芥川賞作家・羽田圭介さんに聞く!「投資で学んだ実生活にも活かせる学び」とは?
2015年「スクラップ・アンド・ビルド」で芥川賞を受賞し一躍有名になった小説家・羽田圭介さん。その後はメディアにも数多く登場し、話題を振りまいています。
芥川賞を取るまではお金の苦労とも無縁ではなかったという羽田さん。将来への不安をきっかけに投資を始めましたが、収入の安定した今でも投資を続けている理由を「漫然と植物を育てる感覚」と話しています。羽田さんの行き着いた投資スタイルとその言葉の真意に迫りました。
羽田圭介さんプロフィール
小説家。高校在学中に執筆した「黒冷水」で第40回文藝賞を受賞。2015年に「スクラップ・アンド・ビルド」が芥川賞を受賞。その後も執筆を続ける傍ら、TVや雑誌などのメディアにも多数出演している。
不安を払拭しようと始めた投資
1年半だけ兼業サラリーマンとしても働き、投資とは無縁だった羽田さん。投資を考えたのは、会社を退職して専業作家となり数年後、収入が不安定になったタイミングだったと話します。まず注目したのは、節税メリットを感じた「個人型確定拠出年金(現在はiDeCoとも言います)」でした。
「2009年から専業作家になり、2013年頃に確定拠出年金の存在を知り、加入しました。今考えればちょっと無理をしていたとも思いますが、毎月上限額である6万8000円を積み立て始めました。所得税だけでなく住民税も節約になるのでメリットが大きかったですね。自分で青色申告をやっていたので、その節税効果は如実に感じました」
それから2,3カ月後にスタートしたのが投資信託。年金である個人型確定拠出年金(iDeCo)は、基本的に60歳まで引出すことができないなどの条件があります。そのため、「近い未来に使えるお金を増やしたい」という思いから、投資信託に行き着いたそうです。
投資の勉強は本が中心。試行錯誤してスタイルを変えた
投資信託は、一般的に“投資初心者にオススメ”と言われていますが、選択肢は国内上場株式以上。選び方が難しい側面もあります。当時投資経験の浅かった羽田さんは、どのように購入するものを決めたのでしょうか?
「投資をするにあたって様々な本を読みました。投資信託については、本に書いてあった通りに『手数料が安いインデックス投資』『純資産残高が大きいもの』でまずは絞り込みました。その上で、日経平均連動型、全世界株式、国内REIT、海外REITから、無難そうなものを選んで購入しました」
と、基本に忠実なスタイルで投資をスタートしたのですが……。「新しいことを知ると、すぐに試したくなる」時期だったとのことで、当時、規制が緩和されて商品数が増え始めたETF(上場投資信託)にも、すぐに着目します。
「ETFは、売買する価格を自分で決められるところが、投資上級者っぽくていいなと感じて(笑)、買いましたね。書店で売られている本も増え始めていたので、一通り読んだ上で始めました。ドル・コスト平均法が良いと聞けばその通りにしてみて、反対にドル・コスト平均法は駄目で安くなったタイミングでまとめて買ったほうがよいという説に触れれば手法を切替えたりと、初心者で分からないなりにも挑戦していた時期ですね。金額自体はそれほど多くありませんでしたが、学ぶことは多かったです」
そんな“投資信託期”を数カ月送った後、今度は日本株への投資をスタートします。最初に購入したのはバイオ関連企業の株式。ですが、すぐに株価が下がり5000円の評価損に。その後、500円ほど利益が出る水準まで株価が戻るとすぐに手放したそう。
「株価が下がった時は恐怖を感じました。『個別株、怖―い!』って(笑)。しかも株式市場が開いている時間って、ちょうど執筆する時間帯と被るんです。執筆中に『あの銘柄、下がっていないかな?』と心配していると、なかなか本業に集中できません。それで、自分に日本の個別株は合っていないなと思い、再びETFのみを購入していた時期もありましたね」
羽田さんは、基本的には短期の売買で利益を得るのではなく、中長期で保持し配当を含めて資産を増やしていきたいと考えていました。「自分のスタイルで成功するには、どんな投資方法が良いのだろう?」と模索していた時も、本からの情報を頼りにしたのだそうです。
「とある本で見つけた高配当銘柄への配当再投資理論に共感して、その方法論を試そうと初めて米国株を購入しました。この時に、最初の目標ができたんです。それは、配当利回り4%以上の企業の株式を合計数千万円分買うこと。その配当が入ってくれば、その当時の自分の生活を維持するには働かなくてもなんとかなるのでは?と思ったんです」
芥川賞受賞後に見えてきたこと。「コントロールできるもの、できないもの」
米国株への投資を始めた翌年、羽田さんに人生の転機が訪れます。それは芥川賞受賞という大挙です。収入も一転しました。
「一気にお金が入ってきて、それまで欲しくてもポートフォリオに加えられていなかった高配当銘柄も買い揃えられるようになりました。目標としていた“配当だけで生きていける”状態に向かう準備ができたように感じ、『これでコレクションが揃ったぞ!』と初心者なりに思いましたね」
そこで再び日本株も購入し始め、時には数週間~数カ月の中期トレードで利益を出すなど、投資もアクティブになったとのこと。ところが、保有している銘柄が増えると避けられないのが、いわゆる“塩漬け”です。
「プラスに転じたところで利益を確定したいと思って持ち続けていると、ポートフォリオの中でノイズになってしまうんです。経験を積み重ねるうちに、インデックス投資の強さを実感し始めました。時間も手間も無駄が少ないんですよね」
日経平均やTOPIXなど、指標と同じ値動きを目指すインデックス型の投資信託は、少ない投資金額で、リスクを分散できることが大きな魅力です。また、長い将来に亘って経済が成長し続けることに期待する商品であるため、長期的な資産形成に向いているという特徴があります。この特徴から“ほったらかし投資”とも呼ばれますが、手間がかからないだけでなく、「市場を気にしなくていい」という心理的な負担が少ないこともメリットと言えるでしょう。
「株式市場において、自分でコントロールできるのは何なのか?と考えたとき、もちろん値動きをコントロールすることはできません。最終的には、結果に対する自分自身の振る舞い方しかコントロールできないんですよね。利益が出たらこうしよう、損失が出たらああしよう、というように。けれども、大暴落した時に心の平穏を保てるのか?と考えると、人間のメンタルはそんなにコントロールできないのも事実です。様々な回り道をしてそんなことを考え、結局インデックス投資の強さを感じるようになりました」
“もし、投資を始めた2013年頃からずっとインデックス型の投資信託を買い続けていたらどうなっていたのだろう?”と考えると、今よりも資産を増やせていたと、羽田さんは話します。
試行錯誤する中で得た重要な心がけとは?
“自分でやりたがるタイプ”だと自らを分析する羽田さん。時に損をしたり、時に執筆に集中しづらくなったりしても投資を続けてきたのは、やはり魅力があるからなのでしょう。
「今になると『動かないことの大切さ』も理解できますが、僕は小説家なので、自分の感情の動きに起伏をつけることもネタにつながるわけです。今は頓挫しているのですが、配当システム構築に躍起になる女性が主人公の小説を書いていたので、それのためであったとも言えます。その小説の執筆を抜きにして、自分が今もなお放っておいて大丈夫なタイプの投資を続けている理由は、漫然と植物を育てている感覚に近いです。目的意識もそれほどなく、インフレに対応できればいいやくらいの気持ちでやっています。きっと、僕以外の投資をしている方々も、ただ単に“将来が不安だから”などの理由だけで資産形成を考えているのではなく、本当のところは金を使った愉楽に浸りたかったり、資産を増やすゲーム性そのものに楽しみを見出していたりするんじゃないかと思っています。将来の不安というものがきっかけになりはしても、投資を続けるモチベーションはそれ以外のところにあるという現実を、受入れたほうがいい。だって、これからの日本で餓死する可能性は、ほとんど考えられないわけですから」
羽田さんは、投資から実生活に生かせる学びも得ていると話します。
「例えば個別株の売買。買値より下がり含み損になり、長期的な低迷が予想される場合、損切りして他の優良銘柄に切替えたほうがいいわけです。しかし損益の確定は、己の間違いを認めることと等しいわけで、なかなか認められないのです。しかし、おかしてしまった間違いに対しては楽観的希望を見出さず、現実を認め、損切りをするのが最良です。投資は労働の対価である自己資金を投入するものなので、損切りは血を流すように辛いことですが、だからこそそれを経験することで、実生活においてもより己の間違いを素直に認めやすくなると思います。
投資をしていると、時間の大切さ、自分は何を求めているのか、人生の虚しさ……といったことをいろいろ考えるんですよね。自分にとっては、諸行無常を知る寺みたいな位置付けです」
さらには、「投資で資産形成をするより、もっと大切なことがある」ということにも気づけたと話します。
「人生の幸せは、お金ではないと思っています。内在的な欲望に従い、能動的に行動することでしか、充足感は得られないです。株や投資信託への投資について話してきましたが、それらは言ってみれば、他人に投資して自分の利益を得るという発想です。自分は自分を裏切らないので、自分へ投資をするほうが効率や確実性は高いわけです。勉強したり、技術を向上させたりすることで、金銭的なリターン以外に充足感も大きく得られますから。株式投資だけに没頭し視野が狭くなるのは駄目で、自分の人生の幸せはどうやれば得られるのだろうかと、定期的に振り返る時間を持つことは必要です」
人生100年時代と言われる日本で、充実した生活を長きに亘って送っていくには、どうしても最低限のお金は必要です。20年後、30年後を予測しづらい現代ですが、自分や家族が笑顔でいられる未来を切り拓いて作っていきたいもの。大きな幸せを築いていくためにも、まずは“自分への投資”を第一歩に、そして余裕があれば“未来の蓄財”も考えてみる。そんなスタンスでお金と付き合っていければ素敵ですね。
取材・執筆/中山 美里
写真/フカヤマ ノリユキ
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