挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
23代目デウス・エクス・マキナ ~イカレた未来世界で神様に就任しました~ 作者:パッセリ

第一部 神なる者、方舟に目覚めしこと【更新中】

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました
49/76

#37 メイドキャップに似てません?

 電子制御可能な装甲車をひとりで操り、周辺に展開した敵残存勢力相手に大暴れしているアンヘル(体は運転席に座ってるんだけど制御AIをネットワーク経由で乗っ取って全武装を操作している)を残し、俺たちは隠れ里内部へ突入した。


 砲弾やら何やらの直撃でひしゃげた金属テントの並ぶ通りに、プラスチックが燃えて溶けたみたいな嫌ーなニオイが漂っていた。それと一緒に名状しがたい鉄臭いニオイも……たぶん血のニオイなんだろうな、これ。うげー。

 聞こえるのは怒号、銃声、爆発音。

 天罰を撃ち込んだ後もそこでは一方的な虐殺が続いていた。ただし『一方的』の向きが180度変わってたけど。


 パラライザー天罰で麻痺して倒れた教会兵が、至近距離から銃弾を撃ち込まれ、金属バット的な何かで袋だたきにされてとどめを刺される。魔法コマンドで生きたまま焼かれて悲鳴を上げる。

 動かなくなった戦闘用ロボは……無人ってかリモートコントロールなのかな? 武装を無残に剥ぎ取られて戦闘不能な鉄くずにされていく。

 あ、コクピットからパイロットが引きずり出された。これ無線操縦って話じゃなかったっけ。有人にもできるのか?


「カジロ様。よろしいのですか? カジロ様のお慈悲によって生かされた教会兵ですが……」


 凄惨な光景を見ながらも眉一つ動かさない(これまでどういう人生送ってたのか怖えーよ。いや、俺も同じだけど)榊さんが、気遣わしげな感じで聞いてきた。


「それ榊さんが言っちゃう?」

「そ、それはそうですが……その、カジロ様がどのようにお考えなのか、理解しておくべきかと思いまして」


 まあ、確かに……無力化だけでトドメは刺さない、しかし他の人が虐殺するのは止めない……って、一貫性無く見えるよな。


「……んー、これ割と勝手な信念だと思うから、わざわざ説明するのもどうかとは思うけどさ……

 今回はこっち側が結構死んでるだろ。

 別に復讐だからOKってわけじゃないけど……『殺されたから殺し返す』って行為を止める気にはあんまりならない。誰かを殺すってのは、それだけのものを背負うことだと思うんだ。それが命の重さだから。

 もちろん復讐として人を殺す側も同じ事……」


 曲がりなりにも俺は命の重さを知ってるつもりだ。だから俺はそう考える。復讐と憎しみの連鎖がどうたらー、なんてもっともらしいお説教をする気は無い。

 殺した奴が殺される。そんな命のやりとりに横から頭を突っ込むのは野暮なんじゃないかという感覚だ。そいつは当事者間で決着付けてほしい。

 もちろん復讐者だって復讐される側になるかも知れない。憎しみの連鎖だ。ばよえーん。死人が出たのだとしたら、それくらいどうしようもない結果になるのも当然だろうと俺は思う。……悲しいな。


「まぁ、どう言ったって間接的に殺しに荷担してるわけだけど……この場合、命のやりとりは俺と兵士のものじゃなく、トドメ刺すことに決めたのは別の人だから俺自身とは別の話って言う……うわ、これ要約して説明すると結構クズい。なんかごめん」

「いえ、お気になさらないでください。そうして命のことをお考えになるカジロ様は、問答無用で人を殺す教会などより、よほど……」


 言いかけて榊さんは言葉を切った。


 シャルロッテが、地獄絵図を見ていた。

 シャルロッテと同い年くらいの子どもを抱いて泣いている母親が、通りのど真ん中にへたり込んでいる。抱かれている子はR18Gな外見になってしまっていた。

 一緒に居る子は……死んだ子のお兄ちゃんだろうか。銃撃でとどめを刺されて倒れている教会の兵士を、泣きながら蹴り続けている。粗末な靴が血まみれになっても、まだ蹴り続けている。

 片腕片足を失った意識不明の女の子(その金髪が縦ロールじゃない事が何故か俺は不思議に思えた)が担架に乗せられて慌ただしく運ばれていく。友達らしいふたりの女の子が併走し、心配げに声を掛けている。

 包丁を握りしめたまま射殺されているおばあちゃん。抱き合うように死んでいる若い男女。

 ……そして、天罰によって倒れ、ありあわせの武器でとどめを刺されている教会の兵士。


「お前のせいだ!」「よくも!」「死ね!」「死ね!」「死ね!!」「真実の神の加護を思い知ったか!」


 血走った目で鬼のような顔をした祭司の一族の人々が、恨みのままに攻撃を加えていた。


「……うっ」


 口元を押さえるシャルロッテ。

 この光景は刺激が強すぎたかも知れない。と言うか俺もキツい。

 ちなみにシャルロッテは例の変装マシーンに加えて、頭に巻いた包帯で額の魔晶石コンソールを隠し、さらに俺の魔法コマンドで姿を隠している。ちょっと厳重すぎかも知れないけど、祭司の一族って全員魔術師サイだし。こうでもしなきゃ見つかって大騒ぎになりそうだから。


「大丈夫、ですか」

「平気じゃ……じゃが、こんな……教会が、こんな……」


 素直にショックを受けている様子で、ただでさえ白い顔がもはや青い。

 まあ俺だって榊さん達の戦いを見てなければ『教会が祭司の一族を滅ぼそうとしてる』って聞いてもピンと来なかったかも知れない。そこんとこシャルロッテは、自分が生まれてから今まで信じて生きてきた教会の暗部をいきなりモロに見ちまったわけで……何重にも衝撃的だろう。吐かないだけ立派かもな、これ。


「カジロ様。教会の兵は、なぜ今、この里の場所をかぎつけたのでしょう」

「……そう言われりゃそうだな」


 微妙に他人事くさく疑問を口にする榊さん。

 まさか俺らが後でも付けられてた……?

 だって、他に変わった出来事なんてあっただろうか。

 いやでもそんな怪しい動きがあればさすがにアンヘルが気がつきそうだけど……


「おお、こちらにおられましたか!」

「あ、族長さん!? 無事でしたか!」

「おかげさまで。助けを求める我らの声をお聞き届けいただきまして、感謝の言葉もございません」


 建物の影からひょっこり顔を出した族長の服は、肩の部分に血が滲んでいた。銃で撃ち抜かれたのを魔法コマンドで手当てしたらしい。

 肩を庇うようなぎこちない動きながら、族長さんは俺の前で跪いて土下座……いや、礼拝の姿勢になった。


「顔を上げてください……大丈夫でしたか?」

「なんとか。少なくない数の死傷者を出しはしましたが、里そのものが襲撃された過去の事例に照らせば被害は軽微なものです。カジロ様がお助けくださったおかげでございます」

「教会側の布陣が、あくまで威力偵察であったことも影響したものと推測されます」


 背後から追加で声が掛かる。

 抑揚の乏しい発券機ボイス。アンヘルだ。


「アンヘル! 外は終わったのか?」

「はい。天罰で機能停止していなかった全大型兵器を破壊しました。現在は里の者らによって、残兵の掃討が行われております。

 ……教会兵の通信記録を解析致しましたが、この部隊はあくまで威力偵察。その証拠に、対神兵装の存在は確認できず、魔人コマンドロイドや機械強化兵も発見できませんでした。

 一言で申しますと、この部隊は神である賢様と戦うための備えを全くしていなかったのです。

 その他の通常戦力自体も十分とは言えません。里を発見したとしても、本来は包囲と監視を行いながら制圧部隊の到着を待つべきところ、現場指揮官の暴走で里に攻め入ったものかと」


 よかったのか悪かったのか。

 いや、双方に死人が出てる以上、悪かったに決まってるか。もっと悪い場合もありえたってだけで。


「俺が……里にいれば、すぐに対応できたのに」

「カジロ様、そのような!

 ……一族の者は、生き延びられたとしても、一生に何度かはこうした戦いを経験するものです。その中でも此度の戦いは被害がかなり小さく……それどころか敵勢を全滅させるという大戦果を上げました。

 カジロ様のお力あってこそです」


 額をコンクリ床にこすりつけて感謝する族長さん。

 ……感謝してくれるのは嬉しいけれど、それ基準が酷すぎるよね。

 現状だってかなり悲惨に見えるのに、それより酷いのが普通ってちょっと。


 どう言えばいいのか俺が迷ってるところへ、またしても誰かがやってきた。

 今度は複数人。足音に気がついて振り向くと、適当な銃なんかで武装した祭司の一族の男達だ。

 アンヘルが言う残敵掃討をやってきたところらしく……教会兵の武器や物資を山盛り抱えている。

 勝ち戦に、彼らの表情は明るい。


「族長! ……っと、神様に眷属様! お邪魔致しましたか!」

「いや、俺はいいんで……」

「戻ったか。首尾はどうだ?」


 身を起こした族長に聞かれて、男達は持ってきた物資を指し示す。


「もうしばらくで片が付きますよ。俺らは先に、教会の連中が持ち込んだメディカルキットとバイオペレットを回収してきました!」

「分かった。すぐに救護所へ持って行ってくれ!」

「はい! ……では、失礼致します」


 最後の挨拶は、族長さんって言うよりも俺たちに向かってだった。


 略奪チームが持ってたバイオペレット……湿っぽいレンガを真空パックしたみたいな物体だが、アンヘルによれば、これは人体の構成要素。要するに『水炭素アンモニア石灰リン塩分硝石硫黄フッ素鉄ケイ素その他少量の15の元素の混合物』だ。

 魔法コマンドは、無から有を生み出す技術じゃない。大怪我に対して治癒の魔法コマンドを使うには失った血肉を補う物質が必要なのであって、つまりそのための人体補修キットである。

 まあ、それがあればどんな怪我でも治せるってわけじゃなく、治癒を行う魔術師サイの能力次第……ってか普通は、それでも傷を塞ぐのが精一杯なんだけど……


「族長さん。俺たちも治療を手伝いに行きましょうか?」

「お手を煩わせるわけには……と言いたいところですが、お力添えをいただけるのでしたら、正直なところ助かります。ワシもこれから向かうところです。向こうの壁際ですが……」

「分かりました、すぐに俺も行きましょう」


 足早に去って行く族長を見送って、それから俺は、立ち尽くしているシャルロッテに声を掛けた。

 と言うか、そうしようとした時に向こうから声を掛けてきた。


「のう……わらわにできる事はあるかの? その、魔法コマンドなら多少は……」

「教会の神様。あなたは自分の立場がお分かりですか?」


 罪悪感の埋め合わせ。

 魔法コマンドによる治療に協力できないかという控えめな申し出を、榊さんはばっさり切り捨てた。


「あなたがここに居る限り、カジロ様はあなたを守るために魔法コマンドを使わねばならない。それは治療のために足かせとなるのです。今すぐ帰るのが一番の協力ですよ。

 それとも、あなたは真の神が持つ無限の魔法力コマンドリソースの代わりができるほどの大魔術師グランド・サイだとでもおっしゃるのですか?」

「ぬぐっ……」


 ひっぱたかれたみたいに後ずさるシャルロッテ。

 やっぱり榊さんはシャルロッテにちょっと当たりがキツイ……言ってるのは正論なんだけどね。


「榊さん言い過ぎ……えっと、でも、だいたいそういうワケなんです。って言うか俺が居れば多分なんとかなっちゃうから、その間、どっか見つかりにくいところに……いや、帰らせた方が良いのか? あれ、でもどうやって……」

「賢様。私が装甲車で街までお送り致します。乗り込むまで姿を隠していただければ……」

「分かった。……と、言うわけなんですが……」

「済まぬな。最後まで迷惑を掛けてしまう事になるが、わらわはこれで退散するとしよう」


 落胆してうなだれているのか、礼なのか微妙だったけど、シャルロッテは頭を下げた。


「のう。わらわは……今の教会を許さぬぞ」

「……心強いです」

「今日は、ありがとう。この世界を頼んだぞ、まことの神よ」


 里のどこからか、まだ怒号が遠く聞こえてくる。

 そんな中を、アンヘルに促されるようにしてシャルロッテは去って行く。ふらつく足取りを支えるように、一歩一歩、地面を踏みしめて、小さな背中、金色頭が遠のいて行った。


 * * *


「……ああ、なんということでしょう。誘拐されたと?

 まさか個人的に仕込んでおいた発信器がこれほど早く役に立つとは思いませんでした。きっと恐怖に涙ぐんでおられることでしょう。ああ、その涙を一滴残らず飲み干して差し上げたい。

 待っていてくださいませ。麗しのシャルロッテ様。このクララめが今すぐお助けに参りましょう」


 ノートパソコンに近い形状の携帯用端末を覗き込みながら、彼女は歌うようにひとりごとを言った。


 そこは、街で最も上等な宿(現在は神の滞在のため丸ごと貸し切られている)の一室。準スイートの客室で机に向かっているのは、若い女だった。

 栗色の長い髪。長身痩躯ながら胸部だけは例外的に脂肪が多い。なぜかクラシックな地球時代の英国趣味じみた黒いワンピースと白いエプロンのメイド服(もはやフィクションの中の存在だ)。メイド服だけでも奇妙だが、何故かメイド服の上には無骨な革のベルトが渡されて、身の丈ほどもあるハルバードを背中に固定していた。


 彼女は机の上に置かれた端末に全く触れていない。

 にもかかわらず、十のマウスと八のキーボードで操作されているかの如く、めまぐるしく画面が移り変わり情報を表示する。頭部に埋め込んだインプラント端末から無線で操作しているのだ。

 頭にインプラント端末を埋め込んでいるのに、そこから直接ネットワークに接続せず携帯端末を使っているのは、当たり前だが頭に埋め込めるサイズの端末より大型な通常端末の方が高性能であるため。そして、脳に直結した端末に直接ウイルス攻撃やハッキングを受け、精神にダメージを受けないための用心だった。


 にわかに空が掻き曇り、窓からの明かりだけが頼りだった部屋の中は急激に闇に呑まれていく。

 そして、突如として雷が落ちた。


 轟音と共にモノクロに照らし出された彼女の顔は、磁器人形のように現実味が無い美貌を湛え……そして、頭にはヘッドキャップの代わりとでも言うように、艶めいて仕立てのよい純白の子供用パンツを被っていた。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。