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転生したらスライムだった件 作者:伏瀬

帝国侵攻編

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幕間 -ヴェノムの場合-

 本編には影響ありません。

 何故かこのタイミングで番外編です。

 俺は自分の名前を覚えてはいない。

 ただ、覚えているのは、前世の記憶とでも呼べばいいのか?

 どうやら、人間だったのだという微かな記憶である。

 どうやら俺は孤児だったらしい。

 学校と呼ばれる場所に通い、馬鹿にされて……

 いつしか俺は、暴力で他人を支配する愚か者に成り果てていた。

 結果、抗争相手に刺されて死亡。

 よくある話で、自分の最後には相応しいと思う。


 それで俺の人生は終了し、あるのか無いのか判らないが、来世へと旅立つ筈だったのだが――

 気が付けば、良くわからない場所にて漂っていた。

 一面暗闇の世界なのだが、不思議と物事は良く見える。

 腹は減らないし、痛みや苦しみといった感覚は何も無かった。

 ただ漂うだけの存在。

 辺りを見回せば、同じような存在が漂っているのが感じられる。

 そいつらにも俺と同じような記憶があるのだろうか?

 前世では考えた事もなかったのだが、長い間何もせずに漂うだけというのは、ある意味で絶え間なき苦痛を味合わされているようなものだった。

 俺は退屈を紛らわせるべく、同じように漂う存在に向けて意識を傾けた。


 身体の奥底から、力が湧き出て来るのを感じる。

 俺は、エネルギーの塊とも呼べる存在になっていたらしい。

 この暗闇は、飽和したエネルギーで満たされているが故に、俺の体内から溢れ出るエネルギーが漏れ出る事が無いのだろう。

 何といえば判りやすいのか?

 俺も学が無いから上手く言えないのだが、砂糖水の中で砂糖が結晶化したようなモノが、俺達のような存在なのだと思う。

 そのエネルギーの使い方は、無意識で理解出来た。

 意識を向けた方向に、音も無く移動する事が出来たのだ。

 俺は意識を相手に投げかけるように声を掛けた。

 だが、返事は無い。

 相手には意識と呼べるモノが無く、ただ存在するだけの力の塊であるらしい。

 面白くないので殴ったら、砕けて散ってしまった。

 少し面白い、そう思ったのを覚えている。


 それから暫く、俺は辺りに漂うお仲間を、見つけ次第に破壊するという毎日を送った。

 常に光の差さない暗闇の中、にも関わらず、昼間のようにくっきりと見える光景。

 その世界にも慣れ、他にする事も無く同じ事を繰り返す日々。

 そんな生活に変化が訪れた。

 変なヤツに出会ったのである。


「よう、兄弟。荒れてるな。だが、暴れすぎるのも詰まらんぜ?」


 ソイツは、意思の無いヤツと違って、言葉を話す事が出来るようだった。

 俺は驚き、言葉もなくソイツを凝視する。

 言葉、今ならそれが言葉では無く、思念通話テレパシーなのだと理解出来る。

 だが、当時は意志のある者が居る事さえ知らなかったのだ。

 驚くのも仕方が無い事であった。


「おいおい、何を驚いた顔してやがる? 地上で嫌なヤツにでも扱き使われたか?

 気に食わない召喚主なら、ぶっ殺してやればいいんだぜ?

 それとも、相手の方が強かったのかい? なら仕方ねー。諦めな」


 そんな事を言い、ソイツはケラケラと笑った。

 陽気なヤツだった。

 それから、ソイツに色々な事を教わった。

 この世界は、冥界。

 或いは、地獄とも呼ばれるような世界である、と。

 精神世界と呼ばれる、肉体を持たぬ悪魔の棲家。

 俺は、その中の一体。

 下位悪魔レッサーデーモンだったようである。

 悪魔とは、精霊や天使と同様の存在であり、闇の精霊の力の方向性が魔に特化した存在なのだそうだ。

 同様に、光の精霊が聖に特化すれば天使となり、それ以外は精霊と呼ばれるらしい。

 俺にとっては、どうでも良い話だった。


 俺達に名前は無かった。

 上位存在にさえ、名前を持つ者は少ないらしい。

 だが、困る事は無い。

 思念で、自分に向けて意識が向いているか向いていないか理解出来るからだ。

 ただ、名前が無いせいか、自分に対する愛着も少ないようだった。

 例外になってくるのが、何度も地上に召喚され、世界に触れ合い自我を得た者の存在である。

 召喚。

 それは精神世界から、物質世界へと呼ばれる事を意味する。

 仮の肉体を得て、地上の快楽を味わう事が出来る。

 それは匂いであり、手触りであり、味であり。

 世界を司る、様々な情報に触れ合う事が出来るのだ。

 召喚された自我の無い悪魔デーモンは、召喚主の性格に色濃く影響を受けるらしい。

 召喚された相手から様々な情報を得る。

 依頼の内容によれば、情報の塊とも言える"魂"を得る事すら出来るらしい。

 数多く"魂"を集める事が出来れば、上位存在へと進化する事も出来るとの事だった。

 召喚は、数多くの悪魔から適当に選ばれる。

 場所が近く、依頼量に見合うランクの悪魔が、自然と選択されるのだそうだ。


 一度呼ばれただけでも、かなりの情報を得るらしい。

 まず、自我が生まれる。

 そして、何度も召喚される事により、大きな力を得る事も出来るのだ。

 俺に話しかけて来た悪魔は、


「へへへ、俺っちは三度は呼ばれたぜ? 兄弟は何度目だ?」


 何が楽しいのか知らないが、ヘラヘラと笑いながら聞いて来た。

 何だか、無性に腹が立ってくる。

 俺はソイツを殴った。


「兄弟、何しやがる!?」


 ソイツも怒って殴り返して来て、それから数日、俺達はずっと殴りあいの喧嘩をしたのだ。

 殴るというよりは、お互いのエネルギーをぶつけ合い、相手にダメージを蓄積させるというものだったのだが。

 俺のイメージでは殴るというのが適切な表現である。

 結局、決着は付かなかった。

 だが、


「よう、兄弟。アンタ、強いな。今日からアンタの事を兄貴と呼ばせて貰うわ」


 ソイツがそれで納得した事で、争いは終わったのだ。

 争いというより、俺の一方的な八つ当たりなのだけど。

 俺も地上に行ってみたい。

 猛烈にその欲求が高まるのを感じたのは、その時の事である。


 それからの俺は、弟分になった悪魔と二人で、更に周囲へ喧嘩を吹っかける日々が続いた。

 意思無き悪魔は面白く無い。

 何度か地上に呼ばれた経験のある、自我を持つ者がターゲットである。

 喧嘩――戦闘行為――に明け暮れる日々。

 だが、俺のような者は珍しくは無いらしく、俺に向けて向こうから喧嘩を売って来る事もあった。

 そして何時しか、俺の仲間は100人に達し、この周辺一体は俺の縄張りになっていたのである。


 何時の間にか、俺は上位悪魔グレーターデーモンへと進化していた。

 この事に気付いたのは、喧嘩相手を瞬殺した時の事だ。

 今までと異なる大きな力が、体中を駆け巡るのを感じた。


 俺は無敵だ。


 そう、俺はその時、調子に乗っていたのだ。

 進化した俺は、ユニークスキル『統合者』を獲得した。

 元から――恐らく、生まれた時から――持っていたユニークスキル『分割者』と併せて、使い勝手の良いスキルである。

 俺が殴ったら粉々になったのは、この分割・分断の力のせいだったらしい。

 多分、前世で切られて刺されたトラウマから、この能力が生まれた気がする。

 どうでもいい話だけどな。

 同格の者でなければ、俺の力に逆らう事も出来ない。

 また、分割した相手を統合も出来るのだから、手下を増やすのも簡単になる。

 俺が調子に乗ったのも仕方ないだろう?


 そして、そいつは現れた。

 この世界に生まれて、俺に初めて恐怖を与えた存在。

 本物の強者とはどういう存在なのか、俺の魂に刻み込んだ存在。

 赤い髪の悪魔。

 俺達の前に現れ、ムシケラを掃除するように簡単に。

 俺と、俺の手下達は駆除された。


「ふむ。手応えがありませんね。ツマラナイ」


 恐怖と同時に感じる、心の奥底から湧き出るような憎悪。

 俺の手下、俺の仲間達を!

 その怒りのまま、俺は一つの能力に目覚めた。


《確認しました。ユニークスキル『再生者』を獲得・・・成功しました》


 分割、統合の更なる先。

 俺は一瞬で、自分の精神体が再生されるのを実感する。

 死ね!

 万感の思いを込め、俺を見下すその赤い髪の悪魔に向けて、


「おや? まだ生きていましたか?」


 放った"分割の波動"はあっけなく散らされて、そのまま俺の精神体もバラバラに砕かれる。

 格が違い過ぎたのだ。


 それから、再び再生を果たし、俺は復讐を誓った。

 何度も付回し、その悪魔に再戦を挑む。


「クフフフフ。面白い! なかなか骨のある者が居るではありませんか。

 宜しい。

 我が名は、ディアブロ。

 偉大なる主に授けられた"名"の下に、貴方に少しだけ本気を見せましょう!」


 世界の崩壊エンド・オブ・ワールド


 確かに、俺はその時、世界の終焉を体感した。

 本来、俺如き"小物"に対し、用いる業では無い事は理解出来た。

 ああ、格が違い過ぎた。

 だが、俺は後悔ではなく、今まで感じた事の無い満足感とともに死を……

 迎える事は無かった。


 その者、ディアブロに呼ばれて、初めて地上世界へと顕現する。

 目の前には、一体の魔物。

 前世の知識に照らし合わせれば、スライムと呼ぶべき矮小な存在。

 だが、そのスライムに対し、絶対者であるハズのディアブロ様が跪いていた。

 理由は簡単だった。

 馬鹿な俺でも理解出来る。

 そのスライムは、次元が違ったのだ。

 ディアブロ様が、常日頃から、"神"と称えているのも頷ける。

 誇張では無い、ありのままの真実だったのだから。

 俺と同様に、ディアブロ様の洗礼を受けた者達が、同様に跪いている。

 俺より圧倒的格上だと判る者も居るが、扱いは俺と変わらない。

 ディアブロ様の前では、あの者達でさえも俺と変わらぬ程度にしか見て貰えないのだろう。

 それも当然だと頷ける。


『この者共は、私の嘗ての友でして……

 是非ともリムル様のお役に立ちたいと泣いて懇願するもので、同行を許そうと思いました』


 遠くにディアブロ様の声が響く。

 この方こそが、我等の真なる主!

 そして一斉に、


『我等、魔王リムルの忠実なる下僕シモベです。何なりと、御命令を!』


 目の前の"まおう"に忠誠を誓った。

 そして、俺は更なる力を得た。


「お前の名前は、"ヴェノム"だ。まあ、頑張ってくれ」


 気軽な口調で、俺に親しげに話しかけて下さるリムル様。

 そして得た、新しい名前。

 俺の名は、ヴェノム。

 リムル様に忠誠を誓う悪魔。


 俺は進化を果たし、この世界で受肉を果たす。

 新たな肉体、そして力。

 上位魔将アークデーモンとなり、以前とは桁が違う存在に進化していた。

 だが、これだけの力を得て悟ったのは、今の俺でもディアブロ様の足元にも及ばぬという事実。

 だが、俺はまだまだ強くなる!

 後方のカプセルには、以前の仲間達が新たな肉体を得て眠っている。

 俺の部下となる者達。

 俺は、ディアブロ様直属の部隊を率いる事になる。


 ディアブロ様の片腕には、テスタロッサと名付けられた緋色の髪の女性型悪魔が任じられた。

 元々圧倒的だった彼女は、俺と同様に力を増している。

 今の俺では敵わないだろう。

 だが、焦る事は無い。

 俺はまだまだ強くなる。

 そして、いつかはディアブロ様の片腕となり、この世界をリムル様に捧げるのだ。


 俺の名は、ヴェノム。

 いずれ、ディアブロ様の隣に立つ男だ!




 その後、彼ことヴェノムは大きく力を増し、敵対する者を殺戮し尽くす悪魔として恐れられる事になる。

 明日の更新は一日外出の為、出来ないと思います。

 なるべく早く更新するように、頑張ります。

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