挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界転移で女神様から祝福を! ~いえ、手持ちの異能があるので結構です~ 作者:コーダ

第9章 エルガント神国編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました
194/264

第132話 危険人物と神都到着

今回の章では少しズルい事をします。

それは「主人公たちは知っているけど、読者にはその情報を公開しない」と言うモノです。

事前に登場キャラのステータスが全公開されて面白いのかと言う話です(そう言う作品でもある)。

 グランツ王国国王、ゼノン・グランツに関する話が終わったので、その他の要注意人物についても話を続けていく。

 正確に言えば、要注意人物の中でも、敵対する可能性の高い危険人物に限るが……。


「ミオちゃん的にはエルガント神国の教皇が敵対しそうだと思うな。宗教国家のトップってゲームだと大抵敵だから。それに、この称号は……」


わたくしはSランク冒険者の剣士が危険だと思いますわ。この武器が……」


「勇者の中に、危険な称号とスキルを持った教師が居ました……。仁君、これって……」


《ドラゴンきらーい!》


「お兄ちゃん、この国は人間を敵視しているの。敵対すると結構危ないかも……」


 皆が思い思いに危険人物を挙げていく。

 どいつもこいつも一癖も二癖もありそうな奴らばかりである。

 ちょっと、一か国に危険人物集中しすぎじゃないかな?


 最終的な危険人物の数は20名近くになった。

 敵対はしないだろうが、気になるスキルや称号を持った者も多い。その数、約40名。


「流石は世界最大の宗教国家の首都だな」

「いや、絶対その程度の扱いで済ませちゃダメだからね!?普通の街に『最終試練』が2人も潜伏しているとか、異常事態以外の何物でもないからね!?」


 俺がしみじみと呟くと、サクヤが全力で否定してきた。

 実はエルガント神国の首都には、現在2名の『最終試練』が滞在している。

 2と言うのは、人の姿を取っているが故の扱いである。


「丁度いいじゃないか。最終試練は2名。<超越>を持っていないのもさくらとドーラの2名。ピッタリだな」


 さくらは人の姿をした相手を倒すのは嫌がるだろうから、本来の姿に戻した後で叩けばいいだろう。本来の姿なら抵抗はないと思うし……。


 ちなみに、完全に倒す前提で話をしているのには理由がある。

 簡単に言えば、『最終試練』の魔物はテイムされているのである。そして、その主人が結構ガチでヤバいのである。


「サクヤちゃん、ご主人様にとっては、『最終試練』なんてその程度の扱いなのよ」

「新しい武器の試し切り相手にするようなお方ですものね」

「お兄ちゃんが非常識なのは理解しているけどー……」


 ミオとセラに説得?されて、サクヤがうーっと唸る。


「安心しろ。相手が『最終試練』だろうが、各国の王族だろうが、サクヤの身の安全は俺がしっかりと守ってやるから」

「お兄ちゃんにそう言ってもらえるのは嬉しいけどー……!」


 サクヤは困るのと同時に嬉しそうな表情をしている。……器用だな。


「サクヤさんを守るご主人様は、わたくしがお守りしますわね」

「セラちゃん、よろしくお願いします」


 マリアは首脳会議には出られないので、セラに護衛の役目を任せている。

 首脳会議中はメンバーが分断されるので、その分危険度は上がってしまうのだ。


「1つ思い出したことがあるんですけど、良いでしょうか……?」

「さくら、どうかしたのか?」

「はい……。確か最初に首脳会議の話が出た時に、サクヤちゃんが仁君を守る防波堤になると言う話をしていませんでしたか……?」


 あったな。

 俺が行動をすると事が大きくなるから、出来るだけ穏便に過ごして欲しい。

 その為に、サクヤが王侯貴族達との間に入って防波堤になると言っていた。


「ああ、そんな事も言っていたな」

「この状況で、サクヤちゃん1人で防波堤になれると思いますか……?」


 俺達の視線がサクヤの方に集まる。

 サクヤはにっこりと笑い……。


「うん、絶対に無理!」


 そう断言をするのだった。

 首脳同士の腹の探り合いとかならともかく、完全に武力ありきの化け物どもを相手にするのは無理だよな。


 むしろ、俺達が戦力的な意味でサクヤの防波堤になってやらないといけないだろう。

 とりあえず、サクヤのステータスを簡単には死なない程度まで強化してやらないとな。

 このままだと、戦いに巻き込まれたらあっさりと死んじゃうし……。



 危険人物に関する話が大体終わった。


 まず、危険人物に対して、『こちらから手を出さない』と言う事を基本方針とした。

 少々消極的な気もするが、サクヤとの約束もあるし、大義名分無しで先制攻撃をすると、色々と面倒になると言うのが理由だ。

 ……異能によって知り得た情報は、根拠(大義名分)を明示できないのが難点だな。


 ただし、『相手から攻撃を受けた場合は遠慮せずにやり返す』と言うことも決めた。

 相手が実力行使に出た以上、サクヤによる交渉が上手く行く可能性は限りなく低くなる。

 流石のサクヤも、その状態で手を出すなとは言えない様で、渋々ながら反撃を認めてくれた。ただ、「可能ならばやり過ぎないで」とも言われた。

 俺は「考えておく」と言った。サクヤは「断言してー!」と言った。


 危険人物達の中でも、特に注意すべきなのは5人だ。


 1人目は最初に話に出たグランツ王国国王、ゼノン・グランツだ。

 種族に「憑依者」と言う記載があり、呪印カースを持つこの男は、魔族とのかかわりがある可能性が高い。

 グランツ王国の兵士に襲われそうになった事から考えても、敵対する可能性が非常に高いので、首脳会議中は特に警戒が必要だろう。


 2人目は獣人の国レガリアの女王、シャロンだ。

 レガリア獣人国は国民の9割以上が獣人で構成された国家で、エルガント神国からは北方向に位置する。

 人間の国とは昔から折り合いが悪く、しょっちゅう小競り合いをしている物騒な国だ。

 今回、何故この首脳会議に参加したのかわからないので、警戒が必要となるそうだ。

 ちなみに、女王はかなり強い。


 3人目は勇者の1人、木野あいちと言う少女だ。

 驚くべきことに、彼女の祝福ギフトは+14となっていたのだ。つまり、彼女は14人もの勇者の死に立ち会ったことになる。彼女が殺したのなら、結構なモノである。

 レベルもトップクラスに高く、勇者の代表のような立場ではないかと思われる。

 そして、もう1つ気になるのが、彼女のマーカーの色なのだ。赤(敵)と言えば赤なのだが、ほんのり黄みを帯びているのである。……信者?


A:信者、だと思われます。断言はできません。


 なお、黄みを帯びた赤マーカーは何故か結構居る。WHY?

 敵で信者で勇者で殺人者となると、警戒せずにはいられないだろう。


 4人目と5人目は『最終試練』の2人だ。

 その名も『風神・トルネード』と『雷神・ライトニング』である。

 テイムされた『最終試練』であり、人の姿を取って神都に潜伏している。

 『最終試練』には碌な奴がいないので、その動向を無視することは出来ない。

 後、個人的にはさくらとドーラに倒させたい。仲間外れ、良くない。


「危険人物に関して、話しておかないといけないのはこんな所かな?」


 俺はそう言ってまとめる。


「気になる人物を挙げていったらキリがないものね」

「そうですね……。これだけでも結構疲れました……」


 ミオとさくらが疲れたような顔をしている。


《ふわー。おわったのー?》


 ドーラは街に潜んだドラゴンについて言及した後、しばらくしたら眠ってしまっていた。

 うん、ドーラに難しい話は無理だ。


「セラちゃんなら大丈夫だとは思うのですけど、やはり予知スキルは欲しかったですね。状況が複雑すぎて、不測の事態が多くなりそうです」

「そうですわね。リコさんの教育が早く終わることを願いましょう」


 マリアとセラは護衛に関して話をしている。


 ルセアに聞いたのだが、リコの教育は順調だそうだ。

 非常に物覚えが良く、技術を次々と吸収している。予知スキルの発動にも慣れ、近接戦闘には高い適性を見せてくれている。と言うのがルセアの談だ。

 完全にモノになったら、サクヤの護衛の1人にするつもりだ。



 エルガント神国の神都をマップで確認してから3日が経過した。

 この調子で行けば、今日中には神都に到着するだろう。


「これからよろしくお願いいたします!」


 揺れる馬車の中、元気よく頭を下げて挨拶をしたのは、メイド訓練を終えたばかりの小人の勇者リコだった。

 ボサボサになっていたオレンジ色の髪は艶を取り戻し、ショートボブに綺麗に整えられていた。肌も手入れをされており、メイド服を着ていなかったらどこかのお嬢様のようにしか見えない。

 髪と同じ橙色の瞳はぱっちりと大きく開いており、活発な印象を持った少女となった。

 小人ホビットと言うことも有り、幼女にしか見えないが……。


「ああ、よろしく」

「はい!」


 リコは他のメンバーにも1人1人挨拶をしていった。

 マリアに挨拶するときは、5割増しで目を輝かせて「先輩!よろしくお願いします!」と言っていた。実はリコの方が年上なんだけどね……。


「それじゃあ、リコにはサクヤの護衛を任せようと思う。首脳会議の時にはメイド枠で参加してもらうぞ」

「はい!お任せください!」


 リコは随分と元気がいいな。

 奴隷商で全てを諦めたような顔をしていた時とは比べることも出来ないよ。


「それにしても、良く間に合いましたわね。噂ではルセアさんのメイド修行はかなり厳しいらしいですわよ」

「はい、かなり大変でした!でも、本日何とかルセア様より合格をいただくことが出来ました!私に才能があれば、もっと早く合流することが出来たのですけど……」


 セラの質問に苦笑いをしながら答えるリコだが、ルセアが本気で教育をして、それを乗り越えたと言うことは、十分に誇れることである。


「それに、戦闘訓練はともかく、メイドの方は及第点ギリギリですので、この1件が終わったら再修業することが決まっています!まだまだ、未熟なんです!」


 思っていた以上にストイックだな。


「それじゃあ戦闘訓練の方は十分なのか?」

「はい!そちらはルセア様からも免許皆伝をいただきました!」

「へえ、たった1週間でそれは凄いな」


 ルセアが俺に同行させる者に適当な教育をする訳が無い。

 そのルセアが免許皆伝と言うのなら相当なモノだろう。


「恐縮です!」


 少し気になったので、お辞儀をするリコの装備を見てみる。

 何が気になったかと言えば、メインウエポンである。


 マリアは二刀流の剣士。

 シンシアは棒術……違う。今は格闘家みたいなものだ。


 勇者2人が結構尖った戦術なので、3人目であるリコの戦い方が気になったのだ。


「……まさかの暗器使いか」

「はい!メイド服には色々隠せて便利です!護衛ですので、護衛対象を守るためには武器も手段も問いません!」


 本人の宣言の通り、リコはメイド服にいくつもの暗器を仕込んでいた。


 元々小柄なのでそれほど多くは仕込めていないが、その点は『格納ストレージ』の魔法やアイテムバッグで補うようだ。

 <無限収納インベントリ>を使わないのは、暗器の出所を問われた時のためだ。

 頻繁に暗器の補充をすると、誰かに武器の出所を問われるかもしれない。嘘をつきたくないので、最初から<無限収納インベントリ>には頼らない方針らしい。


「戦闘能力と言えば、予知スキルの方はどうなんだ?戦闘で使えそうなのか?」

「はい!そちらは訓練中ですが、ある程度は形になりました!」

「具体的には?」

「不意打ちの回避はほぼ完璧に出来るようになりました!」


 リコ曰く、致命的な攻撃は直前に予知が働き、回避行動をとれるようになったそうだ。

 これにより、無防備な状態への不意打ちを防ぐことが可能になった。


 しかし、いくつかの欠点も同時に明らかになった。


 まず、<不可避の悲劇バインド・ヴィジョン>は連続使用が出来ない。

 1度使用すると30秒は使用できないので、致死クラスの攻撃を連発されると厳しい。

 なお、今までは30秒経たずに再びピンチになるようなことはなかったそうだ。


 そして、<不可避の悲劇バインド・ヴィジョン>の運命を捻じ曲げられるほどの実力者が相手だと、回避行動、防御行動に対応して更なる攻撃をしてくることがある。

 その場合、<不可避の悲劇バインド・ヴィジョン>は何の役にも立たず、完全な実力勝負になってしまうそうだ。


 結局、戦闘中に補助として使うより、危険な初撃を防ぐための運用に注力した方が良い事が明らかになったそうだ。


「ですから、常時<不可避の悲劇バインド・ヴィジョン>による回避、と言ったようなことは出来ません!あくまでも護衛のためのスキルです!」

「そうか……。流石にそこまで上手くは行かなかったか」


 戦闘中に自らの危機を予知し続ければ、それは実質的に無敵みたいなものである。


「ルセア様からは「当てにしても良いけど、頼りきってはいけない」と言われました!」

「ルセア、良い事言うね」

「はい!」


 そこまで特性を理解しているのならば、俺から言う事など何もないだろう。


「リコちゃん、リコちゃん、ちょっといいかしら?」

「何ですか、ミオさん?」


 ミオはいつの間にか手にお皿を持っていた。

 その上には、いくつものシュークリームが……。


「リコちゃんの予知スキルの力を見せて欲しいのよ。そこで用意しましたのはミオちゃん特製シュークリーム。8個のシューの中、1つだけ激辛クリームが入っています!見事最後まで激辛を避けることが出来るのか!?と言う茶番よ」


 自分で茶番って言っちゃった。

 えーと、激辛シューが最後まで残る確率は1/8か。これくらい、予知が無くても誰にでもできるだろう。


「もちろん良いですけど、私がお菓子を貰ってしまってもいいのですか?」

「そりゃあ、構わないわよ。予知能力者相手にこういうネタやるの楽しみだったからね」


 ああ、気持ちがわかる……。


「食べ物で遊ぶのは良くないけど、食材を無駄にするわけじゃないからOK!最後まで残ったら、辛い物が好きなメイドにでも挙げる予定よ」

「もし、途中で激辛を引いてしまった場合はどうしますか?」


 激辛シューくらいでは<不可避の悲劇バインド・ヴィジョン>が発動しない可能性もあるだろうな。


「残った甘いシューは、食べたい人が食べればいいと思うわよ」

《ドーラ食べたーい!》


 ドーラは迷わずに挙手をした。


「分かりました!では行きます!」

「思い切りいいわね!」


 言うが早いか、リコは素早くシューを取り、一口でガブリと口の中に入れた。


「~~~~!!!」


 顔を真っ赤にして口を押えるリコ。


「え?まさかの一発ヒット?」


 ミオもポカンとしている。

 まさか予知スキル持ちが一発で激辛シューを引くとは思わなかったのだろう。


「はぁ、はぁ……。の、残りは皆さんでお分けください……」

「ああ、なるほど……」


 そこで俺達はリコの意図に気付いた。

 要は、自分が激辛シューを食べるから、残った甘いシューは皆さんで食べてください、と言うことだ。


「自己犠牲精神強すぎじゃない!?」

「わ、私は護衛ですから!」

「護衛は関係ないような……。はあ、水でも飲みなさい」

「あ、ありがとうございます」


 ミオに貰った水をゴクゴク飲み、リコはようやく一息をついた。

 ミオは難しい顔をしてリコに向けて言う。


「リコちゃんには悪いんだけど、シュークリームならまだまだあるからね?旅の仲間になったから、サービスでシュークリームを多めにあげようって意図もあったからね?身体、張らなくても良かったんだよ?」

「そ、そうだったんですか!?」


 俺達に気を使ったのが完全に裏目に出て、がっくりと肩を落とすリコ。

 多分、ドーラがシュークリームを食べたいって言ったのが切っ掛けだったんだろうな。


 その後、口直しも兼ねてリコに多めのシュークリームを与えつつ、俺達もミオ特製シュークリームを食べることにした。



「マスター、そろそろ時間です。如何いたしましょうか?」


 後2時間もしないで神都に到着すると言うところで、ベガが報告をしてきた。


「もうそんな時間か。……さて、どうするかな」

「はあ……。本当に面倒ね。一体何を考えているのかしら?」

「まともな事ではないと思いますわ」


 ミオとセラが呆れ顔になるのも無理はない。

 他の皆も似たり寄ったりな表情をしているからな。


 この先に何がいるのか?

 簡単に言えば、エルガント神国の盗賊達が俺達の事を待ち構えているのだ。

 エルガント神国の神都に行くには、いくつか決まったルートを通る必要があり、そこに盗賊達が配置されているのである。

 このやり方はグランツ王国と似ているが、グランツ王国のような正規兵に盗賊の振りをさせているのではなく、本物の盗賊を徴用している。

 捕らえた盗賊達に俺達を殺したら恩赦を与えると言って野に放ったのだ。


 気に喰わない点が2つある。


 1つ目は盗賊達がどう見ても当て馬と言う点である。

 盗賊達はレベルも装備も貧弱で、とてもじゃないがエルディアを滅ぼした騎士にぶつけるには分不相応だ。

 その目的は俺達の実力を測るというモノだろう。遠く離れた場所から、エルガント神国の正規兵が望遠鏡のようなもので様子を見ているからな。


 2つ目は盗賊を倒しても得られる物が無いという点だ。

 武器は安物、お金はほとんど持っていない。レアな魔法の道具マジックアイテム何て以ての外。盗賊を退治するメリットがほとんどないのである。


 はっきり言って、こんな奴らのために時間を使うのが勿体ない。

 監視の目の前で戦力を見せるのも嫌だ。

 ただ、仮にも盗賊である以上、潰さないと言う選択肢も無い。


「仁様!よろしければ盗賊退治は私にやらせてくれませんか?」


 俺が盗賊の対処について考えていると、リコが元気よく挙手してそう言った。


「本当は護衛が前に出るのは良い事ではありませんけど、まずは仁様達に私の実力を見て欲しいんです!」

「ふむ、相手は20名くらいいるけど、大丈夫なのか?」


 装備が貧弱とは言え、相手は20名近い武装した集団だ。

 戦闘訓練をしただけの少女には荷が重い……可能性は0ではない。まあ、ルセアがどうにかしていると思うけど。


「大丈夫です!これよりも多い盗賊団を1人で壊滅させた事もありますから!既に人を殺す事にも慣れました!」


 ルセアの訓練。思っていた通り……思っていた以上に容赦ねぇ!

 たった10日程度で、ドコまでの事をやっているのだろう。


「エグいわね。ルセアさんの特訓……」

「はい……。私なら絶対に合格を貰えません……」

「流石ルセアさんですね。素晴らしい教育です」

「ええ、良くこの短期間で身体と精神の両方を仕上げましたわね」


 ミオとさくら、マリアとセラで意見が割れた。

 やはり生粋の異世界人は反応が違う。


「そこまで言うのなら、盗賊達の処分はリコに任せよう。……っと、監視の目は潰しておかないといけないな」

《なにするのー?》

「今言っただろ?目を潰すんだよ」


 俺はドーラの質問に答えながら、<光魔法LV2>の『フラッシュ』を発動する。

 『フラッシュ』は単純な目くらましの魔法だけど、<拡大解釈マクロコスモス>で光量を強化して、に見たらどうなると思う?

 当然、目は潰れますよね?……よしっ!監視役の兵士達が目を押さえてのたうち回っているな。


「エグいのはご主人様も同じだったわね……」

「よし、リコよ。やってしまえ」

「はい!お任せください!」


 そう言ってリコは馬車を飛び出していった。

 ちなみに、馬車は普通に走っている最中だ。


 盗賊達は俺達の乗った馬車を捕捉し、街道を通せん坊するために進んでいた。

 リコは馬車よりも速く動き、盗賊達に一気に接近した。

 ちなみに、<縮地法>などは使っていない、素のスピードだ。速い。


 そのままリコは盗賊達の間をすり抜けるように進んだ。

 リコが通り過ぎると、盗賊達は次々と崩れ落ちて行った。

 横を通り過ぎる際、盗賊達の首に針のようなものを投げつけていたみたいだ。

 ちなみに、それだけで盗賊達は死んでいた。


 死んだ盗賊達を『格納ストレージ』に回収したリコが走って馬車に戻って来た。

 ちなみに、この間馬車は1度も止まっていない。


「終わりました!」


 爽やかな笑顔を浮かべてリコがそう宣言した。

 返り血なども付いていないし、息も切らしていないので、たった今盗賊団を壊滅させてきたようにはとても見えない。


 ホント、現地産の勇者は色々とぶっ飛んでいるよな。


「よくやった、と褒めてやりたいんだけど、あの戦い方じゃあ、護衛として接近戦が出来るか判断が出来ないんだよな……」

「あ!?そうでした……」


 ガーンという擬音が似合いそうな表情で、リコががっくりと崩れ落ちる。


 戦闘力や躊躇なく人を殺せる覚悟があることは分かったのだが、予知スキルも使っていないようだし、護衛としての適性は判定不能だった。

 殲滅力と護衛の適性は全く相関が無いからな。


「サクヤを盗賊の前に連れて行って、護衛をしながら殲滅できるかを見た方が良かったな」

「何で私が盗賊の前に連れていかれるの!?」


 俺の提案にサクヤが驚いて声を上げる。

 ……うん、態々本物の護衛対象を使う意味はなかったね。


「……まあ、護衛の適性はともかく、リコに戦闘センスがあることは分かった。無いに越したことはないけど、リコの能力は神都に到着してから見せてもらうよ」

「はい!今後こそ仁様の期待に応えて見せます!一瞬たりとも気は抜きません!」


 復活したリコが握り拳を作って言う。


「ああ、頑張ってくれ。ただ、今はそこまで気を張らなくても良いと思うぞ。マップを見る限り、もう障害物はなさそうだからな。後はのんびり神都に着くのを待てばいい」

「神都に着いたら、のんびりするのは無理ですよね……」

「無理だと思われます。仁様のお望みの観光も難しいのではないかと」


 元々『神国の観光中はトラブルに自分から首を突っ込まない』と決めていたが、この状況で神都観光をして、トラブルに巻き込まれないと思えるほど、俺は楽観的ではない。


「そうだな。ちょっと思っていた状況と違いすぎる。流石に観光は困難だろうな」


 そもそも、ここまで混沌とした都市を観光したいとは思えない。観光をするのなら平時かその土地特有のイベントが起きている時に限る。

 突発的で再現性のないイベントは、その土地らしさが見えないので、単純な観光としてはイマイチなのだ。


「例え振りでも、偉くなると自由に行動できなくなるんだな……」


 俺はしみじみと呟く。


 敵対確実な相手がいるのに、自分から手を出してはいけない。

 観光できる土地があるのに、トラブル対策で外を出歩けない。

 女王騎士の振りをしていなければ、自由に行動できたかもしれないのに……。


「いや、お兄ちゃんはそれでも十分に自由人だからね?」


 サクヤの突っ込みに、他のメンバーが頷いている。……解せぬ。



 盗賊を倒した後、2時間程馬車を走らせたところで、ようやくエルガント神国の神都、エルガーレが見えてきた。


 エルガーレの人口は20万人を超えており、この世界では最大規模の超巨大都市だ。

 都市は完全な円形をしており、その直径はピッタリ10kmとなっている。

 そこには1cmの狂いも無かった。……文明レベル的に独力じゃ不可能だよね?多分、勇者が何らかの形っで関わっているよね?


A:はい。以前お話ししました、旧神都を滅ぼした魔王の代の勇者が建築に携わりました。


 ああ、この世界と『灰色の世界』を結ぶ『境界の門』があった場所が、元々は神都って言っていたよな。

 遷都した時に勇者が関わっていたんだな。いや、本来は都市を滅ぼされる前に止めるのが勇者の仕事なんだけど……。復興特化の勇者って何か縁起悪いな。


 縁起の良し悪しは置いておいて、勇者が関わっただけあって街の景観は中々のモノだ。

 都市全体が白いと言うのは、エルガント神国の恒例のようなモノだから良いとして、何よりも立派なのは、都市中央にそびえ立つ大聖堂だ。


 通常ならば王城があるであろうその場所には、宗教国家らしく大聖堂が置かれている。

 大聖堂と言ってはいるが、実質的には王城と大差がない。祈りを捧げるだけの場所ではなく、国家運営を含めた実務的な部分も司っているからだ。

 今回の首脳会議の開催地もこの大聖堂である。ま・さ・に・敵地!


「敵地に入るんだから、しっかりと武装しないといけないよな」

「おに……ジーンは武装しなくても十分に強いじゃない」


 鎧を着こんで完全武装状態になった俺を見てサクヤが呟く。

 もう少しで街の門に辿り着くので、ジーンモードに入らなければならない。

 サクヤが『お兄ちゃん』と言いかけるのがとても不安だ。


「むしろ、動きにくくて戦力ダウンすらあり得る」

「これでも、普通の鎧と比べたら全くと言っていい程負担が無いですわよ?」


 <聖魔鍛冶>を持つミミ作の鎧は確かに装備者に負担をかけない造りになっているのだが、それでも鎧を着る以上、全く動きが阻害されないと言うことはない。

 防御力が上がる代わりに被弾が増えたら意味はないと思う。当たらなければ、どうと言うことはないのだ。紙装甲、神回避こそ正義である。……言い過ぎた。


「普段、鎧とかほとんど着ないから、慣れてないって言うのもあるだろうな」

「冒険者やってて、防具にこだわらないご主人様ってやっぱりおかしいわよね?」

「ミオちゃん、仁君は素の防御力が高いですから……」


 かろうじて軽鎧を着たり着なかったりしている俺は冒険者として異端らしい。


 鎧によるステータスアップが誤差みたいなものなのが良くない。

 ミミの作った幻想級ファンタズマ防具でようやく使い物になるレベルである。


「この世界でご主人様にまともな傷を負わせたのって、エルディアを出るときに戦った老執事くらいよね?」

「そうですね。あの時以来、仁様が傷を負った姿を見たことがありません」


 ミオとマリアの言うように、老執事セバスチャンと戦った時のかすり傷以外、この世界ではまともなダメージを受けていないな。

 織原戦は『この世界』ではないのでセーフ!


「マリア先輩、1つお聞きしても良いですか?」

「何ですか?」


 リコがマリアに質問をする。


「仁様に対して、護衛って本当に必要なのですか?」

「……一応、不意打ちをされたこともあるので、予知スキルを持った護衛なら多少は意味があるかと思います」


 マリアは自身の無力感を押し殺して言う。

 マリアは俺の護衛を自称しているが、本当の意味で俺を守ったことはない。


「私なら、仁様の護衛として役に立てるんですか!?」

「はい、可能性はあります。ただ、仁様を危機的状況に陥らせられるような者が相手だと、リコさんの予知も捻じ曲げられる可能性が高いので、確実とは言えません」

「それは……どうにもできないです」


 リコの<不可避の悲劇バインド・ヴィジョン>は運命を捻じ曲げられるほどの実力者の前では無力だ。

 1番分かり易い例を挙げると、リコの予知で織原を止めることは難しいと言うことだ。


 だからこそ、マリアは予知系のスキルを心から欲しているのだ。

 そんなスキルがあれば、織原を止められる可能性が0ではないから……(可能性が高いとは言っていない)。


しれっと名前が出てくる木野ちゃん。詳しくは第6章にある外伝8話を見よう。


あと、すんません。普通に執筆が進まないので、しばらく10日更新が続きそうです。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。