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23代目デウス・エクス・マキナ ~イカレた未来世界で神様に就任しました~ 作者:パッセリ

第一部 神なる者、方舟に目覚めしこと【更新中】

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#42 目隠し女神のlibra

 シャルロッテがエーリックと対峙していた丁度その頃。

 隠れ里でも事件がひとつ起こっていた。


 *


 そいつ・・・を前にして、俺は、何を言えば良いか分からなくて無言だった。

 隠れ里の隅の壁際。隠すようにそいつは捕らえられていた。

 って言うか、実際隠してあるんだろう。もし人目に付く所に捕まえてたら、ちょっと目を離した隙に誰かが殺しちゃってもおかしくない。


「……我が一族の恥さらし。本来であればカジロ様のお目に掛けることすら、こやつには勿体なき事ですが……」


 族長の口調も苦い。


 その男は、えーと……具体的に描写したくないんだけどさ。最大HP300の人が残りHP10くらいにされたら、まあこんな感じなんじゃないかな……?

 拷問とかされたわけじゃなくって、死なないようにねちっこく、なるべく苦しむよう痛めつけられた感じだ。そのうえで、有刺鉄線でギッチギチに全身縛られて身動き取れないようになっている。と言うか身動きしたら肉が削れる……

 手の甲えぐられたみたいな深い傷は……これ魔晶石コンソールぶっこ抜いたのかなあ。普通には抜けないはずだから、無理やり……


「榊さん、こいつが……」

「はい」


 何の表情も浮かんでいない、部屋の隅のワタボコリを見るような目で榊さんは言った。


「この男が、私たちのチームのリーダーでした」


 あらためて俺はそいつを見る。

 百発ぐらい顔面パンチを食らったようで、パンパンに腫れた顔はもはや人間には見えない。折れた歯が数本転がっていた。

 そいつは縛られて床に転がったまま、俺達を見上げていた。


 あんまりにも横暴な振る舞いをしていてチームメンバーに見限られ、『先に行け』という名目で囮にされたとかいう奴だ。

 しっかり教会軍に捕獲されていたらしい。殺されてはいなかったのだ。そして……


 隠れ里の場所がバレて、電撃的な襲撃を許した理由。

 それは、里の場所を知っている裏切り者が居たからだった。


「既に聞き及んでいるやも知れませんが……

 里の外に出る者の魔晶石コンソールには、特殊なプラグインが組み込まれております。

 拷問や脅迫を受け、隠れ里の場所を話そうとした時、自動的にその者の生命活動を停止させるのです」

「今聞きました」


 族長がまたしても、非人道的生存戦略を語る。


「て事は榊さんも? 大丈夫なの?」

「もう解除してもらいましたので……」

「まあ、カジロ様がおいでになった今だから言いますが、どちらかと言うと、これは情報漏洩を抑止するための脅しという側面が大きく、実際には誤発動を防ぐため、かなり限定された条件下でしか作動しないものだったのですがね。

 ……ともあれ、この男はその隙を突くために、自ら教会軍を案内し、この隠れ里へ引き入れたのです」


 そして、部隊が壊滅したために残党狩り中に発見され、しこたまリンチを食らった果てがこの姿という事らしい。


「結論から申しますと、この男はこれより祝福的機械裂きの刑に処す予定です」

「……なに? そのヤバそうなの」

「治癒の魔法コマンドを掛けながら処刑用の挽肉機械に足先から放り込み、ゆっくりと肉体を引き裂いて、できるだけ長く苦しめながら殺す処刑法です。教会でも反逆者の公開処刑に時折使われています。

 ちょうと里には、この処刑具がひとつありますので、裏切り者の処刑にはこれが用いられる習わしです。

 ……おそらく、機械に殺される前に観衆の投石によって絶命するでしょうけれど」


 榊さんの情け容赦ない補足説明。ノーコメントとさせていただきます。


「ただ、これはあくまで……我ら祭司の一族が孤立無援で生き延びるため定めた掟に過ぎませぬ。

 もしカジロ様からのご意見がございましたら、お聞きすべきかと……」


 ううーむ、族長さんの俺に気遣うかのような視線。助命すべきかどうかって事だよな。


 さて、どうしたものか。そもそも俺はあくまで、神様役をやらされていうだけ。本物(いるとすればだが)みたいに、善悪の絶対的基準を示していい立場じゃあないと思ってる。

 で、まあ……こいつのやらかした事を考えたら、祭司の一族がこいつを処刑するのは自然な流れだし、それを止めるほどの理由ってのも俺には無い。無いんだが……


「少し、この人の話を聞きたいかな」


 それは興味って言うべきなんだろうか?

 こういう立場の人間が、俺に対して何を思うのか、ふと気になったのだ。


「は? はあ、構いませんが……」

「喋れ」


 榊さんは冷たく命じて、漆黒エナメルブーツの分厚いヒールで男の口の辺りを軽く蹴飛ばした。

 傷に障ったようで、男(紛らわしいから『元リーダー』にしよう)はうなされるような悲鳴を上げた。


「……う……ょう……」


 そして、腫れ上がった口が動いて、聞き取りにくい言葉を紡ぐ。


「畜生、チクショウっ……! なんでだ、なんでお前らは神を見つけたんだ!

 俺だってなあ! くそっ! 普通は死ぬだろう……150年近くも、ずっと教会に阻止されてたんだ。

 今回に限って、うまく行くなんて……思わないだろう……」


 それは罵倒と言うよりも、拗ねたような口調だった。腫れ上がった顔から流れ出してる液体は、えーと、汗じゃなくて涙か。


「……不忠者が」

「不忠も不信心もあったもんか……! ゲホッ、ゴホッ!」


 静かな怒りを込めた族長の言葉に、元リーダー、噛みつき返す。


「いつ成功するかも分からない『神の復活』とやらに賭けてなんかいられるか!

 俺は生きたかったんだ……! よりよく……ゲフッ、だが、一族は、逃げることすら許さなかった……! 出て行くことすら……!

 神も世界も知ったことか……四六時中教会に追い回されるのが嫌だとか、死にたくねえとか……! そりゃ普通じゃねえのかよ……!」

「それで教会の軍門に降り、我らを裏切ったか」

「それが、利口ってもんだろ……! 俺が死んだ後の世界に何の意味がある!

 秘密を守って死ねってのか? 糞食らえだ」


 もはや破れかぶれで全部ぶちまけてるって感じだ。


 一理ある……と言うか、合理的だと俺は思ってしまった。

 むしろ榊さんを始め、この状況下で『祭司の一族』という形を保ち、戦い続けている方が異常であり、凄いことなのだと俺は思う。孤立無援で教会と戦い続けるよりは、一族の名を捨てて散り散りになり、無法地帯の片隅でこっそり暮らす方がまだマシな人生を送れるだろう。


 いくら使命感と恐怖で締め付けても、付いて来られる凄い人ばっかりじゃない。

 普通の奴も居るんだ。居るに決まってるんだ。


「……だとしたら選択を誤ったようですね。私は、カジロ様を目覚めさせました」


 冷たく見下ろす榊さんに、元リーダーは卑屈な笑いで応じた。


「今や『眷属』様、か……へ、へへ……分かってんのか?

 運が良かっただけだぜ、お前……

 何の救いも無く、教会の連中に殺されてた所だ……そうならなかったのは偶然だ。

 く、へへ、神を信じ抜いたから、か? これまで里から出されて死んでいった奴らは、信心が足りなかったのか?」

「確かに私は幸運でした。そしてあなたは、合理的な判断による裏切りの末に、最悪の結末に至ったわけですね。

 同情だけはしましょう。殺鼠剤で駆除されるネズミに対する哀れみと同じくらいには」


 信じる者は救われる? いや、この場合救われたのは結果論だ。

 それを榊さんも分かってるっぽい感じの言い方だった。


 族長が俺の方に向き直り90度以上のお辞儀をする。

 腰とか大丈夫か?


「このような不心得者を一族から出したこと、お詫びの言葉もございませぬ……」

「やめてください、そんな言い方。

 ……程度差です。同じように思ってる人は、きっと他にも居て……それは自然なことだと思うんです」


 そりゃー結果的にこいつの行動で大勢死んだ以上、こいつの言い草を全肯定するワケにも行かないんだけど、その原因を『不心得』とか言い出したら、教会の作ったディストピアと同じだ。


 さて、と。それで結局コイツをどうすりゃいいのか、なんだよな。

 教会軍の兵士と一緒で、一族に皆さんが殺すんなら殺すで止めないんだけどさ。こうやって俺に扱いを一任されちゃうと……どうしたもんかなあ。


 俺が考え込んでいると、元リーダーは皮肉っぽく顔を歪めて(既に顔が物理的に歪められてるけど)、俺を見上げた。


「神、か……こんなのが」


 その表情には、いろんなものが混じっていた。

 一族が150年近く追い求めてきた『神』がようやく現れたと思ったら、ヒゲもじゃで威厳のあるトーガ着用の筋肉ジジイとかじゃなく、ただの元高校生。威厳なんぞゼロだ。

 呆れるのもしょうがないし、だがしかしその俺が現れたために、この元リーダーのオッサンは破滅するわけだ。自嘲だったのかも知れない。


 ……俺への侮辱っぽい言い方を聞きとがめ、背後の榊さんから殺気がわき上がる。

 地面から槍が飛び出さないうちに話を終わらせないと。


「世界を救うんだろ? ならまず俺を救ってみろよ、俺を」


 皮肉めかせて、元リーダーは言った。


「『救う』、か……」


 救う。それってどういう事だろう。

 教会がやってることは間違ってるし、そんな世の中を正すことができれば、圧政に苦しんでいる多くの人を救えるはずだ。

 だとしたら、その邪魔をしたこいつは切り捨てなければならないのか?


 ……正直言えば、とっとと処刑するのが正しいんじゃないかという考えもある。

 しかし、荒野のヒャッハー犯罪者達を教会の被害者だと言っていた榊さんの言葉が、のどに刺さった魚の小骨みたいにチクチクと俺を突き刺している。

 当の榊さんは、こいつの処刑にだったら諸手を挙げて賛成しそうだけどね。俺の納得はまた別の話だ。


 『何が正しいのか』をちょっと考えたけれど、俺はすぐに考えるのを止めた。

 何が絶対的に正しいかなんて、どうせ俺には決められない。

 俺は神様役を押しつけられただけの人間だ。

 そう主張する以上、人間として、自分が正しいと思うやり方を選ぶとしよう。


 ちょっとカッコ付けるつもりで、俺はパチンと指を鳴らした。

 魔法コマンドで体を縛り上げていた有刺鉄線を切断し、さらに傷を塞ぐ。折れた歯がふわりと浮かび、口の中に飛び込んで再結合した。


 治療はすぐに終わった。

 バイオペレット無しで無理やり傷を治したせいで、全身の傷はひきつったような傷跡として残ったけれど、少なくとも出血は止まっている。


 パンパンに腫れていた顔も元に戻った。

 言っちゃ何だけど、子悪党顔だな元リーダー。ファンタジーRPGに出てくる盗賊Aみたいな感じ。顔の造形がどうこうって話じゃなくて、卑屈さとかそういうのがにじみ出てる感じ。もうちょっといい顔になって欲しい。


「……生き延びろ」


 敢えて、取り付く島も無い絶対的な命令として俺は言い放った。


「俺は世界を変える。全ての人は無理かも知れないが、少なくとも、今の世界より多くの人が生きられる社会を。

 そこに、お前の居場所があるかは分からない。だけど……少しでも希望を持ちたければ、それまで生き延びろ。

 もう一族には戻れない。教会からも用済みだ。

 俺は罰しない。だけど、助けもしない。

 生き延びろ。それが、罰だ。そしてそれが、救いになることを願いたい」


 元リーダーは、呆然と俺の言葉を聞いていた。

 治った傷、俺、体の下の血だまり、族長さんと榊さん、千切れた有刺鉄線。それらを順番に見る。


「……っていうのはどうだろうか。異論があれば是非」

「父や母の仇でもなし、カジロ様がお決めになったのであれば異論はありません。

 目覚めの使者の一行で散々な振る舞いをしてくれた分の恨みは、先程の蹴りで水に流します。……後は、カジロ様に委ねます」

「私も……カジロ様の決定とあらば否やもありませぬ」


 族長さんも驚いた様子だったけれど、異論が無いって言うのは嘘じゃ無さそうだった。


「……族長さん。こいつの使ってた魔晶石コンソール、あります?」

「ございますが……」


 族長さんが持ち出したのは、ちょっと有機的な汚れが付いた魔晶石コンソールだ。

 裏側を見るのはやめといた。だって俺、これをデコに張り付けてんだもん。グロかったりしたら自分のデコが気になってしょうがなくなる。


「さてと」

「うぐっ!?」


 俺は魔法コマンドで元リーダーの動きを封じる。

 解放されて、よろめきながら立ち上がろうとしていた元リーダー、あわれズッコケた。


「格好いいこと言っちゃったけど、俺は自分自身のことも含めて、未来ってのをあんまり信じてないんでね……俺が失敗した時の保険も掛けさせてもらうよ。

 アンヘル、これのプラグインってやついじれるか。即死させるやつ」

『可能です。装着者を即死させるためのデバイスが組み込まれていれば、後はプログラムの変更のみとなりますので』


 俺は元リーダーの手を踏みつけて、魔晶石コンソールが抉り出された跡に狙いを定める。


「そうだな……『殺すな』『奪うな』『裏切るな』……こんなもんでいいか。アンヘル、よろしく」

『かしこまりました』


 アンヘルのハッキングは一瞬だった。書き換え完了の合図らしく、魔晶石コンソールが光ったのを見てから、俺はそれを元リーダーの傷痕に押しつける。

 ビチッ! と嫌な音がして、接続面から血が噴き出した。……俺はこれをデコに……いや、深く考えるのは止めよう。


「これでよし。お前がさっきのルールに反したら、魔晶石コンソールが即座にお前を殺す」

「お、おい、待てよぉ! 一族にも帰れねぇ、教会からも追われる身で……『殺すな』『奪うな』『裏切るな』だ? どうやって生きていけってんだよぉ!?」

「知るか、工夫しろ」


 甘えるな、とは言わない。

 この状況でこれ以上面倒を見られない。そこが俺の限界だからってだけだ。


 救いを求めるように元リーダーは榊さんや族長の方を見るが、慈悲を請う相手が間違ってる。


「私はあなたが野垂れ死んでもいっこうに構いません」

「その命があるのは神の慈悲と知れ。

 他の者に見つかる前に出て行くがいい」

「うんうん。みんなが殺そうとするんだったら、それは別に俺止めないし」


 そして族長さんはちょっと引っ込むと、何やら荷物を持って戻って来た。まだどういう状況か半分くらいしか理解できてなさそうな元リーダーの足下に、粗末な鞄が放り出される。

 中にはいくらかの食料と水、そして電子マネーを受け渡すためのクレジットメモリ。

 金縛りを解かれた元リーダーは、のろのろとそれを手に取る。


「な、なんだよ、おい、それ、救われ、だって俺、殺さないのかよ……」


 ブツブツと言っているそいつを、俺は魔法コマンドで吊し上げた。


「うおっ!?」

「じゃあね。縁があれば、また会おう」


 そして、天井を剥がされて今や城郭状になっている壁を飛び越えさせた。

 血で汚れたボロボロの服を着た元リーダーの姿は、それでもう見えなくなる。


「ふざけんな、ふざけんなよ、畜生……俺はな、俺はな…………」


 何か呟いてるような声が壁の向こうから聞こえた気がして、そしてすぐに聞こえなくなった。


「……お見事でございました」


 族長さんが恭しく礼をした。


「見事だなんてそんな……その、任されたんで俺が『良かれ』と思うようにしたんですが、部族の敵を逃がしてしまいまして」

「いや、私は感服致しましたぞ。私は、許すか処断するか、そのどちらかをお任せするつもりでした。

 ですが私には思いもよらぬ結論を出された。

 あなた様こそ神たるべき器と確信致しました」


 隣でうんうんと頷く榊さん。


「やめてくださいよ。

 コールドスリープさせられて、目覚めれば誰だって神なんです。そう大したものじゃないですよ」

「おお、これは失敬、では言い直しましょう」


 族長さんがちょっと意地悪く、いたずらっぽく、そして頼もしく笑う。


「あなた様は尊敬に値する人間にございます」


 …………照れるって。

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