サラダは包丁で切ったほうがおいしくなる! 野菜料理のキホン

調理法別、食材別に「料理のキホン」を伝える連載。第5回は「野菜料理」についてです。新鮮な野菜を買ったはずなのに、出来上がった料理の彩りが悪い……なんてことはありませんか?野菜ごとの最適な調理法を選ぶと、目での味わいも良くなります。

ここまでは調理法から料理を考えてきましたが、料理は材料がなければはじまりません。
食材の性質を知ることでも、料理のレベルはぐっと上がります。

第5章のテーマは大地の恵み〈野菜〉です。


野菜の色と料理の関係

スーパーの野菜売り場に足を運ぶと、様々な色に目を奪われます。葉物野菜の鮮やかな緑、トマトの赤、ニンジンやカボチャのオレンジ、ブドウや紫キャベツのやや青みかかった紫……これらの違いは各植物が持つ色素に由来します。

野菜はそれぞれの色ごとに調理のコツが異なります。例えば緑色が鮮やかな野菜は色を損ねないよう、さっと調理したほうがいいですが、ニンジンやカボチャといったオレンジ色の野菜はじっくり火を通しても色が褪せませんし、おいしく食べることができます。

緑の色素はクロロフィル(葉緑素)。クロロフィルは熱に弱く、70℃以上で加熱すると退色してしまいますし、酸性にすると色が褪せてしまいます。だから、加熱は短時間に留めるのが賢明です。

トマトやニンジン、カボチャの色はカロテノイドという色素。カロテノイドは自然界に広く見られ、例えばトウモロコシやパプリカ、バナナなどを色鮮やかにしているのもカロテノイドです。
カロテノイドは脂溶性、つまり油に溶ける性質があります。唐辛子と油を一緒に加熱すると赤い色がうつることは、ラー油の色を見ればわかりますね。クロロフィルと違って熱に強く、加熱しても色が飛ばないので、ニンジンやカボチャ、トマトは長く煮込んでも大丈夫です。

ブドウや紫キャベツ、ベリー類、ナスなどの色はアントシアニンの色。こちらは脂溶性のカロテノイドと違って、水溶性の色素です。だから、ナスは煮るのではなく油で揚げることが多いんですね。
アントシアニンはpHや金属、温度の影響を受けて色を変える性質があります。例えば初夏に美しく咲くアジサイの花の色が酸性土壌では赤紫になるのはそのため。また、アントシアニンは鉄やカルシウムと結合すると色が安定するので、鉄の鍋で調理すると色が残りやすいでしょう。紫キャベツのピクルスが色鮮やかなのは、酢が酸性だから。また、ナスを漬物にする時は鉄の釘かミョウバン(スーパーで売っている食品添加物のミョウバンには、アルミニウムが含まれています)を入れることで、色をきれいにしたりします。

玉ねぎや大根といった白い野菜は料理の味を支える縁の下の力持ち的な存在。糖分の他に硫黄化合物が含まれているのが特徴です。硫黄化合物は肉類の風味のもとなので、肉と一緒に料理すると風味が引き立ちますし、玉ねぎや大根をステーキにすると肉に匹敵する存在感が出るのはそのためです。


野菜類の加熱について

第1章でおひたしをつくりましたが、青菜を加熱するとしんなりするのはなぜでしょうか。この問いに答えるには植物の構造を理解する必要があります。葉は主に光合成を行う器官で、太陽光と二酸化炭素を最大限に吸収できるように薄いシート状の構造で、内部にたくさんの気泡を持っています。薄いために加熱時間は短くて済みますし、調理するとそのスポンジが潰れるので、体積が小さくなる、というわけです。

茎や根を食べる野菜もあります。茎は主に栄養を伝達する役割を持ち、野菜の地上部を物理的に支えています。そのため、繊維質が強いものが多いので、アスパラガスは皮を剥いたり、セロリは筋をとったりします。

根を食べる野菜の代表としてはニンジンや大根、ビーツがあります。根は植物を土壌に固定し、水分と栄養分を吸い込むための器官で、栄養分を糖の形で貯蔵する働きもあります。野菜はそれぞれ水分や栄養分を吸い上げるための維束管と貯蔵組織の構成が異なり、例えばニンジンは中心部の維束管を貯蔵組織が取り囲む形になっているので、中心部は味がやや薄く、外側は甘いのです。ビーツは維束管と貯蔵組織が同心円状に層をなしているので、断面を観察すると縞模様になっています。

貯蔵組織に糖を蓄えている野菜は甘味があります。ちなみにカブは茎と根のあいだが膨らんだもの、ジャガイモは地下茎が発達したもので、少しだけ性質が異なり、デンプンを多く含むジャガイモはしっかりと加熱しないと食べられません。

いずれにせよ、一般的には地面の上にある野菜の部位は歯ごたえを残すために熱湯による短時間の加熱にとどめ、地面の下にある野菜は水からじっくりと加熱するのが原則です。例外はありますが、感覚的には理解できるか、と思います。

野菜を保存するときは基本的には低温が適していますが、種類によって最適な保存温度は異なります。一般的に温帯地域で生育するものは氷点付近で保存しますが、それより温かい地域で栽培される野菜は低温障害と呼ばれる現象が出てしまうことがあるので、ナスやトマト、キュウリ、かぼちゃ、ピーマンなどはあまり冷たくなりすぎないように新聞紙などで保護してから冷蔵庫の野菜室で保管するといいでしょう。


浸透圧の力で味を染み込ませる ピクルス

浸透圧について学ぶためにピクルスをつくります。ピクルスの本場、北欧では冷蔵庫のない時代、雪に閉ざされてしまうので、夏のあいだに収穫した野菜をピクルスにして保存し、冬にそれを食べる食文化が発達しました。

スウェーデン風のピクルスの基本の配合は体積が1.2.3(OneTwoThree)とおぼえます。つまり、砂糖が1カップ(120g)に対して、水が2カップ(400㏄)、酢が3カップ(600㏄)です。さすがにこれだとちょっと量が多いので、今回は3分の1の量でつくってみます。計算すると砂糖が120g÷3=40g、水が400㏄÷3=約130㏄、酢が600㏄÷3=200㏄です。これで500㏄容量の瓶一つくらいの量がつくれます。

1.赤玉ねぎ、きゅうり、ニンジンを適当な大きさに切り、重量の2%の塩を振って、10分間置いてから、瓶に詰める。

2.小鍋で砂糖、水、酢を混ぜながら火にかける。砂糖が溶けて、沸いてきたら熱いうちに野菜が入った瓶に注ぎ、蓋をし、そのまま冷ます。

3.冷蔵庫で一晩以上置けば食べごろ。

ピクルスにする野菜はなんでもいいのですが、今回は実験として赤玉ねぎ、きゅうり、ニンジンをピクルスにしてみました。

赤玉ねぎはきれいな赤紫に発色しているはずです。これはアントシアニンを酸性の環境に置いたから。きゅうりは退色していますが、ニンジンは鮮やかな色を保ったままです。ニンジンの色素であるカロテノイドは調理条件にあまり左右されません。つまり、赤パプリカや黄色パプリカをピクルスにしても色鮮やかな状態を保てるということです。

これは余談ですが、カロテノイドの弱点は光です。したがってニンジンやカボチャを保存する際は光に当てないように新聞紙に包んでおく必要があります。この性質を理解しておくとまな板にニンジンの色素がついて落ちない、という場合も慌てることはありません。まな板を日光にさらしておけば、いつのまにか白くなっているので、漂白剤などを使う必要もないのです。

ピクルス液につけて一晩置けば、玉ねぎやきゅうりもしっとりとやわらかくなり、甘酸っぱい味がついています。これは野菜の水分が外に出て、代わりにピクルス液が浸透したから。

野菜の細胞の組織液の濃度は塩分濃度に換算するとだいたい0.85%。これよりも濃い液体につけると浸透圧が働き、組織液が外に出て、浸している液体が中に入ってきます。漬物やピクルスなどがおいしくなるのはこのメカニズム。

逆に組織液よりも薄い濃度の液体──例えば水につければ野菜は水分を吸い込んでパリッとします。これを上手に活用した料理がサラダです。次にご紹介するサラダづくりをとおして、水分のコントロールを理解しましょう。


基本の3Cを押さえよう グリーンサラダ

1.葉物野菜(今回はサラダ菜、サニーレタス、からし菜をほぼ同量ずつ)はよく洗ってから、包丁で一口大に切る。ラディッシュは薄切りにする。すべての野菜を冷水に浸し、パリッとさせる。

2.サラダスピナーを使うか、タオルに包んで振り回すなどして、野菜の水気をよく切る。

3.オリーブオイル(全体に絡まる量)、塩(小さじ1/4)、コショウ、酢(オリーブオイルの1/3量が目安)の順番に和えて、器に盛り付ける。

サラダの基本は「3C」と言われています。「Cold」(冷たいこと)、「Crisp」(パリッとしていること)、「Clean」(清潔であること)です。

葉物野菜はよく洗い、小さく切っておきます。ちなみに料理において『小さく切る』と言えばほぼ一口大を指し、3㎝角が目安です。

少し料理を勉強した方は「え、レタスを包丁で切るの?」と思われるかもしれません。料理書にはよく『サラダに使う野菜は金気を嫌うので、手でちぎったほうがおいしい』と説明されていますし、家庭科の時間でそう習った方も多いかと思います。

しかし、それは昔の話。包丁が鋼製だった時代は金属臭が移ることがありましたが、現在普及している包丁はほとんどがステンレス製なので、その問題はありません。食品と調理に関する科学的知識が網羅されていることで有名な料理事典『マギーキッチンサイエンス』では、こんな風に説明されています。

『葉を小さくする場合はなるべく物理的な圧力を加えないようにする。細胞がつぶれると風味が落ちるし、色も悪くなってしまうからである。一般にはよく切れるナイフで切るのが簡単である。手でちぎると余計な力が加わって、やわらかい葉は傷つきやすい』

手でちぎると断面の細胞が壊れ、ドレッシングをすぐに吸い込んでしまいます。そうするとサラダの葉がすぐにしんなりしてしまうでしょう。つまり、サラダの葉っぱは包丁で切ったほうがおいしいのです。

野菜を冷水に浸すとすぐにパリッとしてきます。かといってあまり長い時間浸けすぎると、水で野菜の味が薄まってしまうので注意。野菜の鮮度にもよりますが、10分〜20分ほど浸ければ大丈夫です。大根やニンジンなどの硬い野菜だって、もちろんサラダにできます。その場合は千切りにするか、薄切りにして、同じように水につけ、パリッとさせます。

定番のトマトはどうでしょうか? 切ったトマトを水につけると水分を吸い込み、おいしいジュースが外に出て、味が薄くなってしまいます。だから、適当な大きさに切ったトマトは水にはさらさず、最後に加えるようにしましょう。枝に実るトマトは扱いとしては果物と同じ。つまり、オレンジやグレープフルーツといった果物をサラダに加える場合も同様に最後に加えるようにします。

冷水に浸けた野菜はザルで水気を切り、布巾やキッチンペーパーなどで表面についた水分をさらに除去します。大きめのタオルで包んで振り回すか、サラダスピナーという遠心力で水分を除去する調理器具を使えば簡単です。水分が残っているとドレッシングが薄まって、水っぽい仕上がりになってしまうからです。

サラダを事前に準備しておきたい場合は水気を切った状態で冷蔵庫で保存します。このとき、野菜の水分がラップやボウルの内側に結露するので注意してください。乾いたタオルやキッチンペーパーで野菜を包んだ状態であれば数日間は日持ちします。

サラダの味付けに使うドレッシングの材料は油、酢、塩が基本。油と酢の割合は3:1(または4:1)、と頭に入れておくといいでしょう。例えば大さじ1の酢に塩小さじ1/4を溶かし、そこに大さじ3(または大さじ4)の油を少しずつ注いで泡立て器で混ぜれば基本のドレッシングというわけ。好みでマスタードを加えるとよりおいしくなります。

事前にドレッシングをつくらなくても、材料を順番にかけていくだけでもおいしいサラダができます。イタリアなどに旅行に行ってサラダを注文すると、たっぷりの野菜と一緒にテーブルの上にオリーブオイルとワインビネガー、塩、コショウの瓶が並び、それぞれの食卓で味付けして食べる、という光景をよく見かけます。

この場合には順番が重要です。まず最初に油でコーティングします。先に塩や酢を入れると浸透圧が働いて、野菜から水分が出てきてしんなりしてしまうので注意。次に酢、塩を加えてざっと混ぜればできあがりです。

外食するとドレッシングをかけただけのサラダがよく出てきますが、その方式だと野菜の本当のおいしさは味わえません。ドレッシング=Dressingとは着付け、服や装いを意味する言葉。野菜全体を覆うようにやさしく和えましょう。

油でコーティングしているとは言っても、長く置いておくとやはり野菜がしんなりしてしまうので、早めに食べるようにしましょう。好みで黒コショウやハーブなどの香りのあるもの、あるいはチーズや豆腐、ベーコンなどのタンパク質の味を添えるとボリューム感が出ます。基本がわかっていれば、あとの応用は自由自在です。

<今回のまとめ>
●漬物やピクルスは、浸した液体が野菜の内部に入ることでおいしくなる
●サラダの基本は「3C」。「Cold」(冷たいこと)、「Crisp」(パリッとしていること)、「Clean」(清潔であること)
●サラダの葉っぱは手でちぎらず、包丁で切ったほうがおいしい

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おいしさの「仕組み」がわかる 料理のキホン

樋口直哉

すでに料理をしている人も、これからはじめる人も、知ればみるみる料理が上達し、楽しくなる「料理のキホン」をご紹介します。どのように調理するとおいしくつくれるのか、なぜそのように調理するのか、食材はどのように扱うべきなのか、調理法と食材の...もっと読む

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naoya_foodlab 野菜についての解説です。色、部位で調理法をわけるという話。 約2時間前 replyretweetfavorite