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静岡

南ア自然保護強く訴え 「固有種生息、独特の生態系」

◆静岡大・増沢客員教授インタビュー

大井川上流のドロノキと食草にするオオイチモンジについて語る静岡大の増沢武弘客員教授=静岡市駿河区の静岡大で

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 リニア中央新幹線の南アルプス(南ア)トンネル(静岡市葵区)工事を巡り、南アの植物生態を四十年研究し、県の有識者会議の委員も務める増沢武弘・静岡大客員教授は本紙のインタビューに応じた。増沢教授は「南アルプスには、南アを南限とする貴重な動植物や固有種が生息する。着工すれば人も増え、環境は壊れる」と述べ、ヤナギ科の河岸林「ドロノキ」など生物多様性の保護を強くJR東海に求めた。

 市の南ア学・概論などによると、標高三千メートル級の山々からなる南ア・赤石山脈は一億年~二千万年前は海の底だったとされ、砂と泥が交互に重なる地層が特徴。ユーラシアプレートなどの働きで積み重なるように隆起し、山脈が形作られたとされる。

 増沢教授によると、その後、大陸続きだった氷河期から独特の生態系が生き残り、絶滅危惧種の高山チョウ「オオイチモンジ」や特別天然記念物ライチョウ、ドロノキ、ハイマツ帯などは南アを南限とする。

 オオイチモンジの幼虫は、標高一三〇〇メートルの燕沢一帯に五百本ほど広がるドロノキを食べる。「オオイチモンジとドロノキは大陸から移ってきた二万年前から一緒に生息する。そんな場所は本州では上高地(長野)とここだけ。学問的にも貴重だし、リニア工事によって引き離されていいのか」と話す。

 その群落の数メートル東側は、工事で発生する残土の置き場となる。計画によると、東京ドーム三杯分に当たる三百六十万立方メートルの土が高さ六十メートルまで積まれる。

 増沢教授は地下水への影響や工事中の伐採を危惧する。JRはドロノキの保護を表明するが、大井川の流量減少問題などで県側とJRの協議は難航し、基本協定は締結されていない。「いまは口約束。JRから管理計画書が提出されるまで信用できないし、工事中も(伐採を)監視する組織を作る方向で議論を進める」と語る。

 冷涼で雨が多く、山が深いという厳しい環境もあり、南アの研究者は北・中央アルプスに比べ、少ないという。「どうしてこの植物がここに生息しているのかなど、生態学では未知の部分が多い。南アの研究量は北アの二十分の一ほど。JRに自然環境を守らせる義務が私にはある」と強調した。

(広田和也、岸友里)

◆河岸林学問的に貴重/土置き場の環境議論を

 -リニア工事の懸念は。

 大井川の上流は人間の手がほとんど加わっていない自然度の高い場所。そこでトンネルの穴を掘る、発生土を置く、多くの作業員が生活する。全てのところで自然が壊れていく。

 -なぜ自然度が高い。

 南アは深く長い森林があり、登山者や研究者が他のアルプスに比べて極端に少ない。私以外に研究者がいるのか、分からないほど。開発から遠ざかり、自然がそのまま残っている。

 -発生土置き場近くには河岸林がある。

 大井川の上流にはきれいな水が流れるところにできる河岸林がたくさんある。一番顕著なのは、南限のドロノキの群落で、学問的に非常に貴重な場所。JR東海は「残す」と言うが、工事が始まるといろんな人が入り、守られるか不安がある。だから完全に残すために木の一本一本にマークを付けた。

 -掘削した土置き場の議論が進んでいない。

 まずは大井川の水問題が重要で、県の協議でも集中的にやってきた。燕沢周辺の自然を壊さないために議論する必要がある。JRには元々あった自然林の再現、復元を求めたい。復元には県民も参加してもらい、将来的には大井川の自然を学ぶ教育の場にすることを提案する。

 -南アは国連教育科学文化機関(ユネスコ)のエコパークに登録されている。

 JRが思うままに自然を壊してしまえば、登録の取り消しもある。話し合いでどれだけ自然を残せるか、それがエコパークの理念でもある。これまでの開発で最初の計画通りきっちり残せた例は少ない。理念をきちんと守るということでユネスコから認定してもらったので、それを進めていくのが私たちの義務。

 

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