2019年09月02日

 ちょっとだけ昔話。

 演出で呼ばれた芝居。

 稽古初日に渡された脚本が、まあ酷かった。

 前作との辻褄も合って無くて、そもそも前作もなかなか酷い本だったので半分オイラが書き直したという経緯があった。

 脚本家さんがが書いた本に手を入れたのは初めてのことで、ぶん殴られる覚悟で書き直したのだけれど、本番を観た脚本家さんは満足そうだった。

「僕と御笠ノさんは相性が良いんですね」

 と。

 ああ、この人は自分の書いたものになんのプライドも責任も感じて無い人なんだなって悟った。

 それでも二作目を引き受けたのは、理不尽な理由でキャス変されそうになっていた俳優が何人か居たから。

「このシリーズではキャス変はしない」
「本番期間中のマチソワ間に取材等を入れない(俳優を休ませるため)」
「出演者数に見合った人数のトレーナーを入れる」

 これらを条件にして二作目を引き受けた。

 そして二作目の稽古初日。

 初めての読み合わせが終わったあとの空気は酷かった。

 何も起きていない、何も成立していない脚本。

「これ、書き直してもらえませんか?」

 制作側の回答は、

「執筆は稽古初日までの契約なのであとは現場で…」

 とのことだった。

 今思えば、前作で大幅に手を入れたこともあったので、オイラが直すことが前提で組まれていたんだろうね。

 稽古を休んで書き直した。

 元の台本なんて1ミリも使わなかった。

 残したのは引用されていたマザーグースの一節だけ。

 書き直していくプロセスで登場人物の内の三人が死んでしまう流れになった。

 演じていた三人と話した。

「ここで役が死ぬということは続編に出られないことになる。続編に出られないということは仕事を失うということ。だから厳しい場合は別の物語を書くから正直にNOと言って欲しい」

 三人は笑って言った。

「この本がやりたいです」

 本番期間中、彼らが死ぬ場面で毎回涙が流れた。
 役なのか本人なのか、書いた俺にも境界線がわからなくなってしまっていた。

 本番が終わり、オイラはクビになった。

 演劇なんて二度と触れたく無いくらいに落ち込んだんだけど。

「三人に何か少しでも返せるまでは辞められない」

 演劇を続けていくモチベーションの一つがそれだった。

 だいぶ時間かかったけど、この夏、ようやく三人に少しだけ返せた。

 そのことでホッとして演劇ごと辞めそうになってしまったわけですが。

 まあ、全ては昔話。

 その三人とはまだまだ一緒に作りたい芝居や未来があるので過去はもうどうでもいいです。

 面白かった夏もぼちぼち終わるな~。

 秋も好きなんだな~。



この記事へのコメント

1. Posted by あゆはぴ   2019年09月02日 03:21
ブログ拝見しました。おそらく隠すつもりはないのでしょうし、どの作品のことかはすぐにわかりました(御笠ノさんご自身が当時のブログ記事に実名を出して同じエピソードを書いていらっしゃいます)。‬
‪御笠ノさんが関わった作品を含めシリーズのファンです。むしろ御笠ノさん演出の2作目がシリーズ中で最も好きです。‬
‪劇場に何度も足を運び、映像も何度も見返しました。本当に大好きです。‬だからあなたのツイッターをフォローしブログも読んでいます。昔から何度も同シリーズの制作を暗に非難していたことも理解しています。
‪ですがシリーズファンとして困惑しております。
今週、シリーズ最新作の上演が始まります。ファンとしてはシリーズ最後の作品になるのかもしれないと覚悟しています。‬
‪当てつけでしょうか。この記事を読んでどうしたらいいのでしょうか。どう感じて、どのような気持ちで劇場に足を運べばいいでしょうか。複数枚のチケットを握りしめて途方に暮れています。‬
‪なぜ今なのでしょう。御笠ノさん、記事内のお言葉を返すようですが、あまりにも無責任ではありませんか。‬
2. Posted by の   2019年09月02日 04:41
おお、新作があるのですね。

一つだけ首を傾げることがありましたので。

無責任、という言葉は当てはまらないと思います。

僕は自分の関わった二作品にこそ愛着もありますし責任もあると思っておりますが、以降の作品に関しては観てもいませんし、当然ながら責任も感じていません。

というか、正直な話、よく知らないというのが本当のところです(自分が作った時と制作会社が変わったことはなんとなく知っています)。

タイミングという意味では、シリーズのファンの方にとってはノイズになる文章になるのかもしれません。

ただ、それすらもハッキリと、今の僕には関わりのないことなんです。

だからもし、気持ちのやり場に困られてしまうようであれば、僕の文章など読まないことをおすすめします。

僕の中では過去のことですが、あゆはぴさんにとっては進行形のことなのだとお察しします。
きっと今もシリーズへの強い愛情もお持ちなのだと思います。
この時間感覚のズレはなかなか埋まるものではないのかもしれません。

ただ、僕が作った二作目を好きでいて下さったことについてはとても嬉しく思っております。
離れることになりましたが、あの作品は僕の自信作の一つです。

以降の作品は見ていないのでわかりませんが、僕の中では自分が作った二作品からのストーリーが今も続いており、時々空想したりもしています。

望まぬ形で離れることになったので、あの作品について語ることや感想を聞くことは滅多にありません。
でも、こうして今もあの作品を好きだと言って下さる方がいらっしゃるということは素直に嬉しく思います。

思うところはそんな感じです。

これこそ無責任な物言いかもわかりませんが、僕の文章など気にせず新作を楽しんで下さい。
3. Posted by まこと   2019年09月02日 14:43
「今」の話をするために、過去にあったことを仔細に記す必要はあったのでしょうか
4. Posted by ファンです。   2019年09月02日 19:27
5 ブログに書いてくださりありがとうございました。

ご存知ないことでしょうし、ご興味も無いこととは思いますが、貴方が昔携わってこられたシリーズは、新シリーズになり余計に役者脚本家演出家、更には原作者の意思疎通が上手くいかず辻褄も合わなければ過去評判がよかったことをファン目線で言えばオマージュ、ただ繰り返すような作品になっているように感じていたため、此方のブログで「ああ、こんな理由があったんですね…」と納得してしまいました。
すっきりしました。

貴方の作品が好きです。これからも作家活動を応援しています。
5. Posted by けけけ   2019年09月02日 20:10
該当シリーズに関して、特に最近の広報系の仕事の捗らなさにイライラモヤモヤしていました。地方から観に行くので余計焦れったくて。でも実は以前から裏側でいろいろあったのですね。勉強になりました。
ただ、御笠ノさんは「言葉を世に出す」職業をされている訳ですから、該当シリーズ新作の幕が上がるタイミングで、このような過去の話をなさるのは…いろいろ意見が飛んできそうですね。責任を持て、とか。秘密は墓の中まで持って行け、とか。
貴重な話をありがとうございました。
まだまだ暑かったり涼しすぎたり台風が来たりというシーズンですのでご自愛くださいね。
6. Posted by なの   2019年09月03日 13:50
次の記事では運営批判にすり替えていますが、こちらは成立していない台本への批判と、書き直す上で死んだキャラの俳優への想いを書かれていますよね。
後半だけなら良い話だなと思います。何故脚本家を見る人が見ればわかる形で批判する必要があったのでしょうか。

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