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異世界転移で女神様から祝福を! ~いえ、手持ちの異能があるので結構です~ 作者:コーダ

第8章 配下編

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第123話 遺跡探索と隠し通路

大きな山場のない1話完結の観光イベントです。

むしろ短編っぽい。

 エルディア領西部、とある森の中に佇む石造りの建築物。


 小さな礼拝堂のようなソレは、実は地下遺跡への入り口だったのだ。

 森の周辺にある村の者達も、礼拝堂のような物があることは知っていたが、その地下に遺跡があることは長らく知られていなかった。


 その遺跡の存在が明らかになったのは、今から100年ほど昔のことだ。

 周辺の村に住む若者が森の中に入った際、突然大雨に降られ、礼拝堂で雨宿りをした際に偶然隠し通路が発見されたのだ。


 その遺跡の中には数多くの宝物が眠っており、若者は瞬く間に大金持ちになった。

 大半の宝物は若者が持ち去ったが、調査が進むにつれて隠し通路が見つかることがあり、その度に新たなる宝物も発見されることがあった。

 宝物の中には貴重な魔法の道具マジックアイテムもあり、エルディア王国の国力増強に繋がったとも言われている。余計な事を……。


 そんな隠し通路の発見も50年で出尽くし、それ以降はいくら探しても隠し通路は見つからず、遺跡マニアが時々訪れる程度になった。

 周辺の村も遺跡特需で長い間潤っていたが、遺跡が無ければ元々は大した売りも無い田舎町、寂れて行くのは世の道理である。



 俺達はメイド達のセットした『ポータル』で件の遺跡付近の村へとやって来た。

 訂正、遺跡付近の廃村にやって来た。

 ……寂れた結果、過疎って廃村になるのも世の道理である。


 なお、遺跡に直接『ポータル』転移しないのは、『遺跡に向かうところからが冒険』と言う主義によるものだ。

 冒険の開始地点として、若者の住んでいた村以上に適切な場所はないだろう。


 特に見る物も無いので、さっさと馬車で遺跡のある森へと向かうことにした。

 ……本当に、主義以上の意味はないのである。


迷宮ダンジョンじゃない遺跡に入るのも久しぶりだな。超楽しみ!」


 実は、この世界で行った遺跡は全て迷宮関連なんだよね。

 エステア迷宮しかり、『竜人種ドラゴニュートの秘境』しかり。


「久しぶり?ご主人様、いつ遺跡なんて行ったの?」

「元の世界で行ったに決まっているだろ?」


 俺のセリフに疑問を持ったミオに即答する。

 この世界で行ったことが無いのなら、元の世界で行ったと言うことである。


「ご主人様、元の世界でも結構アクティブだったのね……」

「まあな。一時期友人達と遺跡巡りをしていたことがあるんだよ。隠し通路とか、よく見つけたっけなぁ……」

「ご主人様、元の世界でも結構アメイジングだったのね……」


 元の世界で俺、東、浅井の3人は、様々な趣味に手を出すと言う事を繰り返していた。

 その中の1つに連休を利用した遺跡巡りと言うのがあったのだ。

 だが、運と頭脳と視力があれば、大抵の遺跡はどうにかなってしまう。思っていた以上に簡単だったので、それほど長い期間の趣味にはならなかったのは残念な思い出だ。


 ミオがせがむので軽く遺跡巡りの話をしていると、あっという間に森へと到着した。

 森は結構大きいのだが、遺跡は森の入り口側にあったので、それ程歩くことはなかった。


 遺跡は礼拝堂の地下にあるので、まずは礼拝堂へと入る。

 礼拝堂の扉は開きっぱなしにされていた。重そうな扉なので、いちいち開閉するのが面倒だったのだろうか。


「お邪魔しまーす」

《しまーす!》


 特に意味はないが、とりあえず挨拶をしてから入る。

 俺の真似をしてドーラも念話で挨拶をする。念話なので完全に無意味だ。


 礼拝堂に入ると、椅子等の調度類が全て端に寄せられていた。

 物が無いせいで広く感じる礼拝堂の中心には、地下へと続く隠し階段が開きっぱなしになっていた。……開きっぱなしの隠し通路とか、風情が無いにも程がある。


「過去の調査隊、片づけをしていかなかったのね……」


 ミオが呆れたように言う。


 入り口の扉も含め、利用したら元に戻して置くと言う、当たり前の心遣いが出来ていない。

 旧エルディア王国民だし、そんなモノかな……(旧エルディア王国民への熱い風評被害)。


「みたいだな。……ところで、ミオが背負っているのは何だ?」


 ミオは現在、籠のような物を背負っている。

 俺が質問をすると、籠の中からミオの従魔である仔神獣ミャオ(メス・0歳)が顔を出した。


「みゃう!」

「遺跡探索ならそれほど危険も無いだろうし、ミャオと一緒に冒険するチャンスだと思ったのよ。ただ、そのまま連れ回すのも怖いから、とりあえず背負子に入れたってワケ」


 遺跡探索にペット同伴と言うのもどうかと思う。

 まあ、そこまでの危険がある遺跡と言う訳でもないので、別に構わないだろう。


「ミオちゃん、撫でてもいいですか?」

「いいですよ、さくら様。ミャオ、大人しく撫でられなさい」

「みゃ!」


 ミオがさくらに撫でる許可を出すと、ミャオは「さあ撫でろ!」と言わんばかりに顔を上げて首元を前に出してきた。


「では、行きます……」


 すかさずミャオを撫で始めるさくら。

 さくら、ミャオの首筋を撫でてご満悦。ミャオ、撫でられてご満悦。


「背負子を見ると、エステア迷宮でミオを背負って墓地エリアを踏破した時の事を思い出すな。あの時はミオがオムツを装備していたっけ……」


 迷宮の墓地エリアが怖かったミオは、目と耳を塞いでオムツをして、俺に背負われた状態で迷宮を抜けた。幼女寄りの少女だからギリギリ許される格好だった。24歳女性には絶対に許されない格好だった。


「ちょ!?変なことを思い出さないでよ!」


 ミオが慌てたように俺の方を見る。


「みゃう!?」

「あ……」


 急に振り向いたことで、背中にいたミャオが勢いよく振り回される。

 撫でていたミャオが急に手元を離れ、さくらが残念そうに漏らす。


「みゃおーう……」


 目が回ったのか、首をフラフラさせているミャオ。


「うみゃう……」


 ミャオは力尽きた。


「あ、ミャオ、ゴメン……」


 背中に生き物を背負った状態で激しく動いてはいけません。

 ミャオはこうして屋敷へと送還されるのだった(酔ったらしい、弱い)。


「ついでに聞いておくと、ミオは地下遺跡が怖くはないのか?」

「平気よ。変な曰くが付いている訳じゃないからね」


 迷宮自体は平気だったし、ホラー要素が無ければ遺跡自体は平気らしい。


「ホラー要素、無いと良いな……。さて、そろそろ地下遺跡に入ろうか」

「ちょっと、ご主人様それどう言う……」

「仁様、私が先行いたします。セラちゃん、殿を頼みます」

「お任せくださいですわ!」


 ミオが言い切る前に、マリアが地下へと続く階段を降りて行く。

 盾装備のセラが先導すると言う手もあるのだが、応用力と反応速度が高いマリアが先導した方が安定する場合が多い。



 地下へと潜って2時間が経過した。


 地下遺跡はかなり広く、まるで迷宮のように縦横無尽に通路が張り巡らされていた。

 大よそ、東京駅とか新宿駅と同程度には入り組んでいるだろう。

 つまり、日本の駅は迷宮と呼んでも過言ではないことになる。日本の迷宮は死者が出ないだけマシだが……。


 今回は完全に観光(遊び)なので、マップの使用を禁止している。

 アルタ曰く、(少なくとも俺達に関して)危険なモノはないそうなので、安心してマップ機能を一時停止している。

 織原クラスが相手になると話は別だが、基本的にアルタだけはマップを確認しているので、急に危険なモノが出てきても対処できるだろう。


「これで大体マッピングは終わったかな。ホント、広いわねー」


 <千里眼システムウィンドウ>によるマップが禁止なので、ミオがせっせとリアルマッピングをしていたのだ。何気に多芸なミオである。

 迷宮と違って壁が光ったりはしないので、<光魔法>を発動して周囲を無理矢理明るくしている。普通の人はランタンとかを使うと思う。


 後、一応言っておくと、この遺跡では魔物が発生しない(魔力が薄い)が、魔物は生息している。簡単に言えば、開きっぱなしの入り口から入って来た外の森の魔物である。

 餌が無いので生活をするのには不向きだが、雨風がしのげるので寝床には向いている。


 今、マリアが遺跡に残っていた最後の魔物を両断した。

 礼拝堂の扉は遺跡に入るときに閉めてきたので、これ以降は魔物が出てくることはないだろう。出てきても、今までの魔物と同じ末路を辿るだけだが……。


「じゃあ、そろそろ隠し通路を探そうか」

「うん、当たり前に言ってるけど、ここって既に隠し通路が探られつくした遺跡なのよね?」

「まあ、仁君ですから……」

《ですからー》

「本当に酷い殺し文句ですわ……」


 ミオの疑問はさくらとドーラの便利なテンプレで流されました。


「仁様、マップを確認するのですか?」

「いや、さっきも言った通り、遺跡探索では異能のマップは使用禁止だ。……この辺かな」


 マリアの質問に答えつつ、ミオから拝借した(リアル)マップに赤丸を付ける。

 丁度、通路の空白地帯になっている場所だ。俺のセンサーが反応している、気がする。


「うーん……。ご主人様の言う通り、確かにその辺りは怪しいけど、それくらい今までの調査隊も調べているんじゃない?」

「まあ、そうだろうな。ただ、俺の直感が天井に隠し通路があると訴えかけているから……」

「直感が直感で済む次元を超えているんですけど……」


 ミオが引きつった笑みを浮かべながらそう言った。


 早速、隠し通路のある(断定)場所へと向かって行く。

 ここから5分くらいで到着する予定だ。


「……ご主人様、迷宮で正解ルートを引き当てるためにシンシアちゃん達を買ったんじゃなかったっけ?<迷宮適応>スキルが必要だ、とか言って……。本当に必要だったの?」


 ミオが言っているのは、エステア迷宮の正解ルートが直感的に判ると言う<迷宮適応>のスキルを持った奴隷達のことである。

 実際に迷宮に同行したのはシンシア、カレン、ソウラ、ケイトの4人で、全員が<迷宮適応>を持っていた。


「正規の手順があるのなら、可能な限りそちらを優先したいからな」


 マップと幸運でゴリ押すことが出来なかったとは言わない。

 でも、正規手順があるのならば、そちらを選んだ方が大抵の場合は面白くなる。

 偶然か意図的かは知らないけど、折角ちょうどいい役割を持った子達がいたのだから、連れて行かないと言う選択肢は無かった。


 今回?今回の遺跡探索はむしろ幸運でゴリ押すのが正規手順だと思います。

 基本的な調査自体はすでに終わっている遺跡だし……。


「あ、別に必要なかったのね……。これ、シンシアちゃん達には言えないわね……」

「そうですわね。買われた目的がそれほど重要ではなかったなんて、言えないですわね……。あれ?わたくしも買った理由に大したものはないと言われたような記憶が……」

「セラちゃん、しっかり!」


 何故か余計なところでセラが被弾していた。


 大した理由が無いとは言ったが、『面白そう』と『直感』と言う立派な理由はあるのだ。ただ、通常はその2つを前に出しても、根拠として扱われないのである。

 残念である……。



 少し歩き、隠し通路のあるポイントに到着した。


《ごしゅじんさまー。このへんー?》

「もうちょい右かな。そう、その辺だ」


 隠し通路が天井にあると考え、直感が示す場所をドーラに探させる。


 空を飛んでいるドーラには、いつものワンピースの下に半ズボンを穿かせている。

 もちろん、ミオやさくら、セラと言ったスカート組は全員ズボン装備だ。

 流石に遺跡でスカートはありえない。……迷宮の時はスカート装備だった?迷宮と遺跡は別物だよ。


《えい!》


 ドーラが天井を押すと、ガコッと言う音と共に天井が人の通れるサイズで外れた。


《ごしゅじんさまー!はずれたー!》

「ドーラ、よくやった」

《うん、なでてー!》


 素早く降りてきたドーラが俺に抱き着いてきたので、言われたとおりに頭を撫でる。


「よしよし」

《えへへー》


 和む。


「何この雰囲気……。遺跡の隠し通路発見のシーンなのに、緊張感や達成感が全くないわよ」

「ミオちゃん……、仁君に緊張感や達成感を期待しているんですか……?」

「どう考えても無理ですね!」


 さくらに諭されたミオが納得したように言う。

 それで納得されても困る。でも、否定も出来ないので困る。


「コホン。それはともかく、何で今まで誰もこの隠し通路に気付かなかったんだろうな?」


 とりあえず、話題を変えてみます。


「普通の方は天井に隠し通路があるとは考えないと思いますわよ。それに、この遺跡の天井は結構高いですから、調べるのも手間がかかりますわね」


 セラの言う通り、この遺跡の天井は4mくらい上にある。調査をするのは困難な高さと言えるだろう。……でも、絶対に無理な高さと言う訳でもない。


「それはそうだけど、ヒントはあっただろう?隠し階段の長さ、明らかにここの天井の高さよりも長かったぞ」

「それだけで気付くのも難しいのではありません?」


 礼拝堂にあった隠し階段の高さは10mを優に超えていた。

 遺跡内の通路の高さが4mなので、上方向の広がりを想像することは出来たはずだ。


 そして、マッピングをすればこの周囲には通路が無いと言うことが分かるのだから、この周辺の天井を重点的に調べれば、隠し通路が見つからないと言うことも無いはずだ。

 つまり、この隠し通路が見つからなかったのは、遺跡調査隊の怠慢が原因と言うことは明白なのである(決め付け)。


「おいおい、遺跡探索はちょっとした気付きが物を言うんだぞ。これだけヒントがあっても気づけないようじゃあ、遺跡調査の才能が無いと言わざるを得ないな」

「ご主人様は何様なんですの……?」


 ちょっと遺跡調査の経験と実績があるだけなのに、随分と上から目線で物を言ってみる。

 ちょっとした経験(遺跡探索20件)と、ちょっとした実績(隠し通路発見20件)があるだけなんだよね……。


「さて、下らない話はそれくらいにして」

「この話題を始めたのはご主人様よね?」


 ミオのセリフはスルー。


「さて、下らない話はそれくらいにして、そろそろ隠し通路に入るとするかな」

「あ、スルーですか。そうですか……」


 微妙にしょんぼりするミオを再びスルーして続ける。


「マリア、<結界術>を使って階段状に結界を張ってくれ」

「はい、承知いたしました」


 『不死者の翼ノスフェラトゥ』で空を飛ぶだけでもいいのだが、見えない階段の方が遺跡っぽいので(ただしゲームの遺跡に限る)、マリアに頼んで結界で階段を作ってもらう。

 見えないとは言ったが、半透明の結界で作っているので、何となく存在することは分かる。


 マリアの作った階段を上り、遺跡の隠し通路(天井裏)に入る。

 今まで探索していた場所を地下2階とすると、今いる天井裏が地下1階と言うことになるな。便宜上、これからはそう呼んでいくことにしよう。


 地下1階の天井の高さは3mくらいで、横幅は2mも無いくらいの狭い道だ。なお、地下2階の横幅は3~5mくらいだった。


「結構長いですね……」

「そうですわね。ずっと一本道が続いていますけど、この先に何があるのでしょう?」

「ボス部屋ね。ゲームなら」

「敵ならば私が倒します」

《ドーラもやるー!》


 地下1階には分岐などは一切なく、ただひたすらに一本道が続いていた。

 罠がある訳でもなく、魔物がいる訳でもないので、雑談をしながら5分程歩く。


「ああ、なるほど。地下1階はあくまでも隠し通路・・なのか」

「また、地下2階に戻るんですね……」


 一本道を抜け、開けた空間に出たと思ったら、そこには下へ向かう階段が設置されていた。

 ミオの作ったマップと位置関係を照らしてみると、今までマッピングしてきたエリアの外側に位置するようだ。

 こうしてみると、今まで発見されてきた区画が、全体から見ればそれほど広くないことがよくわかるな。縦方向にも横方向にも未発見エリアがあるのだから。


「ここでいったん昼休憩にしようか。まだ、しばらく続くそうだしな」

《ごはーん!》


 地下1階への通路を見つけただけではこの遺跡の探索は終わらないようだ。

 まだ探索が続くと言うのなら、しっかりと食事をとって準備万端で向かうとしよう。



 その後、昼休憩を終えた俺達は地下1階と地下2階、ついでに地下3階の間を行ったり来たりしながら遺跡を進むことになった。

 横方向や縦方向に巧妙に隠された隠し通路を発見しながら進む


「コレも売れば結構な額になりそうね……」


 ミオが宝箱の中に入っていた装飾の付いた短剣を手で弄びながら呟く。


 そう。俺達はここに来るまでに結構な数のお宝を発見しているのである。


 基本的に地下1階と地下3階は移動用の通路で、メインとなるのは地下2Fだ。そして、地下2階には結構な頻度でお宝部屋に宝物が配置してある。

 中身は金銀財宝や魔法の道具マジックアイテムなど多岐にわたり、新しい通路を発見すると2~3カ所に配置してある。

 新エリア到達ごとに達成感を与えてくれる、探検家に優しい造りの遺跡である。


 唯一残念なことを挙げさせてもらうと、手に入る魔法の道具マジックアイテムは実用性重視で、俺が『面白い』と感じるようなモノではないと言うことだろうか。

 遺跡に来た人に役立つ物を与えてあげようというコンセプトなのだろう。若干、面白みに欠けるコンセプトだな。

 俺が似たような事をしたら、ネタに走り過ぎると思うので、それはそれで問題なのだが……。そして、そう言う理由もあって、俺は迷宮運営に手を出さないのである。


 階段を下り地下2階に戻ると、すぐ目の前に木製の扉があった。

 今まで、この遺跡内には扉は1つも存在しなかった。隠し通路の類は、必ず壊れる壁や外れる壁、回転する壁によって隠されており、扉によって遮られることはなかったのだ。


「今までと趣きが違う部屋……。ラストっぽいわね」

「そうだな。でも扉が木製だし、ボス部屋って言う訳でもなさそうだな」

「金属製だと?」

「ボス部屋だな」


 ミオの問いに即答する。

 ボス部屋は、金属の扉で遮られるべきである(ゲーム脳)。


「仁様、私がお開けいたします」

「ああ、任せた」


 マリアが罠を警戒しながら扉を開ける。

 扉の中は半径10m程の円形の部屋となっており、中心部には台座が設置されていた。


 遺跡において、最後の部屋(暫定)に台座があったのなら、その上には最高のレアアイテムが置かれているべきだろう。

 当然、この部屋の台座にもアイテムが置かれていた。いや、刺さってと言うべきか。

 まさしく、遺跡の宝に相応しい様相で、台座の上に1振りの剣が突き刺さっていたのだ。


光刀・サンシャイン

分類:刀

レア度:幻想級ファンタズマ

備考:不壊、不殺、成仏、装備破壊


「最後の最後でネタ武器かよ!!!」


 と言う訳で、久しぶりに全力の突込みが入りました。


 ん?何で突っ込みが入ったかわからない?

 少し整理してみようか。


 サンシャインと言う銘の刀。

 ……木製。


 もう少し分かり易く言おう。日光サンシャインと言う銘の木刀・・

 そう、これは、完全に、お土産なのである。……ご丁寧に持ち手の部分に『日光』と彫ってあるから間違いはないだろう。


「これ完全に日本人だ。あるいは日本に観光に来たことのある外国人だ。勇者か否かは不明だが、完っ全に日本関連だ」

「そりゃあ、間違いないでしょうねぇ……」

「はい……。偶然でどうにかなる物ではないと思います……」


 ミオとさくらの日本人組も同意している。


「結構な数の勇者が召喚されているみたいだし、修学旅行中の学生でも転移していたら、木刀の1本持っているくらい、何の不思議でもないわよね?」


 確かにミオの言うことにも一理ある。

 この世界に来た時、手に持っていた物も一緒に転移しているのだ。木刀を買った修学旅行生が勇者召喚された可能性を否定することは出来ない


「それにしてもこの木刀凄いわね。当たり前のように幻想級ファンタズマだし、『不壊』はともかく、『不殺』って事は、自動オートで<手加減>が発動しているんでしょ?」


 普通の刀を使っていたら<手加減>は有効には働かない。しかし、木刀に自動の<手加減>が付与されているのならば、それは有効に間違いがないだろう。

 つまり、武器を使いつつ<手加減>することが可能になったのである。……だから、どうしたとは言ってはいけない。

 下手をすると、冒険者ギルドにあった『致命傷にならない武器』の下位互換だし……。


 いや、そうでもないのか?

 <手加減>同様に痛みはあるみたいだし、そもそも『不壊』を含めてそれなりに有用な効果も付いている。

 『止めだけ刺せない強力な武器』と捉えることも出来そうだ。


「それより、何でただの木刀がここまで面白おかしい進化を遂げているのかね?そっちの方が気になるよ」


A:解析したところ、過去の勇者の1人が持っていた<武器強化オーバーアームズ>と言う祝福ギフトの影響のようです。その効果は、1日に1度所有する武器の性能を少し上げる、と言ったモノでした。幾度となくその効果を受け続けた木刀が、幻想級ファンタズマの域まで至ったのでしょう。


 ネタバレ防止のためにずっと黙っていたアルタが説明をしてくれた。


 ある意味、武器にのみ使える<拡大解釈マクロコスモス>と言えるのか?

 違う。<拡大解釈マクロコスモス>と違って解除しても壊れないし、一気に最大まで強化される訳じゃないから、完全に別モノだな。


 つまり、転移してきた勇者が最初期からずっと使い、強化し続けてきた武器と言うことだ。

 なるほど、そう考えると中々に面白い。


 ツッコミは入れたが、ネタ武器自体は嫌いではない。

 加えて言えば、全力をつぎ込んだネタ武器はむしろ好きである。


「折角だし、この木刀は貰って帰るとしようか。隠し通路の後にお宝を用意するような遺跡だ。持って行っても問題はないだろう」


 略奪はともかく、盗掘は趣味ではない。

 殺して奪うのならともかく、基本的に俺と全く関係ない所で死んだ者から物を奪う事はしたくない。

 なので、友人と一緒に遺跡を探検した時も、その遺跡の目的が墓所だと気付いた時点で手を引いていたのだ。幸い、友人2人も同じような感性を持っていたので話は早かった。


 この遺跡は墓所には見えなかったし、たとえ墓所だったとしても隠し通路の奥に宝物を用意しているような遺跡だ。踏破されることを待ち望んでいるようにしか見えない。

 そんな遺跡なので、俺は躊躇なく踏破ボーナスをもらうことにしたのだ。



「さて、それじゃあそろそろ次の隠し通路を探すとするか」


 台座から木刀を引っこ抜いた後、皆に向けてそう言った。


 幸い、選ばれし者にしか抜けないと言ったようなギミックはなかった。

 もしそんなギミックがあったら、大人しく諦めていた。そして、抜ける者を探してきた。


「え……?仁君、それはどういう意味ですか……?」

「ここで終わりじゃないんですの?」


 さくらとセラが尋ねてきたので、俺は迷わずに頷いた。


「ああ、確かにこの部屋で終わりっぽいけど、そんなこと誰も宣言していないだろ?ここまで大量に隠し通路のあった遺跡で、最後の部屋っぽいからと言って隠し通路を探さない理由もないだろう?」

「言われてみればそうよねぇ……。そう考えると、台座とか超怪しくない?」

「怪しいですわね」

「怪しいです……」

「怪しいと思います」

《えい!あっ、あったよー!》


 台座が怪しいと言う結論に落ち着いたところで、ドーラが台座を横にずらし、地下へと続く隠し階段を発見した。

 ドーラ、隠し通路を見つけるのが楽しくなってきた模様。


 そのまま階段を降りると、そこにあったのは上の部屋と同じ形、サイズの部屋だった。

 しかし、台座以外には何もなかった上の部屋と異なり、下の部屋には大量の本が収められた本棚、いくつもの机や椅子が並んでおり、『書斎』や『研究室』と言った印象を受ける部屋になっていた。


「本当の意味で最後の隠し部屋っぽいな」

「多分、遺跡の作成者の隠れ家よね」

「ミオもそう思うか?」


 エステア迷宮で言えば50層台のような、管理者的な意味での隠しエリアに見える。

 今までの隠し通路のように、分かり易い宝物が用意されていないのも拍車をかける。

 尤も、本があるので『知識は宝だ』と強弁されたら、『Oh, Yes(あ、はい)』としか言えなくなるのも事実だ。


「普通のお宝なら持って行くけど、人の家から本を持ち出すのはちょっと嫌だな」


 今までの様な明確な宝物ならば迷わずに持って行くのだが、ここは明らかに趣が異なる。

 簡単に言えば、今までの場所は『遺跡』だったが、ここは『隠れ家』なのだ。

 『遺跡』を冒険するのと、『隠れ家』を荒らすのは訳が違う。『空き巣』や『墓荒らし』は俺の趣味じゃないのだ。『廃墟』を含め、放棄済みならばOK!


 折角の本だけど、ここで読んで行くのもどうかと思うし、どうしたものかな。


A:既に私の方で内容は確認済みです。希少な本や重要な手記はベガが写本済みです。


 どうやら、既に写本があるようだ。

 ベガが写本をするのなら、写し間違いもないだろう。


 念のためあちこち確認したが、これ以上の隠し通路は無いようだ。


「ここで打ち止めだな。この隠れ家の主も既にいないみたいだし、そろそろ帰るとするか」


 特に反対意見も出なかったため、来た道を戻って遺跡から脱出する。

 洋画ではないので、脱出とは言っても遺跡は崩壊しない。



 遺跡から出たところで一息つく。


「楽しかったと言えば楽しかったが、あまり落ち着かなかったな」

「そうですね。脅威はないですけれど、つい警戒してしまいます」

「そうですわね。無駄に疲れましたわ」


 マリアとセラが頷きながら肯定する。


「え?何かあったの?」

「仁君、どうかしたんですか……?」

「ミオとさくらは気付かなかったみたいだけど、この遺跡には俺達以外の何かが居たはずだぞ。マップは使ってないけど<気配察知>で気付いた」


 マップは縛っていたけど、<気配察知>が反応していたのだ。

 2人も統合スキルで<気配察知>が使えるはずだが、相手の気配が小さすぎて、使い慣れていない2人には気付けなかったのかもしれない。


「どこかに……隠れていたんですか……?隠し部屋の中ですか……?」

《ちがうよー?みんなドーラたちのことをうらやましそうにみてたよー?》


 さくらの疑問にドーラが答える。

 そう言えば、ドーラは『見える子』だったっけ……。


「ひう……」


 ミオが情けない声を出してその場にへたり込んだ。

 穿いていたズボンにシミが広がる。まあ、ミオならばこうなるよな。


「だから遺跡の中ではミオに言えなかったんだよ。流石に住処で粗相をされるのは嫌だろうからな」

「ひっぐ、えぐ……」


 ガチ泣きしているミオに『清浄クリーン』をかけ、苦笑しつつ背負ってやる。


 いい感じにオチが付いたところで、遺跡探索は終了することとなった。



 余談だが、後でアルタに詳細を聞いた所、この遺跡は大昔の勇者が、自分の作り出した武器(超強化木刀)を安置するために作ったそうだ。


 ついでに言うと、遺跡内に幽霊が集まっていたのは、木刀が持つ『成仏』の効果に惹かれたためである。

 あの木刀、仕舞う時は<無限収納インベントリ>に入れておいた方が良さそうだな。変なものが集まりそうだ……。


実はこの作品の中で、1話完結の物語ってほぼないんですよね。

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