第127話 茶菓子とのんびり終了
山場のない日常編にお付き合いください。
あ、この話で8章は終わりです。良い感じのタイミングで章が切り替わりますね。
俺に『普通』と言われて消沈していたサクヤが復活を果たした。
「お兄ちゃんにリップサービスを期待したのが間違いね……」
「仁殿に雑に扱われて……サクヤ殿が羨ましいのだぞ」
サクヤが若干凹んだ顔で呟くと、精神的ドMのトオルが頭の悪い事を口走る。
レナとミーア以外の面々がトオルの発言に引いていないと言うことは、すでに周知の事実となっているのだろう。イズモ和国、大丈夫か?
「なら、代わってくれる?」
「是非に」
「……………………」
即答するトオルを見て、流石のサクヤも少し固まる。
「……ゴメン、やっぱ無し。コレもお兄ちゃんとのコミュニケーションだから」
「無念なのだぞー……」
本当に無念そうに肩を落とすトオル。
サクヤも弄られて喜んでいるのだろうか? ……変態?
「相手がお兄ちゃんだからだよ?勘違いしないでね?」
俺の表情を読んだサクヤがツンデレっぽいセリフで釘を刺してくる。
どうやら、カスタール女王国のトップは変態では無いようだ。
後、ツンデレポジションはそこにいるブルーとキャラ被りなんだよ。
ブルーは正しい意味でのツンデレで、1度デレた後はツンに戻らないが……。
「ただ、ある程度手加減してくれると助かります」
「余には手加減はいらないのだぞ!」
弄るのをOKと思わせるような発言をした後なのに、若干ヘタレるサクヤである。
対するトオルはドンと来い!と言わんばかりである。
手加減不要と言われたら、流石の俺も本気を出さざるを得ない。
と言う訳で、トオルに対して手加減抜きの<恐怖>を発動する。
「あばばばばば……」
たった3秒のスキル発動でトオルの顔は年頃の女子がしていい顔ではなくなっていた。
恐怖と快感の入り混じった、18禁な顔である(トオルは14歳)。
「お、お兄ちゃん。お茶会の席で、それは止めて……」
トオルの様子から何が起きたのかを察したサクヤが、嫌そうな顔をして俺の方を見る。
うん。食べたり飲んだりする席ですることじゃなかったな。
「<
ルージュがそう言って周囲を見渡す。
「だ、大丈夫なのだぞ……。こ、こんな事もあろうかと、オムツを穿いてきたのだぞ」
「それは大丈夫とは言わないと思います」
全身の力が抜け、椅子にぐったりともたれかかっているトオルが、自信満々に宣言する。
横でそれを聞いたカトレアは、首を横に振ってすぐさま否定した。
「こんな事もあろうかと、って一体お茶会の席に何を期待してきているんだ?」
「1度くらい、仁殿に甚振ってもらえるチャンスがあると思ったのだぞ……」
そして、そのチャンスを見事ものにしたと言うことか。
アホか。
「トオルお兄様だけでなく、私も準備は万端ですの。肉体的に甚振って欲しいですの」
双子の妹、カオルも同じくらいのアホだった。
「仁様、彼女達は何を仰っているのでしょうか……?」
双子の性癖を知らないレナが、見て分かるレベルで引きながら尋ねてくる。
横にいるミーアはポカンとした表情でそれを眺め、再びお菓子を口に運ぶ作業に戻った。
「そう言う趣味の人間もいる。それだけだ」
「は、はぁ……。世の中って広いんですね」
理解は出来ていないようだが、ひとまずは納得したようだ。
願わくば、レナが変な趣味に目覚めませんように。
「カオル。そんなに痛いのが好きなら、後で魔剣を貸してやるよ」
「お兄ちゃん、まさか……」
何かに気付いたサクヤが、顔を青くする。
「魔剣?どんな効果ですの?」
「『魔剣・エターナルペイン』。それを刺すと激痛が身体を襲い、でも死ぬことはないと言う効果がある。お前にピッタリだろ?」
「やっぱり……」
『魔剣・エターナルペイン』にトラウマのあるサクヤが呟く。
「それは素敵な効果ですの。ぜひ、お貸しいただきたいですの」
俺も半分冗談のつもりで行ったのだが、カオルはこれを快諾。
双子の業の深さに慄くこととなった。
余談だが、この2日後にカオルから『魔剣・エターナルペイン』が返却された。
曰く、『ここまでとは思っていなかったですの。痛くて気持ちよかったのは最初だけで、後は死ぬほど辛かったですの。私、長期的な痛みは駄目見たいですの……』とのことだ。
「仁様、お茶のお代わりは如何でしょうか?」
「ああ、頼む」
俺のお茶が無くなったのを見計らい、メイド達がお茶のお代わりを淹れる。
トオルは一旦席を外し、オムツを履き替えてきた。もうワンチャンを期待しているらしい。
「今更ですけど、このクッキー美味しいですね。いえ、それ以外言いようがないくらい本当に美味しいですね」
お茶を飲み、お菓子を食べていたレナがお茶菓子であるクッキーを食べて呟いた。
お茶会が始まってから静かだとは思ったが、ずっとクッキーに舌鼓を打っていたらしい。
「ニノちゃん、お菓子の説明してくれる?」
「わかりました。はい」
サクヤに促され、ウチの料理メイド筆頭、ニノがクッキーについて説明を始めた。
「小麦粉、砂糖、バター等の基本的な材料は迷宮にある農場・牧場から貰って来たのです、はい」
「私達が命がけで戦っている下の階層にそんなモノが広がっていると言うのは、いつ聞いても呆れることしかできないな……」
探索者をしているルージュからすれば、50層以降の有様は腑に落ちない物があるらしい。
「じゃあ、食べるのを止めるのだぞ?」
「……いや、食べる」
トオルに聞かれ、迷った挙句にルージュは食べることを選んだ。
食べることを選んでしまった以上、文句を言うことは許されない。
「続けますね。はい。これらの食材はどれも最高級品です。最近ではドリアードのミドリさんも迷宮の方に来ていただいており、土に栄養を与えてくれています」
最近、ドリアードのミドリを屋敷の中で見かけないな、と思っていたが、迷宮の方に行っていたのか。
A:屋敷に人が増えて落ち着かなくなってきたので、迷宮の方に拠点を移したようです。秘薬の生成はノルマをこなしています。植物系の魔物故に、いるだけで栄養を循環させるのに一役買っています。食材の味にも多少の影響を与えています。
屋敷に居てものんびりしているだけだし、迷宮ならばいるだけで役に立つと言うのなら、その方が良いのは間違いがない。ミドリ、ニート気質だし……。
「それと言うのも、卵があまりにも高級品なので、それに見劣りしないようにするのに必死なのです。はい」
「卵は何の卵なんですか?」
屋敷に来ることが無く、屋敷内で普段何の卵が使用されているのかを知らないレナが尋ねる。まあ、アレの事です。
「ハーピィの卵です。はい」
「ハ、ハーピィの卵!?」
この世界では王侯貴族でも食べられないハーピィの卵が大量にあるのである。
正しい意味で『売るほどある』ので、クッキーに使う分程度は余裕で賄うことが出来る。
ちなみにハーピィ娘達は現在、卵を産む以外はかなり自由に生活している。
人化してメイドをやっていたり、人化して傭兵団に入ったり、卵を産む以外は食っちゃ寝をしていたりと様々である。最後の
「そ、そんな高級食材が……」
「シンプルなお菓子ですが、素材を厳選し、<料理>スキル持ちが作ったクッキーです。はい!多分、1枚で一般的な貴族の月の収入が軽く消し飛ぶのです。はい!」
「あわわわ……」
一応は王族だが、レナはハーピィの卵を食べたことはなかったようだ。ナルンカ王国はそれほど大きな国でもないし、そこまでの高級品は出回っていなかったのだろう。
今までは普通に食べていたのだが、急に宝石でも取り扱うかのように丁寧に扱い始めた。
……しかし、食べるのは止めない!
ちなみに
後ろのメイドが手帳に減点を記載しているのが見える。……強く生きろ。
「まあ、カスタールにはアドバンス商会経由で少しではあるけど、流通しているのよね」
「エステアも同じです」
カスタール女王国とエステア王国は俺のホームグラウンドみたいなものだから、様々な面で若干の優遇をしている。
その内の1つがハーピィの卵の流通だったりする。
「ナ、ナルンカ王国にも是非!」
「イズモ和国にも欲しいのだぞ!」
「ですの!」
優遇のないナルンカ王国とイズモ和国の王族が必死になる。
元エルディア王国のミーアは我関せずと言った具合だ。実質王族扱いじゃないから、国内の流通に興味はないのだろう。
「国を離れている私には関係が無いな。仁様の屋敷で私達が食べる分があればいい」
「私達も同じね。流石に秘境の全員分を賄うのは無理だし、対価となる物も用意できないだろうし……」
「ご主人さまの元に来れて良かったのですよー」
国を離れているルージュ、『
「今、他の国に流すほどハーピィの卵って余裕あるのか?」
「残念ながらありません。はい。販売中の国に回す分を減らせば……」
「却下ね」
「それはダメです」
俺の質問に答えている料理メイドのセリフをサクヤとカトレアがぶった切る。
「需要が増えたのなら、供給を増やすのが1番の解決策だよな」
「お兄ちゃん、どうするつもりなの?」
「ハーピィを追加でテイムすればいいんじゃないか?」
ハーピィの卵が足りないのなら、ハーピィをテイムすればいいのである。
卵目的でテイムされるハーピィが若干憐れだが、気にしたら負けである。
「簡単に言うけど、アテは有るの?」
「ハーピィのいた森に行けば、ハーピィの数匹くらいなら何とかなるんじゃないか?」
確かショコラ達ハーピィが住処にしていたのはエンデ山とか言ったか。
「じゃあ、ちょっとテイムしてくるか」
「え?お兄ちゃん、まさか今から行くつもり?」
「善は急げと言うヤツだ」
1人で行動すると泣かれるので、念のためマリアを呼びだし、『ポータル』でエンデ山へと転移する。
「きゅいーーーー!?」
5分後。
俺と共に転移してきたのは、ハーピィ21匹とハーピィ・クイーン1匹だった。
ハーピィ・クイーンは俺の腕に胸を押し付け、スリスリと頭を擦り付けてきている。
どうやら、俺はハーピィ・クイーンに懐かれる性質のようだ。
「お兄ちゃん、帰ってくるの早くない?」
「お茶会の途中だからな。巻きでテイムしてきた。これだけいれば、ハーピィの卵には不自由しないだろう?」
後ろのハーピィ達がきゅいきゅい鳴いている。どうやら、任せろと言っているようだ。
「十分かもしれないけど……。そのハーピィ・クイーンどうしたの?」
「どうやら、俺が灰色の世界に転移したときの全滅ボーナスがハーピィ・クイーンだったみたいで、またハーピィの森になっていたんだよ。ショコラの時よりは小規模だったけどな」
サクヤの質問に答える。
全滅ボーナスで強力な魔物が生まれると、魔物の領域自体がボーナスと同じ系統の魔物で溢れやすくなる。
ショコラに引き続き、ハーピィ・クイーンが産まれたので、再びハーピィの森になったと言う訳だ。他の魔物よりも利益率が高いので、俺としては美味しい結末である。
そう言えば、
A:ハーピィ・クイーンは強敵なので、後回しにしていたようです。
一応、戦う予定ではあった訳だ。
まあ、放置している以上、他の奴に持って行かれるのも仕方のない事だよな。
「きゅいきゅい」
「ショコラって誰?ああ、お前の先輩のハーピィ・クイーンだよ」
「ぎゅい!?」
ショコラの存在を知り、驚愕するハーピィ・クイーン。
「きゅい!」
「今なら、この屋敷にいるみたいだぞ。訓練場だな」
「きゅう!」
ショコラの居場所を聞かれたので答えたら、『どちらが上かはっきりさせてやる』と言って出て行ってしまった。
「他のハーピィ達は先輩の指示に従えー……」
「きゅいー」×21
ハーピィ・クイーン以外は大人しく指示に従い、呼び出したハーピィ達にぞろぞろと連れられて行った。
こうして、イズモ和国とナルンカ王国にも、少量ではあるがハーピィの卵が流通することになった。もちろん、アドバンス商会経由である。
ハーピィの卵を巡り、各地の大商会との激しいやり取りがあったらしいが、それはまた別のお話。
しばらくして、ショコラが新入りのハーピィ・クイーンを担いで部屋に入って来た。
新入りの方はボロボロにされ、ぐったりとした状態になっている。
「主人、コイツは一体何なのだ?急に現れて勝負を挑んできたから、軽くのしたのだが……」
『軽く』と言うのに間違いはないようで、ボロボロになっている割にダメージは多くない。
いつの間にか、ショコラも手加減が出来るようになっていたようだ。感心感心。
「きゅうー……」
「誰が年増だ!このひよっこ風情が!」
新入りのハーピィ・クイーンは生まれてから1月も経っていない。
齢400年のショコラから見れば赤ん坊以外の何者でもないだろう。
ハーピィなのに『ひよっこ』、『ヒヨコ』と言うのは、笑っても良い場所なのだろうか?
「俺がテイムした魔物だよ。エンデ山にハーピィをテイムしに行ったらいたから、ついでにテイムしてきたんだ」
「きゅうー!?」
「『私、ついでなの!?』だと?当然だろう、主人には既に私がいるのだからな」
まあ、ハーピィだけテイムして、ハーピィ・クイーンを倒す気にもなれなかったからな。
それに、ハーピィ・クイーンの卵は値段の付けられないくらいの高級品だし、倒すには惜しすぎる相手だろう。
「私と言うものがありながら、態々ハーピィ・クイーンをテイムした主人に物申したい気持ちはあるが……。テイムしてしまったものは仕方がない。今更殺せとは言えないからな」
「1度配下に加えた以上、そんな事をする訳が無いだろう」
「きゅいー」
『良かったー』と言っているようだ。
「それで、コイツはどうするつもりなのだ?」
「生まれて間もないみたいだし、経験が不足しているだろうから、しばらくは屋敷や迷宮で訓練と勉強かな。ショコラ、ハーピィ・クイーンの先輩として、教育を頼んでもいいか?」
同じ種族の先輩なのだから、教育係としてこれ以上の適任はいないだろう。
「わかった。しばらく私の部下扱いで鍛えてやろう。……ただ、主人に卵を捧げるのは私の仕事だからな」
「きゅう!?きゅ、きゅいー!」
「『3日に1度は私の番にして欲しい』だと?調子に乗るな。悔しかったら、私以上に主人の役に立ってから言え」
「きゅうう!!!」
『絶対に負けないから!!!』と叫ぶ新入りハーピィ・クイーン。
そのまま、ショコラに連れて行かれる。
後、ハーピィ・クイーンだけには名前を付けました。『モカ』です。
お茶会はその後もつつがなく進んだ。
サクヤが最初に接待と言ったのも、ある種の冗談だったのだろう。
正直に言って、接待されている感覚はない。
「結構時間が経ったし、もうちょっとでお開きの時間かな……」
「そうですね。では、そろそろお呼びしてきましょうか」
サクヤの発言に頷いたカトレアが部屋を出て行った。
マップで行き先を確認すると……なるほど。確かに貴族っぽいお茶会だな。
しばらくして、部屋に現れたのは10数名のメイド達だった。
彼女達は皆楽器を抱えて部屋に入って来た。そう、彼女達はお抱えの音楽隊である。
リーダーである元公爵令嬢のフィーユ、吸血鬼から人間に戻ったミラ、元暗殺者など、そこそこ面白いメンバーによって構成された音楽隊は、現在エステア近辺で鋭意活動中なのである。
フィーユの才能のなせる業か、メンバー全員が高いレベルの演奏技術を誇るようになっているらしい(又聞き)。
今やエステア随一と言われる音楽隊であり、結構な稼ぎを叩き出していたりもする。
ほら、音楽鑑賞って貴族の趣味だからね……。
一応、この場には各国の王族が集まっているのだが、音楽隊のメンバーは誰1人として緊張した様子を見せずに音楽を奏で始めた。
落ち着いて彼女達の音楽を聴くのは久しぶりだが、以前とは明らかに違っていた。
以前はフィーユありきの音楽であり、他の者の奏でる音はフィーユを引き立たせるための飾りでしかなかった。
他のメンバーとの実力差が開き過ぎていたため、どうしてもフィーユの演奏しか耳に入らなかったのだ。
しかし、今の演奏はそうではない。
全体の調和がとれていて、その上でフィーユを主役に据えているのが分かるのである。
フィーユが他のメンバーより上にいるのは同じだが、その間の距離が明らかに縮んでおり、『フィーユの演奏会』ではなく『音楽隊の演奏会』として形になっているのだ。
そう、この感動を一言で表すと……『とても良かった』である。
感想が小学生である。
演奏が終わり、大きな拍手と共に音楽隊は退場していった。
お茶会の締めに演奏会とは、中々に洒落たことをしてくれる。
「さて、演奏も終わったことだし、お開きにしましょうか」
「そうですね。皆様、本日はお忙しいところお集まりくださり、ありがとうございました」
そう言って、サクヤとカトレアが締めに入る。
「楽しかったですの」
「また呼んで欲しいのだぞ。同年代の友人は初めてなのだぞ」
「お姉様、恥ずかしい内情を公言しないで欲しいですの」
「スマンのだぞ」
イズモ和国の双子が悲しい宣言をする。
「ま、まあ、王族に同年代の友人なんて簡単には出来ないですよね……」
「ああ、仲の良い臣下はいるが友人となると……。くっ……」
「わ、私にはさくらちゃんがいるからね」
カトレア、ルージュ、サクヤにも流れ弾が当たる。サクヤだけは踏ん張った。
カトレアの言う通り、王族に親しい友人がいないのも当然と言えば当然である。
なお、レナとミーアもそっと目を逸らしている。
お前達もか……。
「人間の王族って、友達も作れないんだ」
「悲しいですねー」
我関せずなのは
族長候補とは言え、友人関係は普通にあったようだ。あれ?ドーラの交友関係はついぞ聞かなかったけど……。
悲しい答えしか返って来なさそうなので、俺は考えるのを止めた。
「よく考えたら、私もお兄ちゃん関連以外で友人いないや……」
先ほどはさくらが友人と言っていたサクヤだが、冷静に考えたら俺関連以外の友人は思いつかなかったようで、がっくりと項垂れていた。
かくして、
「そ、それで、今日は親睦会の側面が強かったんだけど、今後はもう少し各国の事情に踏み込んだお茶会をしようと思うの。皆も参加してくれる?」
気を取り直してサクヤが参加者達に尋ねる。
「もちろんなのだぞ。友人との集まりには積極的に参加するのだぞ」
トオルの発言に同調したように他の参加者達も頷く。
先程の友達いない宣言が効いているのかもしれない。
「最後に、今日のお茶菓子をお土産としてお渡し……」
「それは本当ですか!」
カトレアが最後まで言い終わる前にレナが身を乗り出した。
そんなに
「え、ええ。小袋に分けた物を1人1つお渡しします」
「……2つ貰うことは?」
「ご遠慮願います」
その場で膝をつくレナ。
ウチのメイド達の料理や菓子は、王族に対して良く効く。
お茶菓子を配り、解散となったところでサクヤが話しかけてきた。
「お兄ちゃん、今日は楽しかった?」
「ああ、中々に楽しかったぞ」
「そう、それなら招待した甲斐があったわね」
あまり経験のないタイプののんびりだが、偶にはこういうのも良いだろう。
各国の美姫に囲まれ、最高級のお菓子を摘まみ、エステア王国最高レベルの演奏を聴くお茶会。……随分と贅沢をしているなぁ。
屋敷で夕食を食べていると、出かけていたミオとセラが帰って来た。
セラはエルガント神国に行く用の騎士装備、ミオは
「おかえり。武器の使い心地はどうだった?」
「ええ、かなり使いやすかったですわね。若干、軽いとは思いましたが、しばらく使っていたら慣れましたわ」
セラは普段の装備が重量級だから、軽い武器はあまり慣れていない。
とは言え、あくまでも慣れの問題なので、既に克服済みのようだな。
「鎧の方はどうだった?」
「身体に合わせるためにミミさんに何度か調整をしてもらいましたわ。その後は、着けている違和感が完全に無くなりましたわね」
「剣、鎧共に問題なしだな。それじゃあ、次はミオだ」
俺がミオの方を向いて促すと、ミオがコクリと頷いた。
「ミオちゃんの方は、思っていた通りに自動追尾がチートだったわ」
「凄かったですわよね。森の外から、森の中にいた魔物を一掃するのですもの。それも、森自体には一切の被害を出さないで、ですからね」
「それは凄いな。俺が似たような事をやろうと思ったら、確実に森は消滅しているぞ」
森の外から、森に被害を出さず、森の中の魔物だけを殲滅。
俺の場合、『森に被害を出さず』がネックですね。
「自分でやってて驚いたわね。殲滅戦におススメよ」
「『
「うん、微妙に遅いわよね……」
がっくりと肩を落とすミオ。
殲滅戦の機会自体はいずれあるだろう。
しかし、『千を越す魔族の軍団』とか、『万を越すドラゴンの群れ』に匹敵する殲滅戦がこれからあるのだろうか?疑問である。
「ま、まあ、殲滅戦の機会があったら、ミオちゃんが頑張るからそこんとこよろしくね」
「ああ、期待しているよ」
殲滅戦に限らなくても無駄になる効果ではないので、今後のミオの活躍には期待である。
それにしても、マップと自動追尾のコンボって、暗殺向きすぎる効果だよな。もちろん、ミオにそんな事をさせるつもりはないが……。
「ん?よく見たら何でミャオがご主人様の足にすり寄ってるの?」
そこで、ミオは俺の足元にいるミャオを発見した。
「いや、しばらくモフモフしていたら、俺から離れなくなっちゃって……」
流石にお茶会の席に猫(っぽい生き物)を連れて行く訳にもいかなかったので引き剥がしたが、それ以外の時間は常にすり寄って来ていた。
その目にはハートマークが浮かんでいるようである。
ミオはミャオに近づいて手を伸ばす。
「おいで、ミャオちゃん。ご主人様よー」
「みゃうーん……」
しかし、ミャオはその手を尻尾で弾く。
「『もう少しこのままでいさせて』? ね……」
「ね?」
ミオが絶望的な表情で呟く。
「寝取られたー!」
ミオの酷く失礼な叫び声が屋敷中に響き渡る。
その後、ミオが土下座で懇願してきたので、ミャオを軽く威圧し、俺の事は『愛しいけど恐ろしい人』と思うように調整した。
時々すり寄ってくるけど、べったりと言う程ではなくなった。
のんびり17日目。
お茶会から2日が経ち、サクヤからエルガント神国に出立すると言う連絡が入った。
どうやら、のんびり過ごすのはお終いのようだ。
8章関連は2017年中に終わらせたい気持ちになったので、12/31の0時に登場人物紹介と短編1本出します。
9章は1/10に開始予定です。神国に行くのか?行けるのか?