正しいストライキのやり方

先ほど日が変わる前にとりあえず「気がついたらこんな時間に。」と書きましたが、それではあまりに適当だと言われそうなので追記します。

栃木県の高速道路のサービスエリアで従業員がストライキをして、お盆の書き入れ時にもかかわらずお店を開けることができなかったという事件がニュースになりました。

会社の経営方針に対して従業員の不満がたまっていたことが原因のようですが、これに対して会社側は新しい従業員を使ってお店を再開したようです。

世間的にはサービスエリアの従業員がかわいそうで、会社の社長が悪い奴になっていますが、それって大間違いです。
確かに労働者は弱い立場ですから状況的には同情できるかもしれませんが、広く一般に向けて公的なサービスを提供する株式会社の従業員としては、あのようなストライキのやり方は間違っていますから、その点では同情する余地はないのです。

では、正しいストライキのやり方とはどういうものか。

まず、会社に対する不満や労働条件の改善要求がある場合、いきなりストライキをやるのではなく、従業員の代表が会社と話し合いを持つことが第一番にやるべきことです。

この場合、従業員の代表というのはつまり自分たちの代表になりますから、選挙など、何らかの形で合法的に選ばれた代表でなければなりません。

つまり、従業員の代表を選ぶ際には、基本的手順として労働組合を結成し、届け出をして、選挙なり委任なりで、従業員代表を選出することが必要です。
そして、自分たちの考えや要求を、要求書として会社側に提出することになります。

この要求書を提出する所からいわゆる団体交渉というのが始まります。

会社は法的に認められた労働組合から提出された要求書や団体交渉開催の要求に関しては無視することはできませんからきちんと対応しなければなりません。

同時に組合側は要求書を提出するにあたって、自分たちの要求が聞き入れられなければ実力行使に出る覚悟があるということを会社側に伝えます。
つまり、これが「俺たちはストライキをするぞ。」という覚悟です。
このためには要求書が出来上がった段階で組合集会を開き、スト権投票、つまり、組合員の総意としてストライキをするぞという意思表示を行わなければなりません。
これがスト権の確立です。
そして、組合員の総意としてスト権を確立した段階で会社に対して要求書を提出するのです。

こうすることによって、会社側は組合員が本気であることを認識します。
その際に、組合から回答指定日というのを設定します。
つまり、〇月〇日に回答せよと、次回の団体交渉の日にちを定めるのです。

この次回の団体交渉の日にちというのは通常10日から2週間後になります。

というのも、ストライキというのは勝手に実行できるものではなくて、まず、厚生労働省へ出かけて行ってストライキをするぞという届出をしなければなりません。同時に中央労働委員会へ行って、自分たちの要求というものが妥当なものかどうかを判断していただく必要があります。これを「スト権ファイル」と言います。

このスト権ファイルを行なうと、「〇〇株式会社ではこのような労働争議が発生していて、ストライキが予定されています。」ということが官報に掲載されます。
そしてスト権ファイルしてから中10日を置いてスト権が発効します。

労働者が権利を主張するためにはこのような手順を踏む必要があるわけで、ストライキに入る前に広く世間に対して告知をする期間を置くことが求められるのです。

そしてスト権が発効したこの段階で合法的にストライキをすることが可能になります。
組合は「俺たちはいつでもストライキができるんだぞ。」という裏付けを持って、第2回目の団体交渉に臨むわけです。

その第2回目の団体交渉で「回答書」が会社から示されるわけですが、第1回目の団体交渉で組合側が提出していた要求書に対する回答に満足できなかったり、あるいは要求が聞き入れられなければ、初めて労働者としての実力行使であるストライキができるのです。

これが合法的にストライキを行う手順です。

今回のサービスエリアのストライキは、このような合法的な手順を踏んだストライキではありません。
こういう非合法のストライキは「山猫スト」と呼ばれるものですが、簡単に言うとサボタージュに当たります。
つまり、職場放棄というものです。

従業員が職場放棄を行った場合、会社側はその従業員を解雇を含む処分を行うと同時に、業務を継続するために別の従業員を連れてきて業務を再開するなどの手配を取ります。

これが、今日のニュースになっていた従業員を入れ替えて業務を再開したということなのです。
ですから業務再開で動員された別の従業員はスト破りでもなんでもないのです。

ということで、感情的には同情できるとはいうものの、今回のサービスエリアでの従業員の取った行動はストライキではなくサボタージュであり、単なる職場放棄に他なりません。
残念ながら処罰されるのは職場をボイコットした従業員たちということになります。

私のように高度経済成長の時代を生きてきた人間としては、このぐらいの知識は当たり前のことなのですが、最近の人たちは会社に不満がある時に、自分たちの要求を会社に聞いてもらうための術を持っていないんですね。

私から見たら平和ボケもいいところです。

感情に任せて、結果として人様に迷惑をかけるような行為はお隣の国だけにしておきたいと思いますが、いかがでしょうか。

(元英国航空労働組合書記長)