あのプレーに見出しを付けるなら「幻の同点犠飛」となるだろうか。5回、1死二、三塁。福田が右翼線寄りに打ち上げた。飛距離は足りているように思えた。ただし、三塁走者は投手の大野雄。奈良原三塁ベースコーチは、捕球位置や右翼・雄平の送球力を踏まえた上で、タッチアップを指示した。
雄平はワンバウンド送球。大野雄も全力疾走。足から滑り込み、捕手の中村がタッチした。判定はアウト。記者席では生のプレーだけでなく、再生映像も見られる。セーフ。そう思ったが…。
「足にタッチはされていません。ただ、セーフという確信も持てなかったので、ベンチにお任せしました」と大野雄は言った。ミットが触れたのは腹部。つまり、そのときには左脚がベースに届いていたはずだ。
「ベンチからはタイミングしか見られない。プレーしている選手や一番近くで見ているコーチが、しっかりわれわれにアピールしていこう。春からそう言っているので…」
与田監督が話したように、リクエストするのはベンチの権限。だが、当事者もしくは、一、三塁でのプレーならベースコーチからの合図がその判断材料となる。記者席と違って、ベンチは映像を見てから四角のポーズをつくることは許されないからだ。中日だけでなく、どの球団も当事者の感覚を優先している。
「幻の…」ということは、同点にはならなかった。セーフの確信がなかった大野雄から、リクエストのリクエストはなかった。なぜなら「クロスプレーの経験が初めて」だったから「足が入った」とか「タッチをかわせた」という感覚もわからなかったからだ。
走者が野手だったら、同じタイミングだったとしてもリクエストとなっただろう。同点。スアレスの降板で継投は苦しくなり、終盤は中日ペースになっていたはずだ。しかし現実は併殺で逸機。そして、まさかの盗塁失敗で幕を閉じた。