6本飛び交った圧巻の二塁打ショーを締めくくったのは堂上だった。8回、2死一、二塁から描いた放物線は左翼フェンスを直撃する2点適時打。クローザーの岡田を温存できる5点差に広げた。
「代打だったので、積極的に振った結果だと思います」
守備の人。堂上がそう評されるようになって久しいが、本紙読者なら今季の変化もご存じだろう。打率こそ2割1分3厘だが、11本塁打はキャリアハイ。二塁打もこれで9本目で、長打率4割5分4厘は、自己最多の116安打を放った2016年(3割6分2厘)をはるかに上回る。要するに堂上は明らかに飛距離が伸びている。
その秘密は1・2センチにある。今季の彼は86・4センチだったバットを87・6センチに変えた。欲したのは「しなり」だった。
「去年の秋から、バットをムチのようにしならせるイメージのスイングに取り組みました。打ったときにはわかります。自分の中で『どうかな?』っていう打球が、今年は全部スタンドまで届くようになりました」
長さは遠心力を生む。たかが1・2センチ。しかし、提供しているメーカーの担当者は言う。「恐らく、現役選手で最も長いと思います」。そして、こう続けた。「私が覚えている限りでは、同じ長さのバットを使っていた選手がもう一人います」。それが和田一浩さんだった。この日、テレビ解説の仕事でナゴヤドームを訪れていた。
「37歳のときに(87・6センチに)変えたんです。それから3シーズン使って、また(86・4センチに)戻したんです。でも、僕は3年間迷ったんですよ」
リーグMVPに輝いた2010年をはさむ3シーズン。ただし、変更を決断するまでに、3年間もかかっている。されど1・2センチ。打者がバットを長くするのに、どれほど勇気が必要かを物語っている。その勇気を堂上は振り絞った。その成果が11本塁打、9二塁打ということだ。