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この作品 「月下の逢瀬」 は「Fate/GrandOrder」「項羽(Fate)」等のタグがつけられた作品です。

FGOの項虞の馴れ初めを書きました。マテリアルや2部3章での語らいを基にしており...

hakataking

月下の逢瀬

hakataking

2019年8月19日 21:18
FGOの項虞の馴れ初めを書きました。マテリアルや2部3章での語らいを基にしておりますので、未プレイの方は御注意下さい。書くにあたり、HAの英霊達の生前の語りの様な雰囲気をイメージしました。BGM『stranger』を聴いてから読むことをオススメします。
 その女人との遭遇は、演算の領域外であった。

 先日、叔父の項粱より視察を命じられた。陣を引くのに最適な山があり、我自身から見た意見が聞きたいとのことであった。
 しかしその山には奇妙な噂があった。

“その山に入った者は、生きて帰っては来れない”と。

 そんな物は迷信だと叔父は一笑に付し、命令を強行した。

 実際その山は不可解であった。我の演算でも、どの様な結果が生じるのか予測出来なかった。まるで、世界から拒まれたかの様に。

 仕方なく兵を連れ立ち、時折鼓舞しながら進んでいった。
 山中は取り分け問題はなかった。草木は穏やかに茂り、水は清らかで、凶暴な猛獣はおらず、歩を進める毎にたわわに実った木の実を見かけることが多くなった。

 『まるで桃源郷の様だ』と呟く兵卒までいた。

 だが、先が予測出来ない。生まれて初めて得た感覚に、我は困惑する。

「項羽様」

「何だ?」

「日が…隠れております…」

 兵卒の指摘を受け、上を向いた我は唖然とした。
 既に日は暮れ、夕刻どころか月が見えているのである。

「お、俺達が山に入ったのって昼間だよな?」

「入山してから数時間しか経ってないぞ…」

「満月とはまた…凶兆やも知れませぬぞ」

 奇妙な出来事に、兵士達が浮き足立つ。凶兆という言葉に、先を予測出来ない我自身も不安を覚えるが、それを押し殺し、平静を保つ。

「皆の者、案ずるな。我は夜目が利く。その方達は灯りを絶やすな」

「はっ…!」

 平静を取り戻した兵士達は篝火を焚き、我を先頭にして再度歩き始める。やがて森が開け始め、何やら花畑が見える様になった。

「山頂でしょうか?」

「分からぬ。各自、警戒を怠るな」

「っ…。はっ」

 我にも分からぬことがある。それを知った兵卒は顔を強張らせ、いつでも抜ける様、帯刀した剣を片手で掴む。
 そして我らは息を殺しながら、森を抜けた。

「おぉっ……」

 我らを待っていたのは、月明かりに照らされた広い雛芥子の花畑であった。
 地面を鮮血で染め上げた様な光景に兵卒は萎縮していたが、我はただ呆気にとられていた。

 どれだけ演算を重ねても、『美』という言葉でしか言い表せなかった。兵法にしか考えが向かなかった自身に、この様な感情が芽生えるとは思わなかった。

「項羽様、あれを!」

 気がつくと、その花畑に1人の女が背中を向けて立っていた。女は布切れの様な衣を纏い、何の気なしに月を眺めていた。

「何と……。──っ!?」

 絹の様な背中と艶やかな黒髪に気を取られるが、雑念だと我は振り切り、気を引き締めて女を再び見る。

「その方、どこの者だ?麓の村の人間か?」

 女は我の声を聞くなりため息をつき、面倒臭そうに振り向いた。

 瞬間、我の演算は止まった。

 歪みが一切ない顔立ち、贅肉がみられない整った肉体、くっきりとした目鼻。叔父から当てられた夜伽を遥かに上回る美貌であった。
 だが同時に、恐ろしく、また儚げに見えた。

 女は我らを見るなり眉をひそめ、口を開いた。

「我に口を聞くか?この愚か者が」

************

 また面倒事だ。噂を聞き付けた愚か者が山に入ったか。
 私は嘆息し、甲冑を付けた男衆相手に凄む。装いからみて、自警団かどこかの軍隊か?まぁどうでも良い。私にとって、人間はどれも同じだからだ。

「お前達に話すことなど何もない。早々に下山しろ」

「待たれよ。ここは危険だと聞く。下山するのなら我らと共に──」

「無用よ。お前達と下山?我の身体を穢すつもりか?」

「貴様ぁ!項羽様のご厚意を!」

 男衆の1人が剣を抜き、花畑へと足を踏み入れようとする。
 あぁ、本当に面倒だ。

「下がれ下郎」

 私は一言告げると共に、男の足元に剣を飛ばす。深々と突き刺さった剣を見て男は小さく悲鳴を上げ、そそくさと後ずさる。
 ふふっ。愉快愉快。

「そしてお前」

「お、俺?」

 そうよお前よ。さっきから鼻の下を伸ばして、気持ち悪いったらありゃしない。

「我の身体がそんなに好みか?」

「な、何を言う!?」

「我に下卑た視線を向けるとは、よほど死にたいようだな。今ここで目と一物を潰し、心臓を抉り出してもよいのだぞ」

「ひ、ひいぃご勘弁をぉぉぉ!」

 あぁ情けない。土下座でも何でもして命乞いとは。つくづく人間は脆弱ね。

「…そなたが件の妖か?」

「うん?」

 先頭に立っていた男が、再び口を開いた。男の姿、立ち振舞いに、私は奇妙な感覚を覚えた。
 人間特有の匂いや心音が感じられない。肌はどことなく無機質さを思わせる。何よりもその顔。仮面だろうか?だが仮面の下から匂いは漂ってこない。
 ただその奇妙な感覚よりも、妖と呼ばれたことが腹立たしかった。

「我を妖と同列にするなこの下郎」

「むっ。これはすまぬ。部下共々、非礼を詫びよう」

「…?分かればよい。さぁ、早々に下山しろ。3度目はないぞ」

 随分物分かりの良い男ね。まぁそっちの方が楽だし、さっさと私の前から消えなさい。

「では皆の者、下山しよう」

「項羽様、それではこの地は…」

「ここに陣を敷くのは得策ではない。叔父には我が直接伝える」

「はっ!」

 男衆はよく分からないことを口々に交わしながら森へと戻っていった。
 姿が完全に消えたことを確認し、私はため息をついた後、再び月を見上げた。

「あいつ、項羽っていうのね…」

 どういう訳か、あの男が気になってしようがなかった。
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