独占禁止法による巨大IT規制案が具体化した。同法が規定する「優越的地位の乱用」で消費者保護を目指す戦略だ。ただ問題の核心は税の公平性にあり、規制は第一歩を踏み出したにすぎない。
規制対象はGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)と呼ばれる米IT大手が中心で、これに楽天など国内のIT系企業も加わる。
買い物や情報の検索、動画や音楽の配信、人々の交流、就職活動…。巨大ITは生活に欠かせない存在になっている。しかし、そこでは膨大な個人情報がやりとりされている。
公正取引委員会は、IT企業が消費者に対し優位な立場にあることを利用し個人情報を取得した場合、独禁法を適用する。
優位な立場とは、代替可能なサービスがなかったり乗り換えが困難など消費者に不利なケースを指す。この状態で過剰に情報を得たり、目的外に使ったりすれば課徴金など罰則を科す。就職情報サイト「リクナビ」による学生の個人情報販売問題などは適用の対象となる可能性が高いだろう。
「優越的地位の乱用」は日本や韓国などに限られた独特の規定だ。運用が順調に進めばIT規制に悩む欧米各国の規範にもなる。
ただIT企業の多くは法律専門家を大量に雇い法務対策に万全の構えを取る。運用方法の明確化だけでなく人材育成にも力を注ぎ、より強靱(きょうじん)な規定へとグレードアップさせる必要があるだろう。
今回の規制で注目したいのは課税強化につながるかどうかだ。国境を越えビジネス展開するIT企業への課税は極めて難しく、世界規模で税の公平性をゆがめている。人々は巨大ITがその存在に見合う社会的コストを払っていないと感じており、不満の温床になっている。
複雑な手法で利益を各国に分散させるケースは後を絶たない。有価証券報告書の作成義務さえない場合もあり、経営実態は極めて分かりにくい。
だが独禁法適用となれば法に裏打ちされた調査で経営の実態解明も可能となる。個人情報保護から不公平税制の是正という骨太な制御の流れが構築できる。
IT企業のサービスは生活の利便性を飛躍的に高めた。だがその存在は政府でさえ制御が難しいレベルにまで達しようとしている。独禁法活用による取り組みがIT企業自身に公共性への強い意識をもたらすことも期待したい。
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