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23代目デウス・エクス・マキナ ~イカレた未来世界で神様に就任しました~ 作者:パッセリ

第一部 神なる者、方舟に目覚めしこと【更新中】

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#44 murasama blade

タイトルは誤字にあらず

「よし、全員揃ったな」


 魔法コマンドで周囲をチェックしていたらしい族長さんが俺にGOサインを出す。


 祭司の一族は、人数としちゃ四桁居ないはずなんだけど、それでも全員並ぶとかなりのものだ。ついでに大量の荷物や、車輌も数台存在する。里丸ごとの引っ越しなんだから、そりゃこうなるか。

 それぞれみんなが荷物を抱えた民族大移動キャラバンを、俺はちょっとばかり宙に浮いて見下ろしていた。

 ちなみに格好は、神の祠に備品として置いてあったブレザーだ。祭りの時に来てた神様衣装は、族長さんに勧められたけど丁重にお断り申し上げた。

 神様らしくないと言えばらしくない格好だけど、まあいいじゃないか。と言うか個人的にはこれが良い。家計のこと考えて私服登校の高校選んだくらいだから、なんかこうブレザーってね。憧れがね。


 ちなみに榊さんは相変わらずブラックでフリフリで片眼がフリル眼帯のゴスロリ服だけど、なんかシルバーアクセが増えてるの気のせい? そう言えば同じような格好の女の子と話してたような……


 神様とその『眷属』がこんなんでいいのか疑問ではあるが、まあそういう事はまた後で考えるとしよう。


「それじゃ、皆さん。全員その場に座ってください。荷物の後ろに隠れるとか、魔法コマンド()()する、とかもお願いします」


 俺が声を掛けると、居並んだ皆々様が身構える。

 これから何が起こるのか、まだ聞いてない人も居るみたいで、そういう人は首をかしげながらだ。


 魔法コマンドを操作して地面に降り立った俺は、アンヘルカンペを読み上げながら地面に両手を突く。


「我はここに導かん。正しき者の前にこそ道よ拓かれよ。

 太陽が行く手を照らし、星々は世界を示す。歩みはやがては約束の地へ至るであろう……

 神威降臨・楽土来迎ロード・トゥ・ファー・イースト


 加速度が俺の体を後ろへ引っ張った。

 いや、そこに居た全員だ。バランスを崩しかけた人々が、ちょっとどよめく。

 そしてどよめきは、徐々に歓声へ。


 景色が流れ始めていた。

 最初はゆっくりと。そして、徐々に勢いよく。

 風が吹き付けてくる。

 俺を含め、その場に座っているはずの人々は、滑り台で滑るように草原のど真ん中を移動し始めていた。


「神は地をひと撫でし、人々を導くようにと命ぜられた。するとそこに道があった。

 涜神の徒がそれを追わんとすれば、道はたちどころに掻き消えた……」


 アンヘルのポエムは無視!


「仕掛けは簡単。みんなが座ってる地面の表面を固めて、それを移動させてるんだ」

「この規模の魔法コマンドをおひとりで……流石と言うほかにございませんわい」


 先頭に座る俺の前では、モーセにカチ割られた可哀想な海のように、草原の草が左右に分かれて道を空けていく。

 隣では、族長さんが感服していた。

 まあ魔法力コマンドリソースはアンヘルからの貰い物だけどね。このバカみたいな魔法力コマンドリソースをどうやって活かして、全員を移動させるかを考えたのは俺自身だ。


「皆の衆、気を抜くなよ! いつ教会軍が来るか分からん! 警戒を怠るな!」


 背後から聞こえていたガヤガヤが、族長さんの一喝でピタリと止んだ。

 そうだ、まだ上手くいったと思うのは早いんだ。


「到着まで約27分と予想されます」


 アンヘルがカーナビのように告げる。

 行き先は草原のど真ん中にある、管理者領域バックヤードの入り口だ。街よりも遠いけれど、さすがにこの人数を街に連れてはいけないからね。


「もうちょっとスピード上げるか。敵の動きは?」

「現在の所、感知されません」

「魔物とか盗賊は?」

「この辺りはサンタクロースカルト過激派の巣窟ですゆえ、奴ら以外に注意すべきものはございません。鈴の音が混じったバイクのエンジン音にご注意ください」

「なんだそれ。そいつらちょっと見てみたい気もするけど絶対一生会いたくねぇ」


 魔法スライダーの上には、今日まで里を守り続けてきたレーダーや遮蔽などのオーパーツ機械も展開されている。

 それらはアンヘルの制御下に置かれ接続されているのだ。

 もちろん10km圏内は、アンヘルが『千里眼』『順風耳』によって完全監視態勢。

 ついでに俺は、街や最寄りの教会軍基地などを『千里眼』画面に表示して監視中だ。


 一族の皆さんも戦闘態勢。全員が教会と戦えるよう訓練を積んだ戦士であり、さらに、戦いで教会軍から奪った戦利品によって武装は充実している。

 教会軍から奪った戦闘用車輌も、修理して使えるものは砲台の代わりにしていたり。


 そうして、ハリネズミが体を丸めたように全方位に備えているわけだが……


「……何だ?」

「どうかなさいましたか?」


 それは、コートの裾に何かが当たったような違和感だった。


 辺りは相変わらずのピクニック日和。無粋な鉄の塊なんかどこにも見えない。

 レーダーをコントロール下に置いているアンヘルも何も言わない。『千里眼』画面にも異変無し。

 だが俺は確かに何かを感じた。


「ナノマシンを誰かが使ってる。ちょっと離れた、でも10km圏内で……いや、もっと近い……たぶん正面、なんか近付いて……」


 そうだ、これはナノマシンがざわめいてる。その兆候を、俺は魔晶石コンソールで拾っている。

 何かだ。何かがある……


「視認不可能。音響探知、無反応。

 ただし、ごく小さな物体が魔法コマンドによる遮蔽を行っている場合、探知には時間が」

「網を!」

「はっ!」


 族長の命令で、一族のひとりが妙な物を持ち出した。

 毛糸玉みたいに丸まった……黒い糸?


「カーボンナノチューブです。これで遮蔽を行っている物体の物理探知を行います」


 魔法コマンドによってふわりと解けた黒い糸は、自ら網として編み上がり、次の瞬間、ぶわっと前方に広がった。

 空へ向けてドーム状に広がる黒い網……それが、見えない何かに引っかかって不自然に歪んだ!


『警告! 警告!』


 アンヘルのアラートが天から降り注ぎ、その場の全員に緊張が走る。


「くそっ……榊さん、操縦代わってくれ!」

「はい!」


 俺は魔法コマンドを解き、地面スライダーの操縦を榊さんに委ねた。

 いくら魔法力コマンドリソースが潤沢であっても、経験不足の俺は複数の魔法コマンドを同時使用できない。


「従え!」


 俺が吠えると、大気が震えた。

 空中に居る見えない何かの周囲のナノマシンに、『何もしない』をさせる。


 ナノマシンにとって神からの命令は絶対的であり、優先順位は最上だ。

 だから、向こうが使う前にナノマシンへの命令を占有して、魔法コマンドの発動を阻害するという芸当ができる。

 果たして……見えなかった何かは姿を現した。


 巨大なキックボードみたいな銀色のマシンが空を飛んでいる。

 そこには、鈍色のレインコートみたいなものを着た奴が三人ほど乗っていた。


「反重力スクーター!」

「あのスクーターが対神兵器ってやつか!?」

「いえ、あれは通常の移動手段です。驕れる者の翼イカロスは機動性および反重力リフターの小型化において、現在一般的な技術に対する大幅な優位性を……」

「そういう説明は後でいいから!」


 敵の姿が見えたその瞬間、地上からは盛大な対空砲火が打ち上がる。

 魔法コマンド、銃火器の描く火線が反重力スクーターに集中した。

 しかし、その瞬間、スクーターに乗っていた何者かは、空中で山吹色の粉塵を撒き散らす!


「対ナノマシンチャフか!」


 そして同時に、二十面体ダイスのような光の壁が反重力スクーターを包んだ。天罰レーザーが表面で弾ける。

 対ナノマシンチャフを撒いてるんだから、これは魔法コマンドじゃなく何かのガジェットによる防御だ。ガッデムバイクと同じやつか?


「火力を集中させろ! 向こうのバッテリーもいつまでもは保たん!」


 族長さんが命令し、さらに銃撃の音が加速する。対ナノマシンチャフを撒いた以上、向こうも魔法コマンドによる防御はできない。すなわち、あのバリアを張るエネルギーが枯渇すれば、もはや対抗策は……


 と、思ったその時、スクーターは急激にUターン。

 乗っていたうちのひとりを振り落として、一気に距離を離していった。


 ……振り落とす? いや、違う。ひとりが飛び降りたんだ。


 くるくるくるっ、と空中ブランコから飛び降りる曲芸師みたいに回転したそいつは、対ナノマシンチャフを撒き散らしつつ、地面を揺るがすような勢いで着地した。


 ヒュゴッ……


「…………え?」


 風が鳴る音。不吉な銀の閃き。


 俺は目の前で起きたことが信じられなかった。

 そいつの着地と同時に、()()()()()()


 ちょうど近くに居合わせた人達が、まるで落下の衝撃で吹き飛ばされたように、血しぶきを上げて倒れる。胴体が上下に泣き別れている人も居た。

 視界が赤く染まる。どこか客観的に状況を見ている自分が居た。驚きに頭が追いついていない。


「なん、今、なん……」

「知りたいか?」


 人が集まっているど真ん中に飛び降りたそいつは、必然的に移動する地面の上に乗っていた。

 腰に付けた小さなタンクから山吹色の粉塵が吹き出しては、風に攫われて輝きつつ流れていく。


 銃に囲まれながらも不適に笑っているのは、ハリウッド映画に出て来るタフな軍人みたいなオッサンだった。

 パワードスーツみたいな鎧を着て、超巨大な刀を構えている。まだ中年と言っていい外見なのに、髪が真っ白なのがちょっと不気味だ。


「なに、簡単だ。俺はただ、手が届く場所に居た奴を斬っただけだ」


 斬った……?

 すげー簡単に言ってるけど、本当に一瞬だったぞ?

 まして、飛行する物体から高速で飛び降りながらって、どういう体……いや、そうかこいつサイバネ強化兵だ!


 俺は族長さんに用意してもらっておいた剣を抜く。


「下がって、みんな」


 包囲網が一段階広くなった。まるでコロシアムの壁面か、喧嘩を見物する人だかりのように。


 形だけなら、このオッサンは完全包囲されている。

 だが、こんな中にひとりで飛び込んできたんだ。おそらくは銃なんかじゃどうにもできない。

 俺は剣を構えて、オッサンの前に進み出た。

 荒縄のようなオッサンの髪が風にたなびいて揺らめいている。


「この惨状を見て、ひとりで俺に立ち向かうと?」


 オッサンは俺を見て、それから周囲の死体を見て、愉快そうに目を細めた。


「うるせぇよ。……よく喋るな、お前」

「んんー、味方が相手だと色々肩がこるもんでな。

 代わりに面白そうなやつとのお喋りは楽しみたいもんでな。

 お互いよく知らないまんま殺し合ってハイサヨウナラてぇのは、情緒が無ぇだろ?」


 そしてオッサンは、巨大刀の切っ先を俺に向けた。

 ジャリッ……とムカつくくらい格好いいツバ鳴りの音がした。


「コードネーム・ムラマサ。それが俺の名だ」

「ダサいのか格好いいのか分かんないぞそれ。少なくとも21世紀の基準だとな」


 ご丁寧に殺し合いの前に自己紹介か。

 しかしお喋りで時間を浪費してくれるならこっちにはありがたい。管理者領域バックヤードにみんなを避難させてしまえばこっちのものだ。


「俺は神代かじろまさる


 剣を構えたまま、俺も自己紹介を返す。

 どう名乗るべきかちょっと迷ったけれど……


「神だ」

「……ご冗談を」

「同感だ」


 俺とムラマサは同時に、地を蹴った。

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