「NPCに毎日愛してるって言うと強くなるらしい」 作:abc
ナザリック第九階層の円卓の間では6人の異形種メイド「プレアデス」が待機状態で立っていた。彼女たちの役割は第十階層への侵入者を迎撃することであるのだが、そもそも第九階層まで到達できる侵入者自体がほとんどいない。そのため彼女たちは日がな一日立ったままで終わることがほとんどだ。
ただ彼女たちはそんな毎日を暇だとは思っていない。
それが至高の御方々達からの受けた使命あるのだから。
プレアデスの次女にして人狼のクレリック「ルプスレギナ」もまたこの変わらない日々に何の疑問も持っていなかった。
あの日までは。
その日はいつもと変わらずに第九階層で姉と妹達と待機していた時のことだった。至高の存在ぺロロンチーノとその「後輩」が円卓の間に仲良く表れたのである。ちなみに後輩の名前は後輩としか呼ばれていないのでプレアデス達は本名を知らない。ギルドメンバーの2/3も本名を覚えていない。本人も本名で呼ばれてもピンとこなかったりする。
その少し後に後れてモモンガが登場する。
「ナザリックの存亡に関わる重大なことって何ですか!一応スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンも持ち出してきました!」
プレアデスに緊張が走った。
だがすぐにそれは誤解であると分かった。
「すいません、モモンガさんそれはほぼ嘘なんです」
「なっ!ぺロロンチーノォオ!」
プレアデス達も思わぬに胸をホッとさせる。
その後にぺロロンチーノが怒られ、そしてモモンガ、ぺロロンチーノ、後輩の三人は何か会議を始める。ルプスレギナは話の内容が気になったが聞こえない所にいたために何を話しているのかは分からなかった。
そして話が終わったのか後輩を残して残りの二人はどこかに転移していく。
後輩は少しウロウロとしてプレアデスの前を言った行ったり来たりした後に、何か覚悟を決めたのかルプスレギナの前に出る。
そして、
「あ……あい……あいし……ああああああ!きっつ!」
(!?大丈夫ですか!)
何かを言いかけて地団駄を踏む後輩。ルプスレギナは後輩のことを心配する。
後輩が頭を抱えて落ち着きを取り戻すと、他のプレアデス達に対して反対側の壁際に移動するように指示を出す。
そして再度ルプスレギナに向かい合うように立つ後輩。
(あの……何か御用でしょう――)
「……愛してる」
(へ?)
そう呟いた後輩は、肩の荷が下りたのか円卓の自分の椅子に座りながらルプスレギナを一目見ると、机に突っ伏してしまう。
ルプスレギナは心臓の鼓動が早くなっていくのを感じる。
(いま愛してるって……えっと……まじっすか!?……いや、でも聞き間違いって可能性も……どうしよう、もう一度聞いてみるべきっすかね?……う、何度も聞いたら不敬だろうし、それに私の勘違いだったら恥ずかしいっす……顔に出てないと良いっすけど……)
ルプスレギナは自分の興奮が後輩にばれないか心配になる。
ただし、後輩視点ではルプスレギナはただのNPCであるために変化はわからない。ただ照れているのは二人とも一緒である。
そして同じ頃。
(ぺロロンチーノ様愛してるでありんすううう!)
(モモンガ様……いえ、父上!私も愛しておりますぅう!)
ちなみに後輩のこの愛してる発言は反対側にいたプレアデス達にもばっちりと聞かれていたために、ルプスレギナは姉妹達から質問攻めにあったのはまた別の話であった。
そしてルプスレギナは悶々とした状態で次の日を迎える。
翌日の夜になると後輩はモモンガと一緒に円卓の間に来ていた。
「お互い変なことに関わっちゃいましたね……」
「そうですね。それにモモンガ先輩の場合自分の痛い黒歴史に向かって愛してるを言わなきゃないので大変ですね」
「痛い黒歴史とか言わないでもらえる!?」
「あ、すみません」
後輩を円卓まで送った後にモモンガもまた自分の作業をするためにどこかに行ってしまう。残された後輩は再びルプスレギナの前に立つ。
ルプスレギナも昨日の一件から後輩に対して何か思うものがあるのか、思わず固まってしまう。あくまで平静を装うように努力する。
(な、何か御用でしょうか後輩様)
「愛してるぞ」
(ひぇ!?あ、あ、あの昨日に続きからかいになるのは、その、お、お止しになってくださらないっす……あ……でしょうか?)
「うーん、効果がまだ分かんないよなあ……はぁ、もう一回言っとくか」
(えっ!)
「愛してるぞ」
(二回も!?二回も言ったっす!これもう絶対に愛してるって……ああああ!?……ど、どうすれば、あ、あの、その、気持ちは嬉しいっすけど……私ごときが至高の御方とその……そういう関係になるのは……)
自分のノルマを終えた後輩はその場を去っていく。二回目ということと誰もいないもあり照れは無くなった。一応、しっかりと聞こえているか確認するために二回言ったのだが、それがルプスレギナにはかなり効いた。
(愛してるって言って……早々に立ち去られた……これは、愛してるの答えはいらないってことっすか!?答えは絶対にイエスってことっすか!?そんな……もちろん、至高の御方からの仰せとあらば従うっすけど!……でも、そんな急に言われても準備というか……その、取り合えず急すぎるっす!)
一人テンパっているルプスレギナを他のプレアデスが宥める。
二回目ということもあり言い逃れは出来なかった。
ルプスレギナも覚悟を決めるのであった。
(うぅ……これはもう受け入れるしかないっすかね……何か恥ずかしいっす)
ただし明日から毎日言われることまでは予測出来てはいない。
◆
あれから数年の月日が経っていた。
その中でモモンガと後輩を除くほぼ全員のギルドメンバーが辞めていってしまった。NPC達は怯えた。至高の御方々が消えて行ってしまうことに。自分の創造主が来なくなることに。
ルプスレギナもまた他のNPC同様に怯える日々を過ごした時期もあった。もしかしたら愛していると言ってくれているこの日々が終わるんじゃないかと。それでも後輩は一日も欠かさずに来てくれた。そのことが嬉しい反面怖くなっていく。
そして最終日前日、後輩はルプスレギナの前でつい弱音を漏らしてしまう。
いつも通り第九階層に来た後輩はルプスレギナに向かい話す。
「愛してる……」
(私も愛しております……だから、ずっとここに来てください……)
「ふぅ……これも明日で最後か……」
(明日で最後!?どういうことっすか!まさか、他の至高の御方々と同様にお隠れになるんじゃ……嫌っす……そんなの!嫌っす!嫌だ!嫌だ!……愛してるんじゃなかったんすか!私のことを好きになってくれたんじゃなかったんすか!……お願いします!何でもしますから……愛してるって言いに来てくださいっす!)
「はぁ、寝るかな」
ルプスレギナは次の日まで泣いていた。
明日で最後……その通りならばもう愛されていないということ。
捨てられてしまうということ。
姉妹に慰められても一向に心は晴れない。一番恐れていたことが起きるのだからそれも仕方ない事なのかもしれない。
翌日はモモンガと後輩はずっといてくれた。
昨日、後輩が零した言葉に信ぴょう性が増してくる。本当に今日が最後で、別れのために来てくれたのではないかと。その証拠にこれまで来なくなっていた至高の御方も顔を出している。
そして日付が変わる直前になり、玉座に出来るだけ沢山のNPCが集められた。
(……うぅ……うう)
泣きたい気持ちであったが至高の御方の前で恥は晒せない。
集められたNPCの中で自分だけが前に呼ばれる。
ルプスレギナを自分の前に立たせると後輩は実験を始める。
「愛してる」
(愛してるならもっとお側にいてくださいっす!)
一瞬の沈黙の後に、モモンガが後輩にある提案をする。
「最後ぐらい何か褒美でもあげたらどうですか?」
「……そう言われてもクレリック用の装備は何も……ああ、これで良いか」
それはぺロロンチーノから貰った素材で作った指輪だった。
余った素材で作ったために性能はあれだが、記念品としていつも後輩のアイテムボックスを埋めていた。最後ぐらい出番をやるかとルプスレギナにプレゼントされる。指輪はルプスレギナの手に渡った。
(!?……これって……)
「……最後だからな」
その瞬間、ルプスレギナの脳内は高速で思考を開始する。
そして出した答えは
(最後って言うのは……恋人の関係が最後ってことで、け、結婚して欲しいってことっすか!?まさかこれまでのことは私の勘違い……それじゃあ、この指輪は……これはプロポーズとしか考えれないっす!でも、一応確認を……大事なことっすからね!)
「あの!」
後ろから誰かに呼ばれた後輩はふと振り返る。
そこにいるのはこれまでずっと愛していると言って来たルプスレギナだけだ。
「え?なに?」
「あの!……この指輪は……その、結婚してくださるということ……ですか?」
「ちょっと待って…………今モモンガさんと話すから」
顔を赤らめながらほんの少しだけ頷くルプスレギナ。
やはり結婚というからにはモモンガ様の許可がいるのかと納得する。
再びルプスレギナの前に立った後輩。
「じゃあ、します。結婚」
「ほんとっすか!?ほんとにほんとっすか!!」
「うん、いいよ。俺独身だし」
ルプスレギナは泣きながら抱き着いてくる。
その瞬間、玉座にいた全てのNPCが一斉に歓声を上げる。
モモンガも凝った演出だなと思いながら席を立ち歓声に参加した。
後輩はよく出来てるなと感心する。
「愛してるっすよ!」
「あ、それ、俺のセリフだ。覚えてるなんてすごいな」
「当たり前っすよ!もうどこにも行かないで欲しいっす!」
「続けてプレイしろってこと?」
◆
「息子よ……お前の気持ちは嬉しいが……私達は親子だぞ!」
「!?」
もうちょっとだけ続くか 他のキャラを書きます。