米中貿易対立が一段と激化している。お互いの関税率は20%を超え経済圏のブロック化が約九十年ぶりに復活しつつある。消費税増税を控える日本は生活防衛ラインを直ちに構築する必要がある。
米国は一日、第四弾の対中追加関税を発動し、これで実施分と合わせほぼ七割の中国製品が制裁対象となった。十二月に第四弾の残りを発動すれば、医療など例外を除きすべてが対象となる。
中国側も報復関税を発動しているが、今回、注目を集めたのは事実上の人民元安容認だ。中国当局は市場介入などで十一年以上、一ドル=六元台を保ってきた。しかし市場では七元台に突入し、中国政府はそれを認めている。
通貨安により制裁関税の痛みを和らげる戦略だ。米国が中国を為替操作国に認定したことに、元安容認で対抗した格好でもある。中国はレアアース(希土類)の輸出制限も考慮しており、対立はより根が深く規模も拡大しつつあるとみていいだろう。
トランプ米大統領はツイッターなどを通じ制裁が国益にかなっていると再三述べている。だがこれには首をかしげざるを得ない。制裁は多くの日用品が対象に含まれている。物価への影響はすでに出始めており、米国民の不満が日増しに強まっている。
一方、中国は国内総生産(GDP)の伸びが鈍化し景気が明らかに変調をきたしている。対立激化を嫌気して日本など海外企業の脱中国化も目立っている。
日本にとって最も心配なのは急激な円高だ。トランプ大統領はドル安でも構わないとの姿勢。人民元やユーロも含めた通貨安競争の中、円は確実に値を上げている。
短期間の円高は株安を引き起こし経営者の心理を冷やす。さらに、予定では来月一日から消費税率引き上げが実施される。
損得無視で意地を張り合う米中対立の影響と消費税増税。同時に起きる二つの重荷は間違いなくGDPの核心部分を占める個人消費に打撃を与える。
怖いのは、企業業績悪化が賃金抑制を引き起こし雇用減少につながるというシナリオだ。ここは、とりわけ内部留保を増やしてきた大企業の経営陣に対し、安易に賃金や雇用に手を付けないようくぎを刺しておきたい。
非正規雇用などしわ寄せが行きやすい人々への配慮も必要だ。消費税は所得の低い人々への影響が大きい。増税対策はこれで十分なのか再考する必要があろう。
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