#23 奇祭誕生
またしても投稿し損ね……
その日は、里を上げての超お祭りになった。
まず、この隠れ里がある空間には最初から(祭司の一族がこの場所に住み着く前から)照明が設置されているのだけれど、その補助としてプレハブテントの中や街角に、持ち込みのバッテリー式照明器が置かれている。
そんな照明器が全灯。色つきセロファンを張り付けた照明がハイビーム的に照射されて、薄暗かった隠れ里をバブルディスコの如き空間に近づけている。
家々の厨房では食料が手当たり次第、狂ったように料理されて、通りに置かれた机の上には(おそらく里にある全ての)酒が並ぶ。
なけなしの楽器数点と、伴奏のドラム缶が騒々しく騒ぎまくり、舞い飛ぶ紙吹雪が尽きれば本や日記帳、ノートを破いてまで撒き散らす。やめんか勿体ない。
そんな祭りの主役は、俺。もちろん俺。
……すげーヤだ! 祭りは大騒ぎの中に紛れて有象無象として楽しむからいいんだよ! 挨拶回りくらいしてもいいから神輿だけはよせ!!
という俺の抗議は当然のことながら、却下以前に聞いてもらえなかった。
なんかキンキラで襟飾りが付いてる名状しがたい衣装を着せられ、急造の玉座付き神輿というどこの国の王様の乗り物やねんとツッコむしかない物体Xに乗せられた俺は、そのまま里を練り歩いて人々に手を振ることになったのであった。
抹消したい。この記憶、全ての人間と世界から抹消したい。だがそれを口にしたら、絶対アンヘルが具体的かつ非人道的な工程表を持ち出してくるだろうからぐっと言葉を飲み込む事にした。
「賑やかだね……」
「全て、カジロ様がここへ来たからです」
なんかいかにも聖職者っぽいガウン(それも偉い人用の装飾過多なやつ)を着た榊さんが、神輿の下からそう言った。ちなみに榊さんは神輿を担いでるわけじゃなく、神を目覚めさせた使者と言う事で、一緒に歩いてるのだ。準主役という扱いだった。
歓声、そして明るい笑顔が、街のそこかしこに咲いている。
それは全て俺に向けられ……いや、違う。俺が与えたんだ。
ずっと絶望の中に暮らしてきた一族の人達が、やっと俺を見て、希望を抱くことができた。
それだけで、ここへ来て良かったかも知れないと、俺は思えた。後はこの神輿さえ無ければ……
賑わいの中を散々巡らされて、ようやく俺は族長邸前の広場に戻ってきた。
ここの広場が一番大きな会場で、外縁部に沿って料理満載の机が並び、広場の中央では楽器をかき鳴らす演奏家の姿がある。
既にできあがっている皆さんは、俺が戻ってきたのを見ると、わっと盛り上がった。なんかすごい勢いで飲んでる人居るんだけど頼むから急性アル中で死ぬなよ?
そしてその酒、当然ながら俺にも回ってくるんだなこれが。
ってか、俺用のボトルがキープされてるという状況……
「さぁさぁカジロ様、どうぞ!」
「や、待って待って! 俺、未成年だから! 体に悪いし!」
一族の人が酒の注がれたコップを持ってくるが、俺は品行方正な高校生として、これまで酒なんぞ飲んだこと無い。
そこへ、何故か鼻眼鏡サングラスを掛けている(誰かに押しつけられたのか?)アンヘルがやってきた。
「体内に存在するナノマシンによって賢様の免疫力は高まっております。アルコールの摂取による身体への悪影響排除は、こちらの酒でしたら193リットルまで保障します」
「そんな大量飲んだらアルコール以外の理由で死ぬわ。でも、それだったら大丈夫かな」
と言うわけで俺、酒に初チャレンジ。
見た目はまるっきり水なのに、なんか妙に甘ったるいニオイがする液体を、喉へ流し込む。
すると次の瞬間、猛烈な酒臭さが喉を焼いた。……ニオイに喉を焼かれる感覚って分かる?
「ぶえっ!? げっほ、げほげほげほ!」
「ああ、大丈夫ですか!? こちら、お水を!」
酒チャレンジ、あえなく失敗。
榊さんが近くのテーブルからひったくってきた水を飲み干して、むせていた俺はようやく落ち着いた。
ふと気が付くと、止まっている演奏。真顔で俺を凝視する、広場にお集まりの皆々様。
その直後、ロケット花火を打ち合うどこかの国のお祭りみたいな大騒ぎになった。
「申し訳ありません! お口に合いませんでしたか!?」
「おい、この酒を造ったのはどいつだ!」
「吊せ!」
「首をはねろ!」
アタッシェケースみたいなものが広場の中央に運ばれてきて、『ばっこん』と音を立てて立体的に組み上がった。
首をはめる穴。重り付きのステンレスな刃。地面に垂直な二本のレールが付いててお得。すなわち、どう見てもギロチン。
……ちょっと待て! そのワンタッチ展開式折りたたみギロチンどこから出した!?
材質とかデザインとかがその辺のプレハブ住宅と同じだから、多分同じ原理でワンタッチ展開式折りたたみなんだろうなー、シリーズ商品だったりするのかなー、と想像付くのが嫌すぎる。
両脇を抱えられて引きずり出されてきたオッサンが、自らそこに頭を突っ込み、疑いようもなく幸福な表情で叫ぶ。
「死んでお詫び致しますじゃーっ!」
「死なんでええわい!」
直後、俺の
「なんで殺すのなんのって話に!?」
「神様あ、ワシは『神酒』造りに一生を捧げて来たんですじゃ! ついにご賞味頂く機会が来たというのにこの有様ではワシはご先祖様に申し訳が立ちませぬ~!
生きとるうちに貴方様にお目にかかれただけで未練はございません、死なせてくだされ~!」
「すんません、飲み慣れてないんです! たぶん美味しいんだと思います」
死なせてくれとか言ってる割に終始笑顔なのが怖すぎだった。
あんたら脳内麻薬どんだけ出とんねん。
* * *
酒造りのじいさんは鎮静剤を打たれて救護所へ運ばれ、宴会は再開された。
「……いきなり飲んでも美味いもんじゃないんですね。母さんはあんな美味そうにビール飲んでたのに……」
玉座の前のテーブルには、十人前くらいの料理が山盛り積まれている。そのテーブルの隅っこに置いた酒のコップを俺は睨み付けていた。
「酒を飲むのは初めてでしたか」
自分はチビチビ酒を飲みつつ、族長が話しかけてくる。
さっきはちょっとハードな話をしたが、一族の者達の手前、それはおくびにも出さず俺に接してくる。あるいは気持ちの切り替えが早いのか。
「今の世界がどうだか知りませんが、21世紀初頭の日本は20歳まで飲んじゃダメな社会だったんで。
……ところでこの酒、この里で造ったんですか? なんかそういう話してましたけど」
「神へ振る舞うための『神酒』造りは、どれほど困窮しようと伝えて参りましてな。まぁ実のところ、一族の者にとっての数少ない娯楽でもあるのですが」
そりゃそうだ。神を出迎えるための酒なら延々造り続けることになるわけで、技術を高めるためにもたくさん作ったりしちゃうわけで、余ったものは飲んじゃっていいよね? みたいな口実で酒が飲める。
「酒に慣れたら飲みますよ。それまで取っといてください」
「かしこまりました。では代わりに料理の方をどうぞ。
「えと、じゃあ折角なので生食材の方で」
「なんでしたらバイオマグロと濃縮還元ウナギもどうぞ。生と言えるかは分かりませんが」
アウトな接頭辞を持つ海の幸どもが供される。味は…………ノーコメント。
大量の料理に、しばし舌鼓を打つ。
神である俺の所には、当然一番上等な料理が集められているわけだけれど、それでも内容はせいぜい『豪華な家庭料理』というレベルで、『バイオ』とか『人工』という接頭辞が付きそうな材料も所々に混入されている。
少なくとも材料は、昨日榊さんが料理していた
「楽ではないでしょうに、こんなにまでして、もてなして頂いて……ありがとうございます」
「いえ、そんな勿体ない!」
「神様をもてなすことができるなら!」
「その通りです!」
周囲の人々から答えが返る。
「それに、こんな苦しい生活も……今日で終わりなんですから!」
「え? それって……」
いつの間にやら楽器の演奏も止まり(またかよ)、人々は真剣なまなざしで俺の方を見ていた。
「どうか、天罰のお力を! あの教会の連中に、罰をお下しください!」
ひとりの男が口火を切ると、皆が一斉にしゃべり始めた。
「教会を消してやる! 全部終わらせるんだ!」
日本刀を携え狙撃銃を背負った俺くらいの歳の少年が立ち上がり、
「今こそ聖戦の時!」
農家風のオジサンが白塗り金装飾の神聖チェーンソーを抱えて敬礼し、
「堕落した教会を悪逆の徒の血で
精一杯のおめかし(ヴィジュアル系)をした、榊さんくらいの女の子がサブマシンガン(銀のロザリオ付き)を掲げて、
「ぶっころしてやる!」
首からおしゃぶりを提げた二歳くらいの子が食事用のナイフを振りかざして咆えた。
最後の子はともかく、あんたら宴会の席に武器持ち込んでたんかい。
……じゃなくて。
「た、戦うって、そんな急に……」
「カジロ様! 我ら祭司の一族は、長き神の不在の期間、ずっと教会の目を逃れて暮らしていたのです!」
「それでも多くの仲間が教会に殺されました」
「移動住居を使い、住む場所を転々とし……」
「まともに働くこともできず!」
「一族の者以外は信じることさえできず!」
「ですが、遂に我らの元へ神が帰還なされた! かくなる上は天罰によって、あの教会を焼き払い、神を貶めた背教者どもを血祭りに上げるのです!」
「「オォ――――ッ!!」」
威勢の良いタンカに次いで、鬨の声が上がる。
酒の勢いも手伝ってなのか凄まじい盛り上がり……とか言ってる場合じゃなくて!
なんとなくマズい予感。こいつら教会をぶっつぶすため&俺のためにバンザイ突撃しかねない。
いや、それで勝てるならいいんだけどアンヘルの話を聞く限りじゃ簡単にはいかなさそうだし、でもこの盛り上がりにどうやって水を差せば……
「不可能です」
冷たく言い放つ声にぎょっとしたが、俺の心の声じゃなく、ヒートアップする皆様への横やりだ。
誰かと思えば、物を食うどころか水すら飲まず、ずっと地蔵と化していたアンヘルだ。鼻眼鏡グラサンを外せば、人間らしさを感じない冷たい美貌の鉄面皮。
「このまま教会との戦闘に突入した場合、敗北の可能性が極めて高く、賢様の命が危険であると判断し警告致します」
全く空気を読まない機械的対応。こういう場面には持ってこいだ。
……しかし続いてアンヘルが語った言葉は、俺もショックを受けざるを得なかった。
「教会本部を攻撃可能なレーザーの銃口は全て、対神兵装である『