アルベドさん大勝利ぃ!   作:神谷涼

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 アルベドさんがビクンビクンしている間にも、みんなは王国を侵食している!

 放置していた、外で活動中のみんなについて、そろそろ描写していきます。


22:一方、そのころ……(1)

 

「リイジーさん、お孫さんのためにも……私が守った村のためにも、どうかお願いいたします」

 

 銀の髪と髭が刃を思わす執事が、老婆に深々と頭を下げていた。

 彼の名はセバス・チャン。

 辺境の村を荒らす騎士たちから、戦士長ガゼフを救い。街道を荒らす『死を撒く剣団』を一人で壊滅させ。トブの大森林から現れたギガントバジリスクとて一人で倒した。城塞都市エ・ランテルでは知らぬ者なき英雄である。

 しかも、己の威を誇らず、平民や浮浪児にも優しい。まさに誰もが思い描く理想の英雄。

 

「おやめくだされ。厳しく言うたはあくまで、孫のためのこと」

 

 老婆は少し顔を赤らめつつも困った顔で、セバスに頭を上げさせる。

 見事な老い方をした異性の英雄には、彼女とて思わず心ときめかせてしまうのだ。

 何より、セバスが持ってきた赤いポーション。

 森林近くに住むという彼の“主”が見つけたポーションには、彼女も大いに関心がある。

 

「カルネ村には、私の弟子を残しております。そこいらのモンスターに遅れはとらぬはずですが……一人で村を守り切れるものではありません。魔法詠唱者(マジックキャスター)でもあるお二人に来ていただければ心強いのです」

 

 英雄にそう言われては、リイジーも……その孫ンフィーレアも誇らしく面映ゆい。

 

「は、はい! エン――カルネ村は必ず守って見せます!」

「…………」

 

 元気よく言い改める孫を、リイジーはため息交じりに横目で見た。

 優柔不断な孫は、村に行っても進展すまい……と。

 

「では、弟子にもどうかよろしくお願いをいたします。我が主たるモモンガ様が訪れは……しないと思うのですが、もしもの際にはくれぐれも失礼なきよう」

 

 モモンガについて、隠棲中の偉大な魔法詠唱者とだけ喧伝していた。

 事実は、いろんな意味で教えかねたし。

 デミウルゴスからも詳細は教えぬよう言われている。

 

「はい、セバス様も道中お気をつけて」

 

 年頃の娘のように顔を赤らめ、リイジーはセバスの手を取り、一礼して別れた。

 彼女をカルネ村に向かう決断をさせたのは……赤いポーションへの知的探求心のみであはるまい。

 うっとりとした顔でセバスを見送ると、まだ期待にぼんやりとしたままの孫を叱咤し、さっそくカルネ村移住の準備を始めるのだった。

 

(……彼らは生まれついての異能(タレント)でも、薬師の技術においても、良き影響を与えてくれるでしょう)

 

 満足しつつ、バレアレ商店を出る。

 若い二人の恋の仲介でもあり。

 ナザリックへの貢献ともなるのだ。

 下劣な悪党を屠るより、大いに好ましい、セバスにとって嬉しい仕事だった。

 

「おう、師匠。相変わらず妙な連中が遠巻きに見張ってるぜ」

 

 外で待ってた青い髪の剣士――ブレイン・アングラウスが言う。

 野盗『死を撒く剣団』を討伐した折、拾った男である。

 敗北の後、命乞いではなく弟子入りを望んで来たことから、生かして弟子入りを認めた。現地の強者はなるべく確保せよとの、モモンガの命令ゆえでもある。

 

「いつもの法国の連中でしょう。放っておきなさい」

 

 ニグンの陽光聖典を退けて以来、法国の風花聖典なる連中がセバスを監視していた。

 彼らの目的や内情は、既に隠密に優れたシモベらが調べ尽くしている。

 接触をとろうとする様子もあったが、避けていた。

 

「で、まだどっか挨拶しなきゃいけねぇのか?」

 

 振る舞いは粗野だが、己の腕を磨くべく一心に鍛える彼に、セバスは悪感情を持っていない。

 ナザリックに戻る機会があれば、コキュートスに任せてもいいかもしれない。

 

「……アインザック組合長殿に挨拶したら、この街を発ちましょう」

 

 首にはつけていないが、いくつかの働きをあげた後。

 ただの旅人扱いでは申し訳ないと、都市長と冒険者組合長から金級の冒険者プレートを与えられていた。

 実力ならばアダマンタイトでも文句を言う者はなかろうが、名誉としてのものであり、他の土地に行った際に最低限の身分の証として――と聞けば、断るものでもなかった。

 彼らとしては、エ・ランテルに囲い込みたかったろうが。

 禁欲的な老修道僧(モンク)に、欲望での誘いはなかった。

 セバスは――ついでに言えばブレインも、そのストイックさから人々の尊敬を勝ち得ていたのだ。

 街を発つのも王都に向かうためであり、戦士長に会いに行くと言われれば、止めもできまい。

 

(この街は比較的健全と聞いてもいます。既に他の都市の“掃除”は進んでいるそうですが……そのチェックもまた、執事としての仕事でしょう)

 

 本来ならばもっと早く王都に至っていたはずだが。

 『死を撒く剣団』との遭遇から、ンフィーレア確保に至る中……思わぬ長居をしてしまった。

 デミウルゴスたちは既に相当数の貴族や犯罪者を拉致したと聞く。

 たとえ彼らを撲滅しようとも、些細な問題に悩む人々はいくらでもいるだろう。

 モモンガから与えられた指示は、受け継いだ創造主の魂の示すままに、だ。

 困っている人は、助けなければならない。

 

(ふふ、この広い世界自体をナザリックと思えば、為すべき仕事は絶えませんね)

 

 上機嫌で、ブレインを連れてセバスは歩み始めた。 

 道行く人々が彼を眩しそうに見、また深々と礼をしてくれる。

 空の太陽と共に、人々の顔も、セバスには輝いて見えていた。

 

 

 

「いやはや、申し訳ない王女殿下。我らの主の事情により、少々計画が前倒しとなった様子」

「いえそのような。次の段階については聞いておりませんでしたが……やはり、父上を?」

 

 申し訳なさげな声の主へと、リ・エスティーゼ王国第三王女ラナーは丁重に応じる。

 

「はい。今夜中に、苦しまず逝去いただきます」

「ザナック兄様の継承は問題ありませんが……私はどのように身を振れば?」

 

 父の死について特に思う所はないが……王女のまま、他の貴族に降嫁させられたりしては困るのだ。

 事前の契約ゆえ、そんな展開はあるまいが。

 彼らの桁違いの戦力と人材を思えば、うっかりで忘れられかねない。

 

「いくつかの候補がございますが、我らの主による決定次第ですな。王女殿下には相当の協力をいただき、その才覚は我らも高く買っております。お望みに反する結果はありえぬでしょう」

「ならばよろしいのですが……」

 

 多数の貴族が行方不明となった今、未曽有の人材不足が起きている。

 王族からもバルブロ王子を代表に、幾人かが消えた。

 臨時的に統治を引き継いだ者も、少なからず行方不明になっているという。

 彼らは愚かで無能だったが、少なくとも文字を読めたし、字も書けた。

 地方において、王国の識字率は低く。

 教育水準は無論、統治知識を持つ者も少ない。

 王族だからと、ラナーが思わぬ地位を与えらえる可能性もある。

 

「不安ですかな? 殿下を信頼して私個人からなら、希望的観測をお教えもできますが……決定を下すは我らが主たるモモンガ様。ぬか喜びをさせてしまうやもしれません」

「いえ、それでもいくつかの予定を教えていただければ、私も心づもりができます」

 

 憶測程度でも、ラナーとしては彼らの情報が欲しい。

 脅迫など無意味だが……自身の計算材料が必要なのだ。

 

「では、ラナー王女殿下。継承の混乱時、想い人と駆け落ちしていただくやもしれません」

「えっ」

 

 それは驚きの声ではない。

 病的なまでの歓喜の声だ。

 

「手引きはお任せあれ。我らが主モモンガ様は、殿下と良き友になれるでしょう」

「まあ……本当にそうなれば、なんと素敵なことでしょう!」

 

 昏い笑みを満面にたたえたまま、ラナーは身をよじらせる。

 

「まだ決定事項ではありませんぞ」

「それが真実であり、私の望む生活が保障され続けるならば……私はモモンガ様に絶対の忠誠を誓います!」

 

 窘める声にも、ラナーの喜びは止まらない。

 

「喜ばしいことですが。おそらく、主は殿下に服従よりも友情を望まれるでしょう。我らでは主の心を計りきれませぬからな。いかな結末であれ、我輩は主の友として殿下を迎えたく思っております」

「……?」

 

 首をかしげた。

 これだけ暴力的に王国を蹂躙し、粛清した勢力が支配を望まないとは。

 ラナーにも、なぜ友たることを望まれるかわからない。

 知性が欲しいなら、あのデミウルゴスという悪魔やパンドラズ・アクターなる異形で十分なはずだ。あれらの知性はラナーと同じかそれ以上だったのだから。

 他に己にだけあるものとは何だろうと、首をかしげる。

 

「さて……我輩は今夜の分を眷属に与えに向かいますが。殿下は休まれますか?」

「いえ。この指輪のおかげで、私も夜通し起きておられます。よろしければ、私もご一緒させてくださいな」

 

 椅子を立ち、ぴょんと床に降りたったそれ――恐怖公。

 ラナーは病んだ笑みのままに、彼に付き従う。

 寝食不要の効果を持つリング・オブ・サステナンスは、ラナーに最初に与えられた褒賞だ。

 無能な貴族と王族をリストにして渡すだけで与えられるには、破格の品と言っていい。

 

「ふふ、女性の方で我輩とその眷属に心安くしてくださるとは、つくづく珍しい。我輩からも、殿下についてはよくなさってくださるよう申し上げておきましょう」

 

 上機嫌で、恐怖公が床の一角を錫杖で示す。

 昆虫の森祭司(インセクト・ドルイド)の能力で造られ、隠された“巣穴”――第二の黒棺(ブラック・カプセル)が現れる。

 貴族が多く行方不明になる中、メイドの幾人かが行方不明となっても気づく者とて少ない。

 

「彼女は私のクライムに随分と陰口を言っていましたからね。しっかりと罰を与える様子を確認したいのですよ」

 

 魔法で仮死状態になったメイドが、無数のゴキブリの中に埋もれていた。

 グロテスクな笑みを浮かべるラナー。

 恐怖公が音を遮断し、食事を再開させ始めた。

 

(本当に、モモンガ様と良き友となれるでしょう。我輩の身もよく活用くださる……この地では最高級の人材と保証できますな)

 

 監視役と連絡役を兼ねた恐怖公を、ラナーは不満も言わず迎え入れた。

 眷属を使った情報収集に彼女は心から感服し、二人で行って来た工作活動は、デミウルゴス達の期待以上だったろうと自負している。

 ラナーの持つ、モモンガと同じ狂愛を知るにつけ、恐怖公は彼女をモモンガの友にと推挙もした。心情的にも、彼女の味方と言える。

 

(このような出会いも、本来ならば一領域守護者であった己を地上活動に選んでくださったモモンガ様のおかげ。彼女とモモンガ様に友となる機会を与えるよう、我輩もさらなる尽力をせねば)

 

 ラナーの歪んだ笑みを暖かく眺め、頷く恐怖公であった。

 




 デミウルゴス、パンドラズ・アクター、アウラ、マーレ、ユリといった面々の現状も書くつもりでしたが、二人書いたらそこそこの量になったので、この二人で区切ります!

 一度はエ・ランテルを出たセバスですが、死を撒く剣団と出会って戻り。
 そのままンフィーレアのタレントを得るため確保優先。
 (拉致すべき対象でもないし、拉致すると騒ぎになるので勧誘)

 王国は今、貴族の大半が拉致されて人材ジェンガ状態です。
 しかも、臨時で当主代行みたいに始めた貴族も、ダメだと判断されると拉致されます。
 領地放棄して逃げ出しても、拉致されます。
 汚職官僚も裏社会も拉致されてスカスカです。
 ラナーは原作と変わりありませんが、恐怖公とがっつり友情育んでます。
 ゴキブリとか平気なラナーは、完璧な貴族で情報収集超得意な恐怖公といいコンビだと思ってます。

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