「NPCに毎日愛してるって言うと強くなるらしい」 作:abc
ナザリックのとある一室で二人の異形種が打ち込み作業を行っていた。
片方は背中に翼の生えた鳥人。
もう片方は輪郭揺らめく亡霊。
二人はただ黙々と空中に浮いているコンソールを操作している。そんな中作業の単純さに飽きてきたのか鳥人の方が亡霊に対して話を振る。
「……あー、流石に飽きてきたなあ。ちょっと休憩するか、なあ後輩!」
「いいですけど、まだやることは残っているんですからねぺロロン先輩」
「わかってるよ、ちょっと休んだらまた頑張るって!」
「はぁ……それならいいですけど」
コンソールをいったん閉じて背伸びをするようなポーズを取る鳥人は「ぺロロンチーノ」。彼はギルド「アインズ・ウール・ゴウン」のメンバーであり本日はNPCの挙動やナザリックのギミックについて設定をしていた。
そしてそれに付き合わされている亡霊はナザリックの新参者にしてぺロロンチーノの「後輩」であった。プレイヤーネームは別にあるのだが「後輩」として呼ばれていることが定着しつつある。本人は何となく嫌がっている。
二人ともテーブルを挟んで向かい合うように座っており、ぺロロンチーノの方は休憩と同時にテーブルに足をのせ始める。一方の後輩はその行動を咎めるわけでもなく自身も疲れているのか机に突っ伏して寝ている。
そんなグダついた空気の中ぺロロンチーノはあることを思い出す。
「なあ後輩、知っているか?NPCに毎日愛してるって言うと強くなるらしいぞ」
「……それどこのデマですか?」
「デマじゃねえっての!俺が所属してるサークルで噂になってるんだよ。強くしたいNPCに毎日愛してるって言うと強くなるってさ。それにさあ、この何でもありのゲームでならこれくらいの隠し要素があってもおかしくないだろ?」
「そう言われると否定は出来ないですけど……」
「そうだろ!」
ぺロロンチーノは面白そうにその謎の噂を語っていく。二人が現在プレイしている「ユグドラシル」というゲームはとにかく未知なことが多い。それ故に発見されていないシステムがあったとしても何らおかしくはないのである。もしそれが本当だとするならばすごい発見であると言えた。
「誰か試した人がいるんですか?」
「……まあ、成功した奴はみたことないけどな。俺は話を聞いただけだしさ」
「面白い話でしたけど、それじゃあやっぱりデマみたいですね」
「いやいや、みんな試してないだけで本当のことかもしれないだろ?」
「どういうことですか?」
「考えてもみろよ、自分の作ったNPCに愛してるなんて言うやつどう思う?ちょっとキモいだろ?まあ、俺はシャルティアにはよく言うんだけども」
後輩は一瞬ぺロロンチーノのシャルティア愛してる発現にうわ……という声を漏らすが、ぺロロンチーノのシャルティア愛はいつものことか、と切り替える。自分の作ったNPCに対して愛してると面と向かって言うのは、いくら相手がNPCであっても恥ずかしく感じるのではと思う。
その姿を他のプレイヤーに見られでもしたら普通にヤバいやつだと思われることにも納得がいく。
「ぺロロン先輩はいつものことだとして、そう言われれば確かに気持ち悪いですね。それに毎日っていうのも大変そうです」
「そうそう!毎日やるっていうのも案外難しいんだよ。それこそ毎日ログインできる余裕がある奴か暇人くらいだろ?あと、どれくらいの期間愛しているといえば良いのかも分かんないからな。年単位ってこともありえる」
「年単位って……まあ、途中で飽きたり忘れたりしてしまいそうですね」
この何でもありのユグドラシルであるならば年単位での隠しシステムが存在することもありえる。発見されないネタを仕込む意味とは一体何なのだろうか。二人はユグドラシルに対する謎を深めていくことになる。
「それでさ俺たちでも検証してみないか?この噂を」
「……えー、俺は嫌ですよ。ただでさえ変人の集まりだと思われているアインズ・ウール・ゴウンでさらにそんな変態的なことしたくないですもん」
「変人の集まりってお前なあ……実は俺はもう試してるんだぜ!ここ二週間ずっとログインしてシャルティアに毎日愛してるって言ってるんだ!」
ぺロロンチーノは腕を組みながらそう語る。一方の後輩は二週間やっても効果がなければ諦めてもよさそうなのになと冷静な判断を下す。
後輩の考えるこの噂の真相はプラシーボ効果である。NPCに愛してるということで愛着がさらに湧いてきて強くなっていると勘違いしてしまうというものであった。だがそんなつまらない推測を言うとぺロロンチーノが怒りそうなので黙っておく。
「それで効果はあったんですか?」
「あったと言えばあったかも。シャルティアのことがもっと好きになったし。洋服とかも今度作ってやろうと思ったりした」
「まるっきりぺロロン先輩の心情の変化だけじゃないですか!もっとこう特殊なスキルやクラスが付いたとか、ステータスが変わったとかそういうのは」
「ないよ。でも可愛くはなってると思う」
「なるほど……なるほどぉ……」
そんなのお前の感じ方次第だろとはツッコまない。
「だから後輩も実験に参加してくれよ。実は俺、明日はどうしても外せない用事が一日中あってさ、ログインできそうにないんだ。二週間連続記録が途切れちゃうから他の誰かに変わってもらおうと思ってさ」
後輩は後輩であるために頼みごとがしやすいから頼まれたんだろうなと自分で推測する。
「それで俺ですか……」
「それにお前はアインズ・ウール・ゴウンに来てから毎日欠かさずログインしてるだろ。そこまで熱心なやつなら続けれるんじゃないのかと思ってさ」
確かに自分はこのギルド「アインズ・ウール・ゴウン」に加入してからは一日でもログインを欠かしたことはない。だがそれは単純に暇だからである。
現実での後輩は富裕層でもなければ貧困層でもない云わば中間だ。
決して高給取りではないがこのご時世には珍しい超白い企業に勤めている。
だからこそ余った時間をユグドラシルで過ごすことが出来ている。
「えーと……普通に嫌です。キモいですし、自分のNPC持ってないですし、作る気もありませんから……」
後輩は自分のNPCを持っても作る気もなかった。理由は単純にめんどくさいのもあるが、現在のナザリックの戦力は十分にあるために余計なNPCを作る必要がないというのも理由の一つであった。
「自分の作ったNPCは言うなれば我が子同然!好きだと言って何が悪いんだよ!」
「じゃあ、たっち先輩がセバスに好きって言ってたらどう思いますか?絵面も考えて下さいね」
「…………いや、それは」
「それか、ウルベルト先輩がデミウルゴスに好きって言ってたらどうですか?」
「…………だから、男同士はずるいじゃん」
「まあ、そういう事です。俺としても毎日言いに来るのは面倒くさいですし、信ぴょう性に欠けることに付き合うのも馬鹿らしいってもんですよ」
完全論破であった。これが現実世界であるならばぺロロンチーノの顔はぐぬぬといった顔になっているであろう。
「あーあ、もしお前が引き受けてくれるなら欲しがってた素材分けてやってもよかったんだけどなぁ」
「え!?マジですか!」
「マジマジ!この前たまたまドロップしてさ。自分で使うのももったいないから取っておいたんだけど、この実験に付き合ってくれるなら譲ってやっても良いんだけどな」
「はぁ……仕方ないので付き合ってあげます。別に素材が欲しい訳じゃないですけど。それと前払いですからね」
「分かりやすいなあ」
後輩は現金であった。
ぺロロンチーノは早速アイテムボックスから素材を取り出し後輩に渡す。嬉しそうにそして大事そうに素材を抱える後輩を見てぺロロンチーノも何となく嬉しくなる。後輩が素材をしまったところで本題に入る。
「よし!それでどのNPCを使って実験するんだ?」
「え?シャルティアじゃないんですか?」
「途中から思いついたんだがウチのシャルティアは既に強いから効果がないのかもしれない。だから100レベル以外のNPCで実験してみよう!」
その後二人はどのNPCにするか話し合う。
がただでさえ癖の多い奴らが作った癖の多いNPCであるためになかなか決まらない。というか決められないでいた。
「……それじゃあ、五大最悪と100レベルNPCと非戦闘員以外ですね」
「まあ妥当なところでプレアデスあたりだろうな。それでどれに『毎日愛してるって言う』のを試してみるんだ?」
「そうですね……それじゃあ――」
【どれを選びますか(分岐点)】
→『メガネのデュラハン』
『性悪人狼』
『ドSドッペルゲンガー』
『汚いスライム』
『眼帯オートマン』
『人食いアラクノイド』
『アインズさん』
この後、実験を続けてる状態でユグドラシルが終わります
2キャラくらい書いてすぐ終わります