き渡らせたいと思っているのって、実は俺の我儘みたいなものだから……。2人はそれ程重要視していないみたいです。


「……わかった。それじゃあ、ちょっと蘇生してくるか」

「他の方が来た時のためにここで待っています!」

「よろしくな」

「はい!」


 と言う訳で、仮設住宅に設置した『ルーム』に入り、勇者の蘇生を試みる。

 リコ以外のメンバーが『ルーム』の中に同行する。


 ここで、死者蘇生魔法『アンク』について説明をしよう。

 『アンク』には複数段階のレベルがあり、そのレベルによって蘇生の状態が変わってくる。

 1番低いレベルでは<死霊術>と同じ動く屍。次に肉体だけ蘇生した生きた人形。知識まで復活した喋る人形と続き、最後に自我・意識を蘇生させることが出来る。


 今回は情報が欲しいので、『喋る人形』で1度止めようと思う。この状態ならば<奴隷術>を掛けるのも容易なので、色々と都合がいいのだ。

 後から上書きできるので、必要ならば完全蘇生させることも出来る。


「勇者を蘇生させるのは初めてだな」

「今まで、蘇生させたい勇者が居ませんでしたからね……」


 『アンク』は何度かさくらに強化してもらっており、最初は異能者・勇者の蘇生が出来なかったのだが、今では蘇生可能となっている。

 加えて言えば、蘇生時に祝福ギフト以外のスキルは完全再現されるようになっている。

 祝福ギフトだけは取得の条件が違うから当然である。


 尤も、さくらの言う通り、今までの勇者に蘇生させたい者が1人もいないのだが……。


 勇者と言えば、大聖堂にいたもう1人の勇者、七宝院はどうなったんだ?

 シャロン女王の方はレガリア獣人国の連中が保護に向かったようだけど、七宝院も誰かが連れて行ったのか?


A:七宝院神無は大聖堂の崩落に巻き込まれ死亡しております。大聖堂内に展開されていたタモが祝福ギフト共々回収済みです。なお、レガリア獣人国の面々は無事退避しました。


 あー、七宝院の方は誰も保護に向かわなかったのか。


「……1人蘇生させるのも、2人蘇生させるのも変わらないか」

「ご主人様、どうしたの?」


 俺の呟きを拾ったミオが尋ねてくる。


「いや、会議室にいた七宝院って勇者が大聖堂の崩落に巻き込まれて死んだらしい」

「あら、運が悪いわね。いや、気絶していたみたいだし、無理もないか……」

「それで、木野を蘇生させるついでに、七宝院も蘇生しておこうと思ってな。シャロン女王との模擬戦は中々良かったから、その褒美でもあるな」


 勇者の中では中心人物のようだし、英雄の役割を担ってもらうのもいいかもしれない。


「相変わらず、興味を引いた相手には優しいですわね」

「良い意味での興味で、真っ当な相手だけに限るけどな。悪い意味での興味、例えばゼノンのような奴には優しくするつもりはないぞ」


 興味があるから優しくする。

 興味があるからぶっ潰す。

 興味がないから雑な対応。


 大抵の場合、俺の行動はこの内のどれかに分類される。



*************************************************************


裏伝


*本編の裏話、こぼれ話。


・風神、雷神

 風神と雷神が揃っている時、周囲の天候を暴風、落雷へと変えることが出来る。

 本来は天候を変え、自身に有利な状況を作ってから相手を殲滅するのが基本だった。

 しかし、スカーレットが効果範囲にいるだけで<敵性魔法無効>によってキャンセルされてしまうので、地味な突風や雷で攻撃するしかなくなった。

 そもそも、風神も雷神も攻撃手段はほぼ全て魔法扱いの為、スカーレットに対する有効打が最初から存在していないのである。負け確なのである。


 能力は黄龍ファンロンの下位互換。相手は魔法の完全無効化なので見せ場無し。レベルは最終試練の中で最低値。登場時点で魔王にテイムされている(つまり1回は負けている前提)。

 あまりにも憐れな最終試練。それが風神、雷神である。


スカーレットの設定は一部を除きかなり前から固まっていました(金孤との戦いとか)。


また、本当は本編で『アンク』は使わない方針でしたが、どうしても1回死んで復活というプロセスが必要になったので、やむなく『アンク』を使用することにしました。

七宝院「気絶してたら瓦礫に潰されて死んでいた件について」

スカーレット「正直スマンかった」

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