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日々のコト♪♪

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「チェギョンは何処に?」

お茶の時間。
山のようにある案件を区切りの良い処で一旦終了し、チェギョンが楽しみに待っていると思い早目に戻った東宮にチェギョンの姿はなかった。

「まだ戻ってはいないんですか?」

不機嫌な僕の声に2人の女官の肩が小さく震えたのが目の端に見えた。
「ま、まだお戻りではないです」
「連絡は?」
「御座いません」
深く頭を下げるパン女官。
「コン内官、チェ尚宮はなにをしているんだ!」
「申し訳御座いません。直ぐに連絡致します」
コン内官が頭を下げ携帯を出したと同時に、どこかで見ていたかのように、僕の携帯が鳴った。

画面には姉さんの名前

…あぁ。
朝の嫌な勘が当たったようだ。
どんな内容の電話か僕は出なくても解る気がする。
解るだけに出たくはない。
鳴り響く携帯。
画面を睨みつけて出ない僕に
「殿下、如何なされました?」
不思議に思ったコン内官が口を開いた。
「…いえ。チェ尚宮には連絡しなくていい。チェギョンは姉さんと一緒だと思うので」
そう告げて僕は鳴り止まない携帯と共に書斎に入った。
「ふぅ」
小さく息を吐き、携帯の通話を押し耳にあてた。

「何やっているのよシン! 出るのが遅いんじゃなくて?」

不機嫌な姉さんの声。
…不機嫌になりたいのは僕の方だ。
「すみません。用件は何ですか?」
「なに? もう機嫌が悪いの?」
「もう? 姉さん、僕の機嫌が悪くなる様な事をしたんですか?」
「まったく。嫌味な弟よね。ええ、既にご存知の様に、皇太子殿下の愛しくて大切な妃殿下をお借りしてます。申し訳ありませんが皇太子殿下お一人でお茶の時間をお過ごし下さい」
「それは困りますね。今朝、妃殿下とお茶の時間は一緒に過ごすと約束しているので、直ちに返して頂きたい」
「あら? チェギョンはシンより私達を選んだわよ。シンとは何時でもお茶出来るからって。残念ね、シン。今日は一人淋しく美味しいイチゴのデザートでお茶をして頂戴。こっちは女4人で楽しくさせて頂くわ。じゃあね」
「姉さん!」
ツーツー・・・
姉さんは言いたい事だけ言って一方的に切った
「チッ」
舌打ちをし携帯をソファーの上に投げ深く腰を落す。

コンコン

「はい」

ドア越しに顔を見せたのはチョン女官
「お茶をお持ち致しました」
テーブルに紅茶とイチゴのシフォンケーキを置き、 チョン女官が一礼し書斎を出て行った。

チェギョンの居ない東宮に甘い香りが溢れ出す。
姉さんにチェギョンを取られた苛立ちに
チェギョンの居ない空間に漂うこの甘い香り
今の僕には憂鬱以外の何物でもない。
苛立つ気持ちを飲み込む様に紅茶を流し込んだ。


「…これもイチゴか」


ほんのり甘酸っぱい味が口の中に広がる。
東宮が…いや、宮全体がチェギョンの好きなイチゴの香りに包まれている。
今朝、チェギョンが言った通りになったな。

「チェギョンの奴、あれだけ約束したのに」

独り言をいったところでチェギョンが現れるわけでもない。
きっと、いや、姉さんが無理矢理言ってチェギョンとお茶の時間を約束させたに違いない。
皇太后や皇后もきっと、チェギョンを離したくなく無理に誘ったはずだ。
妻が夫の家族と仲が良いのは喜ぶべき事だ。

……でも、嫌だ。

チェギョンの中で僕が何よりも優先されないのが…
いつも一緒に居たい
片時も離れたく無い
傍でチェギョンを感じていたい
出来ることならチェギョンを僕の目の届く処に置いておきたい

…重症だな。

いつからこうなった?
自分以外の誰かを気に掛けるなんて無かった筈だ。
チェギョンと出逢い
チェギョンを愛し
チェギョンが僕の宝物になってからは
一人の時間を持て余すようになり
一人の時間が苦痛になった。
チェギョンと共に居たい
チェギョンと全てを共存したい
チェギョンの全てを僕に向いていて欲しい…

「ふっ」

幼稚な考えの自分に呆れて自嘲気味に薄笑いをする。
今の僕はチェギョンが全てで
チェギョンによって今の僕が成り立って居るんだ。
…まさか、この僕がこんな風に変わるなんて自分でも信じられないんだから、周りにの連中にはもっと信じられないはずだ。


この間のパーティーで言われた言葉を思い出す。



「皇太子殿下、お変わりになられましたね」


スウェーデン大使館のパーティー。
チェギョンが大使の娘と会話が弾んでいる隙にコン内官と共に厄介な奴等に挨拶をしていた僕に向けられた言葉。
声の主を見ると王族の最長老の孫娘、名前は確か…

「お久し振りで御座います。ファン・クムジです」

そうだ、ファン・クムジ。
幼い頃、宮で何度が顔を合わし数回会話をしたが、ここ数年は僕の誕生会で挨拶を交わす程度だ。
最長老の孫娘としか認識していない。
パーティーの席で僕に声を掛けるなんて初めての事だ。
「殿下があまりにもお変わりになり驚きました」
「僕が変わった?」
「はい。とても優しく穏やかな表情ですので。以前は氷の皇太子と呼ばれ近寄れない雰囲気でした」
「今は気安く近寄れると?」
「い、いえ。けしてその様な事ではなく….殿下のその穏やかさは妃殿下の影響なのかと思いまして」
「ええ、確かに。僕が今、穏やかにいられるのは妃殿下が傍にいてくれるからです」
そう言いながらチェギョンに視線を向けた。
大使の娘と手振り身振りで話をしているチェギョン。
チェギョンを囲みいつの間にか輪が出来き、周りは和かなか笑顔が絶えないでいた。
「妃殿下は本当に可愛らしくて素敵な方ですね」
「ええ。僕が今まで会った、いや、これから会う女性の中でも妃殿下以上の魅力がある女性はいない」
「はっきりおっしゃるんですね。でも、確かにそうかもしれません。妃殿下の魅力に惹き寄せられた方が多いですわ」
輪の中には王族会や財界の子息達の姿が何人もいる。
隙あらばチェギョンに近寄ろうと意気込んでいるのが目に見えてわかる。
チェギョンは何の意識もしていない。
無意識…だが周りの人間はチェギョンのその魅力に惹き付けられる。
今日初めて会った人間から
以前から知っている人間までも
僕が惹き付けられたように、いつの間にかチェギョンの魅力に惹き付けられるんだ。
チェギョンの同級生のアイツや…インやファンまでも……


「チッ」

自分の立場もその場も考えず舌打ちをした。
「殿下も嫉妬なさるんですね」
チェギョンの周りに群がる男達に嫉妬心を剥き出しにした僕に驚いたように尋ね
るファン・クムジ。
「不思議ですか? 僕は妃殿下の前では皇太子ではなく普通の男ですよ。…いや、普通の男以下になる。今すぐにでも彼女の傍に行って誰の目にも触れさせないよう閉じ込めておきたくなる」
「皇太子殿下がですか? 信じられません」
「彼女は僕を嫉妬に駆られた無様な男にさせる」
「殿下をこんなにも情熱的にさせるなんて…。妃殿下も殿下と同じ気持ちになるでしょうか?」
「僕と同じ気持ち?」
「妃殿下も嫉妬なさると思いますか?」

チェギョンが嫉妬

そう言われれば…
いつもいつも嫉妬するのは僕のような気がする。

「まさか妃殿下は嫉妬なさらないんですか??」
返事のない僕にファン・クムジは小さく驚いた。


そして、言ったんだ…

「殿下、妃殿下に嫉妬させてみませんか? 嫉妬すると分かれば殿下も安心でしょ?」

紅いルージュを塗った唇で艶めかしく微笑み
化粧を施した一重の瞳からは妖しく光を放った。

「嫉妬させる?」
「ええ」
僕の腕に自分の腕を絡める。
「…!?」
驚いて咄嗟に腕を避けようとした僕にファン・クムジは
「私と殿下がこの様にしていたら、妃殿下はきっと嫉妬なさるわ。嫉妬した妃殿下を見てみたくありませんか?」
唇を耳に寄せ小さく囁いた。


チェギョンは嫉妬するだろう…か?


それは僕の幼稚な思いから…
チェギョンに嫉妬してもらいたく、ファン・クムジの誘いに乗ったんだ。
隣で腕を絡ませ必要以上に躰を寄り添うファン・クムジの香りに不快感を抱きながらも、嫉妬したチェギョンを思い浮かべ気持ちは馬鹿みたいに浮いていた。


「ほら見て。妃殿下が此方を見てますわ」

ファン・クムジの声が耳に掛かるのが一瞬耐えられず躰をを反らそうとしたが、チェギョンが真っ直ぐ僕を見ている視線とぶつかり、僕は鼻腔に纏わり付く不愉快な香りを我慢し彼女に寄り添った。
チェギョンを意識しないように
…それでもチェギョンだけを意識し
ファン・クムジとの仲を見せ付けるよう演技をしたんだ。
パーティー中、チェギョンは可愛らしいけど凛とした気品あるプリンセススマイルを崩すことをなかった。
妃殿下として完璧なそんなチェギョンに、僕はすごく不安になったんだ。


「妃殿下は顔色一つ変えませんでしたね」


ファン・クムジの一言がより一層僕を不安に落とす。
チェギョンは彼女と帰り際話をしている間も完璧なプリンセススマイルを崩す事はなかった。
それもまた僕を不安にさせた。


チェギョンは嫉妬はしないのか
僕は馬鹿みたいにチェギョンの周りにいる男達に嫉妬し独占欲剥き出しにするのに…



「オッパまたね」



ファン・クムジの唐突な言葉に僕は固まった。
『オッパ』…なんて呼ばせた事などない。
臆面もなく言った彼女に嫌悪が一気に沸き起こり、鋭い視線を投げつけ、チェギョンを車に押し込むように乗せ東宮に帰たんだ。



車の中では最悪な空気。
チェギョンは一切会話をせず、視線さえも合わせない。
シートに置かれた手を握りしめようと手を伸ばすと、あからさまに避けられる。
何に不機嫌なのか、この時の僕は気付かなかったんだ。
それが分かったのは、東宮に戻り人払いした僕達2人だけになった空間の時…




チェギョンの可愛らしい嫉妬の言葉に、嬉しくて僕は嫉妬で不機嫌なチェギョンには悪いが、心の中でガッツポーズをとり溢れる喜びを隠しきれず顔を緩ませたんだ。
その後のチェギョンとの甘く熱い時間は朝日が登る頃まで続いた。
あんなに僕を欲するチェギョンは初めてで、僕も何度もチェギョンを求め愛した…
チェギョンの中で 僕は溶けるような快楽の幸福感を味わったんだ。

あの日の、妖艶さと恍惚の表情をしたチェギョンを思い出すだけで、口元が緩むのが自分でもわかる。

たぶん、今の僕は気高く気品のある皇太子の顔はしていないだろう。
誰に見られているわけでも無いのに、恥ずかしくなり右手で緩んでいる口元を覆った。



バンッ!!

ー!?


「シン君っ!!!」


宮には相応しくない音で開け放たれたドアから勢いよくチェギョンが飛び込んできた。


「よかった~! まだお茶が終わってなかった」

息を整えながら僕の隣に座り腕に両手を巻きつけるチェギョン。
イチゴとは違う甘いチェギョンの香りが鼻をかすめる。

チェギョンの甘い香り
僕より高いチェギョンの体温
チェギョンのよく喋る口からは心地良い声がリズムのように耳に流れてくる。

身体全身でチェギョンが傍に居ることを確認出来る。


チェギョンが傍にいる


傍にいるだけで言いようのない喜びが僕を包み込む。
さっきまでのイライラが一瞬にして消えた。
心を擽られるほどの嬉しが込み上がる。
主人を見つけた飼い犬のように尻尾を振ってチェギョンに飛びつきたいが、約束を破られ、素直じゃない捻くれた天邪鬼の僕がムクムク頭を擡げた。


「チェギョン? まさかと思うが、おまえ走ってないだろうな?」
「ま、まさかっ!!」
「本当か? 皇族は嘘を吐いたら駄目だと知ってるよな?」
薄っすら汗を掻いて額に張り付いた前髪を指先で触れる。
「ん? この汗はなんだ? それとチェ尚宮はどうした? まさか、1人で走って置いてきたわけじゃないだろうな?」
「あ、あ…のね、走ったんじゃなくて、すっごく速く歩いてきたの。速すぎてチェ尚宮お姉さん追いつけなかっ…たか、も?」
目を泳がせしどろもどろでなんとも間抜けな言い訳を話すチェギョン。
「そう言ってますが、チェ尚宮は如何思います?」
遅れて着いたチェ尚宮に視線だけ動かし問いかける。
チェ尚宮の肩は小刻みに動き息を整えているのが此処からでも充分にわかる。
「申し訳ありません」
深く頭を下げるチェ尚宮。
さすが優秀な尚宮。
使える主の不届きな行為は口にはせず、
ただ低頭平身で詫びる。
僕がチェ尚宮を咎めると思ったのが、チェギョンが慌てて捲し立てた。


「シン君!! チェ尚宮お姉さんは何も悪くないの! 何度も止めるお姉さんの話を聞かないで私が勝手に走ったの!!
解っているのよ? 走っちゃいけないこと。宮に来た時から何度も言われてるんだから。でもね…」


「でも?」
チェギョンが眉毛を下げ、僕を見上げ言った。

「シン君に早く逢いたかったんだもん」

ドクンッ!!

その顔に
その言葉に
胸が大きく波を撃った

今すぐチェギョンを押し倒したい衝動をなんとか押さえ込み
チェ尚宮に軽く右手をあげ、下がるように合図をした。
優秀な尚宮は何も言わず一例して下がろうとしてるのが視界の隅でわかる。

「あ! チェ尚宮お姉さん! 」
下がるチェ尚宮にチェギョンが
「さっきはごめんなさい」
立ち上がり頭を下げ謝った。
主に謝罪され頭を下げられた尚宮。
宮では有り得ない光景だ。
「妃宮様! 女官に頭を下げるのはおやめください」
「でも、悪いのは私よ。此処まで走って来て…チェ尚宮お姉さん追いつくの大変だったでしょ? ごめんなさい」
また頭を下げるチェギョン。
チェ尚宮か何か言いそうになるのを目で制止した。
いつまでも終わりそうにない2人の空気。
これ以上、1分1秒だって僕は待てないんだ。
「チェ尚宮、下がっていい。チェギョンには僕がしっかり言い聞かせるので」
僕の気持ちを解っている優秀な尚宮は、再度深く頭を下げ静かにドアを閉めた。


やっとチェギョンと2人。
僕はチェギョンの右腕を強く引き寄せた。


「うわぁ!」


バランスを崩しチョギョンが僕の膝の上に座る格好になった。
待ち受けてた僕はチェギョンが逃げない様に細い腰に左腕を回し
もう片方の腕は肩に回し強引き寄せた。
背後からチェギョンの首筋に顔を埋め、香りを全身に取り入れる様に吸うと、チェギョンは僕との間をとろうと抵抗する。


「シ、シン君! この格好はダメだよ」
「何が駄目なんだ?」
「だって、誰が来たら…」
「大丈夫だ。チェ尚宮が人払いしてる」
「うそ?! だってそんなこと一言だって言ってない」
「言わなくても優秀な尚宮は解るんだろう」
「そ、それでも! まだこんな時間だし、ここ、書斎だし…」
なんとか抜け出そうと暴れるチェギョン。
馬鹿か。
そう簡単に解放するわけないだろ。
首筋に埋めてた顔をあげ
「書斎じゃなかったらいいのか? ん?」
フッ。
耳に短く息を吹きかけ、腰に回してた腕を緩め、ゆっくりと脇の辺りまで撫であげだ。
「やっ…シンく、んっ……んんっ…」
頬を赤く染め恥らいながらも、可愛い位に素直に反応するチェギョン。
……止まらなくなる
「チェギョン」
熱く赤くなっている耳朶を甘噛みする
「んっ…シ、ンくん…ダ、メだっ…て…」

「本当に? こういう時のチェギョンの『ダメ』は…もっとって意味だろ?」

服の上から膨らみを下から撫でる様に包むとビクッと震えた。

「あっ…やめっ………んんっ…」

甘い吐息が僕の耳を刺激し躰の中心に熱を呼び起こし…
チェギョンを溶かしてしまいたくなる

片手で頬を抑え、甘い吐息を繰り返す唇に吸いあげた

チェギョンの吐息を全て飲み込むようにキスを繰り返し舌で押し開け、逃げる舌先を捕らえる

チュッ…チュッ……

2人の唇から濡れた音が部屋中に厭らしく響く


「…はぅ……んっ……はぁ………」


あんなに抵抗していたチェギョンの躰の力が抜け手がソファーの上に力なく落ちた
チェギョン
ここが書斎だとか昼間だとか誰かが居るとか…
考えられなくなっただろ?
…だからもっと僕を感じて



「チェギョンの唇はイチゴより甘いな。もっと甘いチェギョンを味わいたい」



ドサッ

ソファーにチェギョンを沈め上に跨ぐ


「…シンくん」

俺を見るチェギョンの潤んだ瞳に…
再度ドクドクと自分自身に熱が込み上がる

チェギョンの全てを溶かしたい
僕だけに感じていっぱいにさせたい


「チェギョン」

覆い被さりチェギョンを喰べようとした瞬間ー・・・



「待ってっ!!!」

チェギョンが僕を突き飛ばし、素早く立ち上がり僕から離れた




「…?!」


僕は驚き頭が真っ白になり不恰好な姿で
チェギョンを見上げる


「あ、あ、あのねっ!! これ食べてからでいい?」

真赤にしながら言うこれと指した物は…シフォンケーキ

「パパのイチゴを料理長さんがシフォンケーキにしてくれたんだし………食べてからじゃあ…ダメ??」


最後の「ダメ」は、チェギョンの特技のお願い光線だ。

「お祖母様達と食べたのショートケーキだったの。料理長さん、シンくんには甘さ控え目のシフォンケーキにしたんだね。…これも、すごく美味しそう」

僕の事はもう頭にないのか、シフォンケーキを見つめながらぶつぶつ呟いているチェギョン。


…どこでチェギョンの食欲のスイッチが入ったんだ??

こうなったら食欲を満たすまで止まらない。


「ねぇ~シンくん。食べてからじゃあダメ?」

返事をしない僕にチェギョンは両手を顔の前で合わせ必死にお願いする。

「食べさせてくれたら、シンくんのお願い何でも聞くよ??」


…こいつ、わざとか?

この状況で自分が何を言ってるのか理解してないだろ?

これからって時に、シフォンケーキ食べたさに、夫で皇太子である僕を突き飛ばしたチェギョン。

…やっぱりこいつは宇宙人だ。

あの頃も今も、僕の思うようにはいかない。
いつも僕を振り回す。

さっきまで甘く艶やかな雰囲気など無かったように、シフォンケーキを見ているチェギョンは、まるで待てを強要されている犬ようだ。

夫で皇太子のこの僕よりシフォンケーキに夢中な妻、チェギョン。
僕はそんな姿にも愛おしさが増すんだ。



僕は可笑しくなり声を出して笑った

「くく…ハッハッ!」

「シンくん?! どうしちゃったの??」
突然の僕の笑い声に目を丸くして驚くチェギョン。
「いや。くく、なんでもない。食べたいなら食べるといい。ただ、自分の言葉に責任を持てよ?」
「自分の言葉?」
「ああ。僕のお願いを何でも聞く…って」
「もちろん!!」
首が壊れるんじゃないかと思う程の勢いで頷くチェギョン。


おまえ、わかってないだろ?
その言葉に僕がどれだけ期待してるか。
…『ダメ』って得意のお願い光線出したって止めてはやらないからな。
シフォンケーキに負け、皇太子の僕がお預けを食らってるんだ。
朝まで離してやるもんか。



「シンくんも食べる?」


シフォンケーキを美味しそうに食べているチェギョン
僕がじっと見ているのがケーキを食べたいのかと勘違いしたようで、フォークに一口乗せて差し出す。

「いや、僕は後でもっと美味しいデザートを食べるから、それはチェギョンが食べろ」
「もっと美味しいデザート? それってどんなの??」
チェギョンの瞳がキラキラ光る
こいつは、どれだけデザートに食い付くんだ?
呆れながらも答える。
「僕にしか食べる事を許された甘いデザートだ」
「シンくんにしか食べられないデザート?? 皇太子しか食べられないの?」
「ま、そうだな」
「へ~、そうなんだ。すっごい美味しいんだろうね」
喋りながらも器用にシフォンケーキを完食し、頭の中は僕の言ったデザートを思い浮かべているチェギョン。
「ああ。この世の中で一番の甘さを持ち、蕩けるほどの美味しさだ」
「この世の中で一番?! そんなデザートがあるの? …苺よりも美味しい?
「苺よりも美味しいさ。僕の大好きなデザートだ。何度だって喰べたくなる」
「甘いのが苦手なシンくんが何度も食べたくなるの?!」

ごくんっ。
チェギョンが喉を鳴らした。

「…ね、それってどんなデザート?」
「ん? 気になるか?」
「とっても!!」
チェギョンが元気よく頷く。
「一緒に喰べるか?」
「いいの?!」
「あ、でも、チェギョンはケーキ2つも食べたから…無理か?」
「ううん!! 大丈夫! まだまだ食べられるよ」


チェギョンのその言葉に口角上げる





「まだまだ食べられる…か。じゃあ、2人で沢山喰べようか?…甘いデザートを」


「うん!」

元気に頷くチェギョンを抱きかかえ書斎を後にする。

「シ、ンくん?!」

何も解っていないチェギョンは驚き僕の顔を見た。

「ど、ど、何処にいくのよ?」


また煩く騒ぎ出す口は僕の口で塞いだ。



「ん~っ!…シンくんっ!!」

チェギョンが僕の頬を押さえ唇を離す。

「チッ。抱きかかえたまま移動すると手が使えない」
「だったらおろしてよ!」
「下ろしていいのか?」
両腕の力を一瞬緩める
「あー!!ダメダメっ!!おろさないで~!!」
危機を感じたチェギョンが僕の首に両腕を強く回す。

「頼むからおまえはそのまま大人しくして、僕に掴まっていろ」
「で、で、でも!」
「でももダメも聞かない。チェギョン…
おまえが欲しくて、今の僕には余裕がないんだ」
「え?」
「これ以上お預けをさせられたら僕だってどうにかなりそうだ」


僕の大好きなデザート
チェギョン、おまえを喰べたくて待てない



乱暴にベットルームのドアを開け、躰を滑り込ませ背後から足でドアを閉めた。


「皇太子がそんな事しちゃダメなんだ」

「煩い! 言っただろ? 余裕がない…って」

チェギョンをベットに沈め逃げないよう跨り両手をシーツに押さえた。



「チェギョン…僕にしか喰べられない甘いデザート…喰べていいだろ?」


額を合わせ、チェギョンに問いかける。




「……ぅん…私も…シンくんに……たべて…ほしい……」




小さなチェギョンの言葉




それを聞いた瞬間
僕は貪るようにチェギョンを喰べた



チェギョンと共に熱く蕩ける時間は朝方まで続いたんだ。

気持ちも躰も満たされた僕は意識のないチェギョンを胸に抱き締め


「チェギョン…おまえは僕の人生で一番美味しくて…尊い存在だ……
愛してる」




唇に小さなキスをすると、チェギョンがふんわりと微笑んだー・・・

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