住人男と市職員、異常な「主従関係」 京都・向日女性遺棄事件
京都府向日市上植野町薮ノ下のアパート「寿荘」の駐車場で先月、粘着テープで巻かれた女性の遺体が見つかった事件で、京都地検は2日、死体遺棄の罪で、住人の男(55)と向日市職員の男(29)=京都市西京区川島野田町、無職の男(52)=右京区西院三蔵町=の3人を起訴した。
生活保護費受給者と担当ケースワーカーの異常な「主従関係」は、なぜ見過ごされたのか。住人の男(55)の使い走りをさせられたとみられる向日市職員の男(29)は、日頃から住人の男の言動におびえていたとされる。しかし、同僚は市職員の異常な状況に気付かず、市が組織的に対処することもなかった。生活保護の現場は慢性的な人手不足に悩み、トラブルが多発。福祉関係者からは「組織的な課題にも目を向けるべきだ」との声も上がる。
市職員の男は2012年に向日市職員に採用され、15年から生活保護を取り扱う地域福祉課に在籍。18年1月から住人の男を担当していた。市は2人が逮捕された先月12日、記者会見で「(2人の間の)トラブルは把握していない」と説明した。
しかし、取材を進めると、市職員の男は、住人の男から「自分は元暴力団組員だ」と威圧的な言動を繰り返されたり、保護費増額などの無理難題を言われているとして、職場内で担当替えを求めていたことが判明。買い物や車の運転を日常的にさせられていたほか、住人の男から頻繁に苦情電話があり、2時間以上にわたって応対する姿を同僚も目にしていた。
市幹部は「同僚たちも市職員の男を気遣い、『大丈夫か』『大変やな』と声を掛けるようにしていた」と説明する。市は住人の男を「処遇困難ケース」と位置付け、家庭訪問する際は同僚を同行させるなど態勢を強化。警察への相談も検討中だったという。しかし、事件が発覚するまでの間、向日市職員の男の勤務態度に変化はなかったとして、担当交代の緊急措置は取らなかった。幹部は「仕事の枠を超えた異常な関係性には誰も気付けなかった」と悔やむ。市は今後、一連の対応に問題がなかったか検証する。
生活保護費受給者とケースワーカー間のトラブルは各地で相次ぐ。京都市では年数回、ケースワーカーが暴力を振るわれたり、刃物で威嚇されたりする事件が発生。先月24日には、下京区役所の生活保護窓口で、応対中の男性職員(55)が受給者の男(38)に突然、顔を殴られる暴行事件が起きている。
一方、生活保護の現場では人手不足が深刻化している。厚生労働省の調査ではケースワーカーの標準配置数(1人当たり80世帯)を満たしていない自治体は少なくなく、向日市職員の男も目安を超える101世帯を担当していた。
多忙を極める職場では、職員が一人でトラブルを抱え込むリスクが高まる。ある自治体の福祉担当職員は「悩んだり、苦しんだりしている姿を周囲が見落とさないことが重要。市職員の男の同僚や上司が少しでも異変に気付いたのなら、強引にでも介入し、不適切な関係を断ち切るべきだった」と語る。
元ケースワーカーの花園大・吉永純教授(公的扶助論)は「現場で働く人の中には、問題の解決方法が分からず、1人で抱え込んでしまうことは十分にあり得ることだ」と指摘。その上で「不当要求に厳しく対処するため、場合によっては警察など関係機関との連携を強化する必要もある」と話している。
【 2019年07月03日 18時44分 】
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