第122話 砂漠の国と敗戦国
前話を改稿して、砂漠化が広がり続けているという一文を追加しました。
その方がより害悪っぽいので。
ティタニエルを吸収し終わった後、異能関連のログが流れる。
>拡大解釈がLV4になりました。
>新たな能力が解放されました。
<
効果対象が40に拡張されました。
>拡大解釈がLV5になりました。
>新たな能力が解放されました。
<
効果対象が50に拡張されました。
なんか、<
レベル制の異能は他に<
ただし、効果は対象の数が増えるだけという地味なものだけど……。
そして、こちらがティタニエルを吸収したレインのステータスだ。
なお、吸収したティタニエルのステータスやスキル、魔力は全てレインへと送った。
名前:レイン
LV900
性別:女
年齢:0歳
種族:大精霊
スキル:<精霊LV-><結界術LV10><MP吸収LV10><
称号:精霊女王
備考:万物を司る大精霊。
ティタニエルの経験値が丸ごと加算されたようで、レベルが大幅に上昇していた。
やはり、精霊の生態はいまいちよくわからん……。
-ゴゴゴゴゴゴゴ-
そんなことを考えていると、周囲の空間全体が軋むような音を上げた。
「ご主人様、一体どうなってるの!?」
離れていたブルーが近づきながら尋ねてくる。
「多分、ティタニエルを消したから『精霊界』が崩れるんだろうな」
「それ……大丈夫なの?」
「大丈夫だろう。レインが精霊女王になったから、レインなら何とかできると思う」
俺がそう言いながらブルーに乗ったところで、レインが『精霊化』を解除して目の前に現れ、コクコクと頷く。
そして、レインが手を頭上に伸ばすと、それだけで空間の軋む音は止まった。
ティタニエルの能力をある程度掌握できているようだ。
「何とかできたみたいだな。とは言え、この『精霊界』は人類にとって邪魔者以外の何物でもないから、そのままにしておくつもりもないぞ。レイン、頼む」
レインが自信満々にコクリと頷く。
『精霊化』をしている最中はお互いの意思がある程度共有される。
ティタニエルの能力を奪った後でどうするつもりなのか、レインには既に伝えてある。
「じゃあ、俺達は先に『精霊界』を出るぞ」
「かしこまりました」
「え、レインを置いていくの?」
マリアが躊躇なく頷き、ブルーが困惑の声を出す。
『俺達』と言うセリフの中にレインが含まれていないことを感じ取ったのだろう。
「ああ、レインには後始末をして貰わないといけないからな」
「うん、よくわからないけど、問題がない事は分かったわ」
《さきにいくねー》
ドーラが手を振ったので、レインも手を振り返す。
俺達を乗せたブルーは入り口(俺が殴り壊した場所)を通って『精霊界』を後にする。
俺達が『精霊界』を出た直後、急激に『精霊界』が縮んでいくのが目に見えた(不可視だけど)。
「何が起こっているの?」
「レインが『精霊界』を片付け始めたんだよ」
俺はブルーの疑問に答える。
『精霊界』は人間にとって害しかない存在だ。その中に住む精霊自体には害意が無くても、『精霊界』が存在するだけで人間は不利益を被る。
だから、
今頃、結界の中では精霊達が次々にレインに吸収されているのだろう。結界が外から徐々に小さくなっていくので、レインから逃れる術が無いのである。
あれ?レインの対精霊戦闘力がさらに向上したぞ?
まあ、精霊女王なんて称号の奴を倒した以上、これ以上強力な精霊と戦う機会はそう巡ってこないとは思うのだが……。
5分後、『精霊界』は完全に消滅して、一仕事終えたレインが俺の元に戻って来た。
「お疲れ様、レイン」
俺が労うと、レインは俺に抱き着きながら喜びの感情を示す。
ステータスを確認したが、レインのレベルは上がっていなかった。『精霊界』に引きこもっているような精霊では、レインのレベルを上げるには至らないようだ。
『精霊界』が消滅したことにより、ブラウン・ウォール王国の砂漠でも魔力が循環するようになり、いずれは自然環境を取り戻すことになるだろう。
しかし、1度ここまで荒廃した土地に緑を戻すためには、相当な年月がかかるはずだ。
A:アドバンス商会からの連絡です。購入が全て終わったそうです。
「じゃあ、そろそろ始めるか。悪いけど、また頼むぞ、レイン」
アルタからの報告を受け、俺とレインが準備を始める。
レインが使用するのは<
俺が使用するのは<
レインが<
<
オアシスの1つも無い砂漠のあちこちに、わずかではあるが水源が生み出される。
精霊がおらず、魔力を奪われるだけだった土地には、レインが放った精霊(眷属)が住み着き、魔力の循環を促進させ、土地の維持を担う。ちなみに、さっき吸収した奴らだ。
砂漠の緑化と言うよりは、
さて、そろそろ何をしていたのかを説明しようか。
俺達は、精霊達が奪った魔力をブラウン・ウォール王国に返還したのだ。
『精霊界』が延々と奪い続けていた魔力を、<
当然、『精霊界』が貯め込んでいた魔力だけでは足りなかったので、<MP自動回復>を<
ああ、もちろん分かっているとは思うが慈善活動ではない。
何故なら、現在、この砂漠の土地の権利のほとんどがアドバンス商会にあるからだ。
ブラウン・ウォール王国はかなり変わった町の配置となっている。
国土の中心は『精霊界』のあった場所で、そこから広大な国土のほとんどを砂漠が占めている。そして、この国の街は国境付近に集中しているのだ。簡単に言えば、砂漠をぐるりと囲むように町が配置されているのである。
そこが、1番『精霊界』の影響が小さいので当然である。
故に、ブラウン・ウォール王国の中心部にある砂漠は国であって国でない。道も無く、通行することも出来ず、魔物すらいない完全な不干渉地帯なのである。
それでも、国土であることには変わりなく、一応王家が土地の権利を持っている。
言い換えよう。誰も欲しがらない土地だから、とりあえず王家が権利を持っているのだ。
それをアドバンス商会が、王家にもパイプを伸ばした異常なる商会が買い取ったのだ。先程のアルタの報告は、アドバンス商会からの購入完了の知らせだったのである。
誰も欲しがらないだけあって、かなりの格安で購入出来た。自国の領土だと言うのに、国王自身が躊躇なく売ったのである。どんだけ貧困に喘いでいるのだろうか。
こうして、アドバンス商会は、広大な砂漠と言う不毛な大地を手に入れたのだった。
ああ、少し修正しよう。今後、魔力の循環によって、水と緑あふれる広大な土地になることが約束された、
なんか、インサイダー取引っぽいけど、買った後に自力で元に戻しているんだから、文句を言われるような事でもないだろう。
悪いのは、魔力を奪ったティタニエル達であって、俺じゃないのだからな。
「お疲れ様、レイン」
ブラウン・ウォール王国全域に<
《むー》
俺に抱き着くことが多いレインに、対抗意識を燃やしたドーラも抱き着いてくる。
ドーラにも抱き枕としての主張があるらしい。可愛い。
とにかく、これで俺は、俺達は『自由に使える広大な土地』を手に入れることが出来た。
まあ、『自由に使える広大な土地』だけだったら迷宮内に山ほどあるんだけど、あそこは50層台だから無関係な人間を入れるわけには行かないんだよね。
無関係な奴隷の送り先として、これ以上に適切な場所はないだろう。
強制的に環境を整えた影響もあるので、しばらくの間レインにはブラウン・ウォール王国に留まってもらい、魔力の流れを微調整してもらうことにした。
俺と別れるときに滅茶苦茶寂しそうな顔をしていたが、1日1度は会いに来てもいいと言ったら、意外とあっさりと引き下がった。
精霊とアドバンス商会に後を任せ、俺達はブラウン・ウォール王国を後にする。
『ポータル』で屋敷に戻った俺達を、いつも通りメイド達が出迎える。
前に出てきた
「……するように指示いたしました。後、ラティナが目を覚ましております」
「わかった。夕食を食べたら俺も向かう」
どうやら、狂化していたラティナが目を覚ましたらしい。
夕食よりも優先する事象ではないので、飯を食ったら話をしに行こうと思う。
思った以上にブラウン・ウォール王国の
夕食を終えた俺はマリアと共にラティナが休んでいる部屋へと向かった。
俺1人でも良かったのだが、マリアも関係者だから連れて行くことにした。
俺はノックも無しに扉を開ける。
配下しかいない俺の屋敷で、俺が相手を気遣ってノックすることはない。自由だ。もしくは無作法だ。
「ああ、来たのか……」
俺達が来たことに気付いたラティナが呟く。
ラティナはベッドに寝た状態だったが、俺達が来ると同時に上体だけを起こした。
「申し訳ないが、まだ体調が完全には回復していないのだ。このような姿で話す非礼を詫びたい」
そう言って、ラティナは頭を下げる。
「ああ、別に問題はない」
「そう言ってもらえると助かる……何とお呼びすればいいだろうか?貴殿は私の主人になったのだから、敬称を付けるべきだと思うのだが……」
ラティナは、自身が従魔になったことなど気にしていないような素振りで言う。
「マリアの呼び方と同じように、仁殿、で良いと思うぞ」
「わかった、仁殿」
「それで、言いたい事があるのなら一応聞くぞ。例えば、『本当はマリアの従魔になりたかったのに』とかの恨み言とか……」
少し皮肉る様に言ってみる。
ラティナは自身を倒したマリアにかなり強く執着していたからな。
俺に負け、強制的にテイムされたことに関して、どう思っているのかを聞いてみたいのだ。
「いや、それに関しては何とも思っていない。殴られてわかったが、仁殿はマリア殿以上の実力者だ。そして、マリア殿の主でもある。ならば、私が従うのは当然だろう」
マリアに負けた時と同じ理屈で、俺にはその権利があると言い切るラティナ。
潔いと言うか、自身を顧みなさすぎると言うかは意見が分かれるだろう。
「それに……、私に勝った仁殿に従い、私に勝ったマリア殿の同僚になる。それは……何と甘美な響きなのだろうか……」
うっとりとした表情で、ラティナが頭のおかしい事を口走り始めた。
ラティナが俺を見る目は熱で潤んでいる。ラティナがマリアを見る目も熱で潤んでいる。
もしかして、ラティナの奴、自分を倒した相手に惚れる性質でもあるのか?それも、性別問わず、複数人同時で……。厄介すぎるだろ……。
話の雲行きが変になって来たので、少々強引に話題を変える。
「それで、ラティナはこれから何をしたい?基本的に俺は配下がしたい事があるのなら、それを優先させてやるつもりだぞ」
自分の配下にやりたくもない事をやらせるのは趣味じゃない。
余程変な事、全く利益にならない事でなければ、本人の意思を尊重するつもりだ。
「ふむ、出来れば修行を続けたいところだが……。ああ、仁殿が望むのなら、メイドになることもやぶさかではないぞ。もちろん、夜の相手でもいい」
本当に自身を顧みない奴だな。
「メイドも夜の相手も結構だ。……修行の旅か。旅に出る前に、まずは俺の配下達と手合わせをすると言うのはどうだ?少なくとも、今のラティナよりも強い者は山ほどいるぞ」
「それは本当か!」
嬉しそうに声を上げるラティナ。
例えレベルが及ばなくても、ステータスでラティナを圧倒できるものは少なくない。
ステータスを同程度にしても、技術面でラティナに匹敵するものも数多く存在する。
態々旅をして修行をしなくても、俺の配下を相手にするだけで十分な修行になるはずだ。
「ああ、俺の配下も随分と人数が増えたからな。修行相手として申し分はないはずだ」
「それは願ってもない事だ!是非、それで頼む!」
「ただ、その場合俺への利益が全くないから、メイドか何か別の仕事をしてもらうことになると思うけどな。さっきは結構と言ったけど……」
俺はメイドはいらないが、利益を与えないただ飯食らいを置いておくことは出来ない。
完全なペット枠(ポテチ)とか、モフモフ係のような存在は別だが。
「もちろん、それで構わない!何なら、夜の相手も……」
「結構だ」
「マリア殿でも……」
「結構です」
自身を顧みないのか、ただの淫乱なのかが分からなくなってきた。
こうして、俺の配下に新たに武闘派吸血鬼メイドが加わることになったのだ。
武闘派メイドと言うとメイド部隊の大半が元々そうだし、吸血鬼メイドと言うとちょっと前までのミラがそうだしと言う事で、全く目新しさのない
後、ラティナが俺の配下に負け、いったい何人に惚れるのか気になります。
なお、俺の配下は大半が女性です。
のんびり7日目。
本日はカスタールの女王騎士ジーンとしてエルディア領に行きます。
のんびりしてねぇ!それ、普通に仕事だよ!
……それはさておき、態々嫌いな国に行って何をするのか?
単純に、戦利品を受け取りに行くだけである。
現在、俺は久しぶりにジーンの格好(鎧と認識疎外のマスク)を付け、愛竜であるブルーに跨って旧エルディア王都へと向かっている。
もちろん、俺同様に仮面をつけたメインパーティの5人も関係者の為同行している。
この恥ずかしい仮面を着けるときは、出来るだけ大人数で着け、恥ずかしさを軽減したい。
余談だが、カスタール王都から旧エルディア王都までを飛んで行く訳ではない。
時間がかかるので、エルディア領内の適当な地点から飛び始めている。
本当は直接エルディア王都に『ポータル』転移してもいいのだが、箔付けと言うかパフォーマンスと言うか、とにかく政治的な理由で飛んで行かなければならないのだ。
しばらく飛んで旧エルディア王都上空。
「ここはほとんど復興が進んでいないな……」
「そりゃ、メイドパワーが無いからね。エンドと一緒にしたら駄目よ」
「それもそうだな」
俺の呟きを並んで飛んでいたミオが拾う。
旧エルディア王都は戦争の時に魔族の襲撃を受け、ボロボロになっていた。
あれから、結構な時間が経っているのに、街の至る所で破壊の痕跡が窺え、完全には復興していないと言う事が明確だった。
当然、エルディア領に土木メイドなど派遣していない。
何故、態々嫌いな国(土地)の復興に力を貸さなければいけないのか。
鬼神の復活により、旧エルディア王都以上の被害を受けたはずのイズモ和国首都のエンドは、既に100%復興していることを考えれば、メイドの力の一端が垣間見えると言うものだ。
随分と人の減った元王都を眺めながら、俺達はエルディア城へと乗り入れる(王城ではないが、城であることは変わらないのでこう呼ぶ)。
城の中庭に竜達を乗り入れる。……俺が織原に転移させられた、あの中庭である。
マリアの警戒度が跳ね上がった。
「ようこそいらっしゃいました」
「ああ」
ブルーから降りると、並んでいたメイド達が頭を下げる。
彼女達は俺の配下のメイドで、現在のエルディア領を実質的に取り仕切っている。
「準備は出来ているのか?」
「滞りなく。後はジーン様のサインさえあれば、予定通り輸送を開始できます」
「わかった」
俺の問いにメイドが答えると同時に、メイドが契約書を手渡してくる。
俺はその契約書にサインをする。
マップを見れば、契約書の内容が事実だとわかるからな。
「では、これで元エルディア王国民、1万人の奴隷を順次輸送させていただきます」
そう、俺達は戦争の戦利品である、元エルディア王国民の奴隷を回収しに来たのだ。
エルディア領は現在、カスタール女王国に対して莫大な借金を抱えている。
当然、戦争を吹っかけ、その上で負けたのだから、その賠償金である。属領になったとは言え、何の罰則も無しでそのままカスタール傘下に収まるだけで済むわけはない。
しかし、エルディア領に莫大な賠償金を払う余裕などなかった。
この領の管理を任されたメイド達が国庫を確認した所、ほぼ何も残っていなかったのだ。
その理由はいくつかあるのだが、1番大きかったのは『勇者の維持費』だったと言うのが皮肉だ。勇者1人1人をサポートするために莫大な資金が投じられており、それが国庫を逼迫していたと言うのが笑える。
挙句の果てにカスタールを攻めるための軍備にも金を使ったので、本当にすっからかんだったのだ。なお、折角準備した軍備はカスタールに入ったところで俺に回収されている。
どうやら、カスタールを滅ぼした後、その資産を略奪するつもりだったようだ。本当に最低である。
そこで、エルディアに派遣されたメイド達が取った手段とは、『旧エルディア王国民の奴隷化』である。
詳しく説明するまでもなく、国民を売ってお金にすると言う、非道な行いである。
もちろん、相手がエルディアなのでGOサインを出したのは俺だ。
その奴隷を誰が買うのか?
そこで手を挙げたのが、我らがアドバンス商会である。
エルディア王国は、大量の国民を奴隷として購入アドバンス商会に売却することで、カスタールへの賠償金を賄うことになった。
その数、1万人である。
エルディア領は大量の領民を失い、カスタール女王国は幾ばくかの資金を得て、アドバンス商会は少量のお金を失い、大量の奴隷を得たことになる。
アドバンス商会からカスタールへ払う金額が少額なのは、戦争の勝利がカスタールの功績ではなく、ほぼ俺達単独の功績だからだ。
払わなくても問題はないのだが、俺に同行してきた竜騎士達の出張手当のようなものである。
俺達がエルディア領に来たのは、カスタール代表として奴隷の売買契約を確認するためである。他にも、アドバンス商会のエルディア支店長も来ている。
ぶっちゃけ、対外的なアピール以外の何物でもない。カスタールもアドバンス商会も身内だし、エルディアは今やカスタールの、いや、俺の支配下だし。
「これより、第1陣のブラウン・ウォール王国への輸送を開始いたします」
エルディア王国で購入した奴隷達は、今からブラウン・ウォール王国へと輸送されていく。
奴隷達はこれから、不毛の大地であるブラウン・ウォール王国で開墾作業に従事することになる。それは、この世界においては鉱山送りと同様な、実質的死刑であった。
……今までは。
ブラウン・ウォール王国の広大な砂漠は、昨日のレインの活躍により、肥沃な大地へと変貌した。だが、それ程の広大な土地を開墾するには、どう考えても人手が足りない。
逆に言えば、エルディア王国から大量の奴隷を購入できるからこそ、ブラウン・ウォール王国の砂漠を
元々、エルディアで入手した奴隷達は、カスタールやエステアでアドバンス商会の下働きとして使う予定だったが、別に必須と言う訳ではない。より良い使い道があるのなら、そちらに回した方が良いだろう。
後、補足しておくと、この1万人の奴隷は俺の直属の配下ではない。
クリスティアと同様に、『俺の奴隷(配下)の奴隷』となり、単純な労働力として考えられている。
なので、俺に関する秘密・情報は一切持たず、異能の恩恵を得ることはない。
異能の影響は受けるが、利益を得ることのない、俺とほぼ無関係な奴隷と言う事だ。
そして、昨日言った通り、俺と無関係な奴隷の送り先として、ブラウン・ウォール王国は最適なのだ。
そんな奴隷達なので、俺としても配下のように大切にする気は無く、この世界の一般的な奴隷扱いとする。流石に体罰まではさせないが、ウチの美味い飯は食わせない。
皆大好き黒パンと、クズ野菜のスープである。テンプレテンプレ。レアスキル持ちにはベーコンエッグぐらい付けてあげようかな?
無事に奴隷の売買契約も終わり、奴隷達の出発を見送る。
大勢の人間がドナドナされていくのを見るのは壮観だ。
奴隷達はあえてブラウン・ウォール王国に1番近い南門ではなく、最も遠い北門から出発させている。理由?俺とさくらが追い出された門だからだよ。八つ当たりだよ。
第1陣が全員出発したのを確認したところで、俺の仕事も一段落と言う事になった。
さて、それでは折角だし、エルディア領の観光をしようではないか。
「え?態々嫌いな国の観光をするの?」
エルディア城の1室で俺が今日の予定を伝えると、ミオが不思議そうに聞いてきた。
「何言っているんだ、ミオ。観光地に罪はないだろう?」
「そこは普通、『住んでいる住民に罪はない』とかいう場面じゃない?」
「いや、住民はどうでもいいし……。ただ、面白いものが0ってことはないだろうからな」
いくら嫌いな国でも、ほんの一欠片くらいは面白い事があるかもしれない。
それならば楽しんでみるのも一興と言うものだろう。
「仁様の趣味に合いそうな場所はご存知ですか?」
「少々お待ちください」
俺の方針を聞き、マリアが傍にいたメイドに尋ねる。
メイドは礼をしてその場を離れると、戻ってきた時には大量のバインダーを持っていた。
どこかで見たことがあると思ったら、アト諸国連合の観光の時にも用意されていた、観光スポットをまとめたファイルではないか。
エルディア領を活動の拠点にしている貴族奴隷メイド達(語呂は良いが意味は不明)は、俺がエルディアの観光をする可能性を予測していたと言う事になる。
メイド達の気が利くのか、俺の行動がワンパターンなのか、どちらかだと思う。
「どれどれ……」
バインダーを広げてパラパラと中身を見る。
「おう……」
……何、この気合の入りまくった調査ファイル。観光地が写真入りで丁寧に解説されてる。
しかも、俺の趣味に合わせたものから順番に並んでいるので、上から適当に選ぶだけで満足出来るように計算されている。
バインダー自体もカテゴリ別で分けられており、エルディアの人間が嫌いな俺に配慮してか、街・村よりも魔物の領域や遺跡、自然環境が中心のラインナップだ。
あ、『竜の門』もある……。これがドーラの通って来たヤツだな。
《これ見たことあるー!》
「うん、本当にゴメン……」
《気にしてないよー!》
ドーラが『竜の門』の写真を見て言うと、人間形態になってついて来ていたブルーが謝る。
ドーラは寛大である。
「どうやら、ドーラ様が通った『竜の門』ですね」
「そうみたいですねー」
同じく人間形態のミカヅキとリーフが納得したように頷く。
対外的には女王騎士ジーンはカスタールに帰還しているので、
「この『竜の門』のお陰で、私達は美味しい食べ物が食べられるのです」
「感謝ですねー」
現在、2人は出されたお茶菓子をパクパク食べている。
基本的に
食欲に負けて、
俺はバインダーのページを再び捲る。
「ドーラには悪いが、行ったところで見る物はないから行かないけどな」
「造りは他のところと同じですし、転移機能は無効ですものね」
感慨深くはあるが、見に行くようなものではない。
なお、セラが言った転移機能を無効にしたのは、他ならぬ俺である。
《行くのなら、ごしゅじんさまとであったどうくつの方が良いー!》
「そこも行ったところで見るようなものはないだろう……」
《ざんねーん》
俺とドーラが出会ったのは、盗賊の住処である洞窟だ。
血生臭い状況だったし、ドーラと出会ったこと以外に大した思い出も無いので、行きたいような場所ではない。未だに、盗賊のお頭が持っていた呪われた大斧は死蔵したままである。
メインパーティに斧使いいないし、いたとしても呪いの武器なんて使わせないし……。
「そう言えば、ミオとマリアはエルディア出身だったよな」
「申し訳ありません」
「いや、何でマリアちゃん謝るの?」
ふと思い出したことを尋ねると、マリアが速攻で謝った。ミオも困惑している。
「私の人生において、エルディア出身というのが最大の汚点ですから」
マリアの中では、俺が嫌うエルディア出身と言う事は許しがたい事らしい。
「いや、そんな事を今更気にするな。それより、故郷を見に行きたいって気持ちはあ……」
「ありません!」
「ないわ!」
最後まで言い切る前に、2人とも全力で拒否をしてきた。
「ご主人様に買われた日に言ったじゃない。私、この国に帰属意識は全くないって」
「仁様のいる場所が私のいる場所だとお伝えしました。それは今も全く変わっていません」
「私も、帰属意識の対象は、未だに日本なのは変わっていないわね。それにご主人様の傍にいる方が落ち着くし、故郷に行きたい理由が見つからないわよ」
確かに今と同じようなことを言われた記憶はある。
2人とも、その時点で故郷の村に見捨てられており、帰属意識が全く無いと言っていた。
最初に身の上話を聞いて以来、1度も故郷の話題がでないくらいには興味が無いようだ。
「じゃあ、戦争で負けて酷い目に遭っているところを見に行きたい気持ちはあるか?」
「仁君、悪趣味です……」
さくらが若干引きながら言う。
確かにちょっと悪趣味だが、2人の受けた仕打ちを想えば、留飲を下げるために見に行くのも有りかな、と少し思うのですよ。
「え?でも、自分に嫌な事をした相手が酷い目に遭うと、すっきりしない?」
「…………………………」
さくら、否定できず。
……ちょっと、意地悪な質問だったかな。
「仁様が見たいと仰るのでしたら行くのは構いませんが、態々行きたいかと言われると、全く興味がありません。本当に、見る物なんて何もありませんよ?」
「私も『ざまぁ』を見たい気持ちが無くはないけど、そんな事をしなくても、今が十分に幸せだから。そんな事をして下げなきゃならない程の留飲はないわよ。ハッキリ言って時間の無駄だと思うわね」
2人ともほぼ興味なし!
じゃあ、行かない!
「思い出関連で行きたい所はなさそうだから、新規の観光地を探すとしよう……。そうだな、……とりあえず、ここに行こうか」
誰も行きたい場所が無いので、適当に行く場所を決めた。
エルディアの扱いは、今後も大体こんなものになる予定だ。
次回より、0の付く日の0時更新になります。
多分、9章を書いている間は続くかと思われます。すんません。