アルベドさん大勝利ぃ!   作:神谷涼

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 少し日が空きましたてすみません。
 ちょっと来週火曜くらいまで、素早い投稿難しくなります。
 まだ、アルベドさんはビクンビクンしてます。
 外部編は今回で(たぶん)終わります。



24:一方、そのころ……(3)

 

 ナザリック地下大墳墓、地上部。

 神殿のような白い遺跡部分の周囲に、石畳が広がり始め、いくつかの建物が建ち始めていた。

 多くはテントや丸太小屋だが、石造りの建物も建造されつつある。

 働くのはスケルトンやゴーレム。

 指示を出しているのは人間たちだ。

 何もない平原の中、突如現れるには奇妙な光景だ。

 それはまさに、都市の建造過程であった。

 

 そして、遠くに見える森の方から、一団が訪れんとしていた。

 のっそりと歩く、多数の魔獣の群れである。

 それらはいずれも傷を負い、疲労困憊状態。

 先頭を進むフェンリルの背には、ダークエルフの双子――アウラとマーレが、疲れ切った顔で乗っていた。

 

「たっだいまー……」

「おお、お帰りなさいませ殿! 聞きしに勝る激戦、見事勝利なされたでござるな!」

 

 帰還したアウラへと、森の賢王が駆け寄る。

 疲れ切った身に、甲高く忠義に満ちた声はつらい。キンキンした声のドライアドも、戦闘後に相手するのは面倒で、無視してきた。後日に回収に行けば問題ない……はずだ。

 あるいは至高の御方も、同じストレスを感じていたのだろうか。

 

「お、お姉ちゃん、大丈夫?」

 

 自身もまだMPが回復しきっていないだろうに、心配してくれる弟が嬉しい。

 日頃頼りない弟だが、そのやさしさには癒される。

 確かに激戦だった。

 ザクロポワレとかいうフランス料理みたいな名前の植物モンスターはすさまじいHPを持ち、遠距離攻撃もこなす強敵だった。攻撃力がもう少し高ければ、アウラも撤退の判断をしていただろう。

 

「ヨキ強敵デアッタガ……」

 

 ドスドスと足音を立て、遅れてやってきたコキュートスが呟く。

 その声には、アウラへの気遣いがあり。

 彼自身の不満もまた含んでいた。

 

「……私より弱い敵と味方に会いに行きたいっす」

 

 後続の傷ついた魔獣たちの背には、ぐったりとしたルプスレギナもいる。

 一応の回復役としてついて来た彼女は、緊張とMP切れで精神的にボロボロだった。

 回復魔法は何度かけても足りなかった。

 最後にはポーションを投げつけていたほどだ。

 何せ、味方のアタッカーが容赦なく仲間を巻き込むのだから。

 おかげで、距離を取って回復に努めていたルプスレギナも、(味方の)流れ弾による死の危機を幾度も味わったのだ。

 

「やーっと戻ったでありんすかー?」

 

 まさに問題の人物が、見下し切ったドヤ顔で出迎えていた。

 四つん這いにさせた陽光聖典隊員の上に座って茶を入れさせている。

 

「階層守護者ならば、優雅に戻る力くらい残すのが当然でありんしょうに」

 

 茶をすすり。

 

「苦ッ! 何を飲ませてくれなんし!」

「ひっ」

 

 茶を入れたニグンに、それを浴びせかける。

 もちろん熱い茶だ。

 ひどい。

 

「も、森で取れる薬草を煎じたものでございます。疲労回復の効果があり……」

「はぁ? 雑草を飲ませたでありんすか?」

 

 横からフォローするカジットを、殺意を込めて睨む。

 血色のよくなった彼の顔色が、青ざめる。

 ひどい。

 

「マサニ、バルブロ王子ノ如キ振ル舞イ……」

 

 嘆かわしそうに、コキュートスがつぶやく。

 まったくだ、と。

 アウラは深々と溜息を吐いた。

 シャルティアは、アレを見ていないのだろうか。

 見てこれだとすれば、至高の御方の考えをまるでわかっていない。

 

「シャールーティーアー、ここの人間の扱いは聞いてるよね? モモンガ様に全て報告させてもらうから」

「はぁ!? 殺してもありんせんに!」

 

 疲れ切っているだけに、アウラも投げやりにもなる。

 その言葉には、他の仲間全員も(魔獣たちさえ)頷いた。

 別に人間の味方する気はないが、あまりに見苦しい。

 とりあえず、シャルティア以外の全員に連帯感と、己の戦術的問題の自覚ができたのは僥倖だった……のだろうと、アウラは己を納得させる。

 

 森林の奥に在る強大な植物モンスターの存在を報告したアウラは、デミウルゴスからナザリック残留戦力による威力偵察任務を与えられた。そして、知性があるなら交渉し、交渉不可能かつ討伐可能ならば討伐すべしとも。厳しい場合は速やかに撤退し、セバスやアルベドも加えるべしとなっている。

 指揮官役となったのがアウラだった。

 今回連れて来た戦力で殲滅は十分に可能と判断し、交戦した。

 魔獣たちはもちろん、マーレもコキュートスもルプスレギナも、アウラの指示をよく聞いてくれた。アウラとしても己の指揮が完璧とうぬぼれる気はない。思い返せば問題は多かった。だが……それでも、本来ならばもっと損傷少なく倒せたはずなのだ。

 問題の全てはフレンドリーファイアを一切考慮せず戦ったシャルティアにある。

 戦闘に参加した面々がシャルティアに向ける目が冷たくなるも、仕方あるまい。

 

「ニグン殿――」

 

 コキュートスが、茶を頭からかぶったニグンに声をかける。

 かつて、ニグンを引き入れる時、モモンガは言っていた。

 彼から戦術を学ばねばなるまい、と。

 今、コキュートスはようやく、その言葉の意味を理解しつつあった。

 

「ニグン殿、戦術ニツイテ指導イタダケマイカ」

「は?」

 

 ニグンとしては、呆気にとられるしかない。

 ぽたぽたと落ちる薬草茶の雫は、既に冷たい。

 目の前の昆虫型の魔神が、どれほどの戦闘力を持つか……ニグンたちも何度かの“訓練”で重々知っていた。

 

「我ガ剣ハ、一人ニテ振ルウ時シカ想定シテイナイ。仲間トトモニ戦イ、後ノ者ヲ守ルニハ戦術ト布陣ヲ身ニ付ケネバナラナイ」

 

 今回の植物モンスター討伐は、十分に余裕を持って勝てたはずなのに、結果的に少なからぬ手傷を受けてしまった。それぞれが単発の攻撃を打ち出すばかりで、連携も何もなかったのだ。

 以前に、モモンガから戦術や経験が足りないと言われ。

 コキュートスなりに研鑽を積んだつもりだった。

 最古図書館(アッシュールバニパル)で戦術書に触れもした。

 だが、実際の戦闘でわかったのは、己のまだまだ至らぬ点ばかり。

 最悪を避けると言う意味で、研鑽には意味があったが……重要な経験や訓練が足りぬのだ。

 

「あー……そうだね。今日はもう疲れたけど、あたしもお願い」

「ぼ、僕もお願いします……」

「私も、側仕えのない時は教えてほしいっす。村の方にいるユリ姉にも、機会あったら……」

 

 アウラとマーレ、それにルプスレギナも頷く。

 彼女らもまた己の連携が(つたな)く、役割分担すら満足にできていないと感じていた。

 

「も、もちろんでございます!」

 

 一行の苦戦を察したニグンは胸を張り、宣言する。

 

「おんしら正気でありんすか!? 人間如きにそんな――」

 

 状況も空気も理解しないシャルティアが、他の守護者に食ってかかるが。

 

「アンタはニグンに謝りなさいよ」

「あ、謝った方がいいですよ」

「詫ビルベキ」

 

 味方がいない。

 

「ニグンちゃんはモモンガ様のお気に入りっすから、謝った方がいいっすよ……」

「ルプスレギナよ、おんしもでありんすか!」

 

 実質肉体関係もある彼女の言葉に、シャルティアは絶望した。

 そして、グギギギとなりながらも、ニグンに謝ったのである。

 謝られるニグンととっては、凄まじいストレスだったのだが。

 

 

 

 魔樹討伐の後、ニグンに助言をもらいながら反省会をする一行。

 ペストーニャも来たおかげで、HPは全員回復した。

 差し入れの食事も出され、各自が次の機会に向けて取り組み始めている。

 そして一方で、近隣――カルネ村から来客が訪れた。

 

「よかった……ルプスレギナも無事に戻ったのね」

「ユリ姉、心配しすぎ」

 

 村に駐留していた、ユリとシズである。

 ナザリックと村の間には、開いた道が開通している。今は土がむき出しの道だが、ゆくゆくは石畳を整備し、馬車の往来を容易にする予定だった。

 

「いやー……正直、死ぬかと思ったっす」

 

 戦闘を思い出してテーブルに顔をつっぷさせながら、ルプスレギナが答える。

 少なくとも前衛役のユリが立っていられる戦場ではなかった。

 超長距離型のシズなら……攻撃力不足か、と。

 二人をちらりと見ては、溜息をつく。

 

「村の方でも相当激しい戦闘音と、魔法やスキルが見えていましたが……そんなに強敵だったのですか?」

「ああ、うん……きっと、至高の御方なら一人でも、もっと上手く倒してたと思う」

 

 アウラが疲れた笑みを浮かべた。相手の攻撃を知っていて、己のスキルや呪文やアイテムの使いどころをよくわかっていれば……と、反省せざるをえない。

 

「御身の力は、レベルでは測れないということですか?」

「チガウ。オソラク戦闘力ハ変ワラナイ。我々ハ、戦イ方ニオイテ、アマリニ未熟ナノダ」

 

 コキュートスがうなだれ、答えた。

 武人としての在り方に最もこだわる彼の、その姿にユリも目を丸くする。

 

「……私も、そうした戦い方を身に着ける必要がありそうですね」

 

 アウラたちの様子も見て、ユリも頷いた。

 

「やっぱ、ユリ姉は真面目っすねー。ナーちゃんもせめて人間に愛想よくできれば、地上の仕事を割り振れるんすけど……」

 

 そんな会話に、ルプスレギナが割って入る。

 茶化したように見えても、実際には妹であるナーベラルについてだ。

 ナザリック地上部やカルネ村の防衛陣地構築を任されたシズ。

 デミウルゴス、ニューロニスト、恐怖公らの補佐として忙しく各地を巡るエントマ。

 それに対し、ナーベラルの任された任務は臨時メイド長である。

 ペストーニャがカルネ村やニグンたちといった、人間の世話に専念するための人選だった。

 はっきり言って、一般メイドの一人を代表に据えてもかまわぬ立場である。

 

「あなたの傍に置くのは無理なの?」

 

 長女として、ユリも気にしていたのだろう。

 栄光ある側仕えに選ばれたルプスレギナに、軽く側仕えに加えられないかと聞くが。

 

「やー、無理っすよ。ユリ姉と同じで……ナーちゃん真面目すぎっす。別の意味で、シズちゃんの方がまだ、チャンスあるんじゃないっすかねー」

 

 ルプスレギナとしては、あのドロドロした堕落の坩堝にユリやナーベラルが参加するのは無理がありすぎると判断していた。これは他の面々でも同様である。

 

「えっ……本当?」

 

 (いやがる)森の賢王と(一方的に)戯れていたシズが聞きつけ、食いつく。

 

「おっ? おおっ? シズちゃんやる気っすね! モモンガ様、エッチな意味じゃなくかわいいの大好きっすからね! アルベド様がいないご飯の時はエクレアを抱きしめたりしてるし。私が狼の姿になった時も、すっごい撫でてかわいがってくれたっす!」

 

 その時にどこをどう舐めたなど、余計なことは言わない。

 

「詳しく」

 

 ずい、とシズが近づく。

 

「あのペンギン、そんなことしてるの!?」

「ルプスレギナさんも、ず、ずるいです……」

 

 シズでなく、アウラとマーレも食いつく。

 まだまだ子供の二人も、モモンガにもっと触れたいのだ。

 シャルティアが性的な方面で発言しようとするのを、コキュートスが押さえていた。

 彼は今回の戦いで、互いの行動を予測する重要さを学習したのだ。

 

「えっ。モモンガ様、お二人にも甘えてほしいけど、二人には避けられてるみたいだーって言ってたっすよ? エンちゃんはこの前、普通に抱っこされてたし」

「うぇっ? だ、だってあの時のモモンガ様、シャルティアのよだれまみれだったし……」

「そ、その、すごくエッチで……」

 

 双子は衝撃を受けていた。

 初日、シャルティアの遠慮せぬアレコレに、近づき難くなっていただけなのに。

 

「アウラ様、マーレ様」

 

 つんつん、とシズが二人の裾を引っ張る。

 

「この子、モモンガ様きっと気に入る。ご覧に入れるべき」

 

 森の賢王の首元に身を擦り付けながら、言う。

 

「えっ? こいつ見た目はかっこいいけど、弱いよ?」

「か、かわいいとは違うと思います……」

 

 二人としては、この魔獣を御方に見せる意味がわからない。

 

「かわいい」

 

 シズが薄い胸を張って断言し。

 その首元にぎゅーっとしがみついた。

 

「く、首が締まるでござる! 離してくだされー!」

 

 魔獣の悲鳴に耳を貸す者は、守護者たちの中にはおらず。

 ニグンとカジットらのみが、この魔獣に同情の視線を向けるのだった……。

 





 ザイトルクワエ戦はさらっと終わらせました。
 モモンガさんの相手で忙しかったアルベドやシャルティア以外の守護者たちは、ニグンさん勧誘時の言葉を聞いて、戦術面を付け焼刃ながら自主学習してます。連携訓練とかもちょいちょいしているでしょう。コキュートスは個人的にニグンたちと非殺傷模擬戦とかもしてます。
 総じて、連携面は原作よりかなりマシになってる想定。
 そしてシャルティアのみ、戦闘では原作そのまま……いや、より酷いです。アルベドが御方に机下奉仕プレイしてもらってるので、イライラしてましたから。

ナザリック地上部、転移当初に土で隠さず、周囲も丘陵にしてないので、そのまま都市化する想定で動いてます。そこそこの数の人間を確保してるんだからそういうことなんだろうと、アルベド&デミウルゴスも判断。
 あくまで維持費を収益として得るためと、確保した人材を活かす一手段として。
 カルネ村は既に領土扱い。
 シズがギミック仕込んで魔改造してるので、カルネ村の防衛は原作以上になってるでしょう。

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