Amazonの「全品送料無料の廃止」が意味するもの プライム会員はもう逃げられない?

» 2016年04月09日 06時00分 公開
[二階堂歩ITmedia]
プライム会員はもう逃げられない?

 先日、アマゾンジャパンが商品の配送料を改定したというニュースがWeb上で大きな注目を集めました。これまでは無料だった「2000円未満の商品」の通常配送料を、350円(税込)に引き上げたというものです(書籍とAmazonギフト券は今後も無料)。

 全品送料無料サービスは、もともとは期間限定キャンペーンとして始まり、2010年11月1日に正式に通常サービスになりました。結果的にはそれから5年強で終了することになり、「単に元に戻っただけ」という見方もあるようですが、これまで無料だったものが有料になるというのはやはりそれなりに影響が大きいものです。

 ただし、引き続き全商品を無料で配送してもらえる方法もあります。それは年会費3900円で加入できる「Amazonプライム会員」になること。「なんだ、結局無料じゃないのか」と思われるかもしれませんが、1回の配送料を350円と仮定すると、年12回、つまり月1回以上のペースで商品を注文する人なら元が取れる計算です。

 そしてこのAmazonプライム会員が、近年たびたび議論の的になっているのです。

プライム会員の「異常な優遇」

 Amazonプライム会員が話題にされる理由、それは会員への「異常なまでの優遇」です。もともと、プライム会員の特典は「お急ぎ便」や「お届け日時指定便」など、「あれば便利だけれど、なければないで問題ない」というような(利用法にもよるとは思いますが……)、必須とまではいえないようなものでした。

 それがここのところ、年会費は変わらないままに、続々と新たな特典が追加されています。ざっと挙げるだけでも以下の通りです。

プライム会員が利用できる特典の一例
  • プライム・ビデオ:映画やテレビ番組が見放題
  • プライム・ミュージック:100万曲以上の楽曲が聞き放題
  • プライム・フォト:デジカメやスマホで撮影した写真を、クラウド上に容量無制限でバックアップできる
  • プライム・ナウ:首都圏近郊など一部のエリアで、対象商品を1時間以内に届けてくれる
  • 会員限定タイムセール:通常のユーザーより30分早くタイムセールに参加できる
  • Kindleオーナーズライブラリー:対象のKindle本から好きなタイトルを毎月1冊無料で読める
  • Amazonパントリー:食品や日用品を一箱あたり290円の手数料で届けてくれる
  • Amazon定期おトク便 おまとめ割引:日用品やサプリ、食品など、対象商品を3個以上まとめて発送すると最大15%オフになる

 ここまでくると、Amazonを日常的に利用している人であれば、もはやプライム会員にならない理由がないほどにも思えてきます。会員へのあまりの厚遇っぷりに、「これは会員を集めるだけ集めて囲い込んでから、後で年会費を値上げするとしか思えない……」という意見もささやかれるようになりました。

 そして事実、米国ではプライム会員の年会費は年々引き上げられています。当初は50ドルだったところが、段階を踏んで現在は99ドルと、なんと倍に。日本の年会費は前述の通り3900円なので、米国と比べると現時点で半額以下です。それだけに、今後の値上げは十分に予想される事態です。

「一般ユーザーの負担増」が危惧される

 「いくら値上げされても、サービス内容が拡充していくのなら仕方ない」という考え方もあるでしょう。しかし、こうした囲い込みが「プライム会員への特典充実」ではなく「一般ユーザーへの負担増」によってなされていくとしたらどうでしょう。

 今回のアマゾンジャパンの「全品配送料無料の廃止」は、つまりそうした文脈の中で受け取られているのです。プライム会員への対応はそのままに、一般ユーザーへの負担を増加することで、結果的に「利用者全員がプライム会員にならざるを得ない」(ならないと明らかに損をする)ようなことになりはしないかと、危惧(きぐ)されているというわけです。

 米国では、無料配送に必要な最低購入金額(日本では2000円)が、以前の35ドル(約3800円)から49ドル(約5300円)に最近大幅に引き上げられました。こうした形で、さらに一般会員への負担が増加すれば、「ユーザー総プライム会員化」の未来も現実味を帯びてきます。

 もちろん、通販サイトはAmazonだけではないわけですから、それが気に入らなければ他社に乗り換えればいいですし、実際にヨドバシ.comなど、通常会員でも配送がAmazonプライム会員並みに速い他社サービスもあります。しかし、一方で品ぞろえなどの面では、食料品から自動車までを幅広くそろえているAmazonが最強、という面も否定はできません。

 今後、競合他社が送料無料を継続するのか、それともAmazonに合わせて有料化に切り替えていくのかも含めて、さらに動向を注視していく必要があります。そもそも、これまでの「送料無料」自体が、物流の仕組みを考えれば異常事態だったということもあり、このタイミングで大きく業界の動向が変わる可能性は大いにあります。

 国内の一企業が配送料を改定した――ただそれだけのニュースがこれだけの注目を集めた理由は、こうした事情を踏まえてのことだったといえるでしょう。

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