オーバーロード 骨の親子の旅路   作:エクレア・エクレール・エイクレアー

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38 隣国への護衛旅

 

 

 珍しく冒険者チームの「黒銀」は指名の依頼を受けていた。彼らはよほど危険なモンスターが出ない限り指名依頼を受けていなかった。カルネ村からあまり離れた所に行きたくなかったため、遠出の護衛依頼などは断っていた。「黒銀」よりもランクの高いチームはいるし、彼らは三人であるためバランスの良いチームとは言えない。

 護衛などには回復役やレンジャーなどが居た方が良いが、「黒銀」は剣士二人に魔法詠唱者一人だ。モンスター退治なら無類の強さを発揮するが、それ以外の依頼は不得手である。

 そんな彼らが受けた依頼とは。相手からして断ろうという気持ちもなかった。それに仕方がない部分もあっただろう。

 

「『黒銀』の皆さま、私の依頼を受けてくださりありがとうございます」

 

 そう、帝国へ向かうラナーの護衛だった。例年通りなら秋の収穫時期を狙って帝国が戦争を仕掛けてくるのだが、それを阻止するために新国王たるザナックが大使としてラナーを派遣することにしたのだ。

 本来なら国固有の戦力が護衛を務めるべきだが、王が変わってもそのまま残った戦士団はごたごたが多い新国王の護衛のために傍を離れられず。他に所有する戦力はレェブン候の配下くらいだが、それも大々的に動かせる戦力ではないし、元はレェブン候の護衛だ。

 新国王と共に国を動かす重鎮であるため、レェブン候も王都から離れられなかった。そうすると動かせない。

 そして帝国に向かうのがラナーと決まった時点でラナーが護衛に誰を選ぶかなんてわかりきっていた。ザナックもレェブン候も、その二つの冒険チームとクライムに任せると聞いてそれならと太鼓判を押したほど。

 王都からの護衛は「蒼の薔薇」に任せていたが、エ・ランテルからは「黒銀」も加わったという流れだ。

 エンリたちには戦争を終わらせるための交渉を手伝うために数日帰ってこないと伝えている。事実戦争がなくなれば税もそこまで重くならず、エンリたちの生活も安定するかもしれなかったので快く送り出してくれた。

 今回の依頼は廻り回ってエンリたちのためになるので、モモンガたちも快く承諾したというわけだ。

 

「王族の護衛なんて光栄ですよ。それに今回の帝国訪問はそれだけ価値のある事です。王国に住むものとして、隣国との戦争は回避したいですから」

「俺らも最近暇だからな。いや、暇で良いんだけどよ」

 

 暇というのは平和ということだ。そして暇だとブレインは存分に剣の修業ができる。それは大いに喜んでいた。模擬戦とかをよくやっていて、今ではレベル40後半くらいはある。デスナイトは余裕を持って倒せるレベルだし、ソウルイーターはその特性を防げば辛うじて勝てるレベルになっていた。

 漆黒聖典の連中とも遜色がなく、あの第一席次には勝てないが他の人間には負けないだろう。まさしく人類国家最強の剣士になっていた。パンドラはノーカン。

 

「依頼内容の確認をしておきたいのですが、我々はあくまで『蒼の薔薇』の皆さんの補助という立場で良いのですよね?」

「はい。実際の会談の際には私の周りに『蒼の薔薇』を配置します。皆さんには会場の警備を。仮にも二国のトップ層が会談するので、何かを仕掛けてくるものもいるかもしれません」

「わかりました。会談が無事に終わるよう、尽力いたしましょう」

「まあ。モモン様にそう言っていただけると心強いですわ」

 

 モモンガとしてはここまでラナーからの評価が高い意味が分からなかった。できることは多いとはいえ、万能ではないのがモモンガたちだ。パンドラも今はたっちの姿に固定しているため、他の姿に変身させようともしていない。

 ラナーたちからすれば便利だろうが、本来護衛任務はアダマンタイト級の冒険者を一組使っている時点で過剰戦力と言ってもいいはず。そこにモモンガたちも加わったらやることがないのではないかというほど。万が一に備えて警戒はしておくが。相手の皇帝がいきなりラナーを殺しに来ることはないだろうというのがラナーの考えだ。

 むしろラナーとしてはモモンガとパンドラという戦力を帝国に見せて、威圧行為を行おうとしていた。フールーダ・パラダインは魔法詠唱者の能力がわかるそうだし、ラキュースからパンドラには逆立ちしても敵わない実力だと、見ただけで分かるという証言を得ている。

 ラナー自身も二人の存在感についてはひしひしと感じている。こんな二人がいるのに抵抗するかと聞かれたら、頭の回る人間なら確実にNOを言うほどだ。

 冒険者だから戦争に参加できないとか言われても、切り返す手札は持っている。そこまで心配していない。

 

 それに今回帝国とする交渉の内容は、停戦交渉と国交を開こうとするもの。要するに新政権にとっての時間稼ぎができればいい。

 組み木の時点で崩れかかっていたものが、内部から白アリに喰われた結果だ。白アリの排除はある程度できたが、一から立て直さないといけないレベルで屋形船は崩れかかっている。そんなボロボロの状態で外部からの侵略者など相手にしていられない。

 ラナーはそんな時間稼ぎ役を任されたのだ。そんな彼女は久しぶりに会う帝国の皇帝ジルクニフに見せつけられることを楽しんでいた。

 偶然でも奇跡でもそれを表す言葉はどれでもいい。たとえ消去法であったとしても、モモンガは王国を選んでくれたと。フールーダ程度で大きな顔をしているジルくんはどのような顔をしてくれるのかと楽しみにしていた。

 一行を乗せた馬車は帝国に向かう道中でどうしてもアンデッドの多発エリアであるカッツェ平野を横断する際にいつもよりアンデッドに遭遇した。その度に「黒銀」が奮戦して蹴散らしていたが、野良の死の騎士が出てきた時にはちょっとだけモモンガも焦ってしまった。ブレインとパンドラが難なく倒していたが。

 

 死の騎士は初めて見たという「蒼の薔薇」の発言から、珍しく強いモンスターだったのだろうと「蒼の薔薇」で結論が出たが、イビルアイだけは知っているようだったが何も話さなかった。

 「黒銀」はモモンガがよく召喚するため当然知っていたが、その個体よりも弱かったことと、今のブレインでは負けることがないのでそこまで気にしていなかった。

 死の騎士が出るほどまでに強力なアンデッドが出る原因は、強力なアンデッドがアンデッドを引き寄せるという性質からしてモモンガのせいなのだが、今回はもう一つイビルアイというヴァンパイアがいることも関係していた。

 イビルアイはドラゴンにも匹敵するほどの実力者だ。それが歩いていればアンデッドを引き寄せてもおかしくはない。

 このトラブルメイカー二人のせいで、随分と賑やかな小旅行になっていた。

 

 

 


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