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【社説】

香港デモ長期化 「戒厳令」は火に油注ぐ

 香港行政長官が抗議デモを収束させるため、事実上の「戒厳令」発動を検討する考えを示したが、三十一日には大規模な抗議行動も予想される。強圧的な対応は火に油を注ぐ悪夢となりかねない。

 林鄭月娥長官は二十七日の記者会見で、「緊急状況規則条例」(緊急法)について「香港の法律を使い混乱を止める責任がある」と述べ、発動の可能性を示唆した。

 怖いのは、長官とその諮問機関が「緊急事態」と判断した場合、立法会(議会)の承認なしで「公の利益にかなう、いかなる規則も制定できる」という点だ。

 長官は、報道、ネット、集会などを幅広く制限でき、私有財産の没収さえ可能となる。

 議会の意向を無視した長官の独善的な判断にお墨付きを与えることになりかねず、民主派が「事実上の戒厳令だ」と反発するのは当然である。

 中国政府は、武力行使をちらつかせながらデモ隊への圧力を強めてきた。建国七十年を祝う十月までにデモを収束させたいとの習近平政権の思惑があろう。

 一方、中国の政治学者は「武力弾圧で国際的批判を浴びた天安門事件の苦い経験があり、武力行使の可能性は低い」とみる。

 こうした状況で、林鄭長官は「十月までの解決」の圧力にさらされ、武力行使に代わる沈静化策として「緊急法」を検討しているかもしれない。だが、その判断はデモ隊過激化の現状を見誤っているのではないか。

 八月中旬の百七十万人規模のデモは警官隊との衝突もなく、デモ隊は「和理非の初心忘れず」のスローガンを掲げた。

 「和理非」とは平和、理性、非暴力を指す。だが、「逃亡犯条例」の完全撤回やデモ参加者の釈放などの要求に香港政府は「ゼロ回答」を続け、失望した多くのデモ参加者が暴力を容認する強硬派に転じてしまった。

 八月下旬には鉄パイプをかざして襲いかかる若者らを威嚇するため、警官が空に向けて初めて実弾発砲する事態も起こった。

 民主的な選挙制度が確立していない香港で、デモは民意を示す有力手段である。それを香港政府が一方的に「暴乱」と決めつけ、警察力で抑え込もうとしたのが最悪の対応であった。

 状況は一段と厳しくなったものの、香港政府は対話の糸口を見つけるしかない。「戒厳令」は決して解決策にはならぬ。

 

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