挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界転移で女神様から祝福を! ~いえ、手持ちの異能があるので結構です~ 作者:コーダ

第8章 配下編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました
185/264

第126話 セラの騎士装備とお茶会

短編みたいな内容ですけど、長くなり過ぎたので本編にねじ込みました。

ほぼ会話パートです。配下編なのに出番のなかった連中をまとめてドバー。

 のんびり14日目。

 黄龍ファンロンとの戦いから一夜明けた。


 あの後、地上に戻った俺達は手伝ってくれた配下達を労い、屋敷へと戻って行った。

 手伝った配下達に何か報酬を渡そうとしたのだが、「下僕しもべが主人のために力を尽くすのは当然のことです」と言われ、あっさりと固辞されてしまった。


 代わりに要求されたのが、配下達との食事会パーティだった。

 要求、と言うと人聞きが悪いので補足すると、もしよろしければ、と頼まれたのである。


 ちなみにパーティのタイトルは『祝・黄龍ファンロン討伐』である。

 手伝ってくれた褒美の側面もあるのに、明確に俺が主役のパーティだった。

 なお、ミオも黄龍ファンロンを討伐した側だったので、ミオ作の料理はなかった。


「むむ、これ、かなり美味しいわね。誰が作ったの?美幸さん?……やるわね」


 魔族から人間に戻った成瀬母娘の母の方、美幸の作った料理をミオも絶賛していた。

 曰く、<料理>スキルの補正が無ければミオと同等レベル、だそうだ。

 俺も食べてみたが、相当に美味かった。流石、元シングルマザーである。……この場合、『元』を付けていいのか悩む。


 今回も可能な限りパーティ参加者に話しかけるようにしたけれど、流石に全員と言う訳にはいかなかった。

 他のタイミングで会話をしたことが無い配下に、優先的に話しかけるしかなかった。

 信者メイド的には、もっと頻繁にパーティを開いて欲しいそうだ。


 配下の人数がとんでもなく多くなっているので、『配下全員と話をする』と言う、かつての目標は既に達成不可能になっているのである。

 流石の俺も6000人以上は無理です。


 パーティはそれ程遅くまでは続かなかったので、本日の目覚めもパッチリである。



 朝食の席でミミから報告があったのだが、今朝方セラの分の装備が完成したらしい。


 朝食後、俺とセラ、マリアの3人で鍛冶場へと向かった。

 さくらとドーラは別件でお出かけだそうだ。ミオは単について来ていないだけだ。


「セラさんの……、装備が……できました……。試着を……お願いします……」

「わかりましたわ。予想通り、ご主人様の装備と比べると、格が落ちるのですわね」

「申し訳……ありません……」


 ミミに促されて騎士装備を見たセラが呟いた通り、セラの為に打たれた装備は伝説級レジェンダリーであり、俺の分の幻想級ファンタズマからは一段落ちる。

 見た目は俺の装備とそっくりなのに、性能だけが落ちているのである。


「仁様の……装備と……同じようには……出来ませんでした……」

「それは仕方ありませんわね。ミミさんにとっては、ご主人様が第1優先なのは当然ですし……。そもそも伝説級レジェンダリーでも、正体を隠すための仮の装備としては過剰すぎるくらいですわ」


 材料や手順は同じはずなのに、完成品の質は大きく変わってしまったそうだ。

 俺の装備を作っていた時は精神が昂っており、精神的な影響を受ける<聖魔鍛冶>が最高のパフォーマンスを発揮した結果、幻想級ファンタズマ装備が生まれたと言っていた。

 俺の指示とは言え、セラの装備を作っているだけではそこまでは至らなかったようだ。


 もちろん、これに関して言えばセラも承知の上だ。

 セラも言っていた通り、正体を隠すための装備としては伝説級レジェンダリーでも過剰なくらいだからな。


「とりあえず、着てみますわね」

「お手伝いいたします」


 セラがマリアの手を借りて騎士鎧を着ていく。

 がっちりとした全身鎧を着た経験はないようで、意外と手間取っている。


「やっと……着終わりましたわ。結構、面倒ですわね」

「私達は普段、付けても軽鎧がせいぜいですからね」


 ヘルムまで装備して、若干くぐもった声のセラが言う。

 セラは長身でスタイルがいいので、全身鎧を装備すると凄くさまになる。

 正直に言えば、俺よりも似合っていると思う。

 少なくとも、俺よりも『救国の英雄感』がある。


 余談だが、セラの装備には俺と違って盾が含まれている。そのせいで余計に俺よりも装備が豪華に見えるのである。

 俺、基本盾とか使わないから。片手が自由にならないのが嫌なんだよね。


「1度着てみたら着けている感覚がほとんどないですわね。かなり自然に動けますわ」


 セラは軽く身体を動かして、装備の着け心地を確かめる。

 軽く剣を振り、手に馴染ませる。セラにしては珍しく、普通のサイズの剣である。

 いや、女王の護衛である騎士が、屋内で振り回しにくい大剣装備とかありえないだろう。


 ロールプレイを決めたのなら、徹底的に成り切るべきだろう。

 遊ぶのなら、その遊びに全力を尽くすべきである。


「どうする?昨日の俺みたいに装備の慣らしに適当な魔物でも退治に行くか?」

「そうですわね。折角だからこの装備で戦ってみますわ。大物を退治するのではなく、小物で数をこなそうと思うのですが、ご主人様はどうします?」


 セラに問われて考えてみる。


「うーむ、昨日ガッツリ戦ったから、今日は屋敷でのんびりしていたいんだよな。数をこなすとなると、あんまり面白い相手もいないだろうから、今日は止めておくよ」


 セラが戦うのを見学するのは嫌ではないが、雑魚相手の慣らしを延々と見続けるのも気が乗らない。特に、昨日大物の相手をしたばかりだから余計にである。


「わかりましたわ。ミオさんでも誘ってみることにしますわ」

「私も……ついて……行きます……。使い難かったら……言ってください……」

「ありがとうございます。助かりますわ」


 ミミも自分の作った装備に関して妥協するつもりはないようで、セラと同行することを選んだ。


「そう言えば、何故ミオを連れて行くんだ?」

「え?ミオさんも昨日新しい装備を手に入れたからですわよ」

「ああ、そうだった。普通に忘れてたよ」


 黄龍ファンロンに止めを刺したミオの武器も神話級ゴッズになっていたよな。


神話級ゴッズの装備でも、ご主人様にはその程度の印象なんですわね……」

「早く……創世級ジェネシスを……作らないと……」


 セラが呆れたように言い、ミミは何故か決意を込めた様に真剣な表情をした。



 セラ、ミオ、ミミが出かけるのを見送った後、俺はとある部屋へとやって来ていた。


 この部屋は『モフモフ部屋』と呼ばれ、俺が獣人や獣系の従魔を呼んでモフモフするためによく使われる。

 のんびりの代名詞と言えば、やはりモフモフだろう。


「と言う訳で、ミオから借りてきたミャオだ」

「みゃうー……」


 ミャオが俺に抱えられた状態で不機嫌そうに鳴いていた。


「その仔もモフモフをするのですか?何だか、不機嫌そうに見えるのですけど……」

「『どうせアチシなんて』って言っている」


 代表モフモフ係の月夜が不思議そうに尋ねてきた。

 ミャオの鳴き声を翻訳したのは月夜の娘である常夜だ。

 モフモフの時は『翻訳コネクト』の魔法を使わない主義なので助かる(折角獣をモフモフしているのに、獣の言葉が分かると興覚めになる)。


 この場にいる獣や獣娘達は基本的に有志だ。嫌がる者に無理矢理、と言うのは趣味ではないからな。ミオとミャオにも確認したのだが、モフモフすること自体はOKだそうだ。

 ちなみに、本日はミャオ、月夜、常夜、マリア、他4名の合計8名(匹も含む)が集まった。急な呼び出しだったのでいつもよりは少なめだ。


「単にミオに置いて行かれたのが原因だな」

「みゃおー……」

「『凹むわー』って言っている」


 ミオについて行きたかったミャオだが、それなりに過酷な相手と戦うらしく、ミオはレベルとステータスの低いミャオを連れて行くのを控えたようだ。


「それで、折角だからその隙にモフモフさせてもらおうと思った訳だ。ミャオ、屋敷の中では基本的にミオにべったりだからな。今まではモフモフの機会が無かったんだよ。モフモフは以前からの約束だし、良いよな?」

「みゃう」

「『それはOK』って言っている」


 モフモフ自体に否は無いようです。


「わかりました。……その仔は<変化へんげ>を覚えていないようですね。獣としてモフモフをなさるのですか?」

「ああ、そのつもりだ。ミャオは初めてだから超マイルドで、他の面々は……慣れている者が多いから、一段階レベルを上げさせてもらう」


 見回せばベテランのモフモフ係が多い事に気付いたので、そろそろ次のステージへと進んでもいい頃だろう。


「一体、何をなさるのですか?」

「それは受けてみてのお楽しみと言うことで……」


 …………………………。


「はぅ……」


 30分後、最後の1人である月夜が気絶してしまった事で、この日のモフモフは強制終了することになってしまった。

 むう……。まさか全員耐え切れないとは思わなかった。


「みゃうーん♡みゃうーん♡」


 そして、ミャオは見ての通りメロメロになっている。

 立ち上がった俺の足元にすり寄って、顔を何度も足に擦り付けてきている。

 ミオに置いて行かれた不機嫌さは何処にも残っていないようだ。


「う、ううん……」


 1番最初に気絶をしたマリアが目を覚ます。

 マリアは気絶をするのも早ければ、目を覚ますのも早いのである。


「また、気絶をしてしまいました……。不覚です」


 ずーん。と効果音が付きそうに落ち込んだ表情でマリアが言う。


「マリアはモフモフに弱いみたいだからな」

「それは……仁様が相手だからです。他の人に撫でられても同じ反応をする訳ではありません。そもそも、他の方にモフモフを許すこともございません」


 モフモフの気持ちよさに、相手が俺であると言うブーストが掛かっているそうだ。

 その結果が速攻気絶と言うのもどうかと思うけど……。


「仁様の護衛として、気絶するかもしれないモフモフは辞退した方が良いのでしょうか……。でも、仁様にあのように触れて頂ける機会なんてそうはありませんし、悩ましい所です」


 マリアにはマリアの葛藤があるようだ。

 確かに、主人に撫でられて気絶している護衛って、色々と致命的だよな。


「屋敷にセラがいない時は止めておく、とかでどうだ?」

「……そうですね。セラちゃんがいない時には私が護衛をしないといけませんね」

「今日はセラが出かけているんだけどな」

「は!?」


 がーん。とショックを受けるマリア。

 俺がマリアを弄るのも珍しいが、マリアがキッチリした態度を崩すのは、モフモフの時くらいだからな。偶にはいいだろう。


 その後、月夜達の事をメイド達に任せ、俺はモフモフ部屋を後にした。

 あ、足元にはミャオがついて来ています。



 昼食をとり、配下達との戦闘訓練に一区切りがついたところで、サクヤからお茶会のお誘いがあった。サクヤ、忙しいんじゃないのか?


 お茶会と言っても、普通に俺の屋敷で開催するようなので、指定された部屋へと向かった。


「入るぞ」


 ノックをしないで扉を開ける。俺の屋敷なので自由フリーダムである。


「あ、お兄ちゃん。いらっしゃい」


 お茶会の主催者ホストとして正装(十二単的な奴)をしたサクヤが出迎えてくれた。

 この部屋は俺の屋敷でもかなり大きめの造りをしている部屋で、10名以上が入っても全然余裕である。

 そして、部屋にいた面々がこれまた面白い。


「ようこそいらっしゃいました。本日はお越しいただき、誠にありがとうございます」


 そう言って頭を下げるのはエステア王国王女のカトレアである。

 カトレアはあまり派手ではない薄紅色のドレスを着ていた。元々かなりの美人なので、かなり絵になる。屋敷でばくばく飯を食っている存在と同じとは思えない。


「仁殿を待っていたのだぞ」

「そうですの」


 更にはイズモ和国の王女であるトオルとカオルの姉妹もいる。

 トオルは男物の和服を、カオルは女物の和服を着ている。どちらも少し豪華で、これが2人の正装なのかもしれない。

 後、どうでもいいことだが、トオルは男物の服を着ているが、男装・・している訳ではない。ややこしいので簡潔に説明すると、サラシを巻いていないので、男物の服なのに胸のふくらみがはっきり見えているのである。


「仁様が居なければ茶菓子にも手を出せんからな。待っていたと言うのは間違いない」

「余計な事を言ってはダメなのだぞ!」

「そうです!思っても口に出してはいけません!」

「す、すまん……」


 口を滑らせてトオルとカトレアに叱られたのは、真紅帝国皇女のルージュである。

 チャイナドレスのような意匠の赤いドレスを着ている。金色で華美な刺繍が入っているので、一張羅に違いないだろう。


「お菓子楽しみですねー」

「言うなって言われているのに、ホント貴女はマイペースね……」


 そう言う2人は竜人種ドラゴニュート深緑竜リーフ天空竜ブルーである。

 それぞれ、緑色と青色のドレスを着ている。竜人種ドラゴニュートの2人がドレスなんて持っている訳がないので(偏見)、誰かから借りたのだろう。


 その他、数名の女性が同じ部屋にいるが、見覚えが無いので省略しよう。


「えーと……、テーマは王族のお茶会って所か?」

「せーかーい!」


 サクヤが頭の上でマルを作って答える。

 ここにいるのは、全員が女王や王女など、王族に連なる者なのである(多分、見知らぬ娘も)。竜人種ドラゴニュートの2人は若干グレーな部分もあるが……。


「ちなみにドーラちゃんはさくらちゃんと出かけているから呼んでないわ。後、大精霊のレインって娘も呼んでいないわね。『精霊女王』になったらしいけど、特に領土や権力がある訳でもないみたいだし」


 一応、俺の配下に関して色々と調べた結果集めたようだ。

 当然、元エルディア王女はこの場にいない。


「それで、何でまたこのメンツでお茶会なんて話になったんだ?」

「ふっふっふ。それはね……」


 サクヤが無駄にタメを作る。


「何を隠そう、お兄ちゃんの接待よ!」


 バーン、と効果音が付きそうなドヤ顔をして、意味の分からないことを言い出した。


「What?」

「えっと、補足させていただきますね」


 思わず英語で疑問符が出たところで、見かねたカトレアが補足を入れる。


「今度、エルガント神国で首脳会議がありますよね。その話を聞いて、折角仁様の配下には王家に連なる者が多いのだから、私達も足並みを揃える為に交流を深めた方が良いと言う話が出ました。そこで交流を深めるため、まずはお茶会を開催することになったのです」


 この部屋を見ればわかる通り、確かに王族の配下が多い気がするな。

 もっと言えば、『王族の女性』が多いのである。


 サクヤ以外は国のトップではないようだが、各国の思惑、足並みを揃えるために、王族同士で交流を持つのは悪くはないだろう。

 実際、エルディア王国がエステア王国を攻めようとした時、カトレアと(主に食事中に)交流のあったサクヤがそれを止める立場に回るような事もあったからな。


「なるほど。そこまでの話はわかった。それがどうして俺の接待と言う話になる?」


 王族だけでお茶会をすればいいじゃないか。

 どうしてそこで俺が出てくる?


「王族を配下に持つ仁様は、王族よりも偉いに決まっています。お茶会にお誘いする理由としては、十分すぎるとは思いませんか?」

「仁殿を誘うと言う話が出て、それに否と言うものはいないのだぞ」

「そうですの。満場一致でお誘いすることに決まりましたの」


 カトレアの回答をトオルとカオルが補足する。


「そこから接待の話に入るのよ」


 そう言って、今度はサクヤがカトレアの話を引き継ぐ。


「立場が下の私達がお兄ちゃんを誘うと、どうしても媚びを売る接待にしか見えなくなるのよ。……だから、開き直ってお兄ちゃんの接待を前面に押し出してみることにしました!」

「相変わらず思い切りが良いな」


 何故かサクヤは時々男前になるのである。


「うん!お兄ちゃんを相手にするのなら、内心を隠して媚びを売るより、媚びを売りますと宣言して媚びを売った方が良いと思うの!」

「どちらにせよ媚びは売るんだな」


 確かに、裏で色々やられるより、最初から目的をドンと出していてくれた方が気分がいい。

 例えそれが『媚びを売る』と言う微妙な内容だったとしても……。


「もちろん、お持ち帰りもOKよ?私もいつでもOKよ?」

「ちょっと待て!それは聞いていないぞ!」


 サクヤの爆弾発言に反応したのはルージュである。

 お持ち帰り発言はサクヤの冗談なのだろうか?いや、それにしては周囲の少女達の大半が照れた様な、満更でもないような表情をしているのが気になる。


「え?お持ち帰りされる自信があるの?可能性がない娘には伝えてなかったんだけど……」

「私の扱いが酷くはないだろうか!?」


 サクヤがルージュの事をバッサリと切り捨てる。

 どうやら、お持ち帰りと言うのは、サクヤの冗談では無かったようだ。


 それはそれとして……。うん、ルージュは無いな。


-コンコン-


「どうぞー」

「失礼します」


 ドアがノックされ、サクヤが許可を出すと料理メイド達がサービスワゴン(料理を運ぶ台車)を押して部屋の中に入って来た。


「お茶とお茶菓子です。はい!」


 手際よく動いたメイド達によって、あっという間にお茶の準備が整った。


「さあ、お兄ちゃんも座って座って。お茶も来たことだし、早速お茶会を始めましょう」


 サクヤに促されるままに椅子に座る。

 テーブルは円卓で、俺の右隣りにはサクヤ、左隣にはカトレアが座った。



 お茶会が始まり、各々雑談が始まった。


「そう言えば、見知らぬ王族?が数名いるけど、何処の王族なんだ?」


 この部屋にいる見覚えのない少女達を指して尋ねる。

 見知らぬ王族は2人いて、1人は俺と同年代の少女、もう1人は5歳くらいの幼女である。2人とも暖色系のドレスを着ている。


「お、覚えてらっしゃらない……」

「……」


 少女の方は俺の発言にショックを受けてよろめいていた。カトレアほどではないが、儚げな印象の美人である。

 幼女の方は座った状態のまま微動だにしない。


「その言い分だと、どこかで会ったことがあるようだな」

「お兄ちゃん、その子はナルンカ王国の王女よ」


 俺が腕を組んで記憶を引っ張り出そうとしていると、横からサクヤが教えてくれた。

 ナルンカ王国。アト諸国連合の1国で、金狐の月夜に支配されていた国だな。月夜をテイムするついでに王宮の人間を奴隷化して、実効支配しているんだっけ。

 俺はほとんどノータッチだけどな。


 もう1度少女の顔を見る。


「ああ、幽閉されて汚物塗れになっていた王女か。最初に<洗脳術>を解除されていたよな」


 よく見れば見覚えがある。

 月夜によって王城の牢屋に幽閉されていた王族の1人だ。あの時は汚物塗れ+心神喪失状態で凄い形相だったが、正常な状態では結構な美人だったんだな。


「お、汚物塗れ……。じ、事実ですが、その表現はあんまりです……」

「お兄ちゃん、その表現私にも刺さるから止めてくれない?」


 少女が涙目になり、サクヤが嫌そうな顔をする。

 サクヤと最初に会った時も、城の地下牢で幽閉されて汚物塗れだったからな。よく考えれば似た境遇と言えるだろう。


「そ、その後も1度お会いしているのですが……」

「……ああ、でもあの時は跪いたままだったよな?」

「ええ、その通りです」


 ナルンカ王国を支配した後、1度ナルンカの王族を集めて顔合わせをした記憶はある。

 その時にも会っているようだが、その時は国王が話をしただけで、他の王族は跪いたままだった。それで顔を覚えるのは無理である。


「ずっと、お話をしたいと思っていたのですが、アルタ様のお許しも得られず、機会にも恵まれませんでした。今回、王族のみが参加できるお茶会と言うことでようやくその機会に恵まれました。改めて名乗らせていただきます。私、ナルンカ王国の第1王女、レナと申します。以後、お見知りおきをお願いいたします」


 少女改めレナが頭を下げる。


「ああ、よろしくな。それで、そっちの幼女は?」


 俺の質問に答えたのはカトレアだった。


「こちらは旧エルディア王国の第6王女、ミーアです。現在は王族ではありませんが、エルディアの元王族代表として呼びました。流石にクリスティア元王女を呼ぶわけにもいきませんでしたから」


 もし、クリスティア元王女がいたら、その場でUターンしていた自信がある。


「皆幼いから、今ならまだ再教育が間に合うからね。その中からエルディアに毒されていない、1番マシな子を連れてきたのよ」


 サクヤが補足したように、現在エルディアの元王族はクリスティア以外全員が幼い。

 元とは言え王族なので、使い道もあると言うことで再教育を施している最中なのだ。エルディアの流儀で育ったら、使い物にならないからな。


 俺が幼女ミーアの方に目をやると、ビクッと震えて恐る恐る俺の方を見てくる。


「は、はじゅめまして、ミ、ミーアとも、もうしましゅ」


 涙目になり、ビクビクしながら噛み噛みの挨拶をしてくる。

 何この反応……。


A:厳しい再教育の中で、本日のお茶会への参加は絶対に失敗できない行事だと強く言いつけられており、プレッシャーに耐え切れなかったようです。


 ああ……。元エルディア王族の再教育って、信者メイド達がやっているんだっけ……。

 エルディア王族に対する扱いは、俺の心情を慮った結果、相当に厳しいものになっていると聞く。信者メイド達が幼女だからと言って手加減する訳もないよな。


「ああ、よろしく」

「い、いぎょ、お見知りきを……」


 噛み噛み幼女ミーアが涙目になりながらある方向を見つめ、絶望的な顔をする。

 その視線の先では、控えていたメイドが手に持ったメモ帳に何やら書き込んでいる。


A:ミーアの採点をしています。今後の扱いに関わってきます。


 ……元エルディア王族の再教育、中々に過酷だな。

 余計な事をさせると評価が下がるだろうから、話しかけない方が良いのかもしれない。


「平たく言えば、この2人は水増し要因ね。流石に7人だけじゃ物足りなかったから」

「酷い言い草ですけど、そのおかげで仁様にご挨拶できたので、文句は言えません……」


 サクヤの身もふたもない発言を聞き、レナが項垂れている。



 挨拶が終わった所で、もう1つ気になっていたことを尋ねる。


「そう言えば、何でトオルはサラシを巻いていないんだ?確か男装の時はサラシを巻いていたよな?」


 それはずばりトオルの格好だ。

 男性用の服を着ているのに、サラシを巻いていないせいで、そこそこのボリュームのある胸が突き出しているのだ。前に剥いた時にはサラシを巻いていたはずである。

 カオルは女性用の服を着ているので問題はないが、トオルの方はいろいろと問題である。


「このお茶会が仁殿の接待だからなのだぞ。男の姿で接待されても、嬉しくないだろうと言う配慮なのだぞ?」

「じゃあ、2人とも女性カオルの姿をすれば良かったんじゃないか?」


 入れ替われるのだから、2人とも女性カオルの姿にすればいいだろうと尋ねてみると、カオルの方が首を横に振った。


「それだと、折角2人いるのに印象が弱くなってしまうからですの。お兄……お姉様にはイロモノポジションをお任せしておりますの」

「なのだぞ!」


 堂々とイロモノポジションと言い切った。


「イロモノとは言っても、素材は悪くないし、多少は女っぽく飾っているから、そこまで違和感はないでしょ?」

「まあ、そうだな」


 サクヤの言う通り、トオルも完全な男装ではなく、小物類は女性用の物を使用しているので、ちょっと男っぽい女性にしか見えないのである。

 薄くではあるが化粧もしているようだし、イロモノ呼ばわりも可哀想だ。自称だから、可哀想と言うのも違うか……。


「格好と言えば、ルージュのその恰好は何だ?」


 今度はルージュに話を振ってみる。

 ルージュはチャイナドレスに似たドレスを着ている。


「一応、帝国から持ってきた一張羅だ。大昔の勇者が我が真紅帝国に伝えたドレスらしいな」


 相も変わらず、日本人の勇者は趣味全開だな。

 本当に中国人が転移した可能性も0ではないけど、概ね日本人だろうな。


「一応、各国それぞれの伝統的な衣装・ドレスを指定しています」

「そーよ。だから私もこの重くて動きにくい服を着てきたんだから」


 カトレアがドレスの裾を摘まみ、サクヤが鬱陶しそうに十二単をバサバサさせる。


「借り物のドレスを着ているのは私達だけなのよね」

「流石に礼服は持ってないですよねー」


 ドレスを持っていないのは、裸族であるブルーとリーフだけと言う訳だ。


「2人も人間形態は普通に美人だし、ドレスも似合っていると思うぞ」

「あ、ありがと……」

「えへへー、ご主人さまに褒められましたー」


 2人を褒めると、サクヤが立ち上がった。


「お兄ちゃん!どう?私の衣装似合う?」


 どうやら、ブルーとリーフに対抗意識を燃やしているらしい。


「普通」

「普通!?」


 ガーン、と効果音付きでサクヤがショックを受けた。

 いや、確かに可愛くはあるのだが、申し訳ないがそれなりに見慣れているのである……。


「そ、そこは建前でも似合う、とか綺麗とか言うところではないでしょうか……?」

「いや、この茶会は俺の接待なんだろ?何で俺が自分の気持ちに嘘をつかなきゃならない」

「仁様、知ってはいたが本当に自由だな……」


 カトレアの問いに答えると、ルージュまで顔を引きつらせて俺の方を見ていた。

 サクヤは未だに固まったままである。

本当はセラの装備の話。モフモフの話。細々とした話で終わる予定でした。

ただ、お茶会なんて状況でもないと、王族女性が揃うタイミングもありませんので、偶にはいいかなと……。

10日更新で話が進まないのは申し訳ないと思っています。お茶会、もう1話続きます。すまぬ。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。